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公爵邸の広大な衣装部屋。
そこは今、戦場と化していました。
「違うわ! そのピンクは『ベビーピンク』よ! マリアさんの肌色はイエベ春(スプリング)なの! もっと温かみのある『コーラルピンク』を持ってきてちょうだい!」
「は、はいっ! 直ちに!」
私の怒号が飛び交う中、侍女たちが必死の形相でドレスを運び入れています。
私は腕組みをして、並べられたドレスの山を睨みつけました。
「まったく、なってないわ。これだから素人は困るのよ」
「お嬢様、もうこれで五十着目でございますが……」
セバスチャンが額の汗を拭いながら、おずおずと声をかけてきました。
私は振り返り、バシッと指を立てました。
「セバスチャン! 妥協は死を意味すると知りなさい! マリアさんはこれから、王宮という魔窟で戦うのよ? 半端な装備で送り出して、古株の貴婦人たちに笑われたらどうするの!」
「はあ……装備、でございますか」
「そうよ。ドレスは鎧! 宝石は盾! そしてメイクは魔法よ!」
私はハンガーにかかった一着のドレスを手に取りました。
それは、夕焼けのような淡いオレンジからピンクへとグラデーションが施された、最高級シルクのドレスでした。
レースも繊細で、今の流行を抑えつつも、清楚さを際立たせるデザイン。
以前、私が「可愛すぎて私には似合わないわね(尊死)」と思って観賞用に購入し、一度も袖を通していない新品です。
「……これだわ」
私は震える手でそのドレスを掲げました。
「この色合い……マリアさんの蜂蜜色の髪と、エメラルドの瞳を最高に引き立てるはずよ」
「確かに、素晴らしい品ですが……これを、本当に差し上げるので?」
「ええ。もちろん『嫌がらせ』としてね」
私はニヤリと笑うと、机に向かいました。
用意したのは、最高級の羊皮紙と、毒々しい紫色のインク。
これから書くのは、マリアさんの心をえぐる(予定の)罵倒の手紙です。
『拝啓、平民上がりのマリアさんへ』
筆が走ります。
『王宮での生活には慣れましたか? きっと、着るもの一つなくてお困りでしょうね』
ふふふ、いい感じに煽っています。
『見るに見かねたので、私のクローゼットの肥やしになっていた古着を恵んで差し上げますわ』
ここで重要なのは「古着」というワードです。
実際は新品ですが、あえてこう書くことで「お下がり」という屈辱を与えます。
『あなたのような田舎娘には、この程度の型落ちがお似合いよ。精々、殿下の隣で恥をかかないように着飾ってみなさい』
『P.S. 腰のリボンは少しきつめに結ぶとスタイルが良く見えます。あと、この生地は湿気に弱いので保管には注意なさい。それと、合わせた靴も入れておいたから使いなさい』
……よし。
最後に少しアドバイスが入ってしまいましたが、これは「せっかくのドレスを台無しにされたくない」という悪役としての拘りだと解釈されるはずです。
「セバスチャン、これを直ちに王宮へ送りなさい。差出人は匿名で……と言いたいところだけど、私の名前をドカンと書いておいて」
「名前を、ですか?」
「そうよ! 『シュガー・メルティからの施し』だと分からなければ、屈辱感が半減するでしょう?」
「……承知いたしました」
セバスチャンは複雑な表情で、丁寧に梱包されたドレスと手紙を受け取りました。
「行ってらっしゃい。ああ、マリアさんの泣き顔が目に浮かぶようだわ……!」
私は窓際で、王宮の方角を見つめながら高笑いしました。
「オーッホッホッホ! 感謝なさい!」
◇
一方その頃、王宮のマリアの私室。
「……これは」
マリアは、届けられた大きな箱と手紙を前に、呆然と立ち尽くしていました。
部屋には、ちょうど様子を見に来ていたアレクセイ王子もいます。
「なんだこの箱は? 差出人は……『シュガー・メルティ』だと!?」
アレクセイの顔色が変わります。
「あの女、まだ懲りずに嫌がらせを……! マリア、開けてはいけない! 中に何が入っているか分からんぞ。カミソリか、毒蛇か……」
「で、でも、殿下。とても良い香りがします」
