21 / 28
21
しおりを挟む
「見て、アレクセイ様! これよ!」
王城の片隅にある掃除用具入れ(兼、二人の休憩室)。
リナは、盗んできた「禁断の香炉」を、宝物のように掲げていた。
「闇ギルドのアジトにあったの。『伝説の魅了香』って書いてあったわ! これを焚けば、今度こそ国中の人々が私の虜になるはずよ!」
「本当か!? すごいぞリナ! それを使えば、ミイーシヤだって僕たちにひれ伏すに違いない!」
アレクセイも目を輝かせる。
相変わらず、説明書きの「※ただし副作用あり」という小さな文字には気づいていない。
「さあ、着火よ! 私の時代が始まるのよ!」
シュボッ。
リナがマッチを擦り、香炉に火をつけた。
モクモクモク……。
甘ったるいピンク色の煙が立ち上り、換気ダクトを通じて、瞬く間に王城全域、そして城下町へと拡散していった。
◇
【一時間後・王弟宮】
「……おかしい」
私は執務室でペンを止めた。
静かすぎる。
いつもなら、外から聞こえる兵士の訓練の声や、商人の売り声、鳥のさえずりさえも聞こえない。
「ハンス補佐官。10時のお茶がまだですが?」
呼びかけても返事がない。
私は眉を顰め、執務室のドアを開けた。
「……なっ!?」
そこには、信じられない光景が広がっていた。
廊下で、ハンス補佐官が床に寝転がり、鼻をほじりながら虚空を見つめていたのである。
その横では、メイドたちが座り込んであやとりをしている。
「ハンス補佐官! 何をしているんですか! 勤務中ですよ!」
私が叱責すると、彼はだらしなくへらっと笑った。
「えぇ~? 仕事ぉ? そんなのどうでもいいじゃないですかぁ……。人生、楽しまなきゃ損ですよぉ……」
「は?」
「ミイーシヤ様も一緒に寝ましょうよぉ。床、冷たくて気持ちいいですよぉ……ぐぅ」
彼はそのまま爆睡し始めた。
「……異常事態発生」
私は即座にハンカチで口と鼻を覆った。
この空気。甘ったるい匂い。
これはただのサボりではない。何らかの精神干渉作用だ。
私は急いでクラウス様の部屋へ向かった。
あの鉄の意志を持つ旦那様なら、無事なはずだ。
「クラウス様!」
バンッ! と扉を開ける。
「おお、ミイーシヤか……」
クラウス様は、ソファの上でマントにくるまり、芋虫のようになっていた。
「……どうされましたか、その姿は」
「いやぁ……今日はもういいかなって。国とか、政治とか、面倒くさくなってな……」
「クラウス様!?」
「君を抱きしめて、一日中ゴロゴロしていたい……。おいで、一緒にダメになろう……」
彼がふにゃふにゃの手招きをする。
あの「氷の宰相」が、ただの「溶けたアイス」になっている!
(これは……まずい!)
私は窓から外を見た。
城下町の方からも、ピンク色の煙が漂っている。
通りでは、パン屋が店を閉めて昼寝をし、衛兵が槍を枕にして寝ている。
国が停止している。
経済活動が、流通が、行政が、すべてストップしている!
「……許せない」
私の体内で、怒りの炎が燃え上がった。
私は「仕事」を愛しているわけではない。
「効率的に片付けて、優雅に休む」ことが好きなのだ。
だが、これは違う。
これはただの「自堕落」だ!
やるべきことをやらずに貪る休息など、何の価値もない!
