悪役令嬢は、王子とヒロインのカップリングが尊すぎて退場したい!

パリパリかぷちーの

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「……で。なぜ殿下がここにいらっしゃるのですか?」

公爵家の裏庭にある、私専用の隠れ家(ティーハウス)。

普段は私の推し活グッズやスケッチブックが隠されている秘密基地に、ありえない人物が座っていました。

深々とフードを被り、変装用の伊達眼鏡をかけた青年――アレクセイ殿下です。

そして、その隣には「連れてきちゃった」という顔で肩をすくめるキース様。

「い、いいだろう別に! 元婚約者のよしみとして、少し話を聞いてくれたって!」

殿下は落ち着きなく紅茶のカップを回しています。

「話とは何ですの? 私、今は『次の悪巧み』を考えるのに忙しいのですけれど」

私は嘘をつきました。

本当は、昨日の「泥だらけのマリアさんと、それを拭く殿下」という尊い構図を油絵に起こしている最中でした。

邪魔をされて不機嫌……なフリを装いつつ、内心では心臓がバクバクしています。

(な、なになに!? 殿下が私にお忍びで会いに来るなんて! もしや『昨日の件でマリアが傷ついた、責任を取れ』的な断罪パート2!?)

身構える私に、殿下は重い口を開きました。

「……実は。マリアのことなんだが」

「はい(キタ!)」

「……最近、避けられている気がするんだ」

「……は?」

私は絵筆(隠し持っていた)を取り落としそうになりました。

「避けられている、ですって?」

「ああ。目が合うとすぐに逸らされるし、話しかけても『あ、あの、失礼します!』と顔を真っ赤にして逃げられてしまう」

殿下は深刻そうに頭を抱えました。

「やはり、昨日の件か……? 僕が泥を拭いてやった時、彼女は震えていた。もしかして、僕の触り方が気持ち悪かったのか? それとも、僕が頼りないから愛想を尽かされたのか?」

「…………」

私は絶句しました。

(……この王子、鈍感すぎる)

目が合って顔を真っ赤にして逃げる。

それは「嫌悪」ではなく「恥じらい」です!

昨日の接近戦(泥拭きイベント)でドキドキしすぎて、直視できなくなっているだけでしょうが!

(なんてこと……! 両片思いのすれ違い! 一番美味しい時期じゃないの!)

私は机の下で拳を握りしめました。

「それで? なぜそれを私に相談するのです?」

「き、キースが……『女心のことなら、同じ女性であるシュガーに聞けばいい』と……」

私はキース様を睨みました。

彼は「いい案だろ?」とニヤリとしています。

(この面白がり屋め……!)

しかし、これはチャンスです。

ここで私が的確なアドバイス(誘導)をすれば、二人の仲を一気に進展させることができます。

「……はあ。呆れましたわ」

私はわざとらしく溜息をつきました。

「殿下は本当に女心が分かっておられませんのね。そんなことでは、マリアさんに逃げられるのも時間の問題ですわよ」

「なっ……! やはりそうなのか!?」

殿下が青ざめて食いついてきました。

「ど、どうすればいい!? 教えてくれシュガー! お前は……その、昔から僕のことをよく見ていただろう!?」

「ええ、見ていましたとも(主にマリアさんとの身長差などを)」

私は扇を開き、先生のような態度で言いました。

「いいですか、殿下。マリアさんが避けているのは、嫌いだからではありません。……『意識しすぎている』からですわ」

「い、意識……?」

「平民出身の彼女にとって、王族である殿下は雲の上の存在。しかも、昨日のように優しくされたら、自分の身分を思い出して『私なんかが近くにいていいのかしら』と不安になるのです」

「不安……」

「そうです。だからこそ、殿下の方から『君でなければダメなんだ』という明確なアクションが必要なのです!」

私の熱弁に、殿下はメモを取り出しそうな勢いで頷いています。

「な、なるほど……! で、具体的にはどうすれば?」

「そうですね……」

私は脳内の「推しカプにやってほしいことリスト」を高速検索しました。

『壁ドン』……まだ早い。
『アーン』……場所を選ぶ。
『プレゼント攻勢』……マリアさんは恐縮してしまう。

(もっと、こう……日常の中で自然に、かつ破壊力の高いやつ……!)