マリアはおずおずと箱のリボンを解きました。
蓋を開けた瞬間。
ふわっ、と部屋の中に花の香りが広がりました。
中に入っていたのは、息を呑むほど美しいコーラルピンクのドレスと、それに合わせた真珠のネックレス、そして刺繍入りの靴でした。
「なっ……!?」
アレクセイが絶句します。
「これは……ドレス?」
マリアは震える手で手紙を取り出し、読み上げました。
『……着るもの一つなくてお困りでしょうね。見るに見かねたので、恵んで差し上げますわ』
「貴様……! なんて無礼な! マリアを乞食扱いするつもりか!」
アレクセイは激昂し、手紙を奪い取ろうとしました。
しかし、マリアはその手紙を胸に抱きしめ、大粒の涙をこぼしました。
「マ、マリア!? 泣くことはない! こんな物はすぐに燃やして……」
「違います、殿下……ううっ、ひっく……」
マリアは首を横に振りました。
「シュガー様は……私のことを、心配してくださっているのです」
「はあ? 何を言っているんだ? 『古着を恵んでやる』と書いてあるぞ?」
「見てください、このドレス。……どこにも、針を通した跡がありません。新品です。それも、王都で一番流行している、入手困難な生地……」
マリアはドレスの袖を愛おしそうに撫でました。
「私、今度の夜会で着るドレスがなくて、ずっと悩んでいたんです。平民出身の私が王家の予算を使うわけにはいかないし……かといって、私の持っている服では殿下に恥をかかせてしまう……」
「マリア……そんなことを気にしていたのか? 僕に言ってくれれば」
「言えません! 殿下はただでさえお忙しいのに……。シュガー様は、それに気づいてくださったんです」
マリアは涙を拭いながら、手紙の続きを読みました。
「『腰のリボンはきつめに』『湿気に注意』……見てください殿下。こんなに細かくアドバイスまで。本当に私のことを嫌っているなら、こんなことは書きません」
「う……。し、しかし、言葉が悪すぎるだろう。『田舎娘』とか『お似合い』とか」
「これは……きっと、シュガー様なりの不器用な優しさなんです!」
マリアの瞳が、キラキラと輝き始めました。
「素直になれなくて、悪役のフリをして私を助けてくださった……。なんて高潔で、孤独な方なのでしょう!」
「いや、それはさすがに買い被りすぎでは……」
アレクセイは困惑顔ですが、マリアの感動は止まりません。
「私、決めました。このドレスを着て、胸を張って夜会に出ます! それがシュガー様の想いに応えるということです!」
「お、おう……。君がそう言うなら……」
アレクセイはドレスを見つめました。
確かに、品物は一級品です。毒針や呪いの類も感じられません。
(あいつ……本当にマリアのために? いや、あの性悪女に限ってそんなはずは……)
アレクセイの中で、シュガーへの憎しみと困惑がせめぎ合っていました。
「ありがとうございます、シュガー様……!」
マリアは窓の外、公爵邸がある方角に向かって深々と頭を下げました。
◇
翌日。
公爵邸のサロンで優雅にお茶を飲んでいた私は、セバスチャンの報告を聞いてお茶を吹き出しました。
「ブフッ!!」
「お、お嬢様! 汚いです!」
「ゲホッ、ゴホッ! ……な、なんですって!? マリアさんが……泣いて喜んでいた!?」
私は口元を拭いながら、セバスチャンに詰め寄りました。
セバスチャンは無表情で頷きます。
「はい。王宮に潜ませている間者の報告によれば。『シュガー様は素直になれないだけで、本当は優しい方なんだ』と、マリア様は感動の涙を流されていたそうです」
「な、なんでよおおおおおお!?」
私は頭を抱えました。
「あんなに嫌味たらしく書いたのに! 『古着』って書いたのに! なんで『優しい』になるのよ! マリアさんのポジティブシンキング、バグってない!?」
「まあ、現物が新品の最高級品でしたからね……。説得力がなかったのかと」
「ううっ……。これじゃあ、ただの良い人じゃない……」
私はがっくりと項垂れました。
しかし、次の瞬間。
私の脳内に、ある映像が浮かびました。
