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「……ロザリア様。単刀直入に伺いますわ。あなた、本当は何が目的ですの?」
離宮のテラス。修行という名のコント(カレン談)を終え、私は改めてロザリア様と向き合いました。
アスター様は国王陛下に呼ばれて席を外しており、今は私とロザリア様、そして背後に立つ空気のようなカレンの三人だけです。
「目的? 改まってどうしたの、ステーラ」
「とぼけないでくださいまし! あなたは隣国の第一王女。アスター様とは幼馴染で、美貌も知性も兼ね備えている。……どう考えても、私からアスター様を奪い取るための刺客でしょう!?」
私はテーブルを叩き、身を乗り出しました。
「……なのに、どうして私に『あしらい方』なんて教えるのですか? どうして私を面白そうに眺めるのですか? まさか、私の精神を内側から破壊して、自滅するのを待っている作戦……!?」
「お嬢様。被害妄想が斜め上に加速しすぎて、もはや芸術の域です」
カレンのツッコミを無視して、私はロザリア様を睨みつけました。
すると、ロザリア様は呆れたように肩をすくめ、手元のバッグから一束の手紙を取り出しました。
「……これを見て。アスターから私に届いた、ここ数ヶ月の手紙よ」
「なっ……! やっぱり! そんなに頻繁に文通を……! それこそ浮気の動かぬ証拠ですわ!」
「いいから、中身を読みなさいな」
私はひったくるように手紙を奪い取り、その一通を開きました。
『親愛なるロザリア。聞いてくれ、今日のステーラは最高だった。僕を突き放そうとしてあえて悪役のような高笑いをしたんだが、その途中でむせて涙目になっていたんだ。あの潤んだ瞳、小動物のような愛らしさ……僕は危うくその場で彼女を神殿に連れ去り、永久に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られたよ。ああ、彼女は僕の太陽だ……』
「…………」
私は無言で次の手紙を開きました。
『ロザリア、緊急事態だ。ステーラが宝石を庭にばら撒いた。僕に嫌われるためだろうが、その時の「これ、安っぽいですわ!」と言い放つ彼女の横顔の気高さと言ったら! 民を救う聖女そのものではないか。彼女の深い慈愛に、僕は今日もまた救われた。愛している、ステーラ。結婚しよう、ステーラ』
「………………」
私は三通目を開くのをやめ、手紙を束ねてテーブルに戻しました。
「……どう? 分かったかしら。私がここ数ヶ月、どんな苦行を強いられてきたか」
ロザリア様の瞳には、深い同情と「二度と読みたくない」という拒絶の色が浮かんでいました。
「アスターはね、昔から重いのよ。とにかく重い。……私、幼少期に彼から『ロザリア、君はいい友達だ。ステーラの可愛さについて朝まで語り合おう』って言われた時から、彼を異性として見るのをやめたわ」
「……朝まで、ステーラの、話を……?」
「ええ。だから、私がこの国に来たのは、アスターを奪うためじゃないわ。……その『報告書』に出てくるステーラ・ブライトという絶滅危惧種の生物が、本当に実在するのか確かめたかっただけよ」
ロザリア様は私の手をとり、熱心な眼差しで私を見つめました。
「実際に会ってみたら、報告書以上の破壊力だったわ。……ステーラ。私、あなたのファンになっちゃった」
「……ファン?」
「そう。一生懸命に悪役を演じようとして、そのたびに自爆して、挙句の果てにアスターの溺愛を加速させている……。こんなに面白いコンテンツ、隣国にはないもの。私、あなたの『悪役令嬢(自称)奮闘記』を、ずっと特等席で見ていたいのよ」
「…………っ!!」
私は絶句しました。
憧れの(?)悪役令嬢の先輩だと思っていた人は、私の不器用な空回りをエンターテインメントとして楽しむ「観客」だったのです。
「……お嬢様。よかったですね。ライバルだと思っていた王女様は、お嬢様の『推し活』を始めたようですよ」
「よくありませんわ! 恥ずかしすぎますわ! ……ロザリア様、今の話、全部忘れてくださいまし!」
「無理よ。さっきの『興味ありませんわ(赤面)』も、しっかり記憶に刻んだから。……ねえ、次はどんな悪事を働くの? 期待しているわよ、ステーラ」
ロザリア様は、まるで物語の続きを楽しみにする子供のような笑顔で私を追い詰めました。
そこへ、アスター様が戻ってきました。
「ステーラ! ロザリアと仲良く話せているようだね。嬉しいよ」
「あ、アスター様……! あなた、どうしてあんな恥ずかしい手紙をロザリア様に送っていたんですの!?」
「え? だって、君の素晴らしさを共有できるのは、幼馴染の彼女くらいしかいないからね。……ああ、ステーラ。怒った顔もまた、宝石のように……」
「宝石じゃありませんわ!!」
私は叫びながら、その場を走り去りました。
カレンが「お嬢様、全力疾走は品位に欠けますよー」と棒読みで追いかけてくるのが聞こえます。
私は自室のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めてじたばたと足を動かしました。
(なによ……なんなんですのよ、あの方たち……!)
悪役令嬢になって嫌われるはずが、いつの間にか「王室公認の癒やし系(ギャグ担当)」にされている気がしてなりません。
私は、固く誓いました。
こうなったら、ロザリア様ですら引くほどの、本物の「邪悪」を見せてやるんですから!
