魔装戦士

河鹿 虫圭

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9:偶像

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美船 葵、失踪および晴山優吾(のち逃亡)と遭遇する数時間前……

満干のダンス教室にて、有名アイドル美船 葵はダンスのレッスンで汗を流していた。ゴツゴツとした肉体に似合わない濃ゆいメイクのコーチの掛け声でステップを踏み、コーチの合図とともにステップを変え、そして、曲の終わりとともにポーズを決める。

「イイわねぇ!あおいちゃん!じゃ、今日は新しいステップを教えるわね!このステップは次の曲でも使えると思うわ~」

そして、コーチは葵の前に立ち、その筋肉質の見た目のわりにしなやかで女性的な動きを披露する。葵はその動きを真剣に見ながら動きをある程度盗む。そして、曲の終わりとともにコーチはぴたりと止まり葵に駆け寄る。

「どうかしら、やってみましょうか?」

「はい、よろしくお願いします」

丁寧にお辞儀をすると、コーチを前に葵はある程度盗んだ動きを真似しながらコーチの動きについて行く。コーチはその動きをワクワクとした目で鏡越しで見ながらステップを踏んでいく。そして、葵は鏡越しにレッスン室のドアが開くのを見る。ドアからはマネージャーと黒い制服の人達が入ってきた。コーチは一度曲を止め、葵に向き直る。

「少し、休憩を挟みましょうか。」

「ありがとうございます。」

葵はお辞儀をすると魔法術対策機関とマネージャーのもとへ向かう。マネージャーが葵の側へ立つと魔法術対策機関の4人は敬礼をして挨拶をする。中世的なピアス。メガネの好青年。金髪の三つ編み。オドオドした少女の順で挨拶する。

「どぉーも~魔法術対策機関 第二班 班長の天々望てんてんぼう四夜華しよかでぇす。んで、つぎ。」

「副班長 海辺うみべ海斗かいとです。」

台地だいち陸丸りくまるでぇす。」

「せ、せ旋風時せんぷうじ初風ういかで、です……」

「敬礼逆だ」と陸丸は初風の手を直して改めてマネージャーと葵の方をみる。マネージャーと葵も改めて挨拶をする。

「どうも、美船葵です……」

「マネージャーの岸です。皆さん今日はありがとうございます。」

魔法術対策機関 第二班。主に有名人や重要人物の護衛をしたり、時たま囚人の護送も担当する機関のお堅い仕事を請け負う班である。ちなみに、一班は町の防犯指導や交通安全などのパトロールそして、時には遺失物を取り扱ったり町のおまわりさんやなんでも屋さんの役割も担っていたりする。そして、三班は満干の周辺の特別保護区域の森林警護や生体の調査をしている……

そして、二班の今回の任務は殺害予告を受けたアイドル美船 葵の護衛である。期間は今日から一週間後の満干ドームのライブが終わるまでの9日間である。その間はダンスレッスン、ボイストレーニングに収録から日常に至るまで護衛を付けることになる。

「さて、葵ちゃんはこれからライブが終わるまでボクらに護衛されるわけだけど……」

四夜華は持ってきたカバンから何か小さなものを葵に渡す。四夜華の手の中にはペットボトルくらいの大きさの黒い機械が光っている。葵はそれを受け取り観察する。

「これは……?」

「それね。何か危険が君に及んだ時に反応する……ん~…防犯ブザー?みたいなもの。ボクらも完璧じゃないからね。目を離したすきに連れ去られてリとかしたらすぐに反応できるように持っておいてほしいんだ。」

葵は無表情ではいとうなずく。

「て、ことで今日からよろしくね~」

「は、はぁ。」

その後、ダンスレッスンを終えると次のボイスレッスンまで時間があるので葵は自由時間となる。その間、移動しながら葵はボイスレッスンまでの気持ちを整え、マネージャーは一度事務所へ忘れ物を取りに行くそうだ。

「それでは、天々望てんてんぼうさんうちの葵をよろしくお願いします。」

「はいはい~任せて~」

マネージャーの背中を見届けた二班と葵はダンスレッスン教室を後にして葵のお気に入りの漫画喫茶へと向かった。と思われたのだが……

「おい、あいつなんか様子がおかしいぞ。」

陸丸は葵を見ながら通信で四夜華へ伝える。

「ん~?そうだね…総員、少し距離を縮めよう。」

「「「了解」」」

────────────

偶像アイドルとは、みんなの信仰の対象でなければならない。

個人へ恋をしてはいけない。

個人を愛してはいけない。

嫉妬や恨みなどもってのほかだ。

皆の中の理想の偶像わたしでなければならない。

作詞作曲者だれかの思いを偶像わたしの声に乗せて届ける。

悪くない。世界が私を見て、私を愛して、歌い、踊れば富が得られる。

私はこのアイドルという職業にやりがいを感じている。ファンもアンチもどちらも皆を平等に愛している。

だからこそ、行き過ぎた愛なのか、それとも憎しみなのか、はたまた逆恨みなのか……今、私に向けられた刃はとても鋭利で残酷で冷たく感じた。

「殺す」

そのたった3文字で私は「偶像アイドル」から「人間」に戻される。

今も、誰かに隙を伺われていると思うとみんなの視線がとても怖い。

あんなに優しく、愛を向けていた皆の視線が今はとても怖い。

視線を気にしながら、私はお気に入りの漫画喫茶へ足早に歩く。そして気づく。

誰かにつけられている。

先程から私と一定の距離を置きながらついてくる人影があるのだが、最初は護衛の機関の人かと思い、カーブミラー越しにその姿を確認する。等間隔にいる人は機関の人でもマネージャーでもなく、知らない男の人だった。恐怖とともに足もさらに速くなる。

『怖い……』

機関の人も見ているならば、早く助けてほしい。これ以上はもう、無理だ。そう思い私は路地裏へと逃げ込んだ。

それは、まさしく悪手であると直後に気づく。

巻いたかと後ろを振り向くと男性はすでに私の後ろへと迫っていた。黒ぶちメガネに私の写真がデザインされたTシャツ(グッズでは見たことないもの)。長ズボンにリュックサック。

「あ、あおいちゃんですよね……?」

男性はどもりながら、私に声をかける。私はどうしていいかわからず、固まる。男性はかまわず私との距離を詰め始める。気にしていないと良いが、体臭がかなり臭ってくる。後ずさりしながら距離をとると男性はムッとした顔で距離を縮めようとしてくる。

「な、なんで逃げるの?あおいちゃんだよね?ね?」

「い、いやです。来ないで下さい。」

「僕の忠告見てくれた?」

何のことだかさっぱりわからない。怖い。誰か助けて。私は動揺してゴミ袋につまずきしりもちをついてしまう。男性が心配そうに手を伸ばそうとしたその時……

ポチャン

雨粒が一つ。その雨粒を皮切りに私はバケツの水をかぶったようにずぶぬれになってしまう。男性はさらに心配そうな様子で折り畳み傘を差しだしてくれたが、私はその手を掴もうとして固まる。

「あ、あ……あぁ……」

別に男性のことについて思い出したわけではない。男性の後ろの存在に固まったのだ。
全身を鱗で覆い、目を赤く光らせる。水かきのついた手で男をそのまま持ち上げると路地裏の向こう側へと投げる。その光景に先ほど収まりかけていた恐怖が再燃する。

「い、いや、いや……」

そこで私の眼前は暗くなった……

9:了
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