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Ⅲ.春の足音
113 旅31 始まりの島2
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きみに導かれ、とうとうこんな西の果てまでやって来た。
右手の薬指にくるりとその四肢を巻き付け澄ましかえっている火蜥蜴を、反対の指で擦りながら、石畳の続く坂道を上って行った。
ショーンの立てた初めの計画は、ストーンヘンジとその周辺の巨石群巡りだけだった。
セント・ミカエル・レイライン巡りは、コリーヌのようなニューエイジや、スピリチュアル系の人たちの間では人気があるらしいけれど、とても交通の便が悪いのだ。コーンウォール半島は、車でないと、こんなにもスムーズに要所、要所、廻ることは難しい。
きみに導かれてここまで連れて来られたのだ、と、そう思わずにはいられない。
さぁ、今日も上って下りての、階段の始まりだ。
この島は伝説の宝庫だ。人魚や巨人のケルト伝承。宗教上の奇跡。そして有名なアーサー王伝説の一節、トリスタンとイゾルデの舞台でもある。
雑学に詳しいショーンが、歩きながらそんな伝説の数々を話してくれた。彼の話に耳を傾け、鉄製の手摺りに掴まって、少し汗ばみながら頂上を目指しているうちに、二日酔いの気怠さも抜けていた。
ぜいぜいと息を弾ませ、城の麓の芝地から見下ろした景色は、壮観だった。延々と続く水平線。穏やかな遠浅の海の透き通る碧の上に、ぽっかりと空をゆく白雲が鏡映しに遊んでいる。のどかとしか言いようがない。
背後に聳える石造りの城は、断崖の上に建立された砦を兼ねた雄々しいものだと言うのに。海を見下ろす城壁には、強固な砲台まで据えられているにもかかわらずだ。
修道院、城、砦が混在となったこの城の初期の建造物は、十二世紀。島に残るケルト伝承は更にそれ以前のもので、この島は紀元前まで遡れるほどの歴史がある。
城は今でこそナショナル・トラストに管理されているが、数十年前まで持ち主の貴族が実際に暮らしていたそうで、部屋の幾つかが公開されている。
武骨とも思える石積みの城壁をくぐり、室内の重厚な家具、一点、一点を丁寧に見て廻った。「きみは年寄りみたいにアンティークが好きだな」とショーンに笑われた。
「文献の時代考証の一環だよ」と抗議すると、ショーンも真顔で「なるほどな!」と納得してくれた。だけど、本当に解ってくれたのかな?
一旦外に出て礼拝堂を見学し、待ち合わせ場所のテラスの手摺りから断崖を見下ろすと、花崗岩に覆われた急勾配に沿って、庭があった。緑の中に所々花らしきものが咲いていて、華やかな色を載せている。植えられている植物が変わっていて、南国風だ。多肉植物みたいだ。島独自のものなのだろうか?
