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「――ッはー……! 天使。これぞ天使の具現化……!」
数年後の、公爵家の庭園。
柔らかな陽光が降り注ぐ芝生の上で、私は芝生に這いつくばり、涙を流して拝んでいました。
私の目の前には、よちよちと歩く二人の小さな子供たち。
金色の髪にエメラルドの瞳を持つ女の子と、銀髪に凛々しい眉をした男の子。
アレクセイ殿下(今は国王陛下)と、マリア王妃の双子のお子様たちです。
「リリー様、ルーク様……! 今日も素晴らしい破壊力ですわ! そのプニプニのほっぺたは国宝に指定すべきです!」
私はスケッチブックを広げ、猛スピードで筆を走らせました。
「ああ、リリー様が転んで……ルーク様が手を差し伸べた! 『兄妹愛』という名の新たな聖典がここに誕生しました!」
「……相変わらずだな、シュガー」
呆れた声が降ってきました。
見上げると、国王となったアレクセイ様が、苦笑しながら立っていました。
その隣には、すっかり王妃の貫禄(でも中身は変わらず天然で可愛い)がついたマリア様。
「ごきげんよう、アレクセイ陛下。マリア様」
私は芝生から起き上がり(ドレスは草まみれですが気にしません)、最敬礼をしました。
「申し訳ありません。あまりにお子様方が尊くて、つい『祭壇』を築いて崇めておりました」
「崇めなくていい。普通に遊んでやってくれ」
アレクセイ様はため息をつきましたが、その目は幸せそうに細められています。
「でも、シュガー様に見守っていただけると安心ですわ」
マリア様がふんわりと笑いました。
「シュガー様の『尊い』という叫び声を聞くと、魔物も逃げていくという伝説がありますもの」
「やめてくださいマリア様。その伝説、未だに騎士団の新人教育で語り継がれている黒歴史ですから」
私は顔を覆いました。
あの日以来、私は王宮で「絶叫の守護聖女」という不名誉な二つ名で呼ばれることがあるのです。
「あー、あー! しゅがー!」
その時、双子のリリー様が私に向かって駆け寄ってきました。
そして、私のドレスのスカートにギュッと抱きつきました。
「しゅがー、だいすき!」
「グフッ……!」
私は吐血(精神的な)しました。
推しの子からの直球愛。
致死量を超えています。
「こ、光栄ですわリリー様……! 私も大好きです! あなたの成長記録(アルバム)は既に50冊を超えております!」
「多いよ」
ツッコミを入れたのは、芝生の向こうから歩いてきた私の夫――キースでした。
彼は騎士団総長の制服を着崩し、片手にはピクニックバスケット、もう片手には……。
「パパ! 抱っこー!」
黒髪の、元気な男の子が抱えられていました。
「はいはい。……ほら、ママのところへ行け」
キースが男の子を地面に下ろすと、その子はトテトテと私の方へ走ってきました。
「ママ! 見て! お花!」
男の子は、小さな手に握りしめたシロツメクサを私に差し出しました。
「……アラン」
私は目尻を下げて、我が子を抱き上げました。
アラン・ハミルトン。
私とキースの間に生まれた、3歳になる息子です。
キース譲りの黒髪と、私に似た(と言われる)少し勝ち気な目元をした、世界で一番可愛い生き物。
「ありがとうアラン。ママにくれるの?」
「うん! ママ、きれいだから!」
「ッ……!」
私は今度こそ卒倒しそうになりました。
なんてスパルタな教育なのでしょうか。
キースが毎日「ママは世界一可愛いぞ」と吹き込んでいるせいで、この子は3歳にして天然のタラシに育っています。
「……将来が末恐ろしいわね」
私が震えていると、キースが隣に座り込みました。
「どうした? また王家のお子様たちを見て『尊い』発作が出てたのか?」
「ええ。だって見てください、あのアレクセイ様譲りの高貴なオーラ! マリア様譲りの愛らしさ! 完璧な遺伝子の融合ですわ!」
私が熱弁すると、キースは「やれやれ」と肩をすくめました。
そして、私の腕の中にいるアランの頭を撫でました。
「まあ、確かにあのお二人は可愛いが……」
キースは私の顔を覗き込み、ニヤリと笑いました。
