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40:銀色
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銀色の液体が入った小瓶を見つめる銀色の使徒教祖ギンロ=シルヴァスは頭を抱えうなる。手に持つ瓶を左右に揺らすと中の液体は波打ち瓶の中で暴れまわる。ギンロは森から満干の町並みを見下ろして物色する。
「誰かいい実験体の素質がある者は……」
そして、目を見開き口角を上げそこへ一気にちょうやくした。エファとサソリはギンロに続いて背中を追った。
「三人もいれば、行けるでしょ。」
ギンロの視線の先に人気のない公園でタバコを吸い酒を飲んで談笑している三人のモグラ魔族を見つける。それを見たエファとサソリは無言でギンロから銀色の液体が入った注射器を受け取り、三人同時にモグラの魔族の後ろに立ち注射器を静かに打った。痛みで三人は背後を見るが、そこにはもうギンロ達の姿は目視できなかった。タバコを吸っている首に銀色のネックレスをつけたモグラの一般魔族は首筋をさわり他の二人とも顔を合わせる。
「今、なんかに刺さた。」
「僕も刺された。」
「私も刺されましたね。」
だが三人は気にすることなくそのまま酒の入った缶に手を伸ばし一口飲もうとしたその時、三人の体に変化が出始める。気づいたのは、一人称が「私」で頭に人間用のネックレスを巻いているモグラ魔族だった。
「あの、グラモさん…頭に何か乗っかってますよ。銀色のヘルメット?」
「え?僕の頭?……なんだよこれ!」
「そういう、ラグモはなんか爪が伸びてるよ?」
一人称「私」のラグモは自分の爪を見て驚く。そんな二人を見て大笑いする一人称「俺」のネックレスをつけたモグラ魔族のモラグは二人から体が銀色の鎧で覆われていることを指摘する。
「な、なんだよこれぇ!それに、なんか頭痛くなってきたぞ……」
「僕も……」
「私もです…」
三人のモグラの一般魔族はそのまま夏の日差しに照らされ倒れ込んだ。
夏休みも中盤に差し掛かり仕事のない学生は宿題を意識し始める時期。晴山優吾は座学だけは優秀だったので魔法術対策機関の病室でも何も気にすることなくゆっくりとくつろいでいた。その手には、ターコイズブルー色の綺麗な石が真ん中にあしらわれたペンダントが光っている。優吾はそのペンダントを見つめベッドに寝転がる。沈黙の五分が過ぎ去り、病室のドアがスライドされた。目を向けると、そこには何かを手に持っている魔法術対策機関第一班 副班長で優吾の同級生の彩虹寺 綾那が立っていた。彩虹寺は紙袋を持ちながらそのまま優吾へ近づく。
「調子はどうだ?」
「どうもなにも、俺の怪我はそこまでひどくねぇよ。博子さんも言ってたけど、明日で退院だぜ?」
「そうだったか…それじゃ、これは一日早い退院祝いだな。」
彩虹寺は手に持っている紙袋を手渡す。優吾はそれを受け取り首を傾げる。彩虹寺はそんな優吾に開けろと目で催促し優吾は紙袋の中に手を伸ばす。優吾はそれを取り出し、彩虹寺にも見せる。小さな白い箱で電子機器何かが入っているような厚紙の箱。優吾はその箱を開けると、中からは魔法術対策機関のみんなが耳に付けているイヤモニ型通信機だった。
「何だこりゃ。」
「私達も使っている通信機だ。前々から戦闘時に君と意思疎通が取れなくて困っていたところを琉聖さんに報告したら特別に支給されたんだ。細かい設定なんかは全部終わっているからすぐに使える。」
優吾は試しに耳に付けてみる。彩虹寺はその様子を見て微笑みながら、優吾に使い方を教える。
「ここで通信先の切り替え……で、ここを二回押せば個人との会話が可能だ。」
優吾はうなずきながら操作をする。そして早速、星々へ感謝を伝えるために通信をしてみる。
『はいはい~星々で~す。』
「あ、琉聖さん!」
『お~その声は優吾君!早速プレゼントを使いこなしてるね~』
「いえ、こんな素晴らしいもの……ありがとうございます。大事に使いこなして見せます。」
『うん、頼りにしてるよ協力者。』
「はい。」
優吾は改めて礼を言って通信を切った。そして、こちらを見つめながら得意げの彩虹寺と目が合う。
「どうだ?」
「おう、サンキュな。これでいつでも連絡できるわ。」
彩虹寺はうんうんとうなずき、分かりやすく喜ぶ。優吾はそんな嬉しそうな彩虹寺の顔を見ながらまだ紙袋に何か入っているのを確認し取り出した。甘い匂いが漏れる箱を開けると、中から出てきたのは華の香りのする入浴剤だった。優吾は思わず首を目を見開き首を傾げながら彩虹寺の方を見る。彩虹寺は先ほどとは打って変わって少し照れ臭そうに目を背ける。
「これは?」
「いや…そのなんだ…それは私個人からだが…君の好みが分からなかったからな……その監視しているときにお風呂に淹れてもらっただろ?その時に…その……お風呂が寂しく感じたからな……その……気に入るかわからんが…私のお気に入りの入浴剤だ……」
優吾は瞬きをくりかえし二人の間には短い沈黙が流れた。優吾はハッと我に返ると口を開いた。
「お、おう、ありがとな…ありがたく使わせてもらうわ…」
「それじゃ、私はこれで失礼する。」
「お、おう、午後も頑張れ~」
優吾は頬が熱くなるのを感じながら、再びベッドに寝転がる。ふと、もらった入浴剤が目に入り、先ほどの彩虹寺の顔を思い出す。なんだか恥ずかしく気まずくなり、イヤモニも入浴剤も紙袋に戻す。
「いや…何考えてんだよ…俺…」
そのまま優吾は布団を勢いよくかぶった。その後、午後のチェックをして謎に心音が上がるということもあったが、明日には無事退院と博子から言われた。
「おかしいこともあるもんだねぇ…心臓には問題ないけど…何か興奮することがあった?」
「ノーコメントで……」
博子は首を傾げ部屋を後にした。夕方に差し掛かる頃、病室のドアがまたスライドする。珍しい時間にドアが開いたため優吾は思わずくつろいでいた姿勢を崩し、ドア側に目を向けた。立っていたのは、眺めのくせ毛を後ろでまとめた少しやせ細った背の高い男性だった。見覚えのないその男性は優吾と同じ病院着を着用しており同じ入院患者だと分かる。今、ここに入院しているのは、優吾ともう一人致命傷を追った獅子王玲央だけのはずだった。優吾はもしやと思い男性が口を開く前に質問した。
「もしかして、琉聖さんや彩虹寺が言っていた…え~獅子王玲央さんですか?」
「そうだ。俺様が…いや、俺が獅子王だ。」
玲央はそういうとびっこを引く足で優吾の方へ近づく。そして、椅子に座ると数分無言でジッと優吾の方を見つめる。
『気まず…ッ!』
優吾はそのまま玲央と目を合わせて固まる。沈黙を破ったのは、玲央の謝罪の言葉だった。ボロボロの体で玲央は優吾に深々と頭を下げる。
「この度はまことに申し訳ないと思っている。こんな身体だ、土下座はできないことを許してほしい。」
優吾は玲央の発言に驚き、「あ、いや、そんな……」とタジタジになっている。そして、頭を下げたままの玲央に声をかける。
「いや、お互い知らなかったし、何なら今が初対面ですし…その、俺だって玲央さんの体を穴だらけにしちゃったし………そうだ!今回はお互い様だったってことでこの話は無かったこと…にはできないですけど……」
優吾は玲央の肩を掴み、玲央の頭を上げさせる。そして、茫然とする玲央の前に手を差し出す。
「これで、お互い許し合いましょう……ではダメすかね……?」
玲央は瞳に溜っていた涙を流し、その手を掴み優吾と握手する。
「ありがとう。」
「いえ、本当に、お互い事情が事情だったんで…ね?」
