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「見なさい、キース様。あれが『黒船』よ」
「……人を船みたいに言うな」
王宮のきらびやかな舞踏会場。
シャンデリアの光が降り注ぐ中、私とキース様は会場の隅にある柱の陰に潜んでいました。
今日は、隣国から留学してきたヴィオレッタ王女の歓迎パーティーです。
本来なら、婚約破棄されたばかりの私が顔を出すのは気まずい場面ですが、そこは「公爵家の名代」という鉄壁の理由と、私の鋼のメンタルで乗り切りました。
すべては、新たな脅威から推しカプを守るためです。
「来たぞ」
キース様の低い声と共に、会場の扉が大きく開かれました。
ファンファーレが鳴り響き、真っ赤な絨毯の上を、一人の女性が歩いてきます。
ヴィオレッタ・ローゼンバーグ王女。
燃えるような真紅のドレスに身を包み、豊かな金髪を縦ロールに巻いた、まさに「THE・高飛車なお姫様」というビジュアルです。
その美貌は確かに圧倒的ですが、漂わせているオーラが攻撃的すぎます。
(うーん……。顔はいいけど、属性が『強気』すぎてマリアさんとの対比バランスが悪いのよね。あと、胸元の開き具合がR指定ギリギリだわ)
私は評論家のような顔でチェックを入れました。
ヴィオレッタ王女は、玉座の近くに控えていたアレクセイ殿下の元へと一直線に進みます。
そして、優雅にカーテシー(挨拶)をしたかと思うと――。
ガシッ!!
「お久しぶりですわ、アレクセイ様! 会いたかったですわ~!」
なんと、挨拶もそこそこに殿下の腕に抱きついたのです!
しかも、その豊満な胸部を、殿下の二の腕にこれ見よがしに押し付けています!
「ぶっ!!」
私は思わず吹き出しました。
「ちょ、ちょっと! 何よあれ! 距離感バグってるじゃない!」
「……大胆な方だな」
キース様も若干引き気味です。
殿下は顔を引きつらせて固まっています。
「ヴィ、ヴィオレッタ殿下……。少し離れていただけると……」
「あら、減るものではありませんわ。留学中は、わたくしがアレクセイ様のお世話をさせていただきますから、覚悟してくださいませ♡」
ヴィオレッタ王女はウィンクを飛ばしました。
完全にロックオンしています。
そして、問題なのはその後です。
殿下のすぐ後ろに控えていたマリアさんが、その勢いに押されて弾き出されてしまったのです。
「あ……」
マリアさんはよろめき、壁際へと追いやられました。
殿下の隣という「正ヒロインの指定席」が、ぽっかりと空いてしまったのです。
そして、その席にヴィオレッタ王女が我が物顔で収まりました。
(――許さん)
私の脳内で、何かが切れました。
(私の神聖な推しカプの間に! 土足で! しかも物理攻撃(胸)で割り込むなんて!)
これはもはや、恋愛イベントではありません。
テロです。
私の理想郷に対する侵略行為です。
「……おいシュガー、扇をへし折るな。怖いぞ」
キース様が私の手首を掴んで静止しました。
「落ち着け。まだ挨拶が終わっただけだ」
「挨拶!? あれが挨拶なら、相撲の立ち合いも挨拶になりますわ! 見てください、マリアさんのあの寂しげな顔! 『私なんてお邪魔虫だわ』って思ってる顔ですよあれは!」
私はギリギリと歯を食い縛りました。
マリアさんは、華やかな王女と殿下の並びを見て、自信なさげに俯いています。
その姿がいじらしくて可愛い……のですが、今は萌えている場合ではありません。
このままでは、マリアさんの心が折れてしまいます!
