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Ⅳ 初夏の木漏れ日
153 日記1
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アルビーのお父さんの日記を借りて自室に戻った。
これを渡してくれた時、アルビーは苦痛を我慢するような、そんな辛そうな表情をしていた。そして、僕をぎゅっと抱き締めて「読み終えたら、僕の部屋に来て」と、そう耳許で囁いた。僕は頷いて彼の頬にキスを返した。
深緑色の革張りの日記帳は、金で蔓草の箔押しが施されている豪華なものだ。あの美しい人形を生み出す彼の、細やかな美意識が見て取れる。開いたページにも透かし模様が入っている。その上に、独特の癖のある書体で美しく文字が綴られている。
読み易そうで良かった。それが第一印象だった。
ベッドヘッドにもたれて腰を据えた。長時間かかるかもしれないから一番楽な姿勢がいい。そして携帯を横に置く。これで辞書の準備も完璧。
全部に目を通すのは大変そうなので、まずはパラパラとページを捲った。儀式魔術に関する記述があるなら、図面もあるのではないかと思ったんだ。
思った通りだ。半ば辺りに集中して魔法陣が描かれている。その図面の少し前のページから読み始めた。
アーノルド・アイスバーグはアビゲイル・アスターに恋をしていた。日記には若かりし頃の彼の、彼女への想いが連綿と綴られていた。アビゲイルは、アンナの友人で、その頃スティーブとアンナは結婚前提で付き合っていたらしい。そして、アーノルドはスティーブのパブリックスクール時代からの友人だった。その縁で、彼はアビゲイルと出逢った。
でも彼は相当奥手で、自分に自信のない男だったみたいだ。自分みたいに平凡で特徴のない男は彼女には釣り合わないと、自分をこき下ろす文面が延々と続いていた。ちょっとげんなりするくらいに。そんな彼を励まし鼓舞するスティーブの言葉も至る所に綴られている。彼に対する感謝の想いと共に。
アルビーが、僕がアーノルドに似ている、と言ったのは、もしかしてこういう一面のことなのだろうか?
僕はこの日記から眼を逸らし、深くため息を吐いていた。もしそうなら、なんとも言えないよ。アルビーのお父さんに向かって、自分に言うみたいに情けない奴、なんてとても言えないし……。
他人の心を覗き見するのは、なんとも疲れる。
居間では結局飲まずに、保温ポットに移し替えて持って上がった紅茶をカップに注ぎ入れた。椅子に座り直し、それを飲みながら片手でページを繰った。
なんだか信じられない話だ。アーノルドは、恋の成就の願掛けのためにあの四大精霊の人形を創ったなんて。そしてその余りの出来の良さに、スティーブがコンクールに出品し、あれよあれよという間に受賞して、地味で目立たない人形作家だった彼が、一夜にして一世を風靡する芸術家に早変わりだ。
まだここに描かれ研究されている魔法陣の出番はない。
いったい儀式はいつ行われたんだろう? 普通に考えるなら、僕たちと同じ夏至の頃のはず。一気にページを飛ばす。
あった。夏至の記述。
この召喚魔法……。何のこともない子ども騙しだ。どこででも手に入るおまじないの本にでも載っているような……。こんなものを信じて、彼は本当に自分の創った大切な作品を燃やしたのだろうか? 賞まで貰った出世作を……。
頭が痛い。アーノルドのすることは訳が解らない。彼の創る人形に意味があると思った僕の見当違いだったのだろうか?
それならなぜ水の精霊の人形は、ああもコリーヌに似ている?
はっとした。電流が走ったように、ページを持つ手が震えていた。
やはり僕は思い違いをしていたんだ!
――この四大精霊の人形にはね、モデルがいたらしいんだ。
確か、アルビーはあの時そう言った。
儀式が重要なんじゃない。モデルとなった人。そのモデルが彼らなんだ!
