17 / 28
17
しおりを挟む
「……禁忌(タブー)中の禁忌。ですが、これこそが婚約破棄への特急券ですわ! サラ、我が兄・アルフレッドを呼びなさい!」
朝食のオムレツを執事並みの手際で切り分けながら、私は決然と言い放ちました。
「お嬢様、ついに身内を巻き込むおつもりですか。アルフレッド様はただでさえお嬢様に甘いのですから、協力してくれるとは思えませんが」
サラが呆れたように紅茶を注ぎ足します。
「甘いからこそ利用するのよ! 作戦はこうですわ。アリステア様が見ている前で、私は兄様と親密に寄り添い、『真実の愛を見つけましたの!』と宣言する。……いくら心の広い殿下でも、婚約者の不貞(未遂)は見過ごせないはず!」
「……あの、アルフレッド様とお嬢様は顔がそっくりですよ? いくら変装しても、殿下の鋭い眼をごまかせるとは思えません」
「大丈夫ですわ! 愛の劇場には演出が不可欠。兄様にはフードを目深く被ってもらい、ミステリアスな美青年を演じてもらうのですわ! さあ、準備よ!」
数時間後、王宮の裏庭。
私は渋る兄アルフレッドを高級肉(晩餐の約束)で釣り、なんとか木陰に立たせていました。
「メティ……。これ、本当にやるのかい? アリステア殿下を怒らせるなんて、僕は明日から国外逃亡しなきゃいけなくなる気がするんだけど」
「弱気なことを言わないで、兄様! さあ、もっと私を情熱的に抱き寄せて! あ、アリステア様が来ましたわ!」
茂みの向こうから、今日も今日とて神々しいオーラを放ちながらアリステア様が歩いてくるのが見えました。
私はここぞとばかりに兄様の腕に縋り付き、うっとりとした(演技の)声を上げました。
「ああ、愛しの貴方……! アリステア殿下との政略結婚なんて、もう耐えられませんわ! 私、貴方と一緒に駆け落ちしたい……!」
「め、メティ、声が大きすぎるよ……。あ、殿下がこっちを見た……ひっ!」
アリステア様が立ち止まりました。
その瞬間、周囲の気温が十度くらい下がったような錯覚に陥ります。
彼はゆっくりと、死神のような優雅さでこちらへ歩み寄ってきました。
「……おや。メティ、そこで何をしているんだい?」
アリステア様の声は、いつになく穏やか……ですが、その瞳の奥にはドロリとした暗黒の渦が見えました。
尊い。殺される。これですわ、この恐怖!
「ご機嫌よう、アリステア殿下! ……見ての通りですわ。私、ついに運命の男性に出会ってしまいましたの。この方こそ、私の心の伴侶! さあ、不実な私に失望して、今すぐ婚約破棄を突きつけてくださいまし!」
私は兄様の胸に顔を埋めました。
さあ、アリステア様! 「この不潔な女め!」と叫んで!
しかし、アリステア様は怒鳴るどころか、フッと妖艶な笑みを浮かべました。
「……そうか。真実の愛、ね。……アルフレッド卿、いつから君はメティの『愛人』になったのかな?」
「……げっ」
兄様が情けない声を上げました。
そうです、アリステア様は最初から、フードの中身が兄様であることを完璧に見抜いていたのです。
「……殿下、これには深い事情が……! 僕はただ、妹に無理やり頼まれて……!」
「分かっているよ、アルフレッド。メティが君を使って私を試そうとしたことくらいね。……だが、たとえ実の兄であっても、私のメティに触れるのは看過できないな」
アリステア様は兄様の手を私の肩から力尽くで引き剥がすと、私を自分の胸の中へと引き寄せました。
そのまま、私の腰に腕を回し、逃げられないように強く固定します。
「メティ。……浮気の真似事(デモンストレーション)は、これで満足かな?」
「……っ(近すぎるお顔が尊くて思考停止)」
「君が私以外の男を口にするだけで、私はその男の存在を……社会的に消したくなってしまうんだ。例えそれが、君の愛する兄上であってもね」
アリステア様は私の耳元で、獲物をいたぶる肉食獣のような低音で囁きました。
その声に含まれる、本気(マジ)の独占欲。
「ひ、ひぃぃぃ! メティ、僕は帰るよ! ステーキなんていらないから、僕の騎士団での地位と命だけは守らせてくれ!」
兄様は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていきました。
後に残されたのは、真っ赤になって震える私と、暗黒の微笑みを湛えたアリステア様だけ。
「さあ、メティ。……不実な女を演じた罰が必要だね? 今夜は私の部屋で、じっくりとその理由を聞かせてもらおうか」
「ぎゃふん!」
結局、私は婚約破棄どころか、王子の「特濃お仕置きタイム(ただの甘い説教)」に連行されることになったのです。
「……お嬢様。……兄様、本気で泣いてましたよ」
サラが、地面に落ちた兄様のフードを拾いながら呟きました。
「……ああ、尊い。アリステア様の『社会的に消す』発言、控えめに言って全人類が平伏すレベルの重厚感でしたわ……!」
私の捏造作戦は、王子の「異常な察知能力」と「深すぎる愛」の前に、あえなく敗れ去ったのでした。