「……動くわ」
「待て。何をする気だ」
「決まっているでしょう。あの『赤色縦ロール』に、この国の悪役令嬢の恐ろしさを教えて差し上げるのよ!」
私はキース様の手を振り払い、戦場(ホール)へと足を踏み出しました。
◇
「まあ、こちらの地味な方はどなた?」
私が近づいた時、ちょうどヴィオレッタ王女がマリアさんに気づいたところでした。
彼女は扇で口元を隠し、マリアさんを上から下まで値踏みするように見下ろしています。
「は、初めまして……マリアと申します」
「マリア? ああ、噂の平民上がりの聖女候補ね。……ふふ、やっぱり平民は平民ね。ドレスに着られているというか、野に咲くタンポポが無理して花瓶に入っているみたい」
周囲の貴族たちがクスクスと笑います。
酷い。
あまりに古典的かつ直接的な侮辱です。
殿下が口を開こうとした、その瞬間。
「あら、タンポポは美しい花ですわよ? 少なくとも、毒々しいラフレシアよりはね」
凛とした声が、会場に響き渡りました。
私の声です。
会場の視線が一斉にこちらへ集まります。
「シュ、シュガー……!?」
殿下がギョッとした顔をしました。
私は優雅に扇をパチリと閉じ、ヴィオレッタ王女の前に立ちはだかりました。
身長差は私の方が少し上。
ヒールの高さも私の勝ちです。
「……誰ですの? わたくしに意見する無礼者は」
ヴィオレッタ王女が不機嫌そうに眉をひそめます。
私はニッコリと、最高に意地悪な悪役スマイルを作りました。
「お初にお目にかかります、ヴィオレッタ王女殿下。私はシュガー・メルティ。……つい先日まで、そこのアレクセイ殿下の婚約者だった女ですわ」
「元婚約者……? ああ、あなたが! 性格が悪すぎて捨てられたという!」
王女が高笑いしました。
「ふふっ、負け犬が何の用かしら? わたくしとアレクセイ様の邪魔をしないでくださる?」
「邪魔? とんでもない。私はただ、忠告に来ただけです」
私は一歩、彼女に近づきました。
「このマリア・アズライトという娘はね、私の『おもちゃ』なんですの」
「……は?」
王女も、殿下も、マリアさんも、全員がポカンとしました。
私は続けます。
「彼女をいじめていいのは、この国で私だけ。彼女にドレスを送りつけ、嫌味を言い、精神的に追い詰める権利を持っているのは、正当なライバルである私一人なのです」
私はマリアさんの肩をグイッと抱き寄せました。
マリアさんが「ひゃっ」と声を上げます。
「ポッと出の他国の王女様が、私の獲物に手を出さないでいただけます? ……不愉快ですわ」
会場が静まり返りました。
これは「マリアを守る」という行為に見えますが、言っている内容は完全に「所有権の主張をするヤバイ奴」です。
しかし、ヴィオレッタ王女のプライドを刺激するには十分でした。
「なっ……! な、何よその言い草! わたくしに指図するつもり!?」
「ええ、しております。郷に入っては郷に従え。この国の恋愛事情(エコシステム)を乱す異物は、私が排除いたしますわ」
私の瞳から、本気の殺気(推しへの愛)が放たれました。
ヴィオレッタ王女は一瞬、怯んだように後ずさりしました。
「くっ……! な、なんて野蛮な女なの……! アレクセイ様、こんな女、すぐに追い出してくださいまし!」
彼女は殿下に助けを求めました。
しかし、殿下は呆然と私とマリアさんを見ています。
「(シュガー……お前、マリアを庇ったのか? いや、今『おもちゃ』って言ったな? どっちなんだ……?)」
殿下の混乱が見て取れます。
そこで、マリアさんが口を開きました。
「あ、あの! ヴィオレッタ様!」
彼女は私の腕の中から、真っ直ぐに王女を見据えました。
「シュガー様は野蛮ではありません! 言葉は厳しいですが、芯の通った素晴らしい方です! ……タンポポと言われましたが、私はタンポポのように強くありたいと思っています!」
「マリアさん……」
(うっ……! 尊い! タンポポ宣言可愛い! そして私を庇ってくれるなんて、なんて天使なの!)
