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フィオナの奇襲によって生まれた好機を、アレクシスは見逃さなかった。
彼は体勢を立て直すと、フィオナが作り出した混乱に乗じて、一気に攻勢に転じる。
「フィオナ、右翼の二人を頼む!」
「承知いたしました!」
二人の間に、言葉はほとんどない。しかし、不思議と、お互いが何をしようとしているのか、手に取るようにわかった。
フィオナが注意を引く。アレクシスが仕留める。
一人がフィオナに向かって走り出すと、アレクシスがその前に立ちはだかり、剣一閃で武器を弾き飛ばす。また別の一人がアレクシスに集中している隙を突いて、フィオナが足元に痺れ薬の効果がある植物の種を投げつける。
それは、まるで長年連れ添ったパートナーのように、息の合った連携だった。
これまで、ただ一方的に守られるだけだと思っていた婚約者が、今、自分の隣に立ち、背中を預けられる存在として戦っている。その事実に、アレクシスの胸に熱いものが込み上げてきた。
(ああ、私は、この人を、見誤っていた……)
彼女は、自分が思っていた以上に、ずっと強く、気高い魂の持ち主だった。
やがて、シルヴァンが率いる騎士科の有志と、騒ぎを聞きつけた本職の王宮騎士たちが駆けつけてきたことで、戦いの趨勢は完全に決した。
黒服の男たちは、次々と取り押さえられ、あるいは敗走していく。
嵐のような戦いが終わり、祝祭の喧騒から切り離された一角に、静寂が戻った。
「……終わった、のですね」
フィオナが、ほっと息をつく。アドレナリンが切れ、どっと疲労感が押し寄せてきた。
アレクシスは、まず拘束された男たちに厳しい視線を送ると、すぐにアリアの元へ駆け寄った。
「怪我はないか、アリア」
「は、はい……。クレスウェル様のおかげで……」
アリアの無事を確認したアレクシスは、次に、ゆっくりとフィオナの方へ向き直った。
彼の碧眼が、まっすぐにフィオナを射抜く。
その瞳に浮かんでいたのは、驚きと、安堵と、そして今までフィオナが見たこともないほどの、深い、深い感謝と愛情の色だった。
「フィオナ」
名を呼ばれ、フィオナは背筋を伸ばす。
「君には、話さなければならないことがある」
もはや、隠し事も、すれ違いも、ここにはない。
婚約破棄を望んでいた令嬢と、秘密を抱えた王太子。二人の関係は、この夜の共闘を経て、全く新しいステージへと、確かな一歩を踏み出したのだった。
彼は体勢を立て直すと、フィオナが作り出した混乱に乗じて、一気に攻勢に転じる。
「フィオナ、右翼の二人を頼む!」
「承知いたしました!」
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フィオナが注意を引く。アレクシスが仕留める。
一人がフィオナに向かって走り出すと、アレクシスがその前に立ちはだかり、剣一閃で武器を弾き飛ばす。また別の一人がアレクシスに集中している隙を突いて、フィオナが足元に痺れ薬の効果がある植物の種を投げつける。
それは、まるで長年連れ添ったパートナーのように、息の合った連携だった。
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やがて、シルヴァンが率いる騎士科の有志と、騒ぎを聞きつけた本職の王宮騎士たちが駆けつけてきたことで、戦いの趨勢は完全に決した。
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「……終わった、のですね」
フィオナが、ほっと息をつく。アドレナリンが切れ、どっと疲労感が押し寄せてきた。
アレクシスは、まず拘束された男たちに厳しい視線を送ると、すぐにアリアの元へ駆け寄った。
「怪我はないか、アリア」
「は、はい……。クレスウェル様のおかげで……」
アリアの無事を確認したアレクシスは、次に、ゆっくりとフィオナの方へ向き直った。
彼の碧眼が、まっすぐにフィオナを射抜く。
その瞳に浮かんでいたのは、驚きと、安堵と、そして今までフィオナが見たこともないほどの、深い、深い感謝と愛情の色だった。
「フィオナ」
名を呼ばれ、フィオナは背筋を伸ばす。
「君には、話さなければならないことがある」
もはや、隠し事も、すれ違いも、ここにはない。
婚約破棄を望んでいた令嬢と、秘密を抱えた王太子。二人の関係は、この夜の共闘を経て、全く新しいステージへと、確かな一歩を踏み出したのだった。
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