「生産性ゼロ……GDP急落……納期遅延……!」
私の脳内で、損害額がカウントアップされていく。
「犯人は……この匂いの発生源……王城ですね」
私は部屋の隅にあった「対ガス用防毒マスク(研究開発中の試作品)」を装着した。
シュコー、シュコー。
まるで悪役のような見た目だが、背に腹は代えられない。
「クラウス様。目を覚ましてください」
私は懐から「特製・気付け薬(激臭アンモニア濃縮液)」を取り出し、クラウス様の鼻先に突きつけた。
「!?」
クラウス様が飛び起きた。
「ぐわぁっ!? く、くさい! 鼻がもげる!」
「おはようございます。正気に戻りましたか?」
「ミ、ミイーシヤ? なんだそのガスマスクは……。私は一体……」
クラウス様は頭を振った。
「なんか、すごく幸せな気分で……『もう働かなくていいんだ』という声が聞こえて……」
「それは悪魔の囁きです。現状を見てください」
私が窓の外を指差すと、クラウス様の顔色がサッと変わった。
「……なんだこの堕落した光景は。我が国の規律はどうなった」
「何者かが『怠惰の香』を撒きました。このままでは、我が国は一日で滅びます。食料生産も物流も止まりますから」
「……犯人は?」
「心当たりは二名しかいません」
私とクラウス様は視線を合わせた。
「行くぞ。我が国の勤労精神を取り戻す!」
「はい。残業代は高くつきますよ!」
◇
【王城・掃除用具入れ】
「あははは! 大成功よ!」
リナは香炉の前で高笑いしていた。
「見てよアレクセイ様! みんな働かなくなっちゃった! これで私たちが一番えらいわ!」
「そうだねぇ~、えらいねぇ~」
アレクセイは床に寝転がり、ヨダレを垂らしている。
どうやら彼も煙を吸いすぎて、元々低い知能がさらに低下し、幼児退行してしまったようだ。
「あれ? 魅了されてるわけじゃなさそうだけど……まあいいわ! 誰も私を叱らないし、仕事もしなくていい! ここは天国よ!」
リナがクルクルと踊っていると、
ドォォォン!!
扉が爆破された。
「――そこまでです、ニート予備軍!」
ガスマスクをつけた私と、ハンカチで口を押さえたクラウス様が突入した。
「ゲッ! ミイーシヤ! なんで元気なのよ!」
「私は『サボりたい』という欲求よりも、『仕事を終わらせたい』という殺意の方が強いからです!」
私は指示棒を構えた。
「リナ様。あなたが焚いているのは『魅了香』ではありません。古代の『国崩しの香』……別名『ニート製造香』です!」
「ニート!? なにそれ!」
「人間の意欲中枢を麻痺させ、社会的不適合者にする毒ガスです! 直ちに消しなさい!」
「やだもんね! これがあれば、みんな私に甘々になるんだもん! もう封筒貼りも掃除もしなくていいのよ!」
リナは香炉を抱えて後ずさる。
「みんなダラダラしてればいいのよ! 努力なんてカッコ悪い! 楽して生きたい!」
その叫びは、ある意味で人間の真理かもしれない。
だが、それを認めるわけにはいかない。
なぜなら、みんなが働かなくなったら、私の配当金(税収)が減るからだ!
「クラウス様! やりますよ!」
「ああ。教育的指導だ!」
クラウス様が剣を抜く。
リナは「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、香炉を投げつけてきた。
「食らえ! 濃度100%の怠惰ガス!」
ボフッ!
ピンクの煙が爆発的に広がる。
「くっ……!」
視界が遮られる。
煙を吸ったら終わりだ。
ガスマスクのフィルターも、この濃度では持たないかもしれない。
その時。
煙の中から、ゆらりと影が現れた。
「……あ~、なんかダルいっすね~」
「ロゴス!?」
私の契約悪魔、ロゴスだった。
彼もまた、煙の影響を受けている。
眼鏡がズレ、やる気のない顔をしている。
「姉御ぉ……もう計算とかいいじゃないっすかぁ……。魔界に帰ってゲームしたいっす……」
「しっかりしなさい! ボーナス査定に響きますよ!」
「ボーナスとかどうでもいいっす……。金より睡眠っす……」
ダメだ。悪魔すら堕落している。
このままでは全滅する。
「……仕方ありません」
私はガスマスクの吸気弁を閉じた。
呼吸を止める。
短期決戦だ。
私は煙の中を突っ切った。
狙うはリナではない。香炉だ。
「えっ、ちょっ、見えてるの!?」
「見えなくても、計算できます! 風向き、距離、あなたの悲鳴の位置!」
私は指示棒を一閃させた。
パリーン!!