「あぁ…本当にありがとう……」
玲央はそのまま優吾談笑して夕飯が出る時間には自室へ戻っていった。
「優吾、ありがとう。俺様は戻る。」
「はい、それじゃ……俺、明日退院なんで、お見舞い行きます。」
「あぁ、いつでも来てくれ……」
病室のドアがしまり、入れ違いで担当の看護師が夕飯を持ってきた。看護師は玲央の方をみて優吾の方も見る。
「玲央さんでしたよね?」
「はい、謝罪と談笑を……」
「彼、昨日手術を終えたばかりですよ?それに誰からも意識を取り戻したという報告はされてませんでした。」
優吾は背筋に悪寒を感じて急いで看護師に説明をする。
「いや、ちゃんと温かい手をしてましたよ!?」
「いや、幽霊の同行の問題ではなく……はぁまぁいいですよ。後で私が博子先生に報告するので……」
看護師は優吾のご飯を運び終えると急いで玲央の病室へ向かった。
「俺に謝りたくて一人で来てたのか……すげぇな……」
そういうもんだじゃないか……と優吾はプレートに乗ったサバの味噌煮を切り分けて口へ運び、退院前の夕飯を堪能した。
────────────
夕刻の公園。空が赤く染まるその下でモグラの一般魔族、モラグ、グラモ、ラグモの三人組は目を覚ます。
「俺ら……どうなったんだっけ?」
倒れた後の記憶がない。だが、場所が変わっていないところを見ると自分は飲み過ぎで倒れたんだと思ったモラグは頭を振っているグラモとラグモへ声をかけようと手を伸ばすが、目の前にはその二人によく似た銀色の魔族がいた。
「えっと…どちらさん?俺のツレは?」
「いや、モラグさん僕ですよグラモですよ。」
「その声はグラモさん。ということはそちらはモラグさん?」
「おう、モラグだ。」
三人が状況を飲み込めずにいると、心地の良い風と共に銀色の使徒の三人が現れる。モグラ魔族たちはますます状況が飲み込めずに銀色の使徒の三人を見るとその圧倒的な魔力量と威圧で固まってしまう。ポカンとあほ面をする三人にギンロはしゃがみ込み三人を観察する。
「これ、成功じゃない?」
「そのようですねぇ…」
「凄いな、魔力量も、質も、我々に近い、いや、遜色ない。」
モグラ魔族たちは目の前で話しあう銀色の使徒に目を向ける事しかできなかった。ギンロは再び目を向けると、モラグの手を取り立ち上がらせる。そして、他の二人にどいてと手を払うとギンロはモラグの耳元でささやく。
「ねぇ、ちょっとそこ立ってて……」
「いや、なんでですか……」
いいからいいからとギンロは他のメンバーと共に離れると手を構える。そして、魔力がそこに集中するのを見るとモラグの背中に悪寒が駆け巡る。
「動かないでね……」
ギンロは溜った魔力をモラグへ向けて放つ。モラグはその圧倒的に質の違う魔力塊の前に動かなかった………いや、動けなかったが正しい。大きな衝撃音と共にモラグは目を開ける。
「し、死んでない?」
死を悟ったモラグだったが、結果は見事生存していた。ギンロの魔力を受けても生きていることに感心した二人は残りのグラモとラグモも試した。頭が銀色に発達したグラモにはエファが公園の地面を抉り魔力を流し投げる。結果はエファの魔力が流れた岩が破壊されグラモが正存。爪が発達したラグモにはサソリが公園の樹木を切り倒し、同じようにやってみろという。もちろん、樹木にはサソリの魔力を流し込む。結果、サソリの魔力が流れ込んだ樹木が切り倒された。
「これは……大成功だね……」
モグラの三人は怖がりながら銀色の使徒の前で横一列に並ぶ。そして、モラグが挙手をしてギンロへ質問をする。
「えっと……結局何だったんでしょうか?」
「ん~?何って、君ら今日から僕らの仲間ってこと……」
「言ってる意味がちょっと分かんないんですけど……」
ギンロはモラグへ近寄り耳元でささやく。
