『ざまぁ』される未来しか見えない!全力回避ですわ。

パリパリかぷちーの

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「お嬢様、本日の『戦場』の準備が整いました。お覚悟はよろしいですか?」


サイラスが、まるで決闘に向かう騎士を送り出すような重々しいトーンで私に告げた。


戦場。それは、我がアステリア公爵家の美しい庭園で開催されるお茶会のことだ。


招いたのは、私を恐れ、あるいは媚びを売ることで知られる三人の令嬢たち。これまでの私なら、彼女たちのファッションをなじり、家柄の差を見せつけて優越感に浸っていたことだろう。


「ええ、準備万端よ。見てなさい、サイラス。今日の私は、どんな無礼も慈愛で包み込む『聖女ローリー』としてデビューするわ!」


私は鏡の前で、三日三晩かけて練習した「完璧な微笑み」をセットした。


「……その、妙に発光しているような笑顔がどこまで持つか、見ものですね。では、毒ヘビ……失礼、令嬢たちが到着されました」


庭園のテーブルにつくと、ヒツジのような顔をした令嬢たちが、ガタガタと震えながら座っていた。


「ロ、ローリー様。本日もお招きいただき、光栄の至りですわ……」


真っ先に口を開いたのは、子爵令嬢のメアリだ。彼女の持っている扇子が、小刻みに震えている。


これまでの私なら、ここで「その扇子、去年の流行りですわね。貧乏臭くて涙が出ますわ」と追い打ちをかけていただろう。


だが、今の私は違う。脳内で、毒舌を聖女の言葉に超特急で翻訳するのだ。


「あら、メアリ様。その扇子……使い込まれていて、物を大切にするあなたの心の美しさが伝わってきますわ。とても素敵です」


「……はひっ!?」


メアリが、変な声を上げて固まった。隣に座っていた令嬢たちも、持っていたティーカップをソーサーに激しくぶつけている。


「お、お褒めに預かり……光栄です……。あ、あの、ローリー様、熱でもおありですか?」


「ふふっ、いいえ。ただ、皆さんの素晴らしいところを、もっと素直に伝えたいと思っただけですわ」


私は優雅に紅茶を啜った。


(本当は『安物すぎて見てるだけで目が腐るわ!』って言いたいけれど……耐えるのよ、私! 国外追放されるよりは、安物を褒める方が一億倍マシよ!)


すると、もう一人の令嬢、男爵令嬢のシルビアがおずおずと差し出してきたのは、手作りのクッキーだった。


「あの、ローリー様。これ、私が焼いてみたのですが……よろしければ……」


見た目は少し焦げていて、お世辞にも公爵家のテーブルに並ぶような代物ではない。


かつての私なら「家畜にでも食べさせなさい」と一蹴していただろう。


「まあ、手作りですの? ……ふふっ。見た目よりも、私を想って焼いてくださったその『真心』が何よりの隠し味ですわね。いただきますわ」


私は決死の覚悟で、少し苦いクッキーを口に運んだ。


(……炭! これ炭だわ! 私の舌が死滅しそうだけど、聖女は炭でも笑顔で食べるものなのよ!)


「……美味しいですわ。香ばしさが……その、個性的で」


私が無理やり飲み込むと、令嬢たちの間に衝撃が走った。


「ローリー様が……私の不格好なクッキーを……。な、なんて慈愛に満ちたお方なの……!」


シルビアが、感動のあまり涙を浮かべ始めた。


「私、ローリー様はもっと……その、恐ろしい方だと思っていました。でも、今のローリー様はまるで、女神様のようです……!」


「本当ですわ! メアリ様の古い扇子も、私の質素なドレスも、すべて優しく包み込んでくださるなんて……!」


令嬢たちの目が、尊敬の眼差しに変わっていく。


(あれ……? なんか思っていた方向と違うけれど、好感度が爆上がりしてるわ!?)


私は背後で控えているサイラスをチラリと見た。


サイラスは「信じられんものを見た」という顔をしながらも、完璧な所作で令嬢たちに紅茶を注ぎ足している。


「ローリー様! 実は私、実家の経営が苦しくて、新しいドレスが買えなかったんです。それをあんな風にフォローしてくださるなんて……一生ついていきますわ!」


「私もです! ローリー様こそ、真の貴族の模範です!」


「え、ええ……。ふふっ、皆さん、大げさですわ。手を取り合って、共に美しい学園生活を送りましょうね?」


私は、内側から湧き上がる「ツッコミを入れたい衝動」を必死に押し殺した。


(実家が苦しいならお茶会に来てる場合じゃないでしょう!? とか言っちゃダメよ、私! 今は聖女! 私は、何も知らない清らかな聖女なんだから!)


お茶会が終わる頃には、三人の令嬢たちは私の熱狂的な信者のようになっていた。


彼女たちが門を出ていくのを見届けた後、私はテーブルに突っ伏した。


「……疲れた。精神の摩耗が激しすぎるわ。炭を食べた衝撃で、お腹がゴロゴロ言ってるし」


「お疲れ様でした、お嬢様。……まさか、あの毒舌を『慈愛』に変換して乗り切るとは。お嬢様の詐欺師としての才能には脱帽いたします」


サイラスが、少しだけ呆れたような、それでいて感心したような声で言った。


「詐欺師じゃないわよ。これは『生存戦略』。でも……どうかしら、サイラス。今の私なら、セドリック様の前でも聖女でいられると思わない?」


「そうですね。少なくとも、今の『慈愛の皮』を被ったお嬢様なら、殿下もすぐに婚約破棄を言い出すことはないでしょう。……ただし、あの令嬢たちが『ローリー様は炭を食べるほど慈悲深い』という噂を広めなければの話ですが」


「……それ、聖女じゃなくて、ただの変食家じゃないの!」


私はサイラスに枕(を想定したクッション)を投げつけたが、彼は鮮やかに避けて一礼した。


「次は、いよいよセドリック殿下との直接対決ですね。お嬢様、顔の筋肉をよくほぐしておいてください。次は『炭』ではなく、殿下の『冷めた視線』を飲み込む番ですから」


「……わかってるわよ。見てなさい、私の完璧な演技を!」


私は再び鏡に向かい、引きつった頬をマッサージし始めた。


「ざまぁ」回避まで、あと一歩。……だと信じたい。
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