『ざまぁ』される未来しか見えない!全力回避ですわ。

パリパリかぷちーの

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「……完璧ですわ。鏡の中に、汚れなき一輪の白ユリが咲いていますわ。……ふふっ、これなら断頭台の露にするには、執行人も躊躇するはずですわね」


卒業パーティー当日。私は姿見の前で、己の「最終形態」とも言えるドレス姿を凝視していた。


純白のシルクに、控えめなパール。髪はいつもの派手な縦ロールを少し崩し、おしとやかなハーフアップに。どこからどう見ても、慈愛と悲劇を一身に背負った「悲劇のヒロイン(偽)」だ。


(中身は、ドレスの下に『逃走用超軽量ブーツ』を履き、コルセットの隙間に『隠し金貨』を仕込んだ、強欲な逃亡犯だけど!)


「お嬢様。そのブーツのせいで、歩くたびにカツカツと軍靴のような音がしています。もう少し、淑やかに忍び足で歩く訓練を思い出してください」


背後で、旅装束(執事服の下に武器でも隠しているような重厚感)を整えたサイラスが、手際よく私のストールを直した。


「仕方ないでしょう。パーティー会場から国境まで、ヒールで走れるわけがないわ。……サイラス、トランクの準備は?」


「馬車の隠し床に積み込み済みです。……ハチミツの瓶が重すぎて、馬車の車軸が悲鳴を上げておりますが」


「いいのよ。糖分は逃亡生活のガソリンですわ。……さあ、いよいよね。私の運命が決まる夜が」


私は、震える手で扇子を握りしめた。


「……お嬢様。最後に一つ、私から助言を。……いえ、これは雇用主への最後の『毒吐き』かもしれません」


サイラスが、鏡越しに私の目を見つめた。いつになく真剣な、氷のような冷徹さの中に、わずかな温もりが混じった瞳だ。


「……何かしら。今更『お嬢様の演技は三流でした』なんて言わないでちょうだい。ふふっ」


「いいえ。お嬢様の演技は一流を超え、もはや『本物』になってしまいました。……皆が信じている聖女ローリーは、お嬢様が作り上げた偶像ではなく、この数ヶ月、必死に足掻いてきたお嬢様そのものですよ」


「……え?」


「殿下は馬鹿ではありません。お嬢様が何かを隠していることも、必死に猫を被っていることも、最初からお見通しです。……それでも殿下が君の手を離さないのは、皮を被った君ではなく、その下にある『必死に生きようとする意志』に惚れたからでしょう」


私は、熱湯を浴びせられたような衝撃で固まった。


「ほ、惚れた!? 殿下が!? あんな、人の化けの皮を剥がすのが趣味のドS王子がですわよ!?」


「ええ。ドSの天敵は、攻略難易度の高い『完璧な猫かぶり』ですからね。……お嬢様。今夜、もし断罪が始まらなかったら……。その時は、素直に年貢を納めなさい。逃げるよりも、王子の隣で毒を吐きながら生きる方が、お嬢様には似合っています」


サイラスはそれだけ言うと、恭しく扉を開けた。


「……サイラス。あなた、本当は私の味方なの? それとも殿下のスパイ?」


「私はいつだって、面白い方の味方ですよ。……さあ、参りましょう。世界で一番美しい『偽物』の晴れ舞台へ」


(……面白い方の味方って、結局私の苦労を楽しんでるだけじゃない!)


私はサイラスの背中を睨みつけ、大きく深呼吸をした。


胸の奥にある、夜逃げ用の金貨よりも重い、この「正体不明のドキドキ」。


恐怖なのか、それとも。


「……ふふ。見てなさい、セドリック様。私の化けの皮、そう簡単には剥がさせませんわよ」


私は、今日一番の「聖女の微笑み」を顔面に固定し、戦場へと向かう馬車へと足を踏み出した。


生存戦略、最終。


会場の扉が開いた瞬間、私の運命は、かつてないほど激しく動き出すことになる。
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