悪役令嬢は、王子とヒロインのカップリングが尊すぎて退場したい!

パリパリかぷちーの

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「……ん……」

意識が浮上すると、そこには心配そうに私を覗き込むキース様の顔がありました。

「気がついたか、お姫様」

「キース様……私、気絶して……」

私は体を起こそうとして、全身の筋肉痛に顔をしかめました。
周囲を見渡すと、舞踏会場は瓦礫の山。
しかし、魔物たちの姿はなく、ヴィオレッタ王女も騎士たちに取り押さえられています。

「終わった……のですか?」

「ああ。お前が水晶玉を砕いたおかげで、魔物の制御が解けて消滅した。……大手柄だぞ」

キース様が私の頭をポンと撫でました。

会場のあちこちで、安堵の溜息と、怪我人の手当てをする声が聞こえます。
マリアさんも、殿下に支えられながら、必死に治癒魔法を使い続けています。

「放しなさいよ! 無礼者!」

瓦礫の山から、ヴィオレッタ王女の叫び声が聞こえました。
彼女はドレスも髪もボロボロで、猿ぐつわをされそうになりながら暴れています。

「わたくしは隣国の王女よ! こんな扱いをしてタダで済むと思っているの!?」

「黙れ!」

アレクセイ殿下が冷たく言い放ちました。

「他国の領土で禁忌の召喚魔法を使い、王族を殺そうとしたのだ。これは戦争行為に等しい。……父上、ご判断を」

国王陛下が、厳しい表情で頷きました。

「うむ。ヴィオレッタ姫、そなたを国際条約違反の罪で拘束する。……言い逃れはできんぞ」

「くっ……!」

ヴィオレッタ王女が悔しそうに唇を噛みます。

(ふふ……ざまぁみろですわ)

私はキース様の腕の中で、密かにガッツポーズをしました。
これで完全に解決。
あとは私が「実は全部演技でしたー!」とネタばらしをして、マリアさんと殿下の愛を祝福すれば……。

ズズズズズ……。

その時でした。
地鳴りのような音が、会場の床下から響いてきました。

「……なんだ?」

キース様が警戒して私を抱き寄せます。

音は次第に大きくなり、会場全体がガタガタと揺れ始めました。

「きゃあああ!?」
「地震か!?」

「……違う!」

叫んだのは、拘束されていたヴィオレッタ王女でした。
彼女の顔色は真っ青で、目を見開いて一点を凝視しています。

「嘘……まさか……『ゲート』が閉じていない……?」

「ゲートだと?」

殿下が詰め寄ります。

「わ、わたくしは知らないわよ! 水晶玉は割れたはず! なのに、魔力の供給が止まらない……いえ、逆流している!?」

ヴィオレッタ王女が悲鳴を上げました。

「来るわ……! わたくしが呼び出したかった『アレ』じゃなくて……もっとヤバイものが!!」

ドオオオオオンッ!!

会場の中央。
先ほどまで『建国の宝玉』が置かれていた台座が吹き飛びました。

そこから噴き出したのは、漆黒の瘴気。
煙のように立ち上る闇の中から、巨大な手が現れ、床を鷲掴みにしました。

「グオオオオオオオオオ……ッ!!」

空気を震わせる咆哮。
現れたのは、会場の天井に届くほどの巨体を持つ、黒いドラゴンのような魔物でした。
全身が影のように揺らめき、その目だけが赤く燃えています。

「な、なんだあれは……!?」

「エンシェント・シャドウドラゴン……伝説級の魔物だぞ!?」

騎士たちが絶望の声を上げました。

「召喚の反動で、次元の裂け目が広がってしまったのか……!」

陛下が青ざめます。

ドラゴンが腕を振るうだけで、突風が巻き起こり、残っていたシャンデリアが吹き飛びます。

「総員、構えろ! マリアを守れ!」

殿下が剣を抜いて前に出ますが、足元がふらついています。
先ほどの戦いで、殿下も騎士たちも、体力は限界に近い。
マリアさんも魔力切れで、その場に座り込んでいます。

「無理よ……あんな化け物……」

ヴィオレッタ王女がへたり込みました。

「勝てるわけがない……。終わりよ……全員、喰われるわ……」

絶望。
その二文字が、会場を支配しました。

誰もが死を覚悟した、その時。

「……ふざけるな」

小さな、しかし怒りに満ちた声が響きました。

私です。

私はキース様の腕から抜け出し、瓦礫の上に立ちました。
足はまだ震えています。
ドレスはボロボロで、鉄扇も曲がっています。

でも、私の目は燃えていました。

「終わり? 誰が? 私の推しカプが?」

私はドラゴンを睨み上げました。

「冗談じゃないわよ……! ここまで来て! 最高の告白イベントも済ませて! あとはエンドロールを流すだけだったのに!」

私の脳内で、予定していた『感動のフィナーレ』がガラガラと崩れ去っていく音がしました。
許せない。
私の脚本を、二度までも踏みにじったこの展開が許せない。

「シュガー! 戻れ! 危険だ!」

キース様が叫びますが、私は止まりません。

「いいえ、退きません! ……殿下も、マリアさんも、もう戦えません。なら、誰がやるのですか?」

私はスカートのポケット(四次元ポケット並みに色々入っている)を探りました。

まだある。
まだ、使っていない『とっておき』が。

「悪役令嬢(わたし)のしぶとさを舐めないでちょうだい……!」

私はニヤリと笑いました。

「キース様。……私のカバン、持ってきてますよね?」

「あ、ああ。避難する時に拾っておいたが……」

キース様が、私の愛用している大きな鞄を投げ渡してくれました。
それを受け取った瞬間、私は水を得た魚のように生き返りました。

「感謝します! さあ、ここからは私のターンです!」

鞄を開けると、そこには私が長年かけて収集・開発してきた『推し活&ストーカー用秘密道具』の数々が眠っていました。
高性能フラッシュ、攪乱用発煙筒、超音波発生装置、そして……特注の魔導カメラ。

「推しを綺麗に撮るためなら、ドラゴンだって黙らせてみせますわ!」

私はカメラを構え、ドラゴンに向かって高らかに宣言しました。

「おいトカゲ! その薄汚いツラ、私のレンズに向けてみなさい! 最高の遺影を撮ってあげるから!!」
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