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結婚式当日の朝。
天気は快晴。降水確率0%。風速も計算通り微風。
「完璧なスケジューリングです」
私は控室の窓から空を見上げ、満足げに頷いた。
「式次第の遅延は許されません。参列者の移動、神父の説教、そして誓いのキス……全ての工程を『分単位』で管理しています」
「……ミイーシヤ様」
侍女のマリーが、涙目で私のベールを整えてくれた。
「今日くらい、時計を見るのはやめましょうよぉ。世界で一番綺麗な花嫁さんなんですから」
「綺麗かどうかは主観ですが、このドレスの『機能性』は世界一です」
私はドレスの隠しポケットをポンと叩いた。
中には電卓、メモ帳、そして緊急用の羊羹(カロリー補給用)が入っている。
重装備だが、外見からは全くわからない。素晴らしい縫製技術だ。
「準備はいいか、ミイーシヤ」
ドアが開き、正装したクラウス様が入ってきた。
純白のタキシードに、王家のアメジストのサッシュ。
その姿は、計算高い私でさえ一瞬息を呑むほど、完璧に美しかった。
「……クラウス様。衣装のレンタル延滞料が発生しないうちに、行きましょうか」
「ふふ、照れ隠しか? まあいい。行こう」
彼は私の手を取り、優しくエスコートした。
◇
大聖堂は、二千人のゲストで埋め尽くされていた。
パイプオルガンの荘厳な音色が響く中、私たちはバージンロードを歩く。
(……参列者の配置、よし。空調、よし。照明の角度、よし)
私は左右に笑顔を振りまきつつ、脳内で会場のチェックを行っていた。
感動して泣いている参列者も多い。
特に、最前列で号泣しているハンス補佐官と、なぜかハンカチを噛み締めている悪魔ロゴスの姿が印象的だ。
祭壇の前には、老神父と、リングボーイ役の子熊「部長」が待機している。
部長は蝶ネクタイを締め、背筋を伸ばして立っている。えらい。後で高級サーモンをあげよう。
「では、誓いの言葉を」
神父が(私の指示通り短縮版で)問いかけた。
「新郎クラウス。あなたは病める時も健やかなる時も、彼女を愛し、守り抜くことを誓いますか?」
「誓います。……私の全財産と、全権限にかけて」
会場から「おおーっ」と歓声が上がる。
宰相の全権限。それは国そのものを捧げるに等しい愛の言葉だ。
「新婦ミイーシヤ。あなたは富める時も貧しき時も、彼を愛し、支え合うことを誓いますか?」
「誓います。……ただし『貧しき時』が訪れないよう、私が家計を徹底的に管理し、黒字経営を維持することを前提とします」
会場がドッと沸いた。
神父も苦笑しながら頷く。
「では、指輪の交換を」
子熊の部長が、トテトテと歩み寄ってくる。
その背中のクッションには、二つの指輪が輝いている。
クラウス様が指輪を取り、私の薬指にはめる。
続いて、私がクラウス様の指に……。
その時だった。
『グオォォォォン!!』
空が震えるような咆哮が、大聖堂の外から響いてきた。
「な、なんだ!?」
「地震か!?」
ステンドグラスがガタガタと揺れ、会場が騒然となる。
天井のガラスドーム越しに、巨大な影が差した。
「……あのシルエットは」
私は冷静に天井を見上げた。
「配送担当のフレイム・エンペラー(古竜)ですね。今日のシフトは休みのはずですが」
バリーン!!
ガラスドームの一部が砕け、巨大なドラゴンの顔がヌッと入り込んできた。
『待たせたな! 我が雇い主よ!』
「ひぃぃぃ! ド、ドラゴンだぁぁ!」
「食われるぞぉぉ!」
ゲストたちがパニックになりかける。
部長(子熊)が「がおー!(警備だ!)」と立ち上がり、威嚇ポーズを取る。
「静粛に! 彼はゲストです!」
私がマイク(魔導拡声器)で一喝すると、会場が一瞬で静まり返った。
「フレイムさん。無断での乱入はマナー違反です。それに、ガラスの修理代は給料から天引きしますよ」
『堅いことを言うな。今日はめでたい日だろう?』
ドラゴンはニヤリと笑った(ように見えた)。
『我からの「祝いの品」を持ってきたのだ。受け取るがいい!』
「祝いの品?」
ドラゴンが上空で体をブルブルと震わせた。
ザラザラザラ……ッ!
