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「待ちなさい! まだ話は終わっていない!」
私の背中に、カイル殿下の悲痛な叫びが突き刺さる。
会場の出口にある巨大な扉。
その取っ手に手をかけたところで、私はあからさまに大きなため息をついた。
くるりと振り返る。
ドレスの裾が美しい円を描き、ふわりと着地する。
その動き一つにも、私は完璧な計算を施していた。
「しつこい男は嫌われてよ、殿下。私の去り際は、いつだって美しく儚いものでなければならないの。アンコールは受け付けていないわ」
「誰がアンコールだ! 貴様、逃げる気か!?」
殿下が顔を真っ赤にして駆け寄ってくる。
その後ろには、小走りでついてくる聖女リナの姿もあった。
彼女の手には、何やら汚らしい紙の束が握られている。
「逃げる? 聞き捨てなりませんわね」
私は扇子で口元を隠し、冷ややかな視線を送った。
「私は逃げるのではなく、次のステージへ進むだけ。私の輝きを待つ世界中の人々のために、一秒でも早く準備をしなければならないの。それを引き留めるなんて、世界の損失だと思わない?」
「詭弁を弄するな! これを見ろ!」
殿下はリナの手から紙束をひったくると、私の目の前に突きつけた。
「これが証拠だ! 貴様がリナを脅迫し、精神的に追い詰めていた動かぬ証拠だぞ!」
会場中の視線が、その紙束に集まる。
ざわめきが再び大きくなった。
証拠品。
それは断罪イベントにおける決定打であり、悪役令嬢をどん底に叩き落とすための凶器。
しかし。
「…………」
私はその紙束を見下ろし、眉間に深い皺を寄せた。
沈黙が落ちる。
殿下は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「ふん、ようやく自分の罪を認める気になったか。この手紙には、貴様がリナに対して『消えろ』だの『泥棒猫』だのと、見るに堪えない暴言が書き連ねてある! 筆跡鑑定をするまでもない、貴様の字だろう!」
「……汚い」
「は?」
「汚いわ。目が腐りそう」
私は扇子でその紙束をパシッとはたき落とした。
バサバサと紙が床に散らばる。
殿下とリナが驚愕に目を見開いた。
「な、何をするんだ貴様! 証拠隠滅か!?」
「違うわよ。美意識の問題よ!」
私は床に落ちた紙を指差し、声を荒げた。
「見てご覧なさい、この紙質! ザラザラの安物じゃない。わら半紙かしら? こんな貧相な紙に私の高貴な名前が書かれるなんて、名誉毀損で訴えてもいいレベルよ!」
「そ、そこか!?」
「そこよ! 一番大事なことじゃない!」
私は憤慨した。
公爵家の人間として、そして何より世界一の美女として、持ち物のクオリティには命をかけている。
私の名前が記される媒体は、最高級の羊皮紙か、金箔入りの便箋でなければならない。
「それに、何この字? ミミズがのたうち回ったような汚い字ね。これ、本当に文字なの? 古代の呪いか何かじゃなくて?」
「き、貴様の字だろうが!」
「冗談は顔だけにしてちょうだい」
私は鼻で笑い飛ばした。
「私の文字はね、流れる水のように優雅で、かつ宝石のように鋭い筆致なの。こんなバランスの悪い、品性の欠片もない文字と一緒にしないでいただける?」
「しらばっくれるな! リナのポストにこれが投函されていたんだ!」
リナが涙目で訴える。
「そ、そうです……! 怖かったです……毎日のようにこんな手紙が届いて……」
「あら、可哀想に」
私は同情したフリをして、冷たく言い放つ。
「そんな汚い文字を毎日見せられたら、視力が低下してしまうわね。眼科を紹介してあげましょうか?」
「そういう問題じゃないですッ!」
リナが地団駄を踏む。
まったく、話の通じない人たちだ。
私は床に散らばった手紙の一枚を、指先でつまみ上げた。
改めて見ても、酷い字だ。
インクの染みはあるし、行間もバラバラ。
