『ざまぁ』される未来しか見えない!全力回避ですわ。

パリパリかぷちーの

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「……ちょっと、サイラス。学園の様子がおかしいですわ。さっきからすれ違う生徒たちが、私を見るなり拝み始めたり、涙を拭いながら走り去ったりするのですけれど」


卒業パーティー前日。最終確認のために登校した私は、廊下で奇妙な光景に遭遇し続けていた。


以前なら、私を見れば「逃げろ!」と言わんばかりに散っていた彼らが、今はまるで「尊い犠牲者」を見守るような、悲痛かつ敬虔な眼差しを向けてくる。


「お嬢様、それは仕方のないことです。現在、学園内では一つの有力な噂が、真実として定着しておりますから」


サイラスが、いつにも増して無機質な声で答える。


「有力な噂? どうせまた『ローリー様が裏で怪獣を飼っている』とか、そんな類のものでしょう?」


「いいえ。……『聖女ローリー様は、自身の傲慢だった過去を償うため、卒業と同時に全財産を寄付し、辺境の修道院で一生を祈りに捧げるつもりだ』……というものです」


「……はぁぁぁ!? 寄付!? 修道院!? 誰がそんな、一銭の得にもならないことをするんですのよ!」


私は思わず地が出て叫んだ。


「いけない。……ふふっ、失礼。……まあ、なんて独創的なお話ですこと。私はただ、平和な余生を願っているだけですのに」


「お嬢様が必死に『夜逃げの準備』をしていた姿が、召使いを通じて『世俗を捨てる準備』と誤認されたようです。さらに、最近の悲しげな微笑みが『去りゆく者の慈悲』に見えたとか」


(……単に国外追放が怖くて、顔が引きつっていただけだわ!)


すると、廊下の向こうから「うわぁぁぁん!」という轟音と共に、ミア様が突撃してきた。


「ローリー様ぁぁ! 行かないでください! 修道院なんてダメです! あんな、パンと水だけの生活、ローリー様には似合いません!」


ミア様は私の腰にしがみつき、滝のような涙で私の高級な制服を濡らし始めた。


「落ち着いてください、ミア様。……ふふっ。修道院なんて、ただの噂ですわよ? 私はどこへも参りませんわ(追放されなければ!)」


「嘘です! 皆言ってます! 『ローリー様は美しすぎて、この世にはおさまりきらなくなったんだ』って! 行かないで……行かないでぇぇ!」


(……私の存在、いつの間に神格化されすぎて次元を超えそうになってるの!?)


ミア様を宥めていると、かつて私が「炭クッキー」を食べさせてしまったシルビア様たちまで現れた。


「ローリー様! これ、私の家で採れた最高級のハチミツです! 修道院へ行っても、これだけは食べてください!」


「私はこの、一番温かい毛布を! 辺境の夜は冷えるとお聞きしましたから!」


次々と差し出される、旅立ちの餞別の品々。


「あら……皆様。……ふふっ、ありがとうございます。……でも、本当に……私は……」


(……断れない。この『聖女を送り出す村人たち』みたいな空気の中で、『金を持って夜逃げするだけよ』なんて口が裂けても言えないわ!)


「……受け取っておきなさい、お嬢様。これらすべて、国外追放後の貴重な資産になりますよ」


サイラスが耳元で悪魔の囁きをする。


私は引きつる笑顔で、山のような貢物を受け取り続けた。


その光景を、柱の影からじっと見つめている人物がいた。


「……なるほど。修道院、か」


セドリック様だ。彼はいつも以上に冷ややかで、けれどどこか焦燥感の混じった瞳で私を射抜いた。


「せ、セドリック様……。ごきげんよう」


「ローリー。君、私に無断で『神の花嫁』になる契約でも交わしたのか? ……それとも、私から逃げる口実を、神の名を借りて作ったのか?」


セドリック様は、周囲の生徒たちを威圧感だけで蹴散らすと、私の目の前に立ち塞がった。


「……そんな。噂はただの噂ですわ。……ふふっ、殿下。私が貴方様を置いて、そんな遠くへ行くはずがありませんわよ?」


(……物理的に追い出される予定なのは、私の方なんですけどね!)


「……ならいい。もし君が本当にそんな場所へ行こうとするなら、私はその修道院ごと買い取って、私の寝室の隣に移築してやる」


(……発想が独裁者ですわよ、殿下!)


セドリック様は、私の手首を強く掴んだ。


「……明日の卒業パーティー。君の行き先を決めるのは、神でも運命でもない。……この私だ。覚悟しておけ」


彼はそう言い残すと、殺気立った足取りで去っていった。


「……サイラス。今の殿下、今までで一番怖かったのですけれど」


「お嬢様の『猫かぶり』が、ついに王子を本物の獣に変えてしまったようですね。……さあ、いよいよ明日です。トランクにハチミツを詰め込みましょう」


「……ええ。なんだか、国外追放されるより、この国に留まる方が命の危険を感じる気がするわ……」


私は、山積みの毛布とハチミツに囲まれながら、嵐の予感しかしない明日の空を仰いだ。


誤解が誤解を呼び、私の生存戦略はもはや、天国か地獄かの二択へと絞られつつあった。
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