香炉が粉々に砕け散った。
「ああっ! 私の楽園アイテムがぁぁ!」
香炉が壊れると同時に、煙の供給が止まる。
私はすかさず窓を全開にした。
「換気! ロゴス、風魔法!」
「へ? あ、はい……ウィンド~……」
やる気のない魔法だったが、それでも空気は入れ替わった。
「ゲホッ、ゲホッ!」
新鮮な空気が入り込み、リナがむせ返る。
アレクセイも「ハッ! 僕は今まで何を……ヨダレ!?」と正気に戻った。
「……鎮圧完了」
私はマスクを外し、大きく息を吸った。
まだ少し頭がクラクラするが、最悪の事態は免れた。
「……ミイーシヤ」
クラウス様が歩み寄ってきた。
その顔は、いつもの冷徹さを取り戻していたが、目は笑っていなかった。
「彼らをどうする? 今度こそ鉱山か? それとも国外追放か?」
リナとアレクセイが震え上がる。
今回の罪は重い。国家転覆未遂(物理的な機能停止)だ。
しかし、私は首を横に振った。
「いいえ。もっと残酷な刑を与えます」
「?」
私は壊れた香炉の破片を拾い上げた。
「この香炉によって生じた『経済損失』の補填……そして、停止していた業務の『遅れ』を取り戻すための、デスマーチ(死の行進)です」
私はニッコリと笑った。
「王城の全職員は、明日から一週間、休暇返上で倍速勤務となります。そして、あなたたち二人は……その『応援団長』兼『サンドバッグ』として、24時間体制で彼らを励まし、八つ当たりを受け続けるのです」
「い、嫌ぁぁぁ! 働きたくないぃぃぃ!」
「僕の睡眠時間は!? 美容に悪いぃぃ!」
「却下します。さあ、夜明けまで残業ですよ!」
こうして、「怠惰のパンデミック」は、私の「超・ブラック労働強制」によって上書きされた。
国は元通り……いや、遅れを取り戻すために以前より活発に動き出した。
だが、リナは諦めていなかった。
連行される際、彼女は捨て台詞を吐いたのだ。
「覚えてなさい! こうなったら……『最終兵器』を使うしかないわ! アレクセイ様のお母様……伝説の『毒親』を呼び寄せてやるんだから!」
そう。
この国には、アレクセイ殿下をあそこまで歪ませた元凶にして、最強のモンスター・ペアレントが存在したのだ。
次回、ラスボス登場!?
前王妃(現・王太后)が、息子を溺愛するあまり軍隊を引き連れて帰国する!
嫁姑戦争(物理)が勃発!
王城の片隅にある掃除用具入れ(兼、二人の休憩室)。
リナは、盗んできた「禁断の香炉」を、宝物のように掲げていた。
「闇ギルドのアジトにあったの。『伝説の魅了香』って書いてあったわ! これを焚けば、今度こそ国中の人々が私の虜になるはずよ!」
「本当か!? すごいぞリナ! それを使えば、ミイーシヤだって僕たちにひれ伏すに違いない!」
アレクセイも目を輝かせる。
相変わらず、説明書きの「※ただし副作用あり」という小さな文字には気づいていない。
「さあ、着火よ! 私の時代が始まるのよ!」
シュボッ。
リナがマッチを擦り、香炉に火をつけた。
モクモクモク……。
甘ったるいピンク色の煙が立ち上り、換気ダクトを通じて、瞬く間に王城全域、そして城下町へと拡散していった。
◇
【一時間後・王弟宮】
「……おかしい」
私は執務室でペンを止めた。
静かすぎる。
いつもなら、外から聞こえる兵士の訓練の声や、商人の売り声、鳥のさえずりさえも聞こえない。
「ハンス補佐官。10時のお茶がまだですが?」
呼びかけても返事がない。
私は眉を顰め、執務室のドアを開けた。
「……なっ!?」
そこには、信じられない光景が広がっていた。
廊下で、ハンス補佐官が床に寝転がり、鼻をほじりながら虚空を見つめていたのである。
その横では、メイドたちが座り込んであやとりをしている。
「ハンス補佐官! 何をしているんですか! 勤務中ですよ!」
私が叱責すると、彼はだらしなくへらっと笑った。
「えぇ~? 仕事ぉ? そんなのどうでもいいじゃないですかぁ……。人生、楽しまなきゃ損ですよぉ……」
「は?」
「ミイーシヤ様も一緒に寝ましょうよぉ。床、冷たくて気持ちいいですよぉ……ぐぅ」
彼はそのまま爆睡し始めた。
「……異常事態発生」
私は即座にハンカチで口と鼻を覆った。
この空気。甘ったるい匂い。
これはただのサボりではない。何らかの精神干渉作用だ。
私は急いでクラウス様の部屋へ向かった。
あの鉄の意志を持つ旦那様なら、無事なはずだ。
「クラウス様!」
バンッ! と扉を開ける。
「おお、ミイーシヤか……」
クラウス様は、ソファの上でマントにくるまり、芋虫のようになっていた。
「……どうされましたか、その姿は」
「いやぁ……今日はもういいかなって。国とか、政治とか、面倒くさくなってな……」
「クラウス様!?」
「君を抱きしめて、一日中ゴロゴロしていたい……。おいで、一緒にダメになろう……」
彼がふにゃふにゃの手招きをする。
あの「氷の宰相」が、ただの「溶けたアイス」になっている!