『シュガー様の不器用な優しさ……!』と涙ぐむマリアさんと、それを『やれやれ』という顔で見守るアレクセイ殿下。
その二人の空間。
優しい世界。
「……あれ?」
私は顔を上げました。
「それって、結果的に二人の絆が深まったってこと……よね?」
「まあ、マリア様が殿下に頼らず問題を解決し、殿下がそれを受け入れたという点では、信頼関係は深まったかと」
「…………」
私は口元を手で覆いました。
「……尊い」
「はい?」
「私の意図はどうあれ! マリアさんが可愛くて、二人が幸せならそれでオールオッケーよ!」
私は復活しました。
単純です。
推しが幸せなら、私の作戦ミスなんて些細な問題です。
「よし! 結果オーライ! じゃあ次は、もっと直接的な手に出るわよ!」
「……まだやるのですか」
「当たり前よ! 次は、殿下の側近であるキース様も巻き込んで……」
そこで、ふと昨日のことを思い出しました。
「……そういえば、キース様には私の本性がバレてるのよね。あの方、余計なこと言わないかしら」
「キース卿ですか。切れ者で有名ですね。敵に回すと厄介かと」
「うーん……。まあいいわ。次に会った時に、口止め料として『マリアさんの秘蔵オフショット(隠し撮り)』でも渡せばイチコロよ」
私は甘く考えていました。
あの腹黒騎士が、そんなもので満足するような相手ではないということを、まだ知らなかったのです。
その時。
「失礼します。王宮より、お客様がお見えです」
メイドが緊張した面持ちで入ってきました。
「お客様? 誰かしら。殿下からの抗議の使者?」
「いえ……それが」
メイドは言いにくそうに、視線を泳がせました。
「キース・ハミルトン騎士団長補佐様です。『個人的にお話がある』と」
「……」
私の動きが止まりました。
セバスチャンが「おや」という顔をします。
「噂をすれば影、ですね」
「……居留守! セバスチャン、居留守を使って!」
「無理ですお嬢様。すでにサロンへ通しております」
「仕事が早すぎるわよおおおお!」
私は悲鳴を上げながら、再び訪れたピンチに頭を抱えるのでした。
そこは今、戦場と化していました。
「違うわ! そのピンクは『ベビーピンク』よ! マリアさんの肌色はイエベ春(スプリング)なの! もっと温かみのある『コーラルピンク』を持ってきてちょうだい!」
「は、はいっ! 直ちに!」
私の怒号が飛び交う中、侍女たちが必死の形相でドレスを運び入れています。
私は腕組みをして、並べられたドレスの山を睨みつけました。
「まったく、なってないわ。これだから素人は困るのよ」
「お嬢様、もうこれで五十着目でございますが……」
セバスチャンが額の汗を拭いながら、おずおずと声をかけてきました。
私は振り返り、バシッと指を立てました。
「セバスチャン! 妥協は死を意味すると知りなさい! マリアさんはこれから、王宮という魔窟で戦うのよ? 半端な装備で送り出して、古株の貴婦人たちに笑われたらどうするの!」
「はあ……装備、でございますか」
「そうよ。ドレスは鎧! 宝石は盾! そしてメイクは魔法よ!」
私はハンガーにかかった一着のドレスを手に取りました。
それは、夕焼けのような淡いオレンジからピンクへとグラデーションが施された、最高級シルクのドレスでした。
レースも繊細で、今の流行を抑えつつも、清楚さを際立たせるデザイン。
以前、私が「可愛すぎて私には似合わないわね(尊死)」と思って観賞用に購入し、一度も袖を通していない新品です。
「……これだわ」
私は震える手でそのドレスを掲げました。
「この色合い……マリアさんの蜂蜜色の髪と、エメラルドの瞳を最高に引き立てるはずよ」
「確かに、素晴らしい品ですが……これを、本当に差し上げるので?」
「ええ。もちろん『嫌がらせ』としてね」
私はニヤリと笑うと、机に向かいました。
用意したのは、最高級の羊皮紙と、毒々しい紫色のインク。
これから書くのは、マリアさんの心をえぐる(予定の)罵倒の手紙です。
『拝啓、平民上がりのマリアさんへ』
筆が走ります。
『王宮での生活には慣れましたか? きっと、着るもの一つなくてお困りでしょうね』