朝食のオムレツを執事並みの手際で切り分けながら、私は決然と言い放ちました。
「お嬢様、ついに身内を巻き込むおつもりですか。アルフレッド様はただでさえお嬢様に甘いのですから、協力してくれるとは思えませんが」
サラが呆れたように紅茶を注ぎ足します。
「甘いからこそ利用するのよ! 作戦はこうですわ。アリステア様が見ている前で、私は兄様と親密に寄り添い、『真実の愛を見つけましたの!』と宣言する。……いくら心の広い殿下でも、婚約者の不貞(未遂)は見過ごせないはず!」
「……あの、アルフレッド様とお嬢様は顔がそっくりですよ? いくら変装しても、殿下の鋭い眼をごまかせるとは思えません」
「大丈夫ですわ! 愛の劇場には演出が不可欠。兄様にはフードを目深く被ってもらい、ミステリアスな美青年を演じてもらうのですわ! さあ、準備よ!」
数時間後、王宮の裏庭。
私は渋る兄アルフレッドを高級肉(晩餐の約束)で釣り、なんとか木陰に立たせていました。
「メティ……。これ、本当にやるのかい? アリステア殿下を怒らせるなんて、僕は明日から国外逃亡しなきゃいけなくなる気がするんだけど」
「弱気なことを言わないで、兄様! さあ、もっと私を情熱的に抱き寄せて! あ、アリステア様が来ましたわ!」
茂みの向こうから、今日も今日とて神々しいオーラを放ちながらアリステア様が歩いてくるのが見えました。
私はここぞとばかりに兄様の腕に縋り付き、うっとりとした(演技の)声を上げました。
「ああ、愛しの貴方……! アリステア殿下との政略結婚なんて、もう耐えられませんわ! 私、貴方と一緒に駆け落ちしたい……!」
「め、メティ、声が大きすぎるよ……。あ、殿下がこっちを見た……ひっ!」
アリステア様が立ち止まりました。
その瞬間、周囲の気温が十度くらい下がったような錯覚に陥ります。
彼はゆっくりと、死神のような優雅さでこちらへ歩み寄ってきました。
「……おや。メティ、そこで何をしているんだい?」
アリステア様の声は、いつになく穏やか……ですが、その瞳の奥にはドロリとした暗黒の渦が見えました。
尊い。殺される。これですわ、この恐怖!
「ご機嫌よう、アリステア殿下! ……見ての通りですわ。私、ついに運命の男性に出会ってしまいましたの。この方こそ、私の心の伴侶! さあ、不実な私に失望して、今すぐ婚約破棄を突きつけてくださいまし!」
私は兄様の胸に顔を埋めました。
さあ、アリステア様! 「この不潔な女め!」と叫んで!
しかし、アリステア様は怒鳴るどころか、フッと妖艶な笑みを浮かべました。
「……そうか。真実の愛、ね。……アルフレッド卿、いつから君はメティの『愛人』になったのかな?」
「……げっ」
兄様が情けない声を上げました。
そうです、アリステア様は最初から、フードの中身が兄様であることを完璧に見抜いていたのです。
「……殿下、これには深い事情が……! 僕はただ、妹に無理やり頼まれて……!」
「分かっているよ、アルフレッド。メティが君を使って私を試そうとしたことくらいね。……だが、たとえ実の兄であっても、私のメティに触れるのは看過できないな」
アリステア様は兄様の手を私の肩から力尽くで引き剥がすと、私を自分の胸の中へと引き寄せました。
そのまま、私の腰に腕を回し、逃げられないように強く固定します。
「メティ。……浮気の真似事(デモンストレーション)は、これで満足かな?」
「……っ(近すぎるお顔が尊くて思考停止)」
「君が私以外の男を口にするだけで、私はその男の存在を……社会的に消したくなってしまうんだ。例えそれが、君の愛する兄上であってもね」
アリステア様は私の耳元で、獲物をいたぶる肉食獣のような低音で囁きました。
その声に含まれる、本気(マジ)の独占欲。
「ひ、ひぃぃぃ! メティ、僕は帰るよ! ステーキなんていらないから、僕の騎士団での地位と命だけは守らせてくれ!」
兄様は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていきました。
後に残されたのは、真っ赤になって震える私と、暗黒の微笑みを湛えたアリステア様だけ。
「さあ、メティ。……不実な女を演じた罰が必要だね? 今夜は私の部屋で、じっくりとその理由を聞かせてもらおうか」
「ぎゃふん!」
結局、私は婚約破棄どころか、王子の「特濃お仕置きタイム(ただの甘い説教)」に連行されることになったのです。
「……お嬢様。……兄様、本気で泣いてましたよ」
サラが、地面に落ちた兄様のフードを拾いながら呟きました。
「……ああ、尊い。アリステア様の『社会的に消す』発言、控えめに言って全人類が平伏すレベルの重厚感でしたわ……!」
私の捏造作戦は、王子の「異常な察知能力」と「深すぎる愛」の前に、あえなく敗れ去ったのでした。
9
あなたにおすすめの小説
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる