ネトゲ恋愛!――おっさんがネットゲームで恋をしたら……

雨模 様

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お墓

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 街道と森の境界にお墓が寂しく鎮座ちんざしている。
 お墓の上にはその墓の持ち主というかその墓で眠る者の名前が浮かんでいる。
『カヤ』
 じつにシュールだ。
 けっして死にたがりではないし、こんな恥ずかしい死に方も望んでいないし、死体おはかさらす趣味もない。

 このゲームではキャラクターが死亡すると、その場でお墓になって身動きが一切いっさい取れなくなる。(チャットは可能)
 復活方法は二通り、時間経過による自動復活か、他者による蘇生。

 前者はお墓の状態で三十分経過すると、村の教会(セーブポイント)に転移し復活するというシステムだ。
 後者はその言葉通りで、お墓の状態中に他人に蘇生魔法か蘇生アイテムを使ってもらう方法だ。その場合は村に戻ることなくその場で復活する。
 ただし両方にはそれぞれペナルティがあった。

 前者は持ち物や装備をランダムでその場に落としてしまう。落とした物は五分後に誰でも拾えるようになる。つまり五分以内に取りに戻らなければ失う可能性があるということだ。
 そして後者は獲得した経験値が半分になってしまう。
 どちらが良いかは死んだ場所やレベル、持ち物によるだろう。

 カヤは墓状態で周りを見る。
 近くを通るプレイヤーがあわれみの視線を向けてくるだけ。
 もちろん蘇生なんて期待していない。
 サービス開始直後なので蘇生魔法が使える様なプレイヤーはまだいないだろう。

 しかし三十分も墓状態を晒すのはいささかみじめだ。
 精神に結構な負担がかかる。
 これは運営に改善要求を出すべきか……などと考えていた時、一人の女の子が墓に近寄ってきた。

 栗色の髪を肩まで伸ばした色白の女の子キャラ。顔立ちは幼く可愛い系なので、その髪型がとても似合っている。服装は初期の村人装備、武器は木のロッド、つまり職業は聖職者。頭上に表示された名前は『シイク』。
 その名前の少し上に吹き出しが表示された。内容は、

「あのー死んじゃったんですか?」

 突然声をかけられて一哉は驚いた。動けるものなら聞こえなかった振りをして立ち去っていたかもしれない。しかし身動きの取れない状態ではどうしようもない。無視すれば立ち去ってくれるかも知れないが、彼女は立ち去る気配はない。

「あの…… 大丈夫ですか?」

 再び声をかけられた。
 さすがにこれ以上無視するのはなんとなく気まずい。大人として取るべき行動ではないと判断した。仕方がないので正直に現状を伝えることにする。

「えっと、見ての通り死んでる。でも墓を観られて喜ぶ趣味はないよ」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃないんです」

 シイクは大きく腰を曲げて二回お辞儀した。(謝辞のエモーション機能)

「ただ、わたし蘇生アイテム持ってるので、迷惑でなければ、その…………蘇生しましょうか?」

 まさかの蘇生の申し出だった。

 蘇生アイテムはたしかにこの辺りのモンスターからドロップするとWikiに情報が載っていた。しかも非常にレアで店売りすればそれなりの金額になる。
 そんなアイテムを他人に使う人なんて、よっぽどの金持ちくらいだろう。だけどサービス開始直後でそんな金持ちがいるはずもない。
 ということは、よほどのお人好しかバカ……。

「えっと、それ結構な値段で売れるはず。もったいないから売った方がいいよ」
「そうなんですか……」
「……」
「……」

 シイクはお墓の横に立って動こうとしない。
 近くを通り過ぎる者たちが、チラチラと横目でこちらを見ていく。

「なにあれ、パーティーメンバーに死なれちゃったのかな」
「あれヒーラーだよな、こんなザコ狩場で仲間死なすなんて、どんだけヘボなんだ」
「そもそもこんな場所で死ぬとかあり得ないだろ」
「このまま三十分待つ気かな。俺なら解散して放って行くな」
「墓と並んで立つなんて恥ずかしくてできないわな」

 そんな侮蔑ぶべつの言葉が聴こえてくるようだ。
 もちろん誰も言葉に出してそんなことを言っているわけではない。なのでこれは一哉の被害妄想だ。
 今の状況で他人が考えそうな言葉を想像しただけだ。
 すこしだけ自分のネガティブ思考に嫌気がさした。

「なあ、早く行ったほうがいいよ? ここにいたら君まで変な目で見られるよ?」
「め、迷惑ですか?」
「いや、迷惑とかじゃないけど、ちょっと恥ずかしい……」
「ごめんなさい。でも、死んでる人を見捨てて行くのって、なんか違う気がして、蘇生がダメならせめて持ち物の確保だけでもさせて下さい」

 村からここまで急いでも五分で来るのは無理だ。だから落とした物を他人に取られない様に守ってくれるという意味だろう。
 だけど初心者なので持ち物なんて大したものはない。やっぱり彼女はお人好しすぎる。
 ただ、そう言って貰えるのは悪い気はしない。それにせっかくの親切を無下にするのは大人として気が引ける。
 だからといってこのまま彼女を好奇な視線に晒すことはしたくない。
 