これを私の字だと言い張るなんて、私の美学に対する冒涜以外の何物でもない。
「……はぁ。仕方ないわね」
私は小さく息を吐き、胸元から愛用の万年筆を取り出した。
特注の、軸にダイヤモンドを埋め込んだ一品だ。
「な、何をする気だ?」
殿下が警戒する。
「添削よ」
「は?」
「あまりにも見るに堪えないから、私が手本を見せてあげるの。美しさとはこうやって表現するものよ」
私はサラサラと、その汚い手紙の余白にペンを走らせた。
『Nian Roseberg』
流麗なカリグラフィー。
完璧な曲線美。
最後の跳ねに至るまで、一切の妥協がない至高のサイン。
汚い紙が、一瞬にして芸術作品へと昇華された瞬間だった。
「はい、あげる」
私はサイン入りの手紙をリナに押し付けた。
「これでお釣りが出るわね。ゴミ同然の紙切れが、私のサイン一つで家宝レベルの価値を持ったわ。感謝なさい」
「い、いらないです! 何ですかこれ!」
「何って、サインよ。欲しかったのでしょう? だからわざわざこんな捏造証拠まで作って、私の気を引こうとしたんじゃないの?」
「ね、捏造じゃありません!」
「あら、まだ言うの?」
私は呆れて首を振る。
「いいこと? 私がもし本気で貴女を追い詰めるとしたら、手紙なんていう古臭い手段は使わないわ。もっと効率的で、かつ美しい方法をとるもの」
「え……」
「たとえば、王都中の鏡を買い占めて貴女に自分の顔を直視させるとか、貴女の着ているドレスのデザインがいかに時代遅れかを論理的に解説した論文を発表するとか……そうね、私の美貌を前にして貴女が自然と消滅するのを待つのが一番平和的かしら」
「言っていることがめちゃくちゃだぞ!」
殿下が叫ぶが、私は無視して次の紙を拾い上げた。
「ほら、次。こっちの紙も汚いわね。余白にサインしてあげるから並びなさい」
「並ぶな! 誰もサインなんて求めてない!」
しかし、私の行動は予想外の波紋を呼んだ。
周囲で様子を伺っていた生徒たちの中に、妙な空気が生まれ始めたのだ。
「……あのサイン、すごく綺麗じゃないか?」
「確かに……あんなに堂々と書かれると、なんだかプレミアがついているような気が……」
「ニアン様があそこまで言うなら、本当に捏造なのかも……」
ナルシスト特有の絶対的な自信。
それは時として、真実をも捻じ曲げる強制力を持つ。
私の迷いのない態度を見て、周囲は「ニアン・ローズベルクが嘘をつくはずがない(あんなに自分好きな人間が、自分の美学に反するコソコソした真似をするはずがない)」という奇妙な納得感に包まれ始めていた。
一人の男子生徒がおずおずと手を挙げた。
「あ、あの! 僕にも一枚いただけませんか!?」
「なっ!?」
殿下が仰天して振り返る。
私は慈愛に満ちた(と自分では思っている)微笑みを向けた。
「あら、良い心がけね。美を理解する者には祝福を。はい、どうぞ」
私は手紙の余白にサインをし、優雅に手渡した。
「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
「ちょ、ちょっと待て! それは証拠品だぞ! 持って帰るな!」
殿下が止めようとするが、一度崩れた堤防はもう止まらない。
「私にもください!」
「ニアン様! 僕のハンカチにお願いします!」
「きゃーッ! ニアン様、こっち向いてー!」
あっという間に、即席のサイン会が始まってしまった。
「はいはい、押さないで。私の美しさは逃げないわ。一人ずつ順番にね」
私はテキパキと列を整理し、次々とサインを書いていく。
リナが用意した「いじめの証拠」である手紙の山は、次々と私のサイン色紙へと変わり、生徒たちの手に渡っていった。
「な、何なんだこれは……」
カイル殿下は、もはや言葉を失い立ち尽くしていた。
断罪の場が、アイドルのファンミーティングと化している。
リナは真っ青な顔で、空っぽになった手元を見つめていた。
「証拠が……全部……」
「あら、完売ね」