……でも、まずは。
あの「愛の報告書」をすべて回収して、暖炉で燃やし尽くすところから始めなければなりませんわ。
私の戦いは、ますます斜め上の方向へと加速していくのでした。
離宮のテラス。修行という名のコント(カレン談)を終え、私は改めてロザリア様と向き合いました。
アスター様は国王陛下に呼ばれて席を外しており、今は私とロザリア様、そして背後に立つ空気のようなカレンの三人だけです。
「目的? 改まってどうしたの、ステーラ」
「とぼけないでくださいまし! あなたは隣国の第一王女。アスター様とは幼馴染で、美貌も知性も兼ね備えている。……どう考えても、私からアスター様を奪い取るための刺客でしょう!?」
私はテーブルを叩き、身を乗り出しました。
「……なのに、どうして私に『あしらい方』なんて教えるのですか? どうして私を面白そうに眺めるのですか? まさか、私の精神を内側から破壊して、自滅するのを待っている作戦……!?」
「お嬢様。被害妄想が斜め上に加速しすぎて、もはや芸術の域です」
カレンのツッコミを無視して、私はロザリア様を睨みつけました。
すると、ロザリア様は呆れたように肩をすくめ、手元のバッグから一束の手紙を取り出しました。
「……これを見て。アスターから私に届いた、ここ数ヶ月の手紙よ」
「なっ……! やっぱり! そんなに頻繁に文通を……! それこそ浮気の動かぬ証拠ですわ!」
「いいから、中身を読みなさいな」
私はひったくるように手紙を奪い取り、その一通を開きました。
『親愛なるロザリア。聞いてくれ、今日のステーラは最高だった。僕を突き放そうとしてあえて悪役のような高笑いをしたんだが、その途中でむせて涙目になっていたんだ。あの潤んだ瞳、小動物のような愛らしさ……僕は危うくその場で彼女を神殿に連れ去り、永久に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られたよ。ああ、彼女は僕の太陽だ……』
「…………」
私は無言で次の手紙を開きました。
『ロザリア、緊急事態だ。ステーラが宝石を庭にばら撒いた。僕に嫌われるためだろうが、その時の「これ、安っぽいですわ!」と言い放つ彼女の横顔の気高さと言ったら! 民を救う聖女そのものではないか。彼女の深い慈愛に、僕は今日もまた救われた。愛している、ステーラ。結婚しよう、ステーラ』
「………………」
私は三通目を開くのをやめ、手紙を束ねてテーブルに戻しました。
「……どう? 分かったかしら。私がここ数ヶ月、どんな苦行を強いられてきたか」
ロザリア様の瞳には、深い同情と「二度と読みたくない」という拒絶の色が浮かんでいました。
「アスターはね、昔から重いのよ。とにかく重い。……私、幼少期に彼から『ロザリア、君はいい友達だ。ステーラの可愛さについて朝まで語り合おう』って言われた時から、彼を異性として見るのをやめたわ」
「……朝まで、ステーラの、話を……?」
「ええ。だから、私がこの国に来たのは、アスターを奪うためじゃないわ。……その『報告書』に出てくるステーラ・ブライトという絶滅危惧種の生物が、本当に実在するのか確かめたかっただけよ」
ロザリア様は私の手をとり、熱心な眼差しで私を見つめました。
「実際に会ってみたら、報告書以上の破壊力だったわ。……ステーラ。私、あなたのファンになっちゃった」
「……ファン?」
「そう。一生懸命に悪役を演じようとして、そのたびに自爆して、挙句の果てにアスターの溺愛を加速させている……。こんなに面白いコンテンツ、隣国にはないもの。私、あなたの『悪役令嬢(自称)奮闘記』を、ずっと特等席で見ていたいのよ」
「…………っ!!」
私は絶句しました。
憧れの(?)悪役令嬢の先輩だと思っていた人は、私の不器用な空回りをエンターテインメントとして楽しむ「観客」だったのです。
「……お嬢様。よかったですね。ライバルだと思っていた王女様は、お嬢様の『推し活』を始めたようですよ」
「よくありませんわ! 恥ずかしすぎますわ! ……ロザリア様、今の話、全部忘れてくださいまし!」
「無理よ。さっきの『興味ありませんわ(赤面)』も、しっかり記憶に刻んだから。……ねえ、次はどんな悪事を働くの? 期待しているわよ、ステーラ」
ロザリア様は、まるで物語の続きを楽しみにする子供のような笑顔で私を追い詰めました。
そこへ、アスター様が戻ってきました。
「ステーラ! ロザリアと仲良く話せているようだね。嬉しいよ」
「あ、アスター様……! あなた、どうしてあんな恥ずかしい手紙をロザリア様に送っていたんですの!?」
「え? だって、君の素晴らしさを共有できるのは、幼馴染の彼女くらいしかいないからね。……ああ、ステーラ。怒った顔もまた、宝石のように……」
「宝石じゃありませんわ!!」
私は叫びながら、その場を走り去りました。
カレンが「お嬢様、全力疾走は品位に欠けますよー」と棒読みで追いかけてくるのが聞こえます。
私は自室のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めてじたばたと足を動かしました。
(なによ……なんなんですのよ、あの方たち……!)
悪役令嬢になって嫌われるはずが、いつの間にか「王室公認の癒やし系(ギャグ担当)」にされている気がしてなりません。
私は、固く誓いました。
こうなったら、ロザリア様ですら引くほどの、本物の「邪悪」を見せてやるんですから!
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