「俺たちの子供も、負けずに可愛いぞ?」
「えっ!?」
私は虚を突かれました。
「ほら見ろ。このつぶらな瞳。俺に似て賢そうだし、お前に似て……まあ、愛嬌がある」
「一言多いですわよ!」
「パパ、ママ、ケンカだめー」
アランが私の頬をペチペチと叩きます。
「してないぞー。パパはママと仲良しだ」
キースはアランの頬にキスをし、それから流れるような動作で、私の頬にもキスをしました。
「なっ……!?」
白昼堂々。
王様夫婦の前で。
子供の前で。
「キ、キース様っ! 場所をわきまえてください!」
私は真っ赤になって抗議しました。
「いいじゃないか。俺たちは『愛の守護聖女』夫婦だぞ? 愛を見せつけて何が悪い」
「居直ったわねこの男!」
向こうでは、アレクセイ様とマリア様が「あらあら」「熱いねぇ」と微笑ましくこちらを見ています。
「……うぅ。恥ずかしい……」
私はアランの背中に顔を埋めました。
でも、その温もりと、隣にいるキースの体温が、何よりも心地よくて。
(……幸せだなぁ)
ふと、そう思いました。
かつて、私は「壁になりたい」と願っていました。
物語の脇役として、推しカプの幸せを見守るだけでいいと。
でも今は。
こうして物語の中心で、愛する夫と子供に囲まれて、笑い合っている。
「シュガー」
キースが私の名前を呼びました。
顔を上げると、彼は優しく微笑んでいました。
「……悪役令嬢を引退して、よかったか?」
その問いに、私は少し考えました。
悪役としてのスリル満点の日々。
推しカプのために奔走した、あの熱い季節。
それも楽しかったけれど。
私は、アランを抱き直し、キースの手に自分の手を重ねました。
「ええ。……最高の選択でしたわ」
私は満面の笑みで答えました。
「だって、今の私は……世界で一番『尊い』物語の、ヒロインなのですから!」
風が吹き抜け、庭園の花々が揺れました。
子供たちの笑い声と、愛しい人たちの笑顔。
私の推し活は、これからも続きます。
でも、その『推し』リストの筆頭には、いつだってこの家族の名前が刻まれていることでしょう。
数年後の、公爵家の庭園。
柔らかな陽光が降り注ぐ芝生の上で、私は芝生に這いつくばり、涙を流して拝んでいました。
私の目の前には、よちよちと歩く二人の小さな子供たち。
金色の髪にエメラルドの瞳を持つ女の子と、銀髪に凛々しい眉をした男の子。
アレクセイ殿下(今は国王陛下)と、マリア王妃の双子のお子様たちです。
「リリー様、ルーク様……! 今日も素晴らしい破壊力ですわ! そのプニプニのほっぺたは国宝に指定すべきです!」
私はスケッチブックを広げ、猛スピードで筆を走らせました。
「ああ、リリー様が転んで……ルーク様が手を差し伸べた! 『兄妹愛』という名の新たな聖典がここに誕生しました!」
「……相変わらずだな、シュガー」
呆れた声が降ってきました。
見上げると、国王となったアレクセイ様が、苦笑しながら立っていました。
その隣には、すっかり王妃の貫禄(でも中身は変わらず天然で可愛い)がついたマリア様。
「ごきげんよう、アレクセイ陛下。マリア様」
私は芝生から起き上がり(ドレスは草まみれですが気にしません)、最敬礼をしました。
「申し訳ありません。あまりにお子様方が尊くて、つい『祭壇』を築いて崇めておりました」
「崇めなくていい。普通に遊んでやってくれ」
アレクセイ様はため息をつきましたが、その目は幸せそうに細められています。
「でも、シュガー様に見守っていただけると安心ですわ」
マリア様がふんわりと笑いました。
「シュガー様の『尊い』という叫び声を聞くと、魔物も逃げていくという伝説がありますもの」
「やめてくださいマリア様。その伝説、未だに騎士団の新人教育で語り継がれている黒歴史ですから」
私は顔を覆いました。
あの日以来、私は王宮で「絶叫の守護聖女」という不名誉な二つ名で呼ばれることがあるのです。
「あー、あー! しゅがー!」
その時、双子のリリー様が私に向かって駆け寄ってきました。
そして、私のドレスのスカートにギュッと抱きつきました。
「しゅがー、だいすき!」
「グフッ……!」