「……『名前呼び』ですわ」

私はバシッと扇を閉じました。

「名前呼び?」

「ええ。殿下はいつも彼女を『マリア』と呼んでいますが、彼女は殿下を何と呼んでいますか?」

「『アレクセイ様』か『殿下』だが……」

「それです! その壁を取り払うのです!」

私は立ち上がりました。

「次のデート……そうですね、人目のない静かな場所で、殿下はこう切り出すのです。『二人きりの時は、僕のことを名前で呼んでくれないか? 敬語もなしで』と!」

「なっ……!」

殿下の顔が赤くなりました。

「敬語なしで……名前呼び……愛称で……?」

「そうです。『アレク』とか呼ばせたら最高ですわね(私が死にます)」

「そ、そんな畏れ多いことを彼女が承諾するだろうか……」

「そこを押し切るのが男の甲斐性でしょう! 『命令だ』と言ってでも言わせるのです! その強引さに、女性はときめくものですわ!」

私は完全にヒートアップしていました。

「そして! 彼女が恥ずかしがりながら『……ア、アレク……』と言ったその瞬間! 殿下は彼女の手を握り、『ありがとう、やっと距離が縮まった気がする』と微笑むのです! これで好感度はカンスト間違いなしです!」

「す、凄い……」

殿下は私のプレゼンに圧倒されています。

「シュガー……お前、そんなに恋愛に詳しかったのか……?」

「ええ、まあ(妄想の中では)百戦錬磨ですので」

「見直したぞ。……やはり、お前は腐っても元婚約者だな」

殿下の目に、尊敬の光が宿っています。

(違うの、尊敬しないで。私はただ、あなたたちのイチャイチャが見たいだけなの)

「……よし。やってみる」

殿下は決意を固めたように立ち上がりました。

「ありがとうシュガー。この礼はいつか……」

「礼などいりませんわ。その代わり……」

私は邪悪な笑みを浮かべました。

「その作戦を実行する日時と場所を、事前に私(とキース様)に教えなさい」

「……は? なぜだ?」

「そ、それは……『本当に上手くいくか、遠くから見届けてあげる』という、私の元婚約者としての最後の情けですわ!」

苦しい。苦しい言い訳です。

しかし、殿下は「……そうか。心配してくれているのか」と、なぜかポジティブに解釈しました。

(マリアさんの影響受けてない?)

「分かった。今週末、王宮の温室で……二人きりでお茶をする予定だ」

「温室! 了解しました!」

私は心の中でガッツポーズをしました。

温室なら、植物の陰から隠れて見放題です。

「では、私はこれで。……キース、行くぞ」

「ああ。……お疲れ、先生」

キース様は私にだけ聞こえる声で囁き、殿下と共に去っていきました。

嵐が去った後のティーハウス。

私はへなへなと椅子に座り込みました。

「……はあ、はあ……! やった……!」

私は机に突っ伏し、足をバタバタさせました。

「今週末! 『アレク呼び』イベント発生確定! しかも温室という閉鎖空間! 湿気と花の香りでムードも満点!」

想像しただけで脳が溶けそうです。

「マリアさんの『ア、アレク……』という震える声……それを聞いて理性が飛びそうになる殿下……! ああっ、早く週末になって!」

私はスケッチブックを開き、今の妄想を猛スピードで描き始めました。

「タイトルは『秘密の温室・初めての名前呼び』……! 構図は逆光で、二人のシルエットが重なる感じで……!」

私の推し活は、留まるところを知りません。

しかし、私は忘れていました。

温室には、私とキース様以外にも、「邪魔者」が潜む可能性があることを。

そして、その邪魔者が、私の完璧なデートプランをぶち壊しにするかもしれないということを。
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