空から、無数の「キラキラ光る物体」が降り注いできた。
それは、美しい光の雨――に見えたが、落下速度がおかしい。
ヒュオォォォッ!!
「……!」
私の動体視力が、その正体を捉えた。
「あれは……『古竜の鱗(ドラゴン・スケール)』!?」
ドラゴンの鱗は、ダイヤモンドより硬く、魔力を帯びた最高級の素材だ。
一枚で城が建つと言われるほどの希少品。
それが、雨あられと降ってくるのだ。
「危ない! 直撃したら死にます!」
美しい贈り物だが、物理的には「岩石落とし」と同じだ!
「ロゴス! 部長! 迎撃態勢!」
「御意! 広域防御結界!」
悪魔ロゴスが魔法陣を展開し、会場全体をドーム状のバリアで覆う。
子熊の部長も、野生の勘で落下地点を予測し、ゲストを誘導する。
カンカンカンカンッ!!
硬質な音が響き渡り、バリアの上で鱗が弾ける。
まるで雹(ひょう)の嵐だ。
「なんてことだ……。式が台無しだ」
クラウス様が剣を抜き、私を庇うように立つ。
「いえ、クラウス様。よく見てください」
私は冷静だった。
いや、むしろ目が「¥マーク」になっていたかもしれない。
「あの鱗……市場価格で一枚、金貨一万枚は下りません。それが今、目算で五千枚ほど降ってきています」
「……は?」
「つまり、総額五千万枚(約五百億円)。結婚式の費用どころか、国の借金を完済してもお釣りが来て、さらに来年度の予算まで確保できる金額です!」
私はドレスの裾をまくり上げ、ポケットから電卓を取り出した。
「これは災害ではありません。『ボーナスステージ』です!」
私はマイクを握り直した。
「皆さん! 逃げないでください! あれは『空から降るお金』です! ロゴスの結界があるので安全です! 式が終わったら、全員に『引き出物』として一枚ずつ配布します!」
「えっ? お金?」
「一枚で家が建つ?」
「やったー!」
悲鳴が歓声に変わった。
現金なものである。
『グハハハ! どうだ、喜んだか人間ども!』
ドラゴンが得意げに鼻を鳴らす。
まったく、人騒がせな贈り物だ。でも、資産価値的には最高だ。
やがて、「鱗の雨」が止んだ。
会場の床(結界の外)には、色とりどりに輝く美しい鱗が山のように積もっていた。
「……ふぅ」
私は電卓を閉じた。
「回収班、急いで! 一枚たりとも紛失しないように!」
「了解であります!」
ハンス補佐官たちが袋を持って走り回る。
「やれやれ……。君にかかれば、ドラゴンの襲撃すらも『集金イベント』か」
クラウス様が剣を収め、呆れたように笑った。
「ですが、これで老後の資金も安泰ですね」
「ああ。君のおかげで、私は世界一の果報者だ」
彼は私の手を取り、再び祭壇の前へ。
「邪魔が入ったが……続きをしようか」
「はい。時間は押していますが、まだ許容範囲内です」
「時間を気にするなと言っただろう?」
クラウス様は私の腰を引き寄せた。
ステンドグラスから差し込む光と、床に散らばるドラゴンの鱗が反射し、会場は幻想的な輝きに包まれていた。
「ミイーシヤ。……愛している」
「……私もです。合理的判断を超えて、あなたをお慕いしております」
私たちは、静かに唇を重ねた。
割れんばかりの拍手と歓声。
パイプオルガンの高らかな音色。
ドラゴンの咆哮と、子熊の鳴き声。
カオスだが、最高に私たちらしい結婚式。
こうして、私は「悪役令嬢」から「王弟妃」へ、そして「国の真の支配者(経理的な意味で)」へと上り詰めた。
これから先も、きっとトラブルは尽きないだろう。
筋肉帝国からの干渉、新たなモンスターの出現、予算不足の問題……。
でも、大丈夫。
私の隣には最強のパートナー(と便利な部下たち)がいる。
そして私のポケットには、いつだって「最強の武器(電卓)」が入っているのだから。
「さあ、クラウス様。次は披露宴です。回収した鱗のオークションを開催しますよ!」
「……君には勝てないな」
夫の幸せそうな溜息を聞きながら、私は新たな「業務(しあわせ)」へと足を踏み出した。