「人間に復讐したくない……?」
モラグは目を見開き唾を飲み込む。そして、ギンロと目を合わせるとその目を銀色に光らせた。
40:了
「誰かいい実験体の素質がある者は……」
そして、目を見開き口角を上げそこへ一気にちょうやくした。エファとサソリはギンロに続いて背中を追った。
「三人もいれば、行けるでしょ。」
ギンロの視線の先に人気のない公園でタバコを吸い酒を飲んで談笑している三人のモグラ魔族を見つける。それを見たエファとサソリは無言でギンロから銀色の液体が入った注射器を受け取り、三人同時にモグラの魔族の後ろに立ち注射器を静かに打った。痛みで三人は背後を見るが、そこにはもうギンロ達の姿は目視できなかった。タバコを吸っている首に銀色のネックレスをつけたモグラの一般魔族は首筋をさわり他の二人とも顔を合わせる。
「今、なんかに刺さた。」
「僕も刺された。」
「私も刺されましたね。」
だが三人は気にすることなくそのまま酒の入った缶に手を伸ばし一口飲もうとしたその時、三人の体に変化が出始める。気づいたのは、一人称が「私」で頭に人間用のネックレスを巻いているモグラ魔族だった。
「あの、グラモさん…頭に何か乗っかってますよ。銀色のヘルメット?」
「え?僕の頭?……なんだよこれ!」
「そういう、ラグモはなんか爪が伸びてるよ?」
一人称「私」のラグモは自分の爪を見て驚く。そんな二人を見て大笑いする一人称「俺」のネックレスをつけたモグラ魔族のモラグは二人から体が銀色の鎧で覆われていることを指摘する。
「な、なんだよこれぇ!それに、なんか頭痛くなってきたぞ……」
「僕も……」
「私もです…」
三人のモグラの一般魔族はそのまま夏の日差しに照らされ倒れ込んだ。
夏休みも中盤に差し掛かり仕事のない学生は宿題を意識し始める時期。晴山優吾は座学だけは優秀だったので魔法術対策機関の病室でも何も気にすることなくゆっくりとくつろいでいた。その手には、ターコイズブルー色の綺麗な石が真ん中にあしらわれたペンダントが光っている。優吾はそのペンダントを見つめベッドに寝転がる。沈黙の五分が過ぎ去り、病室のドアがスライドされた。目を向けると、そこには何かを手に持っている魔法術対策機関第一班 副班長で優吾の同級生の彩虹寺 綾那が立っていた。彩虹寺は紙袋を持ちながらそのまま優吾へ近づく。
「調子はどうだ?」
「どうもなにも、俺の怪我はそこまでひどくねぇよ。博子さんも言ってたけど、明日で退院だぜ?」
「そうだったか…それじゃ、これは一日早い退院祝いだな。」
彩虹寺は手に持っている紙袋を手渡す。優吾はそれを受け取り首を傾げる。彩虹寺はそんな優吾に開けろと目で催促し優吾は紙袋の中に手を伸ばす。優吾はそれを取り出し、彩虹寺にも見せる。小さな白い箱で電子機器何かが入っているような厚紙の箱。優吾はその箱を開けると、中からは魔法術対策機関のみんなが耳に付けているイヤモニ型通信機だった。
「何だこりゃ。」
「私達も使っている通信機だ。前々から戦闘時に君と意思疎通が取れなくて困っていたところを琉聖さんに報告したら特別に支給されたんだ。細かい設定なんかは全部終わっているからすぐに使える。」
優吾は試しに耳に付けてみる。彩虹寺はその様子を見て微笑みながら、優吾に使い方を教える。
「ここで通信先の切り替え……で、ここを二回押せば個人との会話が可能だ。」
優吾はうなずきながら操作をする。そして早速、星々へ感謝を伝えるために通信をしてみる。
『はいはい~星々で~す。』
「あ、琉聖さん!」
『お~その声は優吾君!早速プレゼントを使いこなしてるね~』
「いえ、こんな素晴らしいもの……ありがとうございます。大事に使いこなして見せます。」
『うん、頼りにしてるよ協力者。』
「はい。」