私は内心で感動の涙を流しました。
マリアさんの言葉に、ヴィオレッタ王女は顔を真っ赤にしました。
「な、なんなのよ! どいつもこいつも! ……覚えてらっしゃい! この屈辱、必ず晴らしてやるから!」
王女は捨て台詞を残し、ヒールを鳴らして会場を出て行きました。
嵐のような退場劇。
残された会場には、奇妙な空気が漂っています。
「……ふう。とりあえず、撃退完了ですね」
私は小声で呟き、マリアさんからパッと離れました。
「マ、マリアさん! 勘違いしないでよね! 別にあんたを助けたわけじゃないんだから!」
ツンデレのテンプレ台詞を吐いておきます。
マリアさんはキラキラした目で私を見つめています。
「はい! 分かっていますシュガー様! ……私が、シュガー様にとって『特別なおもちゃ(存在)』だと認めてくださって、嬉しいです!」
「……解釈がポジティブすぎるのよ」
私は頭を抱えました。
そこへ、殿下が近づいてきました。
「……シュガー。礼は言わんぞ」
殿下の顔は複雑そうです。
「お前がヴィオレッタを煽ったせいで、今後もっと面倒なことになりそうだ」
「あら、望むところですわ。あの程度の小娘に殿下の隣は務まりません。……殿下の隣にふさわしいのは、もっとこう、素朴で純真な……」
私はチラリとマリアさんを見ました。
殿下もつられてマリアさんを見ます。
二人の視線が交わり、頬を染め合う……。
(よし! リカバリー完了! 元の鞘に収まったわ!)
私は満足げに頷きました。
「では、私はこれで。お邪魔虫は退散いたします」
私は優雅に一礼し、颯爽と背を向けました。
柱の陰に戻ると、キース様がニヤニヤしながら待っていました。
「やるじゃないか、『正当なライバル』さん」
「……茶化さないでください。心臓バクバクでしたよ」
「でも、いい手だった。あれでヴィオレッタ王女の敵意は、マリア嬢だけでなくお前にも向いた」
キース様の目が鋭く光りました。
「つまり、これからは『ヴィオレッタvsシュガー』という構図に持ち込める。マリア嬢への直接攻撃を減らせるわけだ」
「……あら。私、そこまで考えていませんでしたけど」
「無自覚かよ。まあいい、結果オーライだ」
キース様は私の頭をポンポンと叩きました。
「だが、宣戦布告しちまったからな。向こうも本気で潰しにかかってくるぞ。……覚悟はいいか?」
私は扇で口元を隠し、不敵に笑いました。
「望むところですわ。私の推し活(人生)を邪魔する者は、たとえ王女だろうと容赦しません」
「頼もしいねぇ。じゃあ、作戦会議の続きといくか」
こうして、新たなライバルの出現により、私の「悪役令嬢」としての業務内容はますますハードになっていきました。
王宮を舞台にした女の戦い。
しかしその実態は、一人のオタクによる「推しカプ防衛戦」だったのです。
「……人を船みたいに言うな」
王宮のきらびやかな舞踏会場。
シャンデリアの光が降り注ぐ中、私とキース様は会場の隅にある柱の陰に潜んでいました。
今日は、隣国から留学してきたヴィオレッタ王女の歓迎パーティーです。
本来なら、婚約破棄されたばかりの私が顔を出すのは気まずい場面ですが、そこは「公爵家の名代」という鉄壁の理由と、私の鋼のメンタルで乗り切りました。
すべては、新たな脅威から推しカプを守るためです。
「来たぞ」
キース様の低い声と共に、会場の扉が大きく開かれました。
ファンファーレが鳴り響き、真っ赤な絨毯の上を、一人の女性が歩いてきます。
ヴィオレッタ・ローゼンバーグ王女。
燃えるような真紅のドレスに身を包み、豊かな金髪を縦ロールに巻いた、まさに「THE・高飛車なお姫様」というビジュアルです。
その美貌は確かに圧倒的ですが、漂わせているオーラが攻撃的すぎます。
(うーん……。顔はいいけど、属性が『強気』すぎてマリアさんとの対比バランスが悪いのよね。あと、胸元の開き具合がR指定ギリギリだわ)
私は評論家のような顔でチェックを入れました。
ヴィオレッタ王女は、玉座の近くに控えていたアレクセイ殿下の元へと一直線に進みます。
そして、優雅にカーテシー(挨拶)をしたかと思うと――。
ガシッ!!
「お久しぶりですわ、アレクセイ様! 会いたかったですわ~!」
なんと、挨拶もそこそこに殿下の腕に抱きついたのです!
しかも、その豊満な胸部を、殿下の二の腕にこれ見よがしに押し付けています!
