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Ⅲ.春の足音
93 旅11 育ち
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バースに在るショーンの親戚の家に着いたのは、もう夜もかなり更けた頃だった。
コリーヌのせいだ。チャリスの井戸でも、トーの丘でも、それこそ丘の中腹のエッグ・ストーンの傍らですら瞑想を始めるから……。
おまけに陽が落ちてからは、ハイストリートにある、紫や緑の外装のいかにも怪しげなスピリチュアル系のお店を廻って、ヒーリンググッズだの、クリスタルだのの物色。一件目であのうさん臭さに鳥肌が立って、とても付き合っていられなかったので、僕とショーンはその一角にあったカフェでお茶を飲んで待つことにした。
ここもそれっぽい、オーガニックのカフェだったけれど。でもまぁ、カモミールのハーブティーは美味しかった。
「きみ、彼女のことが苦手みたいだな」
ショーンが苦笑いしている。
「ニューエイジって、僕には理解できないんだ。興味を持っている対象は同じでも、動機はまるで違うからさ」
「じゃあ、きみの動機は何だい?」
訊かれて思わず、考え込んでしまった。何て言えばいいのか……。
「少なくとも、僕は自然のエネルギーだの、宇宙のパワーだのを利用して、自分の悩みを解決したり人生を良くしようとは思わないよ」
「でもきみは、解るんだろ? そういうのがさ」
「解るとか、見えるとか、そんなのは問題じゃないよ。自然に対する考え方が根本的に違うんだよ」
「どう違うんだい? きみの研究の根幹は四大精霊だろ? ヘルメス哲学を基盤にした」
ショーンはいつものように、畳み掛けて質問してくる。疑問に思ったことは容赦なく突っ込んでくる。こんな彼の、というかアルビーにしても、マリーにしてもそうだけれど、納得できるまで追求してくる姿勢に、僕はもう以前のように戸惑うことはなくなっている。
「『生命の秩序的連鎖』に関しては賛同するけれどね、」
いったん言葉を切って、視線を宙に彷徨わせる。考えて、言葉を選んでいるのだと、相手に伝わるように喉を鳴らす。
「僕の家系は神社だからかな……。その土地とか、自然の持つ膨大な力に対する畏怖の念は人一倍あるのだけれど、それを自分の欲のために使うのは違うと思うんだよ」
「すごいな! きみは、シャーマンの家系ってこと?」
「そうとも言えるけど。でも、うちは分家の末端だし。宗教教育は受けて育っていないよ」
説明が難しい。僕の家は少し変わっているのだ。母方の本家は神社だけど、祖母の家は違う。その血を引く母と結婚した父は、普通の検察官だ。
でも、祖父も、父も婿養子で、家を継ぐ訳でもないのに比良坂の姓を継いでいる。その子供が、たとえ女系であっても比良坂の血を引く人間だって直ぐに判るように。
「上手く言えないけれど、ニューエイジだけじゃなくて、西洋思想って、自然を支配して人間のために役立てるために使う。根底にこんな考え方があるように思えるんだ。僕はそれに賛同できない。自然と人間は支配関係にある訳じゃないと思う」
「それがきみを育んできた日本の風土的宗教思想ってこと?」
「それはどうだろう? 僕の家独自のものかも知れない。比良坂の家の人間は、自然の番人たるべき存在だからって」
そんなふうに、お祖母ちゃんに言われた。
日本古来の宗教観は薄れ、グローバリズムだかなんだかで様々な思想が入り乱れている現代では、もう古い慣習に固執しているだけでは変化に対応していけない。外の世界に出てもっと広く深く学んでおいで、と僕のイギリス留学を後押ししてくれた、お祖母ちゃんの優しくて厳しい眼差しが瞼裏に蘇る。臆病な僕を励まし見守ってくれている。これほど遠く離れていても。
ふっと表情が緩んだのだろうか。僕を見ていたショーンも、ふわりとした柔らかな笑顔を見せてくれた。
「自然の番人か……。何だかきみは不思議な奴だな。みかけは全然普通なのに、コリーヌより余程ミステリアスだよ」
「それはきみが東洋を知らないからさ。無知は恐怖を内包する。ミステリー然り。知で以って恐怖を払うことこそが学問だろ?」
「そうだな。きみの言わんとすることも解らなくはないよ。少なくとも、俺も、きみも魔術師の弟子じゃあないな」
のんびりお茶を飲みながら笑っている彼に、心底ほっとした。家のこととか、他人にこんなに詳しく話したのは初めてだった。
