婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの

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「――却下です」

王弟宮の大会議室。
バサッ!と書類が机に叩きつけられた。

「えっ……きゃ、却下ですか? このウェディングケーキのデザインが?」

王室御用達のウェディングプランナー、マダム・ポンパドール(仮名)が、震える手でデザイン画を拾い上げた。

「はい。高さ10メートル、七段重ねのケーキ? 構造計算をしましたが、耐震性に問題があります。倒壊すれば新郎新婦が圧死するリスクがあります」

私は指示棒で図面を叩いた。

「それに、上層部のケーキは誰も食べませんよね? 廃棄率(フードロス)が高すぎます。よって、ケーキは一段で十分。あるいは、発泡スチロールで作ったダミー(模型)を使用し、入刀する部分だけ本物のスポンジを埋め込む『部分最適化』を採用します」

「ダ、ダミー!? 王族の結婚式で偽物のケーキを使うのですか!?」

マダムが白目を剥いて卒倒しかける。
しかし、私は止まらない。
これは「結婚式」ではない。「プロジェクト・ウェディング」という名の業務なのだ。

「次! お色直しのドレス、五着? 着替えに要する時間が合計90分。その間、主役が不在になります。ゲストを待たせるのは『顧客満足度(CS)』の低下を招きます」

「で、ですが、花嫁様の美しさを……」

「美しさは一着で十分伝わります。よって、お色直しは廃止。代わりに、ドレスの一部を取り外して『2WAY仕様』にすることで、コストと時間を削減します」

「ひぃぃっ……!」

マダムだけでなく、同席していた礼法係や衣装係たちも顔面蒼白だ。
彼らは「夢」を売る商売人だが、私は「現実(数字)」を見る事務屋だ。相性が悪すぎる。

「ミイーシヤ」

それまで黙って聞いていたクラウス様が、苦笑しながら口を開いた。

「少し、手加減してやらないか? 彼らも泣きそうだ」

「クラウス様。これはあなたのお金……いえ、国民の税金も含まれているのですよ? 無駄遣いは許されません」

私は電卓を弾いて見せた。

「今のプランナー案だと、予算が当初の見積もりから300%オーバーしています。赤字です。破産します」

「……300%か。それは確かにアレクセイ並みの無計画さだな」

クラウス様も眉をひそめた。

「ですが、一生に一度の晴れ舞台だ。君には最高に輝いてほしいのだが」

「私は『輝く』よりも『黒字』の方が嬉しいです」

私はキッパリと言い切った。
そして、プランナーたちに向き直った。

「いいですか。今回の結婚式のコンセプトは『高効率・低コスト・高感動』です。無駄な装飾を削ぎ落とし、本質的な価値だけを提供する。これを『リーン・ウェディング』と名付けます」

「り、りーん……?」

「具体的には、以下の施策を実行します」

私はホワイトボードに書き殴った。

1.  **招待状のデジタル化**: 紙と郵送代の削減。魔導メールの一斉送信で済ませる。
2.  **引き出物のカタログ化**: 重い荷物をゲストに持たせない。後日配送で物流コストを最適化。
3.  **キャンドルサービスの廃止**: 火災リスクの回避。代わりに『魔導LEDライト』のリモート点灯で演出。
4.  **神父のセリフ短縮**: 「誓いますか?」までの前置きが長い。3分以内にまとめるよう台本を修正。