(これは……まずい!)
私は窓から外を見た。
城下町の方からも、ピンク色の煙が漂っている。
通りでは、パン屋が店を閉めて昼寝をし、衛兵が槍を枕にして寝ている。
国が停止している。
経済活動が、流通が、行政が、すべてストップしている!
「……許せない」
私の体内で、怒りの炎が燃え上がった。
私は「仕事」を愛しているわけではない。
「効率的に片付けて、優雅に休む」ことが好きなのだ。
だが、これは違う。
これはただの「自堕落」だ!
やるべきことをやらずに貪る休息など、何の価値もない!
「生産性ゼロ……GDP急落……納期遅延……!」
私の脳内で、損害額がカウントアップされていく。
「犯人は……この匂いの発生源……王城ですね」
私は部屋の隅にあった「対ガス用防毒マスク(研究開発中の試作品)」を装着した。
シュコー、シュコー。
まるで悪役のような見た目だが、背に腹は代えられない。
「クラウス様。目を覚ましてください」
私は懐から「特製・気付け薬(激臭アンモニア濃縮液)」を取り出し、クラウス様の鼻先に突きつけた。
「!?」
クラウス様が飛び起きた。
「ぐわぁっ!? く、くさい! 鼻がもげる!」
「おはようございます。正気に戻りましたか?」
「ミ、ミイーシヤ? なんだそのガスマスクは……。私は一体……」
クラウス様は頭を振った。
「なんか、すごく幸せな気分で……『もう働かなくていいんだ』という声が聞こえて……」
「それは悪魔の囁きです。現状を見てください」
私が窓の外を指差すと、クラウス様の顔色がサッと変わった。
「……なんだこの堕落した光景は。我が国の規律はどうなった」
「何者かが『怠惰の香』を撒きました。このままでは、我が国は一日で滅びます。食料生産も物流も止まりますから」
「……犯人は?」
「心当たりは二名しかいません」
私とクラウス様は視線を合わせた。
「行くぞ。我が国の勤労精神を取り戻す!」
「はい。残業代は高くつきますよ!」
◇
【王城・掃除用具入れ】
「あははは! 大成功よ!」
リナは香炉の前で高笑いしていた。
「見てよアレクセイ様! みんな働かなくなっちゃった! これで私たちが一番えらいわ!」
「そうだねぇ~、えらいねぇ~」
アレクセイは床に寝転がり、ヨダレを垂らしている。
どうやら彼も煙を吸いすぎて、元々低い知能がさらに低下し、幼児退行してしまったようだ。
「あれ? 魅了されてるわけじゃなさそうだけど……まあいいわ! 誰も私を叱らないし、仕事もしなくていい! ここは天国よ!」
リナがクルクルと踊っていると、
ドォォォン!!
扉が爆破された。
「――そこまでです、ニート予備軍!」
ガスマスクをつけた私と、ハンカチで口を押さえたクラウス様が突入した。
「ゲッ! ミイーシヤ! なんで元気なのよ!」
「私は『サボりたい』という欲求よりも、『仕事を終わらせたい』という殺意の方が強いからです!」
私は指示棒を構えた。
「リナ様。あなたが焚いているのは『魅了香』ではありません。古代の『国崩しの香』……別名『ニート製造香』です!」
「ニート!? なにそれ!」
「人間の意欲中枢を麻痺させ、社会的不適合者にする毒ガスです! 直ちに消しなさい!」
「やだもんね! これがあれば、みんな私に甘々になるんだもん! もう封筒貼りも掃除もしなくていいのよ!」
リナは香炉を抱えて後ずさる。
「みんなダラダラしてればいいのよ! 努力なんてカッコ悪い! 楽して生きたい!」
その叫びは、ある意味で人間の真理かもしれない。
だが、それを認めるわけにはいかない。
なぜなら、みんなが働かなくなったら、私の配当金(税収)が減るからだ!