天気は快晴。降水確率0%。風速も計算通り微風。
「完璧なスケジューリングです」
私は控室の窓から空を見上げ、満足げに頷いた。
「式次第の遅延は許されません。参列者の移動、神父の説教、そして誓いのキス……全ての工程を『分単位』で管理しています」
「……ミイーシヤ様」
侍女のマリーが、涙目で私のベールを整えてくれた。
「今日くらい、時計を見るのはやめましょうよぉ。世界で一番綺麗な花嫁さんなんですから」
「綺麗かどうかは主観ですが、このドレスの『機能性』は世界一です」
私はドレスの隠しポケットをポンと叩いた。
中には電卓、メモ帳、そして緊急用の羊羹(カロリー補給用)が入っている。
重装備だが、外見からは全くわからない。素晴らしい縫製技術だ。
「準備はいいか、ミイーシヤ」
ドアが開き、正装したクラウス様が入ってきた。
純白のタキシードに、王家のアメジストのサッシュ。
その姿は、計算高い私でさえ一瞬息を呑むほど、完璧に美しかった。
「……クラウス様。衣装のレンタル延滞料が発生しないうちに、行きましょうか」
「ふふ、照れ隠しか? まあいい。行こう」
彼は私の手を取り、優しくエスコートした。
◇
大聖堂は、二千人のゲストで埋め尽くされていた。
パイプオルガンの荘厳な音色が響く中、私たちはバージンロードを歩く。
(……参列者の配置、よし。空調、よし。照明の角度、よし)
私は左右に笑顔を振りまきつつ、脳内で会場のチェックを行っていた。
感動して泣いている参列者も多い。
特に、最前列で号泣しているハンス補佐官と、なぜかハンカチを噛み締めている悪魔ロゴスの姿が印象的だ。
祭壇の前には、老神父と、リングボーイ役の子熊「部長」が待機している。
部長は蝶ネクタイを締め、背筋を伸ばして立っている。えらい。後で高級サーモンをあげよう。
「では、誓いの言葉を」
神父が(私の指示通り短縮版で)問いかけた。
「新郎クラウス。あなたは病める時も健やかなる時も、彼女を愛し、守り抜くことを誓いますか?」
「誓います。……私の全財産と、全権限にかけて」
会場から「おおーっ」と歓声が上がる。
宰相の全権限。それは国そのものを捧げるに等しい愛の言葉だ。
「新婦ミイーシヤ。あなたは富める時も貧しき時も、彼を愛し、支え合うことを誓いますか?」
「誓います。……ただし『貧しき時』が訪れないよう、私が家計を徹底的に管理し、黒字経営を維持することを前提とします」
会場がドッと沸いた。
神父も苦笑しながら頷く。
「では、指輪の交換を」
子熊の部長が、トテトテと歩み寄ってくる。
その背中のクッションには、二つの指輪が輝いている。
クラウス様が指輪を取り、私の薬指にはめる。
続いて、私がクラウス様の指に……。
その時だった。
『グオォォォォン!!』
空が震えるような咆哮が、大聖堂の外から響いてきた。
「な、なんだ!?」
「地震か!?」
ステンドグラスがガタガタと揺れ、会場が騒然となる。
天井のガラスドーム越しに、巨大な影が差した。
「……あのシルエットは」
私は冷静に天井を見上げた。
「配送担当のフレイム・エンペラー(古竜)ですね。今日のシフトは休みのはずですが」
バリーン!!
ガラスドームの一部が砕け、巨大なドラゴンの顔がヌッと入り込んできた。
『待たせたな! 我が雇い主よ!』
「ひぃぃぃ! ド、ドラゴンだぁぁ!」
「食われるぞぉぉ!」
ゲストたちがパニックになりかける。
部長(子熊)が「がおー!(警備だ!)」と立ち上がり、威嚇ポーズを取る。
「静粛に! 彼はゲストです!」
私がマイク(魔導拡声器)で一喝すると、会場が一瞬で静まり返った。
「フレイムさん。無断での乱入はマナー違反です。それに、ガラスの修理代は給料から天引きしますよ」
『堅いことを言うな。今日はめでたい日だろう?』
ドラゴンはニヤリと笑った(ように見えた)。
『我からの「祝いの品」を持ってきたのだ。受け取るがいい!』
「祝いの品?」
ドラゴンが上空で体をブルブルと震わせた。
ザラザラザラ……ッ!
