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Ⅳ 初夏の木漏れ日
142 桜
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空は久しぶりの晴天。風が少し騒がしいけれど、ピクニック日和だ。
満開の桜の咲く公園で、ショーンとお昼を食べた。桜、といっても僅かに数本植わっているだけだけど。でも、綺麗で、懐かしくて、なんだか泣きたくなる。
「これ旨いな」
ショーンはむしゃむしゃと、何個目かのおにぎりを頬張っている。僕は空になっている彼のカップにジャスミン茶を継ぎ足した。これは最近のアルビーの好み。緑茶だと砂糖が欲しいと言われるので、おにぎりのお供はジャスミン茶だ。ショーンはお茶に関しての好みは煩くない。出されたものを飲む感じ。
午後の授業までかなり時間が空いていたので、僕たちは芝生に直に座り込んでまったりとしていた。天気の良い日はいつでも、どこでも、誰もが似たようなもので、あちらこちらでシートを敷いて寝転がったり、日向ぼっこしたりしている。イギリス人はとにかく日光が好きだ。
「なんだか、眠たくなってくるよねぇ」
おにぎりを作り過ぎたかな。まだ残っているけれど僕はもうリタイアだ。紙のランチボックスをショーンとの境にして、ゴロリと横になる。
「なんだ、もういいのか? 全部食っちまうぞ」
「かまわないよ。時間になったら起こして」
眼がとろんとしていた。瞼を持ち上げていられない。昨夜も遅かったせいだ。休暇中遊んだ分だけ、課題図書を読み進めなきゃいけないから。
週末はアルビーとゆっくりしたい。僕の事情を持ち込みたくない。焦ってつい無理をし過ぎているかもしれない。でもショーンがいてくれるから、寝過ごすことはないと思う。そんな安心感もあって、僕は急速に眠りに落ちていた。
「……だからさ、俺の理想は、そこに寝ている奴だよ」
意識の水底からゆっくりと水面に昇るように目覚めた時、耳に入ったのはショーンのそんな声だった。
「男じゃないの」
険のある女の子の声。なんだか今起きると間が悪い気がして、寝たふりを続ける。
「すごく頭がいいんだ。クラスの誰より独創的な意見を言える奴なんだよ。それにおおらかで寛容的。それなのに几帳面で綺麗好き。料理まで出来る。きみじゃ、逆立ちしたって敵わない。俺がきみよりも、こいつと一緒にいたいって思うのは当然だろ? でも、残念ながらコウは男で、きみは女なんだからさ。夜にはきみの部屋へ行く。どうしてそれじゃ、ダメなんだ?」
ショーン、ちょっと待ってよ。僕を女の子と比べるなよ!
「あなた、それ本気で言っているの? 信じられない! 何が……、私のどこがこんな小学生に劣っているっていうの?」
「失礼なことを言うなよ。きみの脳みその方がよほど小学生並みだろ? そのお頭の幼稚さのせいで、彼には敵わない、ってことだよ」
ショーン、それは言い過ぎだよ!
これはもう、目を開けられない……、どころじゃない。痴話喧嘩は他所でやってくれ!
「よくも、あなた、こんな子どもに!」
悲鳴に近い金切り声を上げられ、怖くてびくっと身体が震えた。
「大きな声を出すなよ、コウが起きるだろ!」
ショーン、僕を庇わなくていいから……。
「それにな、こんな子どもが、きみの憧れのアルビー・アイスバーグの恋人なんだよ。もう忘れたのか? 彼が、例の指輪の子だよ」
え……。
「ほら、解ったらもう行けよ。俺たちも授業が始まる。夜には行くからさ、それでいいだろ?」
彼女の返事は聞こえなかった。でも、多分、立ち去ったのだと思う。
風が強い。
ふわり、と指先が頬に触れた。ビクリ、と目が開いた。
「花びら」
ショーンは風に眼を眇め、小さな薄紅色を摘まみ上げて笑っていた。
満開の桜の咲く公園で、ショーンとお昼を食べた。桜、といっても僅かに数本植わっているだけだけど。でも、綺麗で、懐かしくて、なんだか泣きたくなる。
「これ旨いな」
ショーンはむしゃむしゃと、何個目かのおにぎりを頬張っている。僕は空になっている彼のカップにジャスミン茶を継ぎ足した。これは最近のアルビーの好み。緑茶だと砂糖が欲しいと言われるので、おにぎりのお供はジャスミン茶だ。ショーンはお茶に関しての好みは煩くない。出されたものを飲む感じ。
午後の授業までかなり時間が空いていたので、僕たちは芝生に直に座り込んでまったりとしていた。天気の良い日はいつでも、どこでも、誰もが似たようなもので、あちらこちらでシートを敷いて寝転がったり、日向ぼっこしたりしている。イギリス人はとにかく日光が好きだ。
「なんだか、眠たくなってくるよねぇ」
おにぎりを作り過ぎたかな。まだ残っているけれど僕はもうリタイアだ。紙のランチボックスをショーンとの境にして、ゴロリと横になる。
「なんだ、もういいのか? 全部食っちまうぞ」
「かまわないよ。時間になったら起こして」
眼がとろんとしていた。瞼を持ち上げていられない。昨夜も遅かったせいだ。休暇中遊んだ分だけ、課題図書を読み進めなきゃいけないから。
週末はアルビーとゆっくりしたい。僕の事情を持ち込みたくない。焦ってつい無理をし過ぎているかもしれない。でもショーンがいてくれるから、寝過ごすことはないと思う。そんな安心感もあって、僕は急速に眠りに落ちていた。
「……だからさ、俺の理想は、そこに寝ている奴だよ」
意識の水底からゆっくりと水面に昇るように目覚めた時、耳に入ったのはショーンのそんな声だった。
「男じゃないの」
険のある女の子の声。なんだか今起きると間が悪い気がして、寝たふりを続ける。
「すごく頭がいいんだ。クラスの誰より独創的な意見を言える奴なんだよ。それにおおらかで寛容的。それなのに几帳面で綺麗好き。料理まで出来る。きみじゃ、逆立ちしたって敵わない。俺がきみよりも、こいつと一緒にいたいって思うのは当然だろ? でも、残念ながらコウは男で、きみは女なんだからさ。夜にはきみの部屋へ行く。どうしてそれじゃ、ダメなんだ?」
ショーン、ちょっと待ってよ。僕を女の子と比べるなよ!
「あなた、それ本気で言っているの? 信じられない! 何が……、私のどこがこんな小学生に劣っているっていうの?」
「失礼なことを言うなよ。きみの脳みその方がよほど小学生並みだろ? そのお頭の幼稚さのせいで、彼には敵わない、ってことだよ」
ショーン、それは言い過ぎだよ!
これはもう、目を開けられない……、どころじゃない。痴話喧嘩は他所でやってくれ!
「よくも、あなた、こんな子どもに!」
悲鳴に近い金切り声を上げられ、怖くてびくっと身体が震えた。
「大きな声を出すなよ、コウが起きるだろ!」
ショーン、僕を庇わなくていいから……。
「それにな、こんな子どもが、きみの憧れのアルビー・アイスバーグの恋人なんだよ。もう忘れたのか? 彼が、例の指輪の子だよ」
え……。
「ほら、解ったらもう行けよ。俺たちも授業が始まる。夜には行くからさ、それでいいだろ?」
彼女の返事は聞こえなかった。でも、多分、立ち去ったのだと思う。
風が強い。
ふわり、と指先が頬に触れた。ビクリ、と目が開いた。
「花びら」
ショーンは風に眼を眇め、小さな薄紅色を摘まみ上げて笑っていた。
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