最後の一枚にサインを書き終え、私はペンをしまった。
心地よい疲労感。
やはり私は、人々に愛される運命にあるのだと再確認する。
「どう? リナさん。貴女の用意した紙切れのおかげで、みんなが笑顔になったわ。リサイクル活動としては大成功ね」
「う、うう……」
リナは悔しさに震え、言葉も出ない様子だ。
私は殿下に向き直り、ニッコリと微笑んだ。
「というわけで殿下。証拠品はすべてファンの皆様に配布完了いたしました。他に何か、私のサインが必要なものはあって?」
「……貴様……正気か?」
「至って正気よ。そして最高に美しいわ」
私は髪をかき上げた。
「さて、今度こそお暇させていただくわ。これ以上ここにいると、私の輝きで会場の温度が上がりすぎてしまうもの。熱中症患者が出る前に退散するのが、美女の嗜みというものよ」
私は唖然とする殿下とリナを残し、今度こそ出口へと向かった。
背後からは、サインを貰った生徒たちの歓声と、殿下の力のない「待て……」という声が聞こえてくる。
扉を開けると、夜風が心地よく頬を撫でた。
外には、私の言いつけ通り、屋敷中の鏡を積み込んだ超巨大な馬車が待機していた。
「お待たせ、私の可愛い鏡たち」
私は馬車に乗り込み、ふかふかのシートに身を沈める。
窓から見える学園の校舎が、月明かりの下で小さくなっていく。
「さあ、出発よ! 行き先は……そうね、とりあえず国境へ向かいなさい。私の美しさをまだ知らない、哀れな隣国の人々を救済しに行くのよ!」
御者が鞭を振るう。
馬車が動き出し、私は生まれ育った王都を後にした。
追放?
いいえ、これは世界征服(美貌による)の第一歩なのだ。
馬車に揺られながら、私は手鏡を取り出した。
「ふふっ……それにしても、さっきの私のサインを書く横顔、完璧だったわね。肖像画にして残しておけばよかったかしら」
ナルシスト悪役令嬢ニアン・ローズベルク。
彼女の辞書に「反省」という文字はない。
あるのは「自画自賛」のみである。
こうして私は、混乱の渦に叩き落とされた学園を背に、高らかに笑い声を上げながら旅立ったのだった。
私の背中に、カイル殿下の悲痛な叫びが突き刺さる。
会場の出口にある巨大な扉。
その取っ手に手をかけたところで、私はあからさまに大きなため息をついた。
くるりと振り返る。
ドレスの裾が美しい円を描き、ふわりと着地する。
その動き一つにも、私は完璧な計算を施していた。
「しつこい男は嫌われてよ、殿下。私の去り際は、いつだって美しく儚いものでなければならないの。アンコールは受け付けていないわ」
「誰がアンコールだ! 貴様、逃げる気か!?」
殿下が顔を真っ赤にして駆け寄ってくる。
その後ろには、小走りでついてくる聖女リナの姿もあった。
彼女の手には、何やら汚らしい紙の束が握られている。
「逃げる? 聞き捨てなりませんわね」
私は扇子で口元を隠し、冷ややかな視線を送った。
「私は逃げるのではなく、次のステージへ進むだけ。私の輝きを待つ世界中の人々のために、一秒でも早く準備をしなければならないの。それを引き留めるなんて、世界の損失だと思わない?」
「詭弁を弄するな! これを見ろ!」
殿下はリナの手から紙束をひったくると、私の目の前に突きつけた。
「これが証拠だ! 貴様がリナを脅迫し、精神的に追い詰めていた動かぬ証拠だぞ!」
会場中の視線が、その紙束に集まる。
ざわめきが再び大きくなった。
証拠品。
それは断罪イベントにおける決定打であり、悪役令嬢をどん底に叩き落とすための凶器。
しかし。
「…………」
私はその紙束を見下ろし、眉間に深い皺を寄せた。
沈黙が落ちる。
殿下は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「ふん、ようやく自分の罪を認める気になったか。この手紙には、貴様がリナに対して『消えろ』だの『泥棒猫』だのと、見るに堪えない暴言が書き連ねてある! 筆跡鑑定をするまでもない、貴様の字だろう!」