そんなふうにショーンと穏やかな時間を持つことができたから、コリーヌばかりに文句をつける訳にもいかない。けれど、やっとバースに到着した時には、皆疲れ果て、空腹を抱えてイライラしていたのも、事実だったんだ。
コリーヌのせいだ。チャリスの井戸でも、トーの丘でも、それこそ丘の中腹のエッグ・ストーンの傍らですら瞑想を始めるから……。
おまけに陽が落ちてからは、ハイストリートにある、紫や緑の外装のいかにも怪しげなスピリチュアル系のお店を廻って、ヒーリンググッズだの、クリスタルだのの物色。一件目であのうさん臭さに鳥肌が立って、とても付き合っていられなかったので、僕とショーンはその一角にあったカフェでお茶を飲んで待つことにした。
ここもそれっぽい、オーガニックのカフェだったけれど。でもまぁ、カモミールのハーブティーは美味しかった。
「きみ、彼女のことが苦手みたいだな」
ショーンが苦笑いしている。
「ニューエイジって、僕には理解できないんだ。興味を持っている対象は同じでも、動機はまるで違うからさ」
「じゃあ、きみの動機は何だい?」
訊かれて思わず、考え込んでしまった。何て言えばいいのか……。
「少なくとも、僕は自然のエネルギーだの、宇宙のパワーだのを利用して、自分の悩みを解決したり人生を良くしようとは思わないよ」
「でもきみは、解るんだろ? そういうのがさ」
「解るとか、見えるとか、そんなのは問題じゃないよ。自然に対する考え方が根本的に違うんだよ」
「どう違うんだい? きみの研究の根幹は四大精霊だろ? ヘルメス哲学を基盤にした」
ショーンはいつものように、畳み掛けて質問してくる。疑問に思ったことは容赦なく突っ込んでくる。こんな彼の、というかアルビーにしても、マリーにしてもそうだけれど、納得できるまで追求してくる姿勢に、僕はもう以前のように戸惑うことはなくなっている。
「『生命の秩序的連鎖』に関しては賛同するけれどね、」
いったん言葉を切って、視線を宙に彷徨わせる。考えて、言葉を選んでいるのだと、相手に伝わるように喉を鳴らす。
「僕の家系は神社だからかな……。その土地とか、自然の持つ膨大な力に対する畏怖の念は人一倍あるのだけれど、それを自分の欲のために使うのは違うと思うんだよ」
「すごいな! きみは、シャーマンの家系ってこと?」
「そうとも言えるけど。でも、うちは分家の末端だし。宗教教育は受けて育っていないよ」
説明が難しい。僕の家は少し変わっているのだ。母方の本家は神社だけど、祖母の家は違う。その血を引く母と結婚した父は、普通の検察官だ。
でも、祖父も、父も婿養子で、家を継ぐ訳でもないのに比良坂の姓を継いでいる。その子供が、たとえ女系であっても比良坂の血を引く人間だって直ぐに判るように。
「上手く言えないけれど、ニューエイジだけじゃなくて、西洋思想って、自然を支配して人間のために役立てるために使う。根底にこんな考え方があるように思えるんだ。僕はそれに賛同できない。自然と人間は支配関係にある訳じゃないと思う」
「それがきみを育んできた日本の風土的宗教思想ってこと?」
「それはどうだろう? 僕の家独自のものかも知れない。比良坂の家の人間は、自然の番人たるべき存在だからって」
そんなふうに、お祖母ちゃんに言われた。
日本古来の宗教観は薄れ、グローバリズムだかなんだかで様々な思想が入り乱れている現代では、もう古い慣習に固執しているだけでは変化に対応していけない。外の世界に出てもっと広く深く学んでおいで、と僕のイギリス留学を後押ししてくれた、お祖母ちゃんの優しくて厳しい眼差しが瞼裏に蘇る。臆病な僕を励まし見守ってくれている。これほど遠く離れていても。
ふっと表情が緩んだのだろうか。僕を見ていたショーンも、ふわりとした柔らかな笑顔を見せてくれた。
「自然の番人か……。何だかきみは不思議な奴だな。みかけは全然普通なのに、コリーヌより余程ミステリアスだよ」
「それはきみが東洋を知らないからさ。無知は恐怖を内包する。ミステリー然り。知で以って恐怖を払うことこそが学問だろ?」
「そうだな。きみの言わんとすることも解らなくはないよ。少なくとも、俺も、きみも魔術師の弟子じゃあないな」
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そんなふうにショーンと穏やかな時間を持つことができたから、コリーヌばかりに文句をつける訳にもいかない。けれど、やっとバースに到着した時には、皆疲れ果て、空腹を抱えてイライラしていたのも、事実だったんだ。
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