「ぶっ!!」
私は思わず吹き出しました。
「ちょ、ちょっと! 何よあれ! 距離感バグってるじゃない!」
「……大胆な方だな」
キース様も若干引き気味です。
殿下は顔を引きつらせて固まっています。
「ヴィ、ヴィオレッタ殿下……。少し離れていただけると……」
「あら、減るものではありませんわ。留学中は、わたくしがアレクセイ様のお世話をさせていただきますから、覚悟してくださいませ♡」
ヴィオレッタ王女はウィンクを飛ばしました。
完全にロックオンしています。
そして、問題なのはその後です。
殿下のすぐ後ろに控えていたマリアさんが、その勢いに押されて弾き出されてしまったのです。
「あ……」
マリアさんはよろめき、壁際へと追いやられました。
殿下の隣という「正ヒロインの指定席」が、ぽっかりと空いてしまったのです。
そして、その席にヴィオレッタ王女が我が物顔で収まりました。
(――許さん)
私の脳内で、何かが切れました。
(私の神聖な推しカプの間に! 土足で! しかも物理攻撃(胸)で割り込むなんて!)
これはもはや、恋愛イベントではありません。
テロです。
私の理想郷に対する侵略行為です。
「……おいシュガー、扇をへし折るな。怖いぞ」
キース様が私の手首を掴んで静止しました。
「落ち着け。まだ挨拶が終わっただけだ」
「挨拶!? あれが挨拶なら、相撲の立ち合いも挨拶になりますわ! 見てください、マリアさんのあの寂しげな顔! 『私なんてお邪魔虫だわ』って思ってる顔ですよあれは!」
私はギリギリと歯を食い縛りました。
マリアさんは、華やかな王女と殿下の並びを見て、自信なさげに俯いています。
その姿がいじらしくて可愛い……のですが、今は萌えている場合ではありません。
このままでは、マリアさんの心が折れてしまいます!
「……動くわ」
「待て。何をする気だ」
「決まっているでしょう。あの『赤色縦ロール』に、この国の悪役令嬢の恐ろしさを教えて差し上げるのよ!」
私はキース様の手を振り払い、戦場(ホール)へと足を踏み出しました。
◇
「まあ、こちらの地味な方はどなた?」
私が近づいた時、ちょうどヴィオレッタ王女がマリアさんに気づいたところでした。
彼女は扇で口元を隠し、マリアさんを上から下まで値踏みするように見下ろしています。
「は、初めまして……マリアと申します」
「マリア? ああ、噂の平民上がりの聖女候補ね。……ふふ、やっぱり平民は平民ね。ドレスに着られているというか、野に咲くタンポポが無理して花瓶に入っているみたい」
周囲の貴族たちがクスクスと笑います。
酷い。
あまりに古典的かつ直接的な侮辱です。
殿下が口を開こうとした、その瞬間。
「あら、タンポポは美しい花ですわよ? 少なくとも、毒々しいラフレシアよりはね」
凛とした声が、会場に響き渡りました。
私の声です。
会場の視線が一斉にこちらへ集まります。
「シュ、シュガー……!?」
殿下がギョッとした顔をしました。
私は優雅に扇をパチリと閉じ、ヴィオレッタ王女の前に立ちはだかりました。
身長差は私の方が少し上。
ヒールの高さも私の勝ちです。
「……誰ですの? わたくしに意見する無礼者は」
ヴィオレッタ王女が不機嫌そうに眉をひそめます。
私はニッコリと、最高に意地悪な悪役スマイルを作りました。
「お初にお目にかかります、ヴィオレッタ王女殿下。私はシュガー・メルティ。……つい先日まで、そこのアレクセイ殿下の婚約者だった女ですわ」
「元婚約者……? ああ、あなたが! 性格が悪すぎて捨てられたという!」
王女が高笑いしました。
「ふふっ、負け犬が何の用かしら? わたくしとアレクセイ様の邪魔をしないでくださる?」
「邪魔? とんでもない。私はただ、忠告に来ただけです」
私は一歩、彼女に近づきました。
「このマリア・アズライトという娘はね、私の『おもちゃ』なんですの」
「……は?」
王女も、殿下も、マリアさんも、全員がポカンとしました。
私は続けます。
「彼女をいじめていいのは、この国で私だけ。彼女にドレスを送りつけ、嫌味を言い、精神的に追い詰める権利を持っているのは、正当なライバルである私一人なのです」
私はマリアさんの肩をグイッと抱き寄せました。
マリアさんが「ひゃっ」と声を上げます。
「ポッと出の他国の王女様が、私の獲物に手を出さないでいただけます? ……不愉快ですわ」