私は吐血(精神的な)しました。
推しの子からの直球愛。
致死量を超えています。
「こ、光栄ですわリリー様……! 私も大好きです! あなたの成長記録(アルバム)は既に50冊を超えております!」
「多いよ」
ツッコミを入れたのは、芝生の向こうから歩いてきた私の夫――キースでした。
彼は騎士団総長の制服を着崩し、片手にはピクニックバスケット、もう片手には……。
「パパ! 抱っこー!」
黒髪の、元気な男の子が抱えられていました。
「はいはい。……ほら、ママのところへ行け」
キースが男の子を地面に下ろすと、その子はトテトテと私の方へ走ってきました。
「ママ! 見て! お花!」
男の子は、小さな手に握りしめたシロツメクサを私に差し出しました。
「……アラン」
私は目尻を下げて、我が子を抱き上げました。
アラン・ハミルトン。
私とキースの間に生まれた、3歳になる息子です。
キース譲りの黒髪と、私に似た(と言われる)少し勝ち気な目元をした、世界で一番可愛い生き物。
「ありがとうアラン。ママにくれるの?」
「うん! ママ、きれいだから!」
「ッ……!」
私は今度こそ卒倒しそうになりました。
なんてスパルタな教育なのでしょうか。
キースが毎日「ママは世界一可愛いぞ」と吹き込んでいるせいで、この子は3歳にして天然のタラシに育っています。
「……将来が末恐ろしいわね」
私が震えていると、キースが隣に座り込みました。
「どうした? また王家のお子様たちを見て『尊い』発作が出てたのか?」
「ええ。だって見てください、あのアレクセイ様譲りの高貴なオーラ! マリア様譲りの愛らしさ! 完璧な遺伝子の融合ですわ!」
私が熱弁すると、キースは「やれやれ」と肩をすくめました。
そして、私の腕の中にいるアランの頭を撫でました。
「まあ、確かにあのお二人は可愛いが……」
キースは私の顔を覗き込み、ニヤリと笑いました。
「俺たちの子供も、負けずに可愛いぞ?」
「えっ!?」
私は虚を突かれました。
「ほら見ろ。このつぶらな瞳。俺に似て賢そうだし、お前に似て……まあ、愛嬌がある」
「一言多いですわよ!」
「パパ、ママ、ケンカだめー」
アランが私の頬をペチペチと叩きます。
「してないぞー。パパはママと仲良しだ」
キースはアランの頬にキスをし、それから流れるような動作で、私の頬にもキスをしました。
「なっ……!?」
白昼堂々。
王様夫婦の前で。
子供の前で。
「キ、キース様っ! 場所をわきまえてください!」
私は真っ赤になって抗議しました。
「いいじゃないか。俺たちは『愛の守護聖女』夫婦だぞ? 愛を見せつけて何が悪い」
「居直ったわねこの男!」
向こうでは、アレクセイ様とマリア様が「あらあら」「熱いねぇ」と微笑ましくこちらを見ています。
「……うぅ。恥ずかしい……」
私はアランの背中に顔を埋めました。
でも、その温もりと、隣にいるキースの体温が、何よりも心地よくて。
(……幸せだなぁ)
ふと、そう思いました。
かつて、私は「壁になりたい」と願っていました。
物語の脇役として、推しカプの幸せを見守るだけでいいと。
でも今は。
こうして物語の中心で、愛する夫と子供に囲まれて、笑い合っている。
「シュガー」
キースが私の名前を呼びました。
顔を上げると、彼は優しく微笑んでいました。
「……悪役令嬢を引退して、よかったか?」
その問いに、私は少し考えました。
悪役としてのスリル満点の日々。
推しカプのために奔走した、あの熱い季節。
それも楽しかったけれど。
私は、アランを抱き直し、キースの手に自分の手を重ねました。
「ええ。……最高の選択でしたわ」
私は満面の笑みで答えました。
「だって、今の私は……世界で一番『尊い』物語の、ヒロインなのですから!」
風が吹き抜け、庭園の花々が揺れました。
子供たちの笑い声と、愛しい人たちの笑顔。
私の推し活は、これからも続きます。
でも、その『推し』リストの筆頭には、いつだってこの家族の名前が刻まれていることでしょう。
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