ふふふ、いい感じに煽っています。
『見るに見かねたので、私のクローゼットの肥やしになっていた古着を恵んで差し上げますわ』
ここで重要なのは「古着」というワードです。
実際は新品ですが、あえてこう書くことで「お下がり」という屈辱を与えます。
『あなたのような田舎娘には、この程度の型落ちがお似合いよ。精々、殿下の隣で恥をかかないように着飾ってみなさい』
『P.S. 腰のリボンは少しきつめに結ぶとスタイルが良く見えます。あと、この生地は湿気に弱いので保管には注意なさい。それと、合わせた靴も入れておいたから使いなさい』
……よし。
最後に少しアドバイスが入ってしまいましたが、これは「せっかくのドレスを台無しにされたくない」という悪役としての拘りだと解釈されるはずです。
「セバスチャン、これを直ちに王宮へ送りなさい。差出人は匿名で……と言いたいところだけど、私の名前をドカンと書いておいて」
「名前を、ですか?」
「そうよ! 『シュガー・メルティからの施し』だと分からなければ、屈辱感が半減するでしょう?」
「……承知いたしました」
セバスチャンは複雑な表情で、丁寧に梱包されたドレスと手紙を受け取りました。
「行ってらっしゃい。ああ、マリアさんの泣き顔が目に浮かぶようだわ……!」
私は窓際で、王宮の方角を見つめながら高笑いしました。
「オーッホッホッホ! 感謝なさい!」
◇
一方その頃、王宮のマリアの私室。
「……これは」
マリアは、届けられた大きな箱と手紙を前に、呆然と立ち尽くしていました。
部屋には、ちょうど様子を見に来ていたアレクセイ王子もいます。
「なんだこの箱は? 差出人は……『シュガー・メルティ』だと!?」
アレクセイの顔色が変わります。
「あの女、まだ懲りずに嫌がらせを……! マリア、開けてはいけない! 中に何が入っているか分からんぞ。カミソリか、毒蛇か……」
「で、でも、殿下。とても良い香りがします」
マリアはおずおずと箱のリボンを解きました。
蓋を開けた瞬間。
ふわっ、と部屋の中に花の香りが広がりました。
中に入っていたのは、息を呑むほど美しいコーラルピンクのドレスと、それに合わせた真珠のネックレス、そして刺繍入りの靴でした。
「なっ……!?」
アレクセイが絶句します。
「これは……ドレス?」
マリアは震える手で手紙を取り出し、読み上げました。
『……着るもの一つなくてお困りでしょうね。見るに見かねたので、恵んで差し上げますわ』
「貴様……! なんて無礼な! マリアを乞食扱いするつもりか!」
アレクセイは激昂し、手紙を奪い取ろうとしました。
しかし、マリアはその手紙を胸に抱きしめ、大粒の涙をこぼしました。
「マ、マリア!? 泣くことはない! こんな物はすぐに燃やして……」
「違います、殿下……ううっ、ひっく……」
マリアは首を横に振りました。
「シュガー様は……私のことを、心配してくださっているのです」
「はあ? 何を言っているんだ? 『古着を恵んでやる』と書いてあるぞ?」
「見てください、このドレス。……どこにも、針を通した跡がありません。新品です。それも、王都で一番流行している、入手困難な生地……」
マリアはドレスの袖を愛おしそうに撫でました。
「私、今度の夜会で着るドレスがなくて、ずっと悩んでいたんです。平民出身の私が王家の予算を使うわけにはいかないし……かといって、私の持っている服では殿下に恥をかかせてしまう……」
「マリア……そんなことを気にしていたのか? 僕に言ってくれれば」
「言えません! 殿下はただでさえお忙しいのに……。シュガー様は、それに気づいてくださったんです」
マリアは涙を拭いながら、手紙の続きを読みました。
「『腰のリボンはきつめに』『湿気に注意』……見てください殿下。こんなに細かくアドバイスまで。本当に私のことを嫌っているなら、こんなことは書きません」
「う……。し、しかし、言葉が悪すぎるだろう。『田舎娘』とか『お似合い』とか」
「これは……きっと、シュガー様なりの不器用な優しさなんです!」
マリアの瞳が、キラキラと輝き始めました。