「以上です。質問は?」

シーン……。

会場は静まり返っていた。
あまりの合理性に、誰も言葉が出ないのだ。
感動的な沈黙だ(と私は解釈した)。

「……あの、ミイーシヤ様」

恐る恐る手を挙げたのは、衣装係の若い女性だった。

「ドレスの件ですが……『ポケット』を付けたいというのは、本当でしょうか?」

「はい。必須要件です」

私は即答した。

「当日は何が起きるかわかりません。ペン、メモ帳、電卓、予備の印鑑、そして非常食(羊羹)。これらを常備し、トラブルに即応できる体制を整える必要があります」

「は、花嫁衣装に電卓……?」

「ドレスのラインを崩さないよう、内側に隠しポケットを縫い付けてください。機能美こそが至高です」

衣装係が「そんなの聞いたことがないわ……」と頭を抱えて崩れ落ちた。

「……ミイーシヤ」

クラウス様が立ち上がり、私の肩に手を置いた。

「君の主張はわかった。合理的で、無駄がなく、実に君らしい」

「ご理解いただけて光栄です」

「だが」

彼は私の手から指示棒を取り上げ、優しく、しかし力強く言った。

「私は、君の『電卓を叩く姿』も好きだが……当日は、私の手だけを握っていてほしいのだ」

「え?」

「何かトラブルが起きれば、私が対処する。側近たちもいる。だから、君はポケットに武器(文房具)を隠し持つ必要はない」

クラウス様は微笑んだ。

「その日は、戦場に行く指揮官としてではなく、ただの『幸せな花嫁』として隣にいてくれないか? ……これは、夫としての『業務命令』だ」

「…………」

業務命令。
その言葉に、私は弱い。
しかも、そんな甘い顔で言われたら、反論の計算式が組み立てられない。

「……予算オーバー分は、私の私財(へそくり)から出す。税金には手をつけない。文句はないな?」

「……私財、ですか?」

「ああ。君を世界一美しく着飾るためなら、安い投資だ」

そこまで言われては、私も折れるしかない。
合理性では測れない価値――「プライスレス」というやつだろうか。

「……わかりました。一部、妥協案を受け入れます」

私はため息をつきつつ、少しだけ顔を赤らめた。

「ただし! ウェディングケーキの高さは3メートルまで! それ以上は搬入経路のドアを通りませんから!」

「ふふ、承知した。3メートルで手を打とう」

会場に安堵の空気が流れた。
プランナーたちが「助かった……」「王弟殿下、神……」と涙ぐんでいる。

こうして、プロジェクト・ウェディングの基本方針は「ミイーシヤの合理性」と「クラウス様のロマン」のハイブリッド案で決着した。

          ◇

数日後。

結婚式の準備は大詰めを迎えていた。
私は、完成した「ポケット付き(ただし目立たない)」のウェディングドレスの試着をしていた。

「……悪くないですね」

鏡の中の自分を見る。
純白のシルク、繊細なレース。
普段の地味な事務服とは違う、華やかな姿。

(これなら、クラウス様も満足してくれるかしら)

そう思った時だった。

「大変です、ミイーシヤ様!」

ハンス補佐官が、試着室の外で叫んだ。

「どうしました? ドレスの裾を踏んだわけではありませんよ」

「違います! 荷物が! 隣国から『お祝いの品』が届いたのですが……!」

「お祝い? アーノルド殿下からですか?」

嫌な予感がする。
筋肉帝国からの贈り物。
プロテイン一年分か、それともダンベルの塔か。

私はドレスのまま(動きやすいようにスリットを入れておいたので走れる)、エントランスへ向かった。

そこには、巨大な木箱が置かれていた。
箱には『取扱注意』『生物』『マッスル』というシールが貼られている。

「……開けます」

護衛たちがバールで箱をこじ開けた。

バカッ!

中から飛び出してきたのは、手紙を咥えた一匹の……。

「……子熊?」

つぶらな瞳の、モフモフした小熊だった。
ただし、その首には『リングボーイ』と書かれた蝶ネクタイが巻かれている。

手紙を読む。

『結婚おめでとう、マッスル・シスター!
 我が国の特産品「レッスル・ベア(レスリング熊)」の子供を贈る。
 こいつは賢いぞ。結婚式で指輪を運ぶ役(リングボーイ)をやらせてくれ。
 ちなみに、エサはステーキだ。
 追伸:イザベラ隊長が「孫の顔を見るまでは死ねないから、早く作りなさい!」と叫んで、岩を砕いていた。気をつけてくれ。
                    アーノルドより』

「がおー」

小熊が可愛く(しかし野太い声で)鳴いた。

「……採用です」

私は即決した。

「えっ、いいんですかミイーシヤ様!? 熊ですよ!?」

ハンスが驚く。

「コストゼロでリングボーイが確保できました。それに、不審者が乱入した際の『ガードマン』も兼任できます。合理的です」

私は小熊の頭を撫でた。
毛並みがいい。これは良いモフモフ要員だ。

「名前は……『部長』にしましょう」

「部長!?」

「はい。さあ部長、リハーサルですよ。指輪を落としたら減給(おやつ抜き)です」

「がおっ(御意)!」

結婚式まであと三日。
ドレスよし、予算よし、熊よし。
準備は万端だ。

だが、私たちは忘れていた。
結婚式というイベントには、「招かれざる客」がつきものだということを。

式の当日。
誓いのキスの瞬間に、空から「アレ」が降ってくるなんて、誰が予想できただろうか。
感動のフィナーレ……の前に、最後の一波乱が待ち受けていた!
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