「わかった、じゃあ蘇生お願いできる?」
「はい! ありがとうございます(笑顔)」

 なんでお礼を言われるんだろうと一哉は頭をひねった。
 お礼を言うのはこっちなのに。

 と、彼女の身体がアイテムを持つ手を中心に光りだした。
 魔法を使った時のようなエフェクトが彼女を包む。
 同時にカヤの画面に『シイクが蘇生しようとしています。蘇生を受けますか』というメッセージウィンドウが表示された。そこにはOKボタンとキャンセルボタンがある。
 もちろんOKボタンを押した。

 お墓はガラガラと砕けちり砂となって消えた。同時に黒髪中性顔のキャラクターが現れた。
 無事蘇生は成功したようだ。
 経験値は多少減ったがレベルが低いためちっとも痛くない。
 お墓状態の三十分と、ここまで戻ってくる時間を狩りにあてたら減少した経験値の数倍は稼げるだろう。
 それ以上に三十分間醜態を晒さずに済んだことにほんとに感謝の気持ちでいっぱいだ。

「ありがとう、ほんとに助かったよ」
「いいえ、こっちこそ蘇生出来て嬉しかったです。ありがとうございます」
「いや、シイクさんがお礼を言うのはおかしくない? ……ってシイクさんて呼んじゃったけど良かったかな?」
「大丈夫です(笑顔)。わたしもカヤさんって呼ばせてもらっていいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます。それにわたしは蘇生がしたくて聖職者という職業をやってるんです。それが出来てとっても嬉しいんです」
「でもお礼を言うのはこっちだから」
「でも嬉しいんです。これまで二回ほどお墓を見かけて声をかけたんですけど、だれも返事をしてくれなくて……カヤさんが初めて返事をしてくれました」
「まぁ三十分もぼ~と画面見てるのも馬鹿らしいし、AFK(away from keyboard)だったんじゃないかな」
「そうかもしれませんけど、私は嬉しかったんです。だからお礼を言わせてください。ありがとうございます」

 シイクは大きくお辞儀した。
 サラサラの長い髪がふわりと肩を流れる。

「それは俺にまた死ねって言ってる?(笑)」
「ち、違います。ごめんなさい、そんな意味じゃないです!」
「あはは、冗談だよ。でもそれなら早く蘇生魔法覚えないとだなぁ」
「はい、一番下位の蘇生魔法でもレベル15からなんです。なかなか先は長いです」
「だったらパーティーに入ったらいいんじゃない? 聖職者は人気だから引っぱりだこだよ?」
「そうなんですか? でもわたし知らない人と話しするの苦手なんです。自分から募集なんて絶対に出来ないし……」
「あぁそれわかる。俺も同じだから」
「そうなんですね? じゃあカヤさんもソロ主体ですか?」
「まぁね、これまで何本かMMOやってるけど、いつもソロだった(笑)」

 街道から少しそれた森の入り口でそんな会話をしていた。
 場所が場所だけに、モンスターが沸いて襲ってきた。
 もちろん、彼女を守る様に戦う。
 格好つけてるわけではなくて、戦士という職業柄、聖職者の前に立つのは当たり前だ。
 そして敵と戦えば攻撃を受けることもある。
 攻撃を受ければHPが減るので回復ポーションを飲む――のだが、その前にシイクが後方から回復魔法を使ってくれた。
 白いエフェクトがカヤの身体を包み一瞬でHPが全回復した。
 なんとも心強いことだろう。

「回復ありがと」
「いいえ、こちらこそ守って貰ってありがとうございます」
「でも、パーティーじゃないから経験値もドロップ品も俺が全部取っちゃってる。せめてドロップ品だけ渡すわ。取引窓開いても大丈夫?」
「いえいえ、わたしはぼーっと見てるだけだし、そんなの貰えません」
「いや、でもそれは申し訳ないし……じゃあ、とりあえずここに一緒に居る間だけでもパーティーを組んでみる?」

 思わず誘ってしまったが、もちろん他意はない。話の流れというか、物の弾みというか、とにかく意図しない方向に話は進んでいる。

「え、パーティーですか?」
「あ、やっぱり嫌だった?」
「いえ、でも私、パーティとか組んだことなくて、どうしたらいいのかよくわかりません」
「んー実は俺もパーティー経験はあまりなくて、だからアドバイスとか出来ないけど、とりあえず適当にやってみない? 攻撃は全部引き受けるから、シイクさんは回復に専念してくれたらいいかな」
「わかりました!」

 そして成り行きでパーティーを組むことになった。
 画面左上隅には自分の名前とHP/SP/MPバーが表示されている。パーティーを組むことでその下にシイクの名前とHP/SP/MPバーが表示された。

 パーティーはあまり好きではないが、シイクとはそれなりに意気投合している気がする。
 戦士と聖職者という組み合わせも悪くない。
 試すのもありかなと言う気持ちになってきた。
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