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Ⅱ.冬の静寂(しじま)
58 噂2
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「きみにしてみれば不愉快だって言うのは解るけどさ。仕方がない面もあるだろ? 相手はあのアルビーなんだからさ」
そう言いながらぺろっと唇を舐めたショーンは、何だか下品で普段の彼らしくない。僕は嫌な気分を押し殺して、どうしてアルビーは仕方がないのかと、訊き返した。
彼は狐に摘ままれたような顔をして僕を眺め、呆れたように首を振った。
「きみ、何も知らないんだな! そうか、だからか! あいつがきみを選んだ理由!」
今度は一人で納得してしたり顔で頷いている。
「あいつの周りにはちょっといないタイプだもんな、きみ。物静かだし、それだけ何も知らないんじゃ、あいつの行動を縛ることもないだろうし」
「行動を縛る?」
「周りがほっとかないからさ。それにあいつも好きだろ?」
眉を寄せ首を傾げて訝しむ僕に、彼はにやにやと笑って顔を近づけ、小声で囁いた。
「あいつ、すごくイイんだろ?」
「何が?」
「セックス」
顔をのけ反らせてショーンの顔をまじまじと見つめた。動揺を悟られまいと、飲みかけのカプチーノに手を伸ばす。もう温くなっているそれをこくりと飲み下した。
ショーンはそんな僕のぎこちない動作を笑って見ながら、追い打ちを掛けるように続けた。
「あのアルビー・アイスバーグがこんな幼児趣味だってんだから、皆驚いているけどさ、俺はまぁ、解らなくもないよ。この外見できみ、意外に頭がいいもんな。ギャップ萌えってやつだな」
我慢だ! 我慢しろ、コウ!
何が幼児趣味で、何がギャップ萌えだよ? 僕は二十歳だ!
目の前のカプチーノをこいつの顔にぶっかけてやりたかったけれど、もうダメージを与えられるほど残っていないし、まともに喰らったアッパーカットの衝撃を誤魔化す方が先だ。僕は怒りで震える指先をカップのハンドルにかけ、平気なフリでごくごくと飲み干した。
「アルビーって、やっぱりそんなにモテるんだ」
口の端に冷笑を浮かべ訊ねた僕に、ショーンは何を勘違いしたのか、知っている限りの彼の噂を洗いざらい教えてくれた。
とにかく大学入学時からの人気者で、いつも取り巻きに囲まれていること。彼は男でも女でも来るもの拒まずだけど、一晩を過ごしても、誰とも付き合うことはないということ。これだけ不特定多数と関係しているのに、誰にも恨まれずトラブルになることもない遊び上手だということ。
「そんな奴を、ステディリングを交わした相手が公衆の面前で平手打ちだもんな。そりゃ、みんな、きみに興味深々さ」
ショーンはまた、面白くて堪らないふうに瞳を輝かせている。
さすがにもう、僕だって我慢しきれずに否定した。この指輪は誕生日にもらったもので、特別な意味などないこと。アルビーはモチーフとしての蜥蜴が好きなだけで、これはステディリングなんかではないこと。
幼児趣味はいくらなんでもあんまりだ。彼の名誉にかかわる。僕たちはそんな関係じゃない。
ショーンは黙って聞いてくれていたけれど、僕が話すにつれて失望の色を浮かべている。そして、最終的に大きくため息をついて舌打ちした。
「やっぱりそんなことだろうと思ってたよ。きみとあいつじゃ、あまりにも違い過ぎるもんなぁ。難攻不落のアルビーが誰か一人を選ぶなんて、あり得ないよな」
そんなことを言いながらも、彼はいつもの彼らしい生真面目な顔に戻ると、僕に忠告してくれた。
「でもそれならきみ、もう少し自分の態度に気を配った方がいいよ。あれじゃあ誰が見たって、きみはアルビーに首ったけだとしか見えないよ。彼もきみがそんなだから、傷つけないように優しくしてくれているんじゃないの?」
そう言いながらぺろっと唇を舐めたショーンは、何だか下品で普段の彼らしくない。僕は嫌な気分を押し殺して、どうしてアルビーは仕方がないのかと、訊き返した。
彼は狐に摘ままれたような顔をして僕を眺め、呆れたように首を振った。
「きみ、何も知らないんだな! そうか、だからか! あいつがきみを選んだ理由!」
今度は一人で納得してしたり顔で頷いている。
「あいつの周りにはちょっといないタイプだもんな、きみ。物静かだし、それだけ何も知らないんじゃ、あいつの行動を縛ることもないだろうし」
「行動を縛る?」
「周りがほっとかないからさ。それにあいつも好きだろ?」
眉を寄せ首を傾げて訝しむ僕に、彼はにやにやと笑って顔を近づけ、小声で囁いた。
「あいつ、すごくイイんだろ?」
「何が?」
「セックス」
顔をのけ反らせてショーンの顔をまじまじと見つめた。動揺を悟られまいと、飲みかけのカプチーノに手を伸ばす。もう温くなっているそれをこくりと飲み下した。
ショーンはそんな僕のぎこちない動作を笑って見ながら、追い打ちを掛けるように続けた。
「あのアルビー・アイスバーグがこんな幼児趣味だってんだから、皆驚いているけどさ、俺はまぁ、解らなくもないよ。この外見できみ、意外に頭がいいもんな。ギャップ萌えってやつだな」
我慢だ! 我慢しろ、コウ!
何が幼児趣味で、何がギャップ萌えだよ? 僕は二十歳だ!
目の前のカプチーノをこいつの顔にぶっかけてやりたかったけれど、もうダメージを与えられるほど残っていないし、まともに喰らったアッパーカットの衝撃を誤魔化す方が先だ。僕は怒りで震える指先をカップのハンドルにかけ、平気なフリでごくごくと飲み干した。
「アルビーって、やっぱりそんなにモテるんだ」
口の端に冷笑を浮かべ訊ねた僕に、ショーンは何を勘違いしたのか、知っている限りの彼の噂を洗いざらい教えてくれた。
とにかく大学入学時からの人気者で、いつも取り巻きに囲まれていること。彼は男でも女でも来るもの拒まずだけど、一晩を過ごしても、誰とも付き合うことはないということ。これだけ不特定多数と関係しているのに、誰にも恨まれずトラブルになることもない遊び上手だということ。
「そんな奴を、ステディリングを交わした相手が公衆の面前で平手打ちだもんな。そりゃ、みんな、きみに興味深々さ」
ショーンはまた、面白くて堪らないふうに瞳を輝かせている。
さすがにもう、僕だって我慢しきれずに否定した。この指輪は誕生日にもらったもので、特別な意味などないこと。アルビーはモチーフとしての蜥蜴が好きなだけで、これはステディリングなんかではないこと。
幼児趣味はいくらなんでもあんまりだ。彼の名誉にかかわる。僕たちはそんな関係じゃない。
ショーンは黙って聞いてくれていたけれど、僕が話すにつれて失望の色を浮かべている。そして、最終的に大きくため息をついて舌打ちした。
「やっぱりそんなことだろうと思ってたよ。きみとあいつじゃ、あまりにも違い過ぎるもんなぁ。難攻不落のアルビーが誰か一人を選ぶなんて、あり得ないよな」
そんなことを言いながらも、彼はいつもの彼らしい生真面目な顔に戻ると、僕に忠告してくれた。
「でもそれならきみ、もう少し自分の態度に気を配った方がいいよ。あれじゃあ誰が見たって、きみはアルビーに首ったけだとしか見えないよ。彼もきみがそんなだから、傷つけないように優しくしてくれているんじゃないの?」
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