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Ⅳ 初夏の木漏れ日
155 日記3
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「アーノルドが再び、儀式で燃やしてしまった四大精霊の人形と全く同じものを創ったのは、アビーの病気を知った時期と重なるんだ」
アルビーは感情の抑制された、抑揚のない声音で話し始めた。
「それは、また、あの、おまじないのような儀式をする為なのかな?」
そう言えば彼の恋は成就した訳だから、アーノルドが、精霊の儀式は効果があると信じても不思議はないような気もする。そんな儀式に自分の想いを託す彼の心理は、僕には理解できないものだけれど。迷信を信じる人というものは、全く無関係な経緯を経ていても、結果さえ希望に沿ったものになるなら、それを神秘の力に結び付けたがるものなのだ。
「依頼されたんだよ」
アルビーはじっと僕を見つめている。僕は彼の言わんとすることが解らず、小首を傾げた。
「燃やした四大精霊のモデルにしたという連中からね」
「あり得ない!」
僕は思わず声を荒げていた。そして、はっとした。間違っているのは僕の方だ。火の精霊のモデルになったのは、彼ではない。僕の中で、彼と、その本来の赤毛の男がごっちゃになっているんだ。
「ちょっと待って、アルビー。僕は少し混乱しているみたいだよ」
ぎゅっと顔をしかめて眼を瞑る。瞼裏に、彼の面影が浮かび上がる。
え?
「アルビーは、どう考えているの? 僕の知っている彼は、外見は僕と変わらない年代の子だよ。彼が人形のモデルになったと考えるには、年齢が合わない」
当然だ。彼は人形のモデルなんかじゃないもの。彼自身があの外見を選んだんだ。
「そうだね。単純に考えてもこのモデルになった人は、今は五十代を超えているはずだね」
アルビーは当然のことのように頷いた。
「だからね、その子どもか親戚、きみの友人はそういう縁続きの子じゃないかな、って思って、きみに訊ねたかったんだ」
親戚……、なんかじゃないことを、僕はよく解っている。精霊のモデルになった人たちは、彼とは関係ない誰かで、僕はただ、記憶の中の彼とそっくりの人間がこの世に別にいるという偶然、そして僕の知り合ったフランス人のコリーヌも、水の精霊にそっくりな面差しを持つという偶然に惑わされて、問題の論点を見誤ってしまっただけに過ぎない。
記憶の中の彼……。
――記憶の中の彼ら。
「アーノルドはどこで彼らに出逢ったのかな?」
「判らないんだ」
「日記には書かれていなかったの?」
アルビーは残念そうに首を振る。そのことが、急にとても不思議に思えた。
「きみはどうして四大精霊の人形にこだわるの?」
「スティーブがね、欲しがってるんだ」
「どうして?」
「それがアーノルドに取って意味のあるものだと、彼は思っているからだよ」
どこか腹立たし気に、アルビーは視線を伏せた。
「スティーブのために、きみは赤毛の人形が欲しかったの?」
口から零れ落ちたこの問いは、なんだか自分でも拗ねているように聞こえて、言ってしまってから恥ずかしくなって、僕は拳をきゅっと握り込んだ。
クスッと、アルビーにも笑われた気がした。でも彼はそんな僕を包み込むように、ふわりと被さるように、抱き締めた。
「もう終わりにしたいんだ」
耳許で囁かれたのは、そんな言葉で。
僕はその声に縛られたように躰が動かなくなって、「何を」の一言を発することが出来なかった。
アルビーは感情の抑制された、抑揚のない声音で話し始めた。
「それは、また、あの、おまじないのような儀式をする為なのかな?」
そう言えば彼の恋は成就した訳だから、アーノルドが、精霊の儀式は効果があると信じても不思議はないような気もする。そんな儀式に自分の想いを託す彼の心理は、僕には理解できないものだけれど。迷信を信じる人というものは、全く無関係な経緯を経ていても、結果さえ希望に沿ったものになるなら、それを神秘の力に結び付けたがるものなのだ。
「依頼されたんだよ」
アルビーはじっと僕を見つめている。僕は彼の言わんとすることが解らず、小首を傾げた。
「燃やした四大精霊のモデルにしたという連中からね」
「あり得ない!」
僕は思わず声を荒げていた。そして、はっとした。間違っているのは僕の方だ。火の精霊のモデルになったのは、彼ではない。僕の中で、彼と、その本来の赤毛の男がごっちゃになっているんだ。
「ちょっと待って、アルビー。僕は少し混乱しているみたいだよ」
ぎゅっと顔をしかめて眼を瞑る。瞼裏に、彼の面影が浮かび上がる。
え?
「アルビーは、どう考えているの? 僕の知っている彼は、外見は僕と変わらない年代の子だよ。彼が人形のモデルになったと考えるには、年齢が合わない」
当然だ。彼は人形のモデルなんかじゃないもの。彼自身があの外見を選んだんだ。
「そうだね。単純に考えてもこのモデルになった人は、今は五十代を超えているはずだね」
アルビーは当然のことのように頷いた。
「だからね、その子どもか親戚、きみの友人はそういう縁続きの子じゃないかな、って思って、きみに訊ねたかったんだ」
親戚……、なんかじゃないことを、僕はよく解っている。精霊のモデルになった人たちは、彼とは関係ない誰かで、僕はただ、記憶の中の彼とそっくりの人間がこの世に別にいるという偶然、そして僕の知り合ったフランス人のコリーヌも、水の精霊にそっくりな面差しを持つという偶然に惑わされて、問題の論点を見誤ってしまっただけに過ぎない。
記憶の中の彼……。
――記憶の中の彼ら。
「アーノルドはどこで彼らに出逢ったのかな?」
「判らないんだ」
「日記には書かれていなかったの?」
アルビーは残念そうに首を振る。そのことが、急にとても不思議に思えた。
「きみはどうして四大精霊の人形にこだわるの?」
「スティーブがね、欲しがってるんだ」
「どうして?」
「それがアーノルドに取って意味のあるものだと、彼は思っているからだよ」
どこか腹立たし気に、アルビーは視線を伏せた。
「スティーブのために、きみは赤毛の人形が欲しかったの?」
口から零れ落ちたこの問いは、なんだか自分でも拗ねているように聞こえて、言ってしまってから恥ずかしくなって、僕は拳をきゅっと握り込んだ。
クスッと、アルビーにも笑われた気がした。でも彼はそんな僕を包み込むように、ふわりと被さるように、抱き締めた。
「もう終わりにしたいんだ」
耳許で囁かれたのは、そんな言葉で。
僕はその声に縛られたように躰が動かなくなって、「何を」の一言を発することが出来なかった。
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