「クラウス様! やりますよ!」
「ああ。教育的指導だ!」
クラウス様が剣を抜く。
リナは「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、香炉を投げつけてきた。
「食らえ! 濃度100%の怠惰ガス!」
ボフッ!
ピンクの煙が爆発的に広がる。
「くっ……!」
視界が遮られる。
煙を吸ったら終わりだ。
ガスマスクのフィルターも、この濃度では持たないかもしれない。
その時。
煙の中から、ゆらりと影が現れた。
「……あ~、なんかダルいっすね~」
「ロゴス!?」
私の契約悪魔、ロゴスだった。
彼もまた、煙の影響を受けている。
眼鏡がズレ、やる気のない顔をしている。
「姉御ぉ……もう計算とかいいじゃないっすかぁ……。魔界に帰ってゲームしたいっす……」
「しっかりしなさい! ボーナス査定に響きますよ!」
「ボーナスとかどうでもいいっす……。金より睡眠っす……」
ダメだ。悪魔すら堕落している。
このままでは全滅する。
「……仕方ありません」
私はガスマスクの吸気弁を閉じた。
呼吸を止める。
短期決戦だ。
私は煙の中を突っ切った。
狙うはリナではない。香炉だ。
「えっ、ちょっ、見えてるの!?」
「見えなくても、計算できます! 風向き、距離、あなたの悲鳴の位置!」
私は指示棒を一閃させた。
パリーン!!
香炉が粉々に砕け散った。
「ああっ! 私の楽園アイテムがぁぁ!」
香炉が壊れると同時に、煙の供給が止まる。
私はすかさず窓を全開にした。
「換気! ロゴス、風魔法!」
「へ? あ、はい……ウィンド~……」
やる気のない魔法だったが、それでも空気は入れ替わった。
「ゲホッ、ゲホッ!」
新鮮な空気が入り込み、リナがむせ返る。
アレクセイも「ハッ! 僕は今まで何を……ヨダレ!?」と正気に戻った。
「……鎮圧完了」
私はマスクを外し、大きく息を吸った。
まだ少し頭がクラクラするが、最悪の事態は免れた。
「……ミイーシヤ」
クラウス様が歩み寄ってきた。
その顔は、いつもの冷徹さを取り戻していたが、目は笑っていなかった。
「彼らをどうする? 今度こそ鉱山か? それとも国外追放か?」
リナとアレクセイが震え上がる。
今回の罪は重い。国家転覆未遂(物理的な機能停止)だ。
しかし、私は首を横に振った。
「いいえ。もっと残酷な刑を与えます」
「?」
私は壊れた香炉の破片を拾い上げた。
「この香炉によって生じた『経済損失』の補填……そして、停止していた業務の『遅れ』を取り戻すための、デスマーチ(死の行進)です」
私はニッコリと笑った。
「王城の全職員は、明日から一週間、休暇返上で倍速勤務となります。そして、あなたたち二人は……その『応援団長』兼『サンドバッグ』として、24時間体制で彼らを励まし、八つ当たりを受け続けるのです」
「い、嫌ぁぁぁ! 働きたくないぃぃぃ!」
「僕の睡眠時間は!? 美容に悪いぃぃ!」
「却下します。さあ、夜明けまで残業ですよ!」
こうして、「怠惰のパンデミック」は、私の「超・ブラック労働強制」によって上書きされた。
国は元通り……いや、遅れを取り戻すために以前より活発に動き出した。
だが、リナは諦めていなかった。
連行される際、彼女は捨て台詞を吐いたのだ。
「覚えてなさい! こうなったら……『最終兵器』を使うしかないわ! アレクセイ様のお母様……伝説の『毒親』を呼び寄せてやるんだから!」
そう。
この国には、アレクセイ殿下をあそこまで歪ませた元凶にして、最強のモンスター・ペアレントが存在したのだ。
次回、ラスボス登場!?
前王妃(現・王太后)が、息子を溺愛するあまり軍隊を引き連れて帰国する!
嫁姑戦争(物理)が勃発!
49
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄?はい、どうぞお好きに!悪役令嬢は忙しいんです
ほーみ
恋愛
王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。
本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。
壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。
そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。
ふふ……完璧な舞台準備ね。
「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」
王太子の声が響く。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました
鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!
鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。
ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる