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39:一体
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身体が冷たくなるのを感じ獅子王玲央は意識が完全に戻る。
『なんだ、これは、俺様は一体、あのあと………これは。どういう状況だ……?』
目の前には自分を殴りつける黒い鎧が、恐らく自分から出たであろう血を浴びながらも殴りつけている。何とか体を動かそうとするが、目の前の黒い鎧がやったのか指一本すらも動かない。
『この状況を抜け出すには……助けを求めるしか…ッ!!あれは……!!』
玲央が見た方向には懐かしい顔ぶれが見えた。魔法術対策機関の星々 琉聖と彩虹寺 綾那だった。思わず声を出そうとしてしまうが、喉から出たのはやっと絞り出たうめき声だった。二人はうめき声に反応し顔を合わせた。
「琉聖さん。玲央は意識が………」
「みたいだね。彼も頑張っているんだ。僕らも頑張ろう。」
折れた腕を水と風を合わせた氷魔法で冷やすと星々は腕をだらりと下げて片手で構える。彩虹寺は星々のサポートをするように星々の斜め後ろで構える。
「よし、準備OK!」
「分かりました。」
二人はそのまま黒い鎧に向かってファイアボールを撃つ。命中はしたが、黒い鎧はこちらに見向きもしない。
「ダメだ、接近した無理でもはがさないと………僕が行こう。」
「ダメです。最悪死ぬどころじゃすみませんよ?!」
星々は苦虫を嚙み潰したような顔で考える。そして、意を決する。
「いや、やっぱり僕が行く。綾那ちゃんは僕があいつを引き付けたら玲央君の回収をお願い……回収しろ。」
彩虹寺はその言葉に反論しようと口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。魔法術対策機関の班長たちはほぼ、命令口調を使わない。使うときは決まって自分が無茶をする時だ。それを理解していた彩虹寺は星々を見つめながら瞳に溜る涙を拭う。
「了解……でも、琉聖さん死んだらダメですよ……」
「分かってるよ。」
星々は腕を下げたまま紫色の槍を顕現させ、そのまま槍を投擲した。
「蠍の一突き!」
赤い横線を描いた槍はそのまま黒い鎧の背中へ命中する。当然、黒い鎧はそれに反応し、槍を掴む。黒い鎧がとらえたのは次の魔法を準備する星々だ。黒い鎧はそのまま星々との距離を詰める。
「行け、綾那ちゃん。」
彩虹寺はその合図とともにボロボロの玲央の元へ走った。黒い鎧はそんな彩虹寺に見向きもせず、星々との距離を詰める。星々はそのまま次の魔法を使う。
「射手の矢 射手、流星打ち!!」
無数の炎の矢が黒い鎧へ迫るが、それを全て撃ち落とし星々の首へ手を伸ばす。一定の間合いに入ったのを確認すると、星々は次の魔法を使う。
「この距離なら……牡牛の大斧!!」
大きな斧を出すとそのまま星々は黒い鎧の胸にめがけて斧をフルスウィングした。
「牡牛の断頭!!!」
ほぼゼロ距離のスウィングに黒い鎧は避けることができずそのまま胸に斧を受け、大きく吹き飛んだ。そのまま背中から落下すると鎧は解除されて中から晴山優吾が出てきた。優吾はそのまま気絶し戦闘はついに終わりを迎えた。雨が上がった夕方。辺りはすっかり暗くなっており、いつもなら人工的な光で満ちる時間帯なのだが今日はまだ燃えている炎が鈍くビル群を下から照らしていた。星々はそんな光景を目に映したまま気を失った。
──────後日──────
一夜明けて、自衛隊と動ける魔法術対策機関のメンバーは瓦礫の撤去に当たっていた。
「ちっ、何がありゃこんな大惨事になんだよ。」
三班 班長 熱翔原一心は被害者の捜索にあたっていた。その後ろを班員の覇々滝朱晴がついていく。
「なぁんか、昨日、例の黒い鎧を止めるために協力者の晴山さんが無茶してこうなったってなってますよ?」
「そーかい……はぁ、若いのはなんですぐこんな無茶したがるかねぇ……」
「私だって無茶すると思いますよ。」
「そうかい……そら、あっちの瓦礫今少し動いたぞ。見てこい。」
「了解っス!」
朱晴の走っていく後姿を見て一心もどこかに人がいないか探す。その逆の通りでは、二班の面々が瓦礫の撤去作業をしている。
「オーライ。オーライ……って、陸丸~!ちゃんと作業して!」
海辺の注意を受けた陸丸は大きなため息を吐きながら手に持っているスコップで土を掘る。
「クッソ…こんなんだったら、もう少し大けがしとけばよかったぜ……で、足の折れているお前は何をしに来たんだ?」
松葉杖を突く初風へ目を向けると初風は少しびくつきながら、陸丸へ近づき初風がいつも食べている栄養食お菓子だった。
「なんだよこれ。」
「い、いえ、朝から何も食べずにやっているので軽食にいいかなぁって……」
陸丸は手渡してきたものを突き返す。初風は少し涙目になりながら、それを受け取る。
「ばか、泣きそうになってんじゃねぇよ。それはお前のだろ?それにそんな口の中の水分全部が奪われそうなもん今食ったら倒れるっつうの。俺はちゃんと持ってきてるからそれはお前が食え。そして早く足治せ。じゃないと俺が訓練とかサボれないだろうが。」
初風は陸丸の言葉に涙が溢れそうになったが、その涙を拭い笑顔を見せる。
「はい。そ、それじゃ、わ、私はこれで……」
「おう、ありがとな。」
「陸丸~ちゃんとしてよ~?」
「わーったわーった。お前も自分の作業に集中しろ。」
二班の二人はそのまま自衛隊とのがれき撤去作業を続けていた。そして本部の治療室では獅子王玲央の緊急手術が終わり、博子が集中治療室から出てきた。博子はいつもと変わらない様子で星々たちと目が合うとサムズアップをして手術成功を伝える。腕にギプスを巻き包帯だらけの星々は胸をなでおろす。
「いや~大変だった…けど、奇跡だね。大事な部分は一切傷ついてなかったんだよ~」
「そうだったんですね……良かった…」
「これは偶然じゃないかもね。」
「優吾君がわざと外して至ってことですか?」
「真相は”当人のみぞ知る”ってね。」
「そういえば、優吾君の様子は?」
「うん、異常なし。健康そのもの……って言いたいけどね…前の怪我がまだ治ってないんだよねぇ……それ以外は問題ない。今は病室にいるよ」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、それほどでも……それと、星々君は全治3ヶ月だからあまり無理しないようにね?」
「はい……」
星々は優吾の様子が気になったため病室へ足を運ぶ。ベッドに上半身を起こした状態で窓を眺めている優吾に声をかける。だが、優吾は反応しない。星々は再び声をかける。
「優吾君?」
「あ、流星さん。どうも…」
その目には以前のように生気が宿っていなかった。
「大丈夫かい?」
「えぇ、まぁそうですね……」
再び窓の外へ目を向ける。そして、つぶやく。
「俺は、結局何もできなかった……」
「そんなことないよ。僕の方こそ、君に重荷を追わせた。すまない。」
星々は頭を下げる。そして、ポケットから何かを取り出し、優吾の手に握らせる。優吾はそれを見て目を見開いた。星々が手渡したのは砕け散った優吾の形見だった。
「これ…」
「うん、玲央君を、黒い鎧を追いかける前に拾っておいたんだ。砕けて拾えなかった箇所もあるけどね…」
優吾は砕けた石を握りしめる。
「いえ、これだけでも十分です。ありがとうございます。」
「それで、優吾君。これからのことなんだけど…」
「戦いますよ。協力者もやめません。絶対に。」
星々はその言葉を聞き、優吾の顔を見つめる。その顔は絶望に満ちてはいるものの、全てを諦めたような顔ではなかった。
「今回の件で、戦うのが前よりも怖くなりました……でも、それで投げ出していいもんじゃないと思うんです。」
「優吾君……分かった。本当は今日で協力者をやめてもらいたかったけど…君がそこまで言うんだったら、僕は止めることはできない。」
星々は椅子に座り、優吾の顔を見つめ続ける。
「いいんだね?これからもいや、これからは今以上に君が傷つくかもしれない…それでも僕らに協力してくれるんだね?」