優吾は改めて礼を言って通信を切った。そして、こちらを見つめながら得意げの彩虹寺と目が合う。
「どうだ?」
「おう、サンキュな。これでいつでも連絡できるわ。」
彩虹寺はうんうんとうなずき、分かりやすく喜ぶ。優吾はそんな嬉しそうな彩虹寺の顔を見ながらまだ紙袋に何か入っているのを確認し取り出した。甘い匂いが漏れる箱を開けると、中から出てきたのは華の香りのする入浴剤だった。優吾は思わず首を目を見開き首を傾げながら彩虹寺の方を見る。彩虹寺は先ほどとは打って変わって少し照れ臭そうに目を背ける。
「これは?」
「いや…そのなんだ…それは私個人からだが…君の好みが分からなかったからな……その監視しているときにお風呂に淹れてもらっただろ?その時に…その……お風呂が寂しく感じたからな……その……気に入るかわからんが…私のお気に入りの入浴剤だ……」
優吾は瞬きをくりかえし二人の間には短い沈黙が流れた。優吾はハッと我に返ると口を開いた。
「お、おう、ありがとな…ありがたく使わせてもらうわ…」
「それじゃ、私はこれで失礼する。」
「お、おう、午後も頑張れ~」
優吾は頬が熱くなるのを感じながら、再びベッドに寝転がる。ふと、もらった入浴剤が目に入り、先ほどの彩虹寺の顔を思い出す。なんだか恥ずかしく気まずくなり、イヤモニも入浴剤も紙袋に戻す。
「いや…何考えてんだよ…俺…」
そのまま優吾は布団を勢いよくかぶった。その後、午後のチェックをして謎に心音が上がるということもあったが、明日には無事退院と博子から言われた。
「おかしいこともあるもんだねぇ…心臓には問題ないけど…何か興奮することがあった?」
「ノーコメントで……」
博子は首を傾げ部屋を後にした。夕方に差し掛かる頃、病室のドアがまたスライドする。珍しい時間にドアが開いたため優吾は思わずくつろいでいた姿勢を崩し、ドア側に目を向けた。立っていたのは、眺めのくせ毛を後ろでまとめた少しやせ細った背の高い男性だった。見覚えのないその男性は優吾と同じ病院着を着用しており同じ入院患者だと分かる。今、ここに入院しているのは、優吾ともう一人致命傷を追った獅子王玲央だけのはずだった。優吾はもしやと思い男性が口を開く前に質問した。
「もしかして、琉聖さんや彩虹寺が言っていた…え~獅子王玲央さんですか?」
「そうだ。俺様が…いや、俺が獅子王だ。」
玲央はそういうとびっこを引く足で優吾の方へ近づく。そして、椅子に座ると数分無言でジッと優吾の方を見つめる。
『気まず…ッ!』
優吾はそのまま玲央と目を合わせて固まる。沈黙を破ったのは、玲央の謝罪の言葉だった。ボロボロの体で玲央は優吾に深々と頭を下げる。
「この度はまことに申し訳ないと思っている。こんな身体だ、土下座はできないことを許してほしい。」
優吾は玲央の発言に驚き、「あ、いや、そんな……」とタジタジになっている。そして、頭を下げたままの玲央に声をかける。
「いや、お互い知らなかったし、何なら今が初対面ですし…その、俺だって玲央さんの体を穴だらけにしちゃったし………そうだ!今回はお互い様だったってことでこの話は無かったこと…にはできないですけど……」
優吾は玲央の肩を掴み、玲央の頭を上げさせる。そして、茫然とする玲央の前に手を差し出す。
「これで、お互い許し合いましょう……ではダメすかね……?」
玲央は瞳に溜っていた涙を流し、その手を掴み優吾と握手する。
「ありがとう。」
「いえ、本当に、お互い事情が事情だったんで…ね?」
「あぁ…本当にありがとう……」
玲央はそのまま優吾談笑して夕飯が出る時間には自室へ戻っていった。
「優吾、ありがとう。俺様は戻る。」
「はい、それじゃ……俺、明日退院なんで、お見舞い行きます。」
「あぁ、いつでも来てくれ……」
病室のドアがしまり、入れ違いで担当の看護師が夕飯を持ってきた。看護師は玲央の方をみて優吾の方も見る。