空から、無数の「キラキラ光る物体」が降り注いできた。
それは、美しい光の雨――に見えたが、落下速度がおかしい。
ヒュオォォォッ!!
「……!」
私の動体視力が、その正体を捉えた。
「あれは……『古竜の鱗(ドラゴン・スケール)』!?」
ドラゴンの鱗は、ダイヤモンドより硬く、魔力を帯びた最高級の素材だ。
一枚で城が建つと言われるほどの希少品。
それが、雨あられと降ってくるのだ。
「危ない! 直撃したら死にます!」
美しい贈り物だが、物理的には「岩石落とし」と同じだ!
「ロゴス! 部長! 迎撃態勢!」
「御意! 広域防御結界!」
悪魔ロゴスが魔法陣を展開し、会場全体をドーム状のバリアで覆う。
子熊の部長も、野生の勘で落下地点を予測し、ゲストを誘導する。
カンカンカンカンッ!!
硬質な音が響き渡り、バリアの上で鱗が弾ける。
まるで雹(ひょう)の嵐だ。
「なんてことだ……。式が台無しだ」
クラウス様が剣を抜き、私を庇うように立つ。
「いえ、クラウス様。よく見てください」
私は冷静だった。
いや、むしろ目が「¥マーク」になっていたかもしれない。
「あの鱗……市場価格で一枚、金貨一万枚は下りません。それが今、目算で五千枚ほど降ってきています」
「……は?」
「つまり、総額五千万枚(約五百億円)。結婚式の費用どころか、国の借金を完済してもお釣りが来て、さらに来年度の予算まで確保できる金額です!」
私はドレスの裾をまくり上げ、ポケットから電卓を取り出した。
「これは災害ではありません。『ボーナスステージ』です!」
私はマイクを握り直した。
「皆さん! 逃げないでください! あれは『空から降るお金』です! ロゴスの結界があるので安全です! 式が終わったら、全員に『引き出物』として一枚ずつ配布します!」
「えっ? お金?」
「一枚で家が建つ?」
「やったー!」
悲鳴が歓声に変わった。
現金なものである。
『グハハハ! どうだ、喜んだか人間ども!』
ドラゴンが得意げに鼻を鳴らす。
まったく、人騒がせな贈り物だ。でも、資産価値的には最高だ。
やがて、「鱗の雨」が止んだ。
会場の床(結界の外)には、色とりどりに輝く美しい鱗が山のように積もっていた。
「……ふぅ」
私は電卓を閉じた。
「回収班、急いで! 一枚たりとも紛失しないように!」
「了解であります!」
ハンス補佐官たちが袋を持って走り回る。
「やれやれ……。君にかかれば、ドラゴンの襲撃すらも『集金イベント』か」
クラウス様が剣を収め、呆れたように笑った。
「ですが、これで老後の資金も安泰ですね」
「ああ。君のおかげで、私は世界一の果報者だ」
彼は私の手を取り、再び祭壇の前へ。
「邪魔が入ったが……続きをしようか」
「はい。時間は押していますが、まだ許容範囲内です」
「時間を気にするなと言っただろう?」
クラウス様は私の腰を引き寄せた。
ステンドグラスから差し込む光と、床に散らばるドラゴンの鱗が反射し、会場は幻想的な輝きに包まれていた。
「ミイーシヤ。……愛している」
「……私もです。合理的判断を超えて、あなたをお慕いしております」
私たちは、静かに唇を重ねた。
割れんばかりの拍手と歓声。
パイプオルガンの高らかな音色。
ドラゴンの咆哮と、子熊の鳴き声。
カオスだが、最高に私たちらしい結婚式。
こうして、私は「悪役令嬢」から「王弟妃」へ、そして「国の真の支配者(経理的な意味で)」へと上り詰めた。
これから先も、きっとトラブルは尽きないだろう。
筋肉帝国からの干渉、新たなモンスターの出現、予算不足の問題……。
でも、大丈夫。
私の隣には最強のパートナー(と便利な部下たち)がいる。
そして私のポケットには、いつだって「最強の武器(電卓)」が入っているのだから。
「さあ、クラウス様。次は披露宴です。回収した鱗のオークションを開催しますよ!」
「……君には勝てないな」
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