会場が静まり返りました。
これは「マリアを守る」という行為に見えますが、言っている内容は完全に「所有権の主張をするヤバイ奴」です。
しかし、ヴィオレッタ王女のプライドを刺激するには十分でした。
「なっ……! な、何よその言い草! わたくしに指図するつもり!?」
「ええ、しております。郷に入っては郷に従え。この国の恋愛事情(エコシステム)を乱す異物は、私が排除いたしますわ」
私の瞳から、本気の殺気(推しへの愛)が放たれました。
ヴィオレッタ王女は一瞬、怯んだように後ずさりしました。
「くっ……! な、なんて野蛮な女なの……! アレクセイ様、こんな女、すぐに追い出してくださいまし!」
彼女は殿下に助けを求めました。
しかし、殿下は呆然と私とマリアさんを見ています。
「(シュガー……お前、マリアを庇ったのか? いや、今『おもちゃ』って言ったな? どっちなんだ……?)」
殿下の混乱が見て取れます。
そこで、マリアさんが口を開きました。
「あ、あの! ヴィオレッタ様!」
彼女は私の腕の中から、真っ直ぐに王女を見据えました。
「シュガー様は野蛮ではありません! 言葉は厳しいですが、芯の通った素晴らしい方です! ……タンポポと言われましたが、私はタンポポのように強くありたいと思っています!」
「マリアさん……」
(うっ……! 尊い! タンポポ宣言可愛い! そして私を庇ってくれるなんて、なんて天使なの!)
私は内心で感動の涙を流しました。
マリアさんの言葉に、ヴィオレッタ王女は顔を真っ赤にしました。
「な、なんなのよ! どいつもこいつも! ……覚えてらっしゃい! この屈辱、必ず晴らしてやるから!」
王女は捨て台詞を残し、ヒールを鳴らして会場を出て行きました。
嵐のような退場劇。
残された会場には、奇妙な空気が漂っています。
「……ふう。とりあえず、撃退完了ですね」
私は小声で呟き、マリアさんからパッと離れました。
「マ、マリアさん! 勘違いしないでよね! 別にあんたを助けたわけじゃないんだから!」
ツンデレのテンプレ台詞を吐いておきます。
マリアさんはキラキラした目で私を見つめています。
「はい! 分かっていますシュガー様! ……私が、シュガー様にとって『特別なおもちゃ(存在)』だと認めてくださって、嬉しいです!」
「……解釈がポジティブすぎるのよ」
私は頭を抱えました。
そこへ、殿下が近づいてきました。
「……シュガー。礼は言わんぞ」
殿下の顔は複雑そうです。
「お前がヴィオレッタを煽ったせいで、今後もっと面倒なことになりそうだ」
「あら、望むところですわ。あの程度の小娘に殿下の隣は務まりません。……殿下の隣にふさわしいのは、もっとこう、素朴で純真な……」
私はチラリとマリアさんを見ました。
殿下もつられてマリアさんを見ます。
二人の視線が交わり、頬を染め合う……。
(よし! リカバリー完了! 元の鞘に収まったわ!)
私は満足げに頷きました。
「では、私はこれで。お邪魔虫は退散いたします」
私は優雅に一礼し、颯爽と背を向けました。
柱の陰に戻ると、キース様がニヤニヤしながら待っていました。
「やるじゃないか、『正当なライバル』さん」
「……茶化さないでください。心臓バクバクでしたよ」
「でも、いい手だった。あれでヴィオレッタ王女の敵意は、マリア嬢だけでなくお前にも向いた」
キース様の目が鋭く光りました。
「つまり、これからは『ヴィオレッタvsシュガー』という構図に持ち込める。マリア嬢への直接攻撃を減らせるわけだ」
「……あら。私、そこまで考えていませんでしたけど」
「無自覚かよ。まあいい、結果オーライだ」
キース様は私の頭をポンポンと叩きました。
「だが、宣戦布告しちまったからな。向こうも本気で潰しにかかってくるぞ。……覚悟はいいか?」
私は扇で口元を隠し、不敵に笑いました。
「望むところですわ。私の推し活(人生)を邪魔する者は、たとえ王女だろうと容赦しません」
「頼もしいねぇ。じゃあ、作戦会議の続きといくか」
こうして、新たなライバルの出現により、私の「悪役令嬢」としての業務内容はますますハードになっていきました。
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