「驚くよな! こんな所に庭だもんな! ここの持ち主の趣味らしいぞ。変な植物が多いだろ? 海からの風が霜を吹き飛ばして、岩石がラジエーターの代わりになってこんな多彩な植物が育つらしい」
ショーンがしたり顔で教えてくれた。
「残念だな。今日は庭園保護のために、見学はできないらしい」
「うん。いいよ、ここからこうして見られるだけでも」
岩肌に育つ見たこともない奇妙な植物たち。その足元には紺碧の海。なんだか、この世の楽園みたいだ。潮の満ち引きで孤立した島になるのも、アヴァロンを思わせる。
ケルトとの対立ではなく融合によって、火を司る彼と一体化した聖ミカエルの島……。
「コウ、ショーン!」
別行動で写真撮影に余念のなかったミシェルたちが合流した。ショーンが早速、崖下の庭園の説明を始めている。
僕も聞くともなしに、また、庭園に視線を落としていた。
ふと感じた生温かさに唇を引き結んだ。コリーヌが僕の腕を掴んでいる。
「あなた、サラマンダーをどうやって召喚したの?」
耳許に掛かる息と、その言葉の意味するところに、背筋が凍りついていた。
右手の薬指にくるりとその四肢を巻き付け澄ましかえっている火蜥蜴を、反対の指で擦りながら、石畳の続く坂道を上って行った。
ショーンの立てた初めの計画は、ストーンヘンジとその周辺の巨石群巡りだけだった。
セント・ミカエル・レイライン巡りは、コリーヌのようなニューエイジや、スピリチュアル系の人たちの間では人気があるらしいけれど、とても交通の便が悪いのだ。コーンウォール半島は、車でないと、こんなにもスムーズに要所、要所、廻ることは難しい。
きみに導かれてここまで連れて来られたのだ、と、そう思わずにはいられない。
さぁ、今日も上って下りての、階段の始まりだ。
この島は伝説の宝庫だ。人魚や巨人のケルト伝承。宗教上の奇跡。そして有名なアーサー王伝説の一節、トリスタンとイゾルデの舞台でもある。
雑学に詳しいショーンが、歩きながらそんな伝説の数々を話してくれた。彼の話に耳を傾け、鉄製の手摺りに掴まって、少し汗ばみながら頂上を目指しているうちに、二日酔いの気怠さも抜けていた。
ぜいぜいと息を弾ませ、城の麓の芝地から見下ろした景色は、壮観だった。延々と続く水平線。穏やかな遠浅の海の透き通る碧の上に、ぽっかりと空をゆく白雲が鏡映しに遊んでいる。のどかとしか言いようがない。
背後に聳える石造りの城は、断崖の上に建立された砦を兼ねた雄々しいものだと言うのに。海を見下ろす城壁には、強固な砲台まで据えられているにもかかわらずだ。
修道院、城、砦が混在となったこの城の初期の建造物は、十二世紀。島に残るケルト伝承は更にそれ以前のもので、この島は紀元前まで遡れるほどの歴史がある。
城は今でこそナショナル・トラストに管理されているが、数十年前まで持ち主の貴族が実際に暮らしていたそうで、部屋の幾つかが公開されている。
武骨とも思える石積みの城壁をくぐり、室内の重厚な家具、一点、一点を丁寧に見て廻った。「きみは年寄りみたいにアンティークが好きだな」とショーンに笑われた。
「文献の時代考証の一環だよ」と抗議すると、ショーンも真顔で「なるほどな!」と納得してくれた。だけど、本当に解ってくれたのかな?
一旦外に出て礼拝堂を見学し、待ち合わせ場所のテラスの手摺りから断崖を見下ろすと、花崗岩に覆われた急勾配に沿って、庭があった。緑の中に所々花らしきものが咲いていて、華やかな色を載せている。植えられている植物が変わっていて、南国風だ。多肉植物みたいだ。島独自のものなのだろうか?
「驚くよな! こんな所に庭だもんな! ここの持ち主の趣味らしいぞ。変な植物が多いだろ? 海からの風が霜を吹き飛ばして、岩石がラジエーターの代わりになってこんな多彩な植物が育つらしい」
ショーンがしたり顔で教えてくれた。
「残念だな。今日は庭園保護のために、見学はできないらしい」
「うん。いいよ、ここからこうして見られるだけでも」
岩肌に育つ見たこともない奇妙な植物たち。その足元には紺碧の海。なんだか、この世の楽園みたいだ。潮の満ち引きで孤立した島になるのも、アヴァロンを思わせる。
ケルトとの対立ではなく融合によって、火を司る彼と一体化した聖ミカエルの島……。
「コウ、ショーン!」
別行動で写真撮影に余念のなかったミシェルたちが合流した。ショーンが早速、崖下の庭園の説明を始めている。
僕も聞くともなしに、また、庭園に視線を落としていた。
ふと感じた生温かさに唇を引き結んだ。コリーヌが僕の腕を掴んでいる。
「あなた、サラマンダーをどうやって召喚したの?」
耳許に掛かる息と、その言葉の意味するところに、背筋が凍りついていた。
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