僕はもう一度ページを繰り直した。どこで出逢ったのか、いつ出逢ったのか、綴られているはずの火の精霊の記述を、眼を皿にして隅々まで探し読んだ。
これを渡してくれた時、アルビーは苦痛を我慢するような、そんな辛そうな表情をしていた。そして、僕をぎゅっと抱き締めて「読み終えたら、僕の部屋に来て」と、そう耳許で囁いた。僕は頷いて彼の頬にキスを返した。
深緑色の革張りの日記帳は、金で蔓草の箔押しが施されている豪華なものだ。あの美しい人形を生み出す彼の、細やかな美意識が見て取れる。開いたページにも透かし模様が入っている。その上に、独特の癖のある書体で美しく文字が綴られている。
読み易そうで良かった。それが第一印象だった。
ベッドヘッドにもたれて腰を据えた。長時間かかるかもしれないから一番楽な姿勢がいい。そして携帯を横に置く。これで辞書の準備も完璧。
全部に目を通すのは大変そうなので、まずはパラパラとページを捲った。儀式魔術に関する記述があるなら、図面もあるのではないかと思ったんだ。
思った通りだ。半ば辺りに集中して魔法陣が描かれている。その図面の少し前のページから読み始めた。
アーノルド・アイスバーグはアビゲイル・アスターに恋をしていた。日記には若かりし頃の彼の、彼女への想いが連綿と綴られていた。アビゲイルは、アンナの友人で、その頃スティーブとアンナは結婚前提で付き合っていたらしい。そして、アーノルドはスティーブのパブリックスクール時代からの友人だった。その縁で、彼はアビゲイルと出逢った。
でも彼は相当奥手で、自分に自信のない男だったみたいだ。自分みたいに平凡で特徴のない男は彼女には釣り合わないと、自分をこき下ろす文面が延々と続いていた。ちょっとげんなりするくらいに。そんな彼を励まし鼓舞するスティーブの言葉も至る所に綴られている。彼に対する感謝の想いと共に。
アルビーが、僕がアーノルドに似ている、と言ったのは、もしかしてこういう一面のことなのだろうか?
僕はこの日記から眼を逸らし、深くため息を吐いていた。もしそうなら、なんとも言えないよ。アルビーのお父さんに向かって、自分に言うみたいに情けない奴、なんてとても言えないし……。
他人の心を覗き見するのは、なんとも疲れる。
居間では結局飲まずに、保温ポットに移し替えて持って上がった紅茶をカップに注ぎ入れた。椅子に座り直し、それを飲みながら片手でページを繰った。
なんだか信じられない話だ。アーノルドは、恋の成就の願掛けのためにあの四大精霊の人形を創ったなんて。そしてその余りの出来の良さに、スティーブがコンクールに出品し、あれよあれよという間に受賞して、地味で目立たない人形作家だった彼が、一夜にして一世を風靡する芸術家に早変わりだ。
まだここに描かれ研究されている魔法陣の出番はない。
いったい儀式はいつ行われたんだろう? 普通に考えるなら、僕たちと同じ夏至の頃のはず。一気にページを飛ばす。
あった。夏至の記述。
この召喚魔法……。何のこともない子ども騙しだ。どこででも手に入るおまじないの本にでも載っているような……。こんなものを信じて、彼は本当に自分の創った大切な作品を燃やしたのだろうか? 賞まで貰った出世作を……。
頭が痛い。アーノルドのすることは訳が解らない。彼の創る人形に意味があると思った僕の見当違いだったのだろうか?
それならなぜ水の精霊の人形は、ああもコリーヌに似ている?
はっとした。電流が走ったように、ページを持つ手が震えていた。
やはり僕は思い違いをしていたんだ!
――この四大精霊の人形にはね、モデルがいたらしいんだ。
確か、アルビーはあの時そう言った。
儀式が重要なんじゃない。モデルとなった人。そのモデルが彼らなんだ!
僕はもう一度ページを繰り直した。どこで出逢ったのか、いつ出逢ったのか、綴られているはずの火の精霊の記述を、眼を皿にして隅々まで探し読んだ。
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