「玲央さんでしたよね?」
「はい、謝罪と談笑を……」
「彼、昨日手術を終えたばかりですよ?それに誰からも意識を取り戻したという報告はされてませんでした。」
優吾は背筋に悪寒を感じて急いで看護師に説明をする。
「いや、ちゃんと温かい手をしてましたよ!?」
「いや、幽霊の同行の問題ではなく……はぁまぁいいですよ。後で私が博子先生に報告するので……」
看護師は優吾のご飯を運び終えると急いで玲央の病室へ向かった。
「俺に謝りたくて一人で来てたのか……すげぇな……」
そういうもんだじゃないか……と優吾はプレートに乗ったサバの味噌煮を切り分けて口へ運び、退院前の夕飯を堪能した。
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夕刻の公園。空が赤く染まるその下でモグラの一般魔族、モラグ、グラモ、ラグモの三人組は目を覚ます。
「俺ら……どうなったんだっけ?」
倒れた後の記憶がない。だが、場所が変わっていないところを見ると自分は飲み過ぎで倒れたんだと思ったモラグは頭を振っているグラモとラグモへ声をかけようと手を伸ばすが、目の前にはその二人によく似た銀色の魔族がいた。
「えっと…どちらさん?俺のツレは?」
「いや、モラグさん僕ですよグラモですよ。」
「その声はグラモさん。ということはそちらはモラグさん?」
「おう、モラグだ。」
三人が状況を飲み込めずにいると、心地の良い風と共に銀色の使徒の三人が現れる。モグラ魔族たちはますます状況が飲み込めずに銀色の使徒の三人を見るとその圧倒的な魔力量と威圧で固まってしまう。ポカンとあほ面をする三人にギンロはしゃがみ込み三人を観察する。
「これ、成功じゃない?」
「そのようですねぇ…」
「凄いな、魔力量も、質も、我々に近い、いや、遜色ない。」
モグラ魔族たちは目の前で話しあう銀色の使徒に目を向ける事しかできなかった。ギンロは再び目を向けると、モラグの手を取り立ち上がらせる。そして、他の二人にどいてと手を払うとギンロはモラグの耳元でささやく。
「ねぇ、ちょっとそこ立ってて……」
「いや、なんでですか……」
いいからいいからとギンロは他のメンバーと共に離れると手を構える。そして、魔力がそこに集中するのを見るとモラグの背中に悪寒が駆け巡る。
「動かないでね……」
ギンロは溜った魔力をモラグへ向けて放つ。モラグはその圧倒的に質の違う魔力塊の前に動かなかった………いや、動けなかったが正しい。大きな衝撃音と共にモラグは目を開ける。
「し、死んでない?」
死を悟ったモラグだったが、結果は見事生存していた。ギンロの魔力を受けても生きていることに感心した二人は残りのグラモとラグモも試した。頭が銀色に発達したグラモにはエファが公園の地面を抉り魔力を流し投げる。結果はエファの魔力が流れた岩が破壊されグラモが正存。爪が発達したラグモにはサソリが公園の樹木を切り倒し、同じようにやってみろという。もちろん、樹木にはサソリの魔力を流し込む。結果、サソリの魔力が流れ込んだ樹木が切り倒された。
「これは……大成功だね……」
モグラの三人は怖がりながら銀色の使徒の前で横一列に並ぶ。そして、モラグが挙手をしてギンロへ質問をする。
「えっと……結局何だったんでしょうか?」
「ん~?何って、君ら今日から僕らの仲間ってこと……」
「言ってる意味がちょっと分かんないんですけど……」
ギンロはモラグへ近寄り耳元でささやく。
「人間に復讐したくない……?」
モラグは目を見開き唾を飲み込む。そして、ギンロと目を合わせるとその目を銀色に光らせた。
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