推しの王子に捨てられたい!〜婚約破棄を狙うが、今日も失敗〜

パリパリかぷちーの

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「……禁忌(タブー)中の禁忌。ですが、これこそが婚約破棄への特急券ですわ! サラ、我が兄・アルフレッドを呼びなさい!」


朝食のオムレツを執事並みの手際で切り分けながら、私は決然と言い放ちました。


「お嬢様、ついに身内を巻き込むおつもりですか。アルフレッド様はただでさえお嬢様に甘いのですから、協力してくれるとは思えませんが」


サラが呆れたように紅茶を注ぎ足します。


「甘いからこそ利用するのよ! 作戦はこうですわ。アリステア様が見ている前で、私は兄様と親密に寄り添い、『真実の愛を見つけましたの!』と宣言する。……いくら心の広い殿下でも、婚約者の不貞(未遂)は見過ごせないはず!」


「……あの、アルフレッド様とお嬢様は顔がそっくりですよ? いくら変装しても、殿下の鋭い眼をごまかせるとは思えません」


「大丈夫ですわ! 愛の劇場には演出が不可欠。兄様にはフードを目深く被ってもらい、ミステリアスな美青年を演じてもらうのですわ! さあ、準備よ!」


数時間後、王宮の裏庭。
私は渋る兄アルフレッドを高級肉(晩餐の約束)で釣り、なんとか木陰に立たせていました。


「メティ……。これ、本当にやるのかい? アリステア殿下を怒らせるなんて、僕は明日から国外逃亡しなきゃいけなくなる気がするんだけど」


「弱気なことを言わないで、兄様! さあ、もっと私を情熱的に抱き寄せて! あ、アリステア様が来ましたわ!」


茂みの向こうから、今日も今日とて神々しいオーラを放ちながらアリステア様が歩いてくるのが見えました。
私はここぞとばかりに兄様の腕に縋り付き、うっとりとした(演技の)声を上げました。


「ああ、愛しの貴方……! アリステア殿下との政略結婚なんて、もう耐えられませんわ! 私、貴方と一緒に駆け落ちしたい……!」


「め、メティ、声が大きすぎるよ……。あ、殿下がこっちを見た……ひっ!」


アリステア様が立ち止まりました。
その瞬間、周囲の気温が十度くらい下がったような錯覚に陥ります。
彼はゆっくりと、死神のような優雅さでこちらへ歩み寄ってきました。


「……おや。メティ、そこで何をしているんだい?」


アリステア様の声は、いつになく穏やか……ですが、その瞳の奥にはドロリとした暗黒の渦が見えました。
尊い。殺される。これですわ、この恐怖!


「ご機嫌よう、アリステア殿下! ……見ての通りですわ。私、ついに運命の男性に出会ってしまいましたの。この方こそ、私の心の伴侶! さあ、不実な私に失望して、今すぐ婚約破棄を突きつけてくださいまし!」


私は兄様の胸に顔を埋めました。
さあ、アリステア様! 「この不潔な女め!」と叫んで!


しかし、アリステア様は怒鳴るどころか、フッと妖艶な笑みを浮かべました。


「……そうか。真実の愛、ね。……アルフレッド卿、いつから君はメティの『愛人』になったのかな?」


「……げっ」


兄様が情けない声を上げました。
そうです、アリステア様は最初から、フードの中身が兄様であることを完璧に見抜いていたのです。


「……殿下、これには深い事情が……! 僕はただ、妹に無理やり頼まれて……!」


「分かっているよ、アルフレッド。メティが君を使って私を試そうとしたことくらいね。……だが、たとえ実の兄であっても、私のメティに触れるのは看過できないな」


アリステア様は兄様の手を私の肩から力尽くで引き剥がすと、私を自分の胸の中へと引き寄せました。
そのまま、私の腰に腕を回し、逃げられないように強く固定します。


「メティ。……浮気の真似事(デモンストレーション)は、これで満足かな?」


「……っ(近すぎるお顔が尊くて思考停止)」


「君が私以外の男を口にするだけで、私はその男の存在を……社会的に消したくなってしまうんだ。例えそれが、君の愛する兄上であってもね」


アリステア様は私の耳元で、獲物をいたぶる肉食獣のような低音で囁きました。
その声に含まれる、本気(マジ)の独占欲。


「ひ、ひぃぃぃ! メティ、僕は帰るよ! ステーキなんていらないから、僕の騎士団での地位と命だけは守らせてくれ!」


兄様は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていきました。
後に残されたのは、真っ赤になって震える私と、暗黒の微笑みを湛えたアリステア様だけ。


「さあ、メティ。……不実な女を演じた罰が必要だね? 今夜は私の部屋で、じっくりとその理由を聞かせてもらおうか」


「ぎゃふん!」


結局、私は婚約破棄どころか、王子の「特濃お仕置きタイム(ただの甘い説教)」に連行されることになったのです。


「……お嬢様。……兄様、本気で泣いてましたよ」


サラが、地面に落ちた兄様のフードを拾いながら呟きました。


「……ああ、尊い。アリステア様の『社会的に消す』発言、控えめに言って全人類が平伏すレベルの重厚感でしたわ……!」


私の捏造作戦は、王子の「異常な察知能力」と「深すぎる愛」の前に、あえなく敗れ去ったのでした。
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