「素直になれなくて、悪役のフリをして私を助けてくださった……。なんて高潔で、孤独な方なのでしょう!」
「いや、それはさすがに買い被りすぎでは……」
アレクセイは困惑顔ですが、マリアの感動は止まりません。
「私、決めました。このドレスを着て、胸を張って夜会に出ます! それがシュガー様の想いに応えるということです!」
「お、おう……。君がそう言うなら……」
アレクセイはドレスを見つめました。
確かに、品物は一級品です。毒針や呪いの類も感じられません。
(あいつ……本当にマリアのために? いや、あの性悪女に限ってそんなはずは……)
アレクセイの中で、シュガーへの憎しみと困惑がせめぎ合っていました。
「ありがとうございます、シュガー様……!」
マリアは窓の外、公爵邸がある方角に向かって深々と頭を下げました。
◇
翌日。
公爵邸のサロンで優雅にお茶を飲んでいた私は、セバスチャンの報告を聞いてお茶を吹き出しました。
「ブフッ!!」
「お、お嬢様! 汚いです!」
「ゲホッ、ゴホッ! ……な、なんですって!? マリアさんが……泣いて喜んでいた!?」
私は口元を拭いながら、セバスチャンに詰め寄りました。
セバスチャンは無表情で頷きます。
「はい。王宮に潜ませている間者の報告によれば。『シュガー様は素直になれないだけで、本当は優しい方なんだ』と、マリア様は感動の涙を流されていたそうです」
「な、なんでよおおおおおお!?」
私は頭を抱えました。
「あんなに嫌味たらしく書いたのに! 『古着』って書いたのに! なんで『優しい』になるのよ! マリアさんのポジティブシンキング、バグってない!?」
「まあ、現物が新品の最高級品でしたからね……。説得力がなかったのかと」
「ううっ……。これじゃあ、ただの良い人じゃない……」
私はがっくりと項垂れました。
しかし、次の瞬間。
私の脳内に、ある映像が浮かびました。
『シュガー様の不器用な優しさ……!』と涙ぐむマリアさんと、それを『やれやれ』という顔で見守るアレクセイ殿下。
その二人の空間。
優しい世界。
「……あれ?」
私は顔を上げました。
「それって、結果的に二人の絆が深まったってこと……よね?」
「まあ、マリア様が殿下に頼らず問題を解決し、殿下がそれを受け入れたという点では、信頼関係は深まったかと」
「…………」
私は口元を手で覆いました。
「……尊い」
「はい?」
「私の意図はどうあれ! マリアさんが可愛くて、二人が幸せならそれでオールオッケーよ!」
私は復活しました。
単純です。
推しが幸せなら、私の作戦ミスなんて些細な問題です。
「よし! 結果オーライ! じゃあ次は、もっと直接的な手に出るわよ!」
「……まだやるのですか」
「当たり前よ! 次は、殿下の側近であるキース様も巻き込んで……」
そこで、ふと昨日のことを思い出しました。
「……そういえば、キース様には私の本性がバレてるのよね。あの方、余計なこと言わないかしら」
「キース卿ですか。切れ者で有名ですね。敵に回すと厄介かと」
「うーん……。まあいいわ。次に会った時に、口止め料として『マリアさんの秘蔵オフショット(隠し撮り)』でも渡せばイチコロよ」
私は甘く考えていました。
あの腹黒騎士が、そんなもので満足するような相手ではないということを、まだ知らなかったのです。
その時。
「失礼します。王宮より、お客様がお見えです」
メイドが緊張した面持ちで入ってきました。
「お客様? 誰かしら。殿下からの抗議の使者?」
「いえ……それが」
メイドは言いにくそうに、視線を泳がせました。
「キース・ハミルトン騎士団長補佐様です。『個人的にお話がある』と」
「……」
私の動きが止まりました。
セバスチャンが「おや」という顔をします。
「噂をすれば影、ですね」
「……居留守! セバスチャン、居留守を使って!」
「無理ですお嬢様。すでにサロンへ通しております」
「仕事が早すぎるわよおおおお!」
私は悲鳴を上げながら、再び訪れたピンチに頭を抱えるのでした。
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