「……はい、覚悟は決めたんで。」
星々は無言で、椅子から立ち上がり病室を出ようとした。ふと、優吾が使ったもう一つの石について思い出す。
「そうだ、優吾君。君が昨日の戦闘で使った石ってまだ残ってる?」
「はい、まだ持ってます。」
優吾がポケットからアレイスター・クロウリーの魔導書の原本の一枚を使って顕現させた石を見せる。鈍く黒く光る石は病室の照明の光を反射する。星々はさらに昨日どのようにして魔装ができたのかも聞き出す。優吾は全てを正直に話す。
「魔導書の原本か……確かに、聞いたことはあるね。世界に散らばったアレイスター・クロウリーの原本。」
すると、黒い石は突然優吾の手を離れ宙へ浮かび声を発した。
『ふぁ…良く寝た…』
「しゃべった。」
優吾はそういうと、石を掴み顔の近くまで持ってくる。
『小僧、やめろ。』
「いや、お前あの時消えただろ。」
『消えた?はて?そんなつもりは無かったんだがな……まぁいい…それより。嬉しい報告をしてやろう。我はこの石以外に意識を飛ばすことができなくなった。つまり、この石は我の体と言っても過言ではない。喜べ小僧。』
「喜んでたまるかよ。それより、それがお前の身体で確定したってなんでそうなった。」
『貴様が昨日この石を生成したら意識が飛ばせなくなったのだ……ん?なんだこの反応は?』
クロウリーはそのまま病室中を飛び回り、優吾の手に握られている形見の石を見つけ近寄る。
「なんだよ。」
『この石は何か不思議な力が通っているな。それに…中に無数の魔力が見える。』
クロウリーはそのまま石へ自分を重ねると、何か詠唱し始める。数分の詠唱と共に、形見の石は完全にもとに戻った。
「は?元に戻って……それにクロウリーも吸収され……」
そのままクロウリー自身も足りない部分として形見の石に吸収されていった。そして優吾の意識は石へ吸い込まれた。
「はっ!ここって……」
『石の中であろうな。』
隣に立っていたのはやせ型で長身の血色の悪い男性だった。しかし優吾はその声を聴いてすぐにアレイスタークロウリーだとわかった。
『なんだ?』
「いや、結構不気味だなって思って……」
『ふん、これが一番調子が良いのだ……それより、ロゼ!ロゼ=ハイラント=クリスティ!!いるのだろう!出てこい!』
クロウリーが大きな声を出すと、白の衣に身を包んだ無の大魔導師ロゼ=ハイラント=クリスティが出てきた。ロゼは出てくるや否や、クロウリーへ飛びついた。
『クロウリーではありませんか!あなたがこの石を修復してくれたのですか!』
『ふん、やめろ汚らわしい。それよりも、これはどういうことだ。』
ロゼはクロウリーから離れて、その場に木製の椅子と机を出し紅茶を入れて座る。クロウリーと優吾の分の椅子も生成し二人に座るように促す。
『そうですね…クロウリーも来てくれたことですし、そろそろ話しておいても良いでしょう……』
そして、ロゼはその口から語る。この石のこと。その作成の意味。しかし、優吾の耳に入ってきたのは聞いたことのない言語。クロウリーは時折驚いた表情を見せ、ロゼは時折申し訳なさそうな顔をする。そして二人は、優吾を見るとそのまま優吾を覚醒させ始めた。優吾の意識はだんだんと遠のいていく。
「な、んで……」
『あなたはまだ力を蓄える時間です。まだ幼虫のあなたには聞き取れません。』
『まぁ、いずれわかるだろう……それ、起きろ。星の魔導師が心配しているぞ?』
そこで優吾の意識は途絶えた。いや、覚醒した。
「…吾君。優吾君。」
優吾は目を覚ますとベッドで上半身を起こしたまま寝ていた。星々はそんな優吾の顔を覗き込む。
「大丈夫かい?」
「はい…何とか……ッ!!」
優吾は手に持っていた石を見て目を見開く。ターコイズブルーに龍の爪の装飾が施されていた石は綺麗に加工され、宝石のようになっている石の周りに紫色だった龍の爪の装飾が黒色に代わり、ペンダントのようになっていた。
「石がまた進化してる……」
「さっきまでこんな装飾ついてなかったんだけどなぁ…」
石を見つめる優吾の顔が反射する。
────────────
暗がりの中、液晶から漏れる光だけがその部屋を照らす。キーボードを打つ手が前よりも速い指はエンターキーを押してタイピングを終えると、体を伸ばす。そして、銀色の使徒の三人組の視線を感じ体を向けた。
「あれ?晴山優吾と、あとLEOくんは?って言わなくてもわかるよ。失敗して取られたんだね…」
エファとサソリは緊張し動けないでいるとギンロが前に出る。
「君、LEOを渡したのはわざとだね?彼、意識が戻ってたよ。」
ギンロを見つめる人物は手を打って笑う。
「そう、正解。本当は研究はあの段階で最終段階に入ってたんだよ。LEOくんはさぁ…なかなか意識を奪えなかったかた廃棄処分の予定だったんだよね……それを都合よく君らが排気もとい、元居た場所に戻してくれて助かったよ。」
ギンロはにらみながら近寄る。
「君、ふざけてる?」
「おいおい、失礼だなぁ…それもこれも全て計算のうちさ。この研究が魔法術対策機関にバレないためのブラフなんだよ……そして、僕が研究に研究を重ねてできたのが……これ」
イスから立ち上がり、複雑な機械のもとへ近づくと丁度何かができたようでその小瓶を取り出す。中には銀色の液体が入っていた。ギンロはそれを見るとすぐに奪いとろうとしたが、すぐに椅子に戻りそれを阻止する。
「ダ~メ……まだ試してないんだから。あおの黒い戦士に対抗しうるのか否か、また誰かに試してきてよ。三人くらいさ。」
ギンロへ小瓶を投げ渡す。
「これで本当に僕らの望みを叶うんだろうな?」
「そうだね。叶うと良いね。あ、そうだ、ソレ、魔族にしか効果ないから気をつけてね~」
くるりと回ると再びタイピングを始める。ギンロはその後ろ姿を睨み、エファとサソリを引き連れてその場を後にした。廊下を歩きながら、サソリはギンロへ声をかける。
「ギンロ……」
「大丈夫さ。これを乗り切れば、きっと僕らの悲願も……」
「それじゃ、あの男は……」
「この実験が終われば用済みだ……覚悟しろ……大神阿頼耶この実験を成功させて貴様の寝首を…搔く!」
低くうなると、ギンロは扉を開け光へ一歩を踏み出した。
39:了
『なんだ、これは、俺様は一体、あのあと………これは。どういう状況だ……?』
目の前には自分を殴りつける黒い鎧が、恐らく自分から出たであろう血を浴びながらも殴りつけている。何とか体を動かそうとするが、目の前の黒い鎧がやったのか指一本すらも動かない。
『この状況を抜け出すには……助けを求めるしか…ッ!!あれは……!!』
玲央が見た方向には懐かしい顔ぶれが見えた。魔法術対策機関の星々 琉聖と彩虹寺 綾那だった。思わず声を出そうとしてしまうが、喉から出たのはやっと絞り出たうめき声だった。二人はうめき声に反応し顔を合わせた。
「琉聖さん。玲央は意識が………」
「みたいだね。彼も頑張っているんだ。僕らも頑張ろう。」
折れた腕を水と風を合わせた氷魔法で冷やすと星々は腕をだらりと下げて片手で構える。彩虹寺は星々のサポートをするように星々の斜め後ろで構える。
「よし、準備OK!」
「分かりました。」
二人はそのまま黒い鎧に向かってファイアボールを撃つ。命中はしたが、黒い鎧はこちらに見向きもしない。
「ダメだ、接近した無理でもはがさないと………僕が行こう。」
「ダメです。最悪死ぬどころじゃすみませんよ?!」
星々は苦虫を嚙み潰したような顔で考える。そして、意を決する。
「いや、やっぱり僕が行く。綾那ちゃんは僕があいつを引き付けたら玲央君の回収をお願い……回収しろ。」
彩虹寺はその言葉に反論しようと口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。魔法術対策機関の班長たちはほぼ、命令口調を使わない。使うときは決まって自分が無茶をする時だ。それを理解していた彩虹寺は星々を見つめながら瞳に溜る涙を拭う。
「了解……でも、琉聖さん死んだらダメですよ……」
「分かってるよ。」
星々は腕を下げたまま紫色の槍を顕現させ、そのまま槍を投擲した。
「蠍の一突き!」
赤い横線を描いた槍はそのまま黒い鎧の背中へ命中する。当然、黒い鎧はそれに反応し、槍を掴む。黒い鎧がとらえたのは次の魔法を準備する星々だ。黒い鎧はそのまま星々との距離を詰める。
「行け、綾那ちゃん。」
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「射手の矢 射手、流星打ち!!」
無数の炎の矢が黒い鎧へ迫るが、それを全て撃ち落とし星々の首へ手を伸ばす。一定の間合いに入ったのを確認すると、星々は次の魔法を使う。
「この距離なら……牡牛の大斧!!」
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「牡牛の断頭!!!」
ほぼゼロ距離のスウィングに黒い鎧は避けることができずそのまま胸に斧を受け、大きく吹き飛んだ。そのまま背中から落下すると鎧は解除されて中から晴山優吾が出てきた。優吾はそのまま気絶し戦闘はついに終わりを迎えた。雨が上がった夕方。辺りはすっかり暗くなっており、いつもなら人工的な光で満ちる時間帯なのだが今日はまだ燃えている炎が鈍くビル群を下から照らしていた。星々はそんな光景を目に映したまま気を失った。
──────後日──────
一夜明けて、自衛隊と動ける魔法術対策機関のメンバーは瓦礫の撤去に当たっていた。
「ちっ、何がありゃこんな大惨事になんだよ。」
三班 班長 熱翔原一心は被害者の捜索にあたっていた。その後ろを班員の覇々滝朱晴がついていく。
「なぁんか、昨日、例の黒い鎧を止めるために協力者の晴山さんが無茶してこうなったってなってますよ?」
「そーかい……はぁ、若いのはなんですぐこんな無茶したがるかねぇ……」
「私だって無茶すると思いますよ。」
「そうかい……そら、あっちの瓦礫今少し動いたぞ。見てこい。」
「了解っス!」
朱晴の走っていく後姿を見て一心もどこかに人がいないか探す。その逆の通りでは、二班の面々が瓦礫の撤去作業をしている。
「オーライ。オーライ……って、陸丸~!ちゃんと作業して!」
海辺の注意を受けた陸丸は大きなため息を吐きながら手に持っているスコップで土を掘る。
「クッソ…こんなんだったら、もう少し大けがしとけばよかったぜ……で、足の折れているお前は何をしに来たんだ?」
松葉杖を突く初風へ目を向けると初風は少しびくつきながら、陸丸へ近づき初風がいつも食べている栄養食お菓子だった。
「なんだよこれ。」
「い、いえ、朝から何も食べずにやっているので軽食にいいかなぁって……」
陸丸は手渡してきたものを突き返す。初風は少し涙目になりながら、それを受け取る。
「ばか、泣きそうになってんじゃねぇよ。それはお前のだろ?それにそんな口の中の水分全部が奪われそうなもん今食ったら倒れるっつうの。俺はちゃんと持ってきてるからそれはお前が食え。そして早く足治せ。じゃないと俺が訓練とかサボれないだろうが。」
初風は陸丸の言葉に涙が溢れそうになったが、その涙を拭い笑顔を見せる。
「はい。そ、それじゃ、わ、私はこれで……」
「おう、ありがとな。」
「陸丸~ちゃんとしてよ~?」
「わーったわーった。お前も自分の作業に集中しろ。」
二班の二人はそのまま自衛隊とのがれき撤去作業を続けていた。そして本部の治療室では獅子王玲央の緊急手術が終わり、博子が集中治療室から出てきた。博子はいつもと変わらない様子で星々たちと目が合うとサムズアップをして手術成功を伝える。腕にギプスを巻き包帯だらけの星々は胸をなでおろす。
「いや~大変だった…けど、奇跡だね。大事な部分は一切傷ついてなかったんだよ~」
「そうだったんですね……良かった…」
「これは偶然じゃないかもね。」
「優吾君がわざと外して至ってことですか?」
「真相は”当人のみぞ知る”ってね。」
「そういえば、優吾君の様子は?」
「うん、異常なし。健康そのもの……って言いたいけどね…前の怪我がまだ治ってないんだよねぇ……それ以外は問題ない。今は病室にいるよ」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、それほどでも……それと、星々君は全治3ヶ月だからあまり無理しないようにね?」
「はい……」
星々は優吾の様子が気になったため病室へ足を運ぶ。ベッドに上半身を起こした状態で窓を眺めている優吾に声をかける。だが、優吾は反応しない。星々は再び声をかける。
「優吾君?」
「あ、流星さん。どうも…」
その目には以前のように生気が宿っていなかった。
「大丈夫かい?」
「えぇ、まぁそうですね……」
再び窓の外へ目を向ける。そして、つぶやく。
「俺は、結局何もできなかった……」
「そんなことないよ。僕の方こそ、君に重荷を追わせた。すまない。」
星々は頭を下げる。そして、ポケットから何かを取り出し、優吾の手に握らせる。優吾はそれを見て目を見開いた。星々が手渡したのは砕け散った優吾の形見だった。
「これ…」
「うん、玲央君を、黒い鎧を追いかける前に拾っておいたんだ。砕けて拾えなかった箇所もあるけどね…」
優吾は砕けた石を握りしめる。
「いえ、これだけでも十分です。ありがとうございます。」
「それで、優吾君。これからのことなんだけど…」
「戦いますよ。協力者もやめません。絶対に。」
星々はその言葉を聞き、優吾の顔を見つめる。その顔は絶望に満ちてはいるものの、全てを諦めたような顔ではなかった。
「今回の件で、戦うのが前よりも怖くなりました……でも、それで投げ出していいもんじゃないと思うんです。」
「優吾君……分かった。本当は今日で協力者をやめてもらいたかったけど…君がそこまで言うんだったら、僕は止めることはできない。」
星々は椅子に座り、優吾の顔を見つめ続ける。
「いいんだね?これからもいや、これからは今以上に君が傷つくかもしれない…それでも僕らに協力してくれるんだね?」
「……はい、覚悟は決めたんで。」
星々は無言で、椅子から立ち上がり病室を出ようとした。ふと、優吾が使ったもう一つの石について思い出す。
「そうだ、優吾君。君が昨日の戦闘で使った石ってまだ残ってる?」
「はい、まだ持ってます。」
優吾がポケットからアレイスター・クロウリーの魔導書の原本の一枚を使って顕現させた石を見せる。鈍く黒く光る石は病室の照明の光を反射する。星々はさらに昨日どのようにして魔装ができたのかも聞き出す。優吾は全てを正直に話す。
「魔導書の原本か……確かに、聞いたことはあるね。世界に散らばったアレイスター・クロウリーの原本。」
すると、黒い石は突然優吾の手を離れ宙へ浮かび声を発した。
『ふぁ…良く寝た…』
「しゃべった。」
優吾はそういうと、石を掴み顔の近くまで持ってくる。
『小僧、やめろ。』
「いや、お前あの時消えただろ。」
『消えた?はて?そんなつもりは無かったんだがな……まぁいい…それより。嬉しい報告をしてやろう。我はこの石以外に意識を飛ばすことができなくなった。つまり、この石は我の体と言っても過言ではない。喜べ小僧。』
「喜んでたまるかよ。それより、それがお前の身体で確定したってなんでそうなった。」
『貴様が昨日この石を生成したら意識が飛ばせなくなったのだ……ん?なんだこの反応は?』
クロウリーはそのまま病室中を飛び回り、優吾の手に握られている形見の石を見つけ近寄る。
「なんだよ。」
『この石は何か不思議な力が通っているな。それに…中に無数の魔力が見える。』
クロウリーはそのまま石へ自分を重ねると、何か詠唱し始める。数分の詠唱と共に、形見の石は完全にもとに戻った。
「は?元に戻って……それにクロウリーも吸収され……」
そのままクロウリー自身も足りない部分として形見の石に吸収されていった。そして優吾の意識は石へ吸い込まれた。
「はっ!ここって……」
『石の中であろうな。』
隣に立っていたのはやせ型で長身の血色の悪い男性だった。しかし優吾はその声を聴いてすぐにアレイスタークロウリーだとわかった。
『なんだ?』
「いや、結構不気味だなって思って……」
『ふん、これが一番調子が良いのだ……それより、ロゼ!ロゼ=ハイラント=クリスティ!!いるのだろう!出てこい!』
クロウリーが大きな声を出すと、白の衣に身を包んだ無の大魔導師ロゼ=ハイラント=クリスティが出てきた。ロゼは出てくるや否や、クロウリーへ飛びついた。
『クロウリーではありませんか!あなたがこの石を修復してくれたのですか!』
『ふん、やめろ汚らわしい。それよりも、これはどういうことだ。』
ロゼはクロウリーから離れて、その場に木製の椅子と机を出し紅茶を入れて座る。クロウリーと優吾の分の椅子も生成し二人に座るように促す。
『そうですね…クロウリーも来てくれたことですし、そろそろ話しておいても良いでしょう……』
そして、ロゼはその口から語る。この石のこと。その作成の意味。しかし、優吾の耳に入ってきたのは聞いたことのない言語。クロウリーは時折驚いた表情を見せ、ロゼは時折申し訳なさそうな顔をする。そして二人は、優吾を見るとそのまま優吾を覚醒させ始めた。優吾の意識はだんだんと遠のいていく。
「な、んで……」
『あなたはまだ力を蓄える時間です。まだ幼虫のあなたには聞き取れません。』
『まぁ、いずれわかるだろう……それ、起きろ。星の魔導師が心配しているぞ?』
そこで優吾の意識は途絶えた。いや、覚醒した。
「…吾君。優吾君。」
優吾は目を覚ますとベッドで上半身を起こしたまま寝ていた。星々はそんな優吾の顔を覗き込む。
「大丈夫かい?」
「はい…何とか……ッ!!」
優吾は手に持っていた石を見て目を見開く。ターコイズブルーに龍の爪の装飾が施されていた石は綺麗に加工され、宝石のようになっている石の周りに紫色だった龍の爪の装飾が黒色に代わり、ペンダントのようになっていた。
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「さっきまでこんな装飾ついてなかったんだけどなぁ…」
石を見つめる優吾の顔が反射する。
────────────
暗がりの中、液晶から漏れる光だけがその部屋を照らす。キーボードを打つ手が前よりも速い指はエンターキーを押してタイピングを終えると、体を伸ばす。そして、銀色の使徒の三人組の視線を感じ体を向けた。
「あれ?晴山優吾と、あとLEOくんは?って言わなくてもわかるよ。失敗して取られたんだね…」
エファとサソリは緊張し動けないでいるとギンロが前に出る。
「君、LEOを渡したのはわざとだね?彼、意識が戻ってたよ。」
ギンロを見つめる人物は手を打って笑う。
「そう、正解。本当は研究はあの段階で最終段階に入ってたんだよ。LEOくんはさぁ…なかなか意識を奪えなかったかた廃棄処分の予定だったんだよね……それを都合よく君らが排気もとい、元居た場所に戻してくれて助かったよ。」
ギンロはにらみながら近寄る。
「君、ふざけてる?」
「おいおい、失礼だなぁ…それもこれも全て計算のうちさ。この研究が魔法術対策機関にバレないためのブラフなんだよ……そして、僕が研究に研究を重ねてできたのが……これ」
イスから立ち上がり、複雑な機械のもとへ近づくと丁度何かができたようでその小瓶を取り出す。中には銀色の液体が入っていた。ギンロはそれを見るとすぐに奪いとろうとしたが、すぐに椅子に戻りそれを阻止する。
「ダ~メ……まだ試してないんだから。あおの黒い戦士に対抗しうるのか否か、また誰かに試してきてよ。三人くらいさ。」
ギンロへ小瓶を投げ渡す。
「これで本当に僕らの望みを叶うんだろうな?」
「そうだね。叶うと良いね。あ、そうだ、ソレ、魔族にしか効果ないから気をつけてね~」
くるりと回ると再びタイピングを始める。ギンロはその後ろ姿を睨み、エファとサソリを引き連れてその場を後にした。廊下を歩きながら、サソリはギンロへ声をかける。
「ギンロ……」
「大丈夫さ。これを乗り切れば、きっと僕らの悲願も……」
「それじゃ、あの男は……」
「この実験が終われば用済みだ……覚悟しろ……大神阿頼耶この実験を成功させて貴様の寝首を…搔く!」
低くうなると、ギンロは扉を開け光へ一歩を踏み出した。
39:了
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