「……汚い」
「は?」
「汚いわ。目が腐りそう」
私は扇子でその紙束をパシッとはたき落とした。
バサバサと紙が床に散らばる。
殿下とリナが驚愕に目を見開いた。
「な、何をするんだ貴様! 証拠隠滅か!?」
「違うわよ。美意識の問題よ!」
私は床に落ちた紙を指差し、声を荒げた。
「見てご覧なさい、この紙質! ザラザラの安物じゃない。わら半紙かしら? こんな貧相な紙に私の高貴な名前が書かれるなんて、名誉毀損で訴えてもいいレベルよ!」
「そ、そこか!?」
「そこよ! 一番大事なことじゃない!」
私は憤慨した。
公爵家の人間として、そして何より世界一の美女として、持ち物のクオリティには命をかけている。
私の名前が記される媒体は、最高級の羊皮紙か、金箔入りの便箋でなければならない。
「それに、何この字? ミミズがのたうち回ったような汚い字ね。これ、本当に文字なの? 古代の呪いか何かじゃなくて?」
「き、貴様の字だろうが!」
「冗談は顔だけにしてちょうだい」
私は鼻で笑い飛ばした。
「私の文字はね、流れる水のように優雅で、かつ宝石のように鋭い筆致なの。こんなバランスの悪い、品性の欠片もない文字と一緒にしないでいただける?」
「しらばっくれるな! リナのポストにこれが投函されていたんだ!」
リナが涙目で訴える。
「そ、そうです……! 怖かったです……毎日のようにこんな手紙が届いて……」
「あら、可哀想に」
私は同情したフリをして、冷たく言い放つ。
「そんな汚い文字を毎日見せられたら、視力が低下してしまうわね。眼科を紹介してあげましょうか?」
「そういう問題じゃないですッ!」
リナが地団駄を踏む。
まったく、話の通じない人たちだ。
私は床に散らばった手紙の一枚を、指先でつまみ上げた。
改めて見ても、酷い字だ。
インクの染みはあるし、行間もバラバラ。
これを私の字だと言い張るなんて、私の美学に対する冒涜以外の何物でもない。
「……はぁ。仕方ないわね」
私は小さく息を吐き、胸元から愛用の万年筆を取り出した。
特注の、軸にダイヤモンドを埋め込んだ一品だ。
「な、何をする気だ?」
殿下が警戒する。
「添削よ」
「は?」
「あまりにも見るに堪えないから、私が手本を見せてあげるの。美しさとはこうやって表現するものよ」
私はサラサラと、その汚い手紙の余白にペンを走らせた。
『Nian Roseberg』
流麗なカリグラフィー。
完璧な曲線美。
最後の跳ねに至るまで、一切の妥協がない至高のサイン。
汚い紙が、一瞬にして芸術作品へと昇華された瞬間だった。
「はい、あげる」
私はサイン入りの手紙をリナに押し付けた。
「これでお釣りが出るわね。ゴミ同然の紙切れが、私のサイン一つで家宝レベルの価値を持ったわ。感謝なさい」
「い、いらないです! 何ですかこれ!」
「何って、サインよ。欲しかったのでしょう? だからわざわざこんな捏造証拠まで作って、私の気を引こうとしたんじゃないの?」
「ね、捏造じゃありません!」
「あら、まだ言うの?」
私は呆れて首を振る。
「いいこと? 私がもし本気で貴女を追い詰めるとしたら、手紙なんていう古臭い手段は使わないわ。もっと効率的で、かつ美しい方法をとるもの」
「え……」
「たとえば、王都中の鏡を買い占めて貴女に自分の顔を直視させるとか、貴女の着ているドレスのデザインがいかに時代遅れかを論理的に解説した論文を発表するとか……そうね、私の美貌を前にして貴女が自然と消滅するのを待つのが一番平和的かしら」
「言っていることがめちゃくちゃだぞ!」
殿下が叫ぶが、私は無視して次の紙を拾い上げた。
「ほら、次。こっちの紙も汚いわね。余白にサインしてあげるから並びなさい」
「並ぶな! 誰もサインなんて求めてない!」
しかし、私の行動は予想外の波紋を呼んだ。
周囲で様子を伺っていた生徒たちの中に、妙な空気が生まれ始めたのだ。
「……あのサイン、すごく綺麗じゃないか?」
「確かに……あんなに堂々と書かれると、なんだかプレミアがついているような気が……」
「ニアン様があそこまで言うなら、本当に捏造なのかも……」
ナルシスト特有の絶対的な自信。
それは時として、真実をも捻じ曲げる強制力を持つ。
私の迷いのない態度を見て、周囲は「ニアン・ローズベルクが嘘をつくはずがない(あんなに自分好きな人間が、自分の美学に反するコソコソした真似をするはずがない)」という奇妙な納得感に包まれ始めていた。
一人の男子生徒がおずおずと手を挙げた。
「あ、あの! 僕にも一枚いただけませんか!?」
「なっ!?」
殿下が仰天して振り返る。
私は慈愛に満ちた(と自分では思っている)微笑みを向けた。
「あら、良い心がけね。美を理解する者には祝福を。はい、どうぞ」
私は手紙の余白にサインをし、優雅に手渡した。
「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
「ちょ、ちょっと待て! それは証拠品だぞ! 持って帰るな!」
殿下が止めようとするが、一度崩れた堤防はもう止まらない。
「私にもください!」
「ニアン様! 僕のハンカチにお願いします!」
「きゃーッ! ニアン様、こっち向いてー!」
あっという間に、即席のサイン会が始まってしまった。
「はいはい、押さないで。私の美しさは逃げないわ。一人ずつ順番にね」
私はテキパキと列を整理し、次々とサインを書いていく。
リナが用意した「いじめの証拠」である手紙の山は、次々と私のサイン色紙へと変わり、生徒たちの手に渡っていった。
「な、何なんだこれは……」
カイル殿下は、もはや言葉を失い立ち尽くしていた。
断罪の場が、アイドルのファンミーティングと化している。
リナは真っ青な顔で、空っぽになった手元を見つめていた。
「証拠が……全部……」
「あら、完売ね」
最後の一枚にサインを書き終え、私はペンをしまった。
心地よい疲労感。
やはり私は、人々に愛される運命にあるのだと再確認する。
「どう? リナさん。貴女の用意した紙切れのおかげで、みんなが笑顔になったわ。リサイクル活動としては大成功ね」
「う、うう……」
リナは悔しさに震え、言葉も出ない様子だ。
私は殿下に向き直り、ニッコリと微笑んだ。
「というわけで殿下。証拠品はすべてファンの皆様に配布完了いたしました。他に何か、私のサインが必要なものはあって?」
「……貴様……正気か?」
「至って正気よ。そして最高に美しいわ」
私は髪をかき上げた。
「さて、今度こそお暇させていただくわ。これ以上ここにいると、私の輝きで会場の温度が上がりすぎてしまうもの。熱中症患者が出る前に退散するのが、美女の嗜みというものよ」
私は唖然とする殿下とリナを残し、今度こそ出口へと向かった。
背後からは、サインを貰った生徒たちの歓声と、殿下の力のない「待て……」という声が聞こえてくる。
扉を開けると、夜風が心地よく頬を撫でた。
外には、私の言いつけ通り、屋敷中の鏡を積み込んだ超巨大な馬車が待機していた。
「お待たせ、私の可愛い鏡たち」
私は馬車に乗り込み、ふかふかのシートに身を沈める。
窓から見える学園の校舎が、月明かりの下で小さくなっていく。
「さあ、出発よ! 行き先は……そうね、とりあえず国境へ向かいなさい。私の美しさをまだ知らない、哀れな隣国の人々を救済しに行くのよ!」
御者が鞭を振るう。
馬車が動き出し、私は生まれ育った王都を後にした。
追放?
いいえ、これは世界征服(美貌による)の第一歩なのだ。
馬車に揺られながら、私は手鏡を取り出した。
「ふふっ……それにしても、さっきの私のサインを書く横顔、完璧だったわね。肖像画にして残しておけばよかったかしら」
ナルシスト悪役令嬢ニアン・ローズベルク。
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