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第二章 Ⅳ ホームパーティーのはじまり、はじまり
23.好意という名の災厄もある
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マリーに呆れ果てて言葉もでない。
友だちを呼んでいいと言ったけれど、それがまさかミラだなんて、僕も、ショーンも思いつきもしなかった。
いや、ショーンは知っていたのかも知れない。なんだか不機嫌な顔をして言っていたもの、今日のメンツはどうとかって――。
ショーンとミラが別れたのも、うちの夕食に招いた日のことだった。それが直接のきっかけだったわけではないけれど。二人の問題だと言ってしまえばそうなのだけど。ショーンにとって、ミラはこんな形で顔を合わせて嬉しい相手じゃないはずだ。
マリー、それはいくらなんでも、ショーンへの配慮がないよ!
結果的に、バーナードさんにも悪いことをしたと思う。これなら堅苦しい晩餐会の方がよほどマシだった。ゲールのことまで一緒に片づけようと横着したのが間違いだった。
だって、レセプションルームの長いソファーに座るバーナードさんは、あくまで礼儀正しくにこやかな紳士なのだ。それなのに、逃がすものかとでもいうふうに、両サイドをマリーとミラでがっちりと固めている今の現実は、獲物を追い詰める狩場と化している。
いったい、どういうつもりなのだろう。
この肉食獣たちは、長い金髪を揃って高く結い上げて、競い合うようにきらきらしいドレスを着ている。もちろん仮装パーティーのときのような、お姫様な恰好ではない。マリーはつるんとした銀色の地に総レース。今まで僕が見たことがないドレスだ。ミラにいたっては、細い肩紐にぺらぺらの下着みたいなローズピンクのドレスだ。二人と股が出るほど短い丈で、露出度高すぎ。
気楽な服装で、って伝えた僕の言うことなんて、相変わらず聞いてない。
マリーに問い質したくて堪らない。もちろん、この場でそんなこと、僕にできるわけがないけれど――。
「迷っちゃってまだ準備できてないのよ、ハロウィンの仮装。去年が悲惨だったから。うんとセクシーなものにしたいの。黒づくめの魔女なんてサイテー。ねぇ、私にはどんな仮装が似合うと思う?」
「あら、去年の魔女、評判良かったじゃないの!」
「あれが! あんた、どんなセンスしてんのよ! 嫌よ。去年はあんたと組んで大失敗だったわ。あんな陰気臭い恰好しちゃってたなんて、一生の黒歴史よ!」
「あら、黒ってセクシーな色だと思うわよ。そう思わない、コウ?」
僕に同意を求めるなよ! なんて話をバーナードさんを挟んでしてるんだ。
「そうね、心理学的にはどうなのかしら?」
「それ、知りたい! グイグイアピールして、セクシーに、魅力的に見せてくれる色ってないの?」
僕だったら堪らない。心理学って――、彼の専門は臨床心理だ。こんなの、彼にはまるで関係ないじゃないか。
上目遣いで懸命に喋る二人から話を振られたバーナードさんは、こんなどうでもいい会話に「そうだね――」、と誠実にどう答えようかと考えている。
だけど、話の途中でさりげなく肩に置かれたミラの手を「失礼」、と料理を取り分けることで自然に外していたあたり、両手に花の今の状態を鼻の下を伸ばして喜んでいるようにはとても見えない。
間違いなく迷惑をかけている。だけど、僕にはこんな輪の中に入って、彼を救い出すほどの才覚なんてなくて。目の前にある食べもので黙々と口を塞いでいるだけだ。今からこんなに食べていると、メインが入らなくなるんじゃないだろうか。その兼ね合いが難しい。
ローテーブルに置かれているのはチーズと生ハムの盛り合わせ、オリーブ、ナッツ、野菜スティックに薄切りしたフランスパンと3種のディップ。それにミックスベリーのフルーツサラダ。それらが白磁に金彩の蔦模様の皿に綺麗に盛りつけられ、小さな白薔薇と葡萄やマスカットで飾られている。
これまでブラウン兄弟の出してくれていた料理とはちょっと違う。華やかでセッティングにまでこだわっているのは、ホームパーティーだからだろうか。
食前酒も、バーナードさんやショーンには辛口のシャンパンを、酒に弱い僕や女性陣には透き通った赤い焔色のカクテルを用意してくれている。フルートグラスの縁にヘタ付きの苺がちょこんと飾られていて可愛らしい。マリーたちも、最初は大喜びできゃっきゃ言っていたけれど。
今や食べることよりもお喋りに夢中だ。
肝心のゲールが、何かトラブルがあったらしく遅れるとのことで、ここでしばらく時間を潰しておくことになったから。だけどそれも、建物の裏手にある地下鉄の駅までショーンが迎えに出てくれたから、もう少しの我慢。我慢だ。
本当は、僕が迎えに行きたかったんだけど――。
「赤かな」
ふっと耳に入ってきたバーナードさんの声に、思わず何の話だったっけ、と首を傾げてしまった。目が合うと、彼の口許がふわりと緩んだ。
友だちを呼んでいいと言ったけれど、それがまさかミラだなんて、僕も、ショーンも思いつきもしなかった。
いや、ショーンは知っていたのかも知れない。なんだか不機嫌な顔をして言っていたもの、今日のメンツはどうとかって――。
ショーンとミラが別れたのも、うちの夕食に招いた日のことだった。それが直接のきっかけだったわけではないけれど。二人の問題だと言ってしまえばそうなのだけど。ショーンにとって、ミラはこんな形で顔を合わせて嬉しい相手じゃないはずだ。
マリー、それはいくらなんでも、ショーンへの配慮がないよ!
結果的に、バーナードさんにも悪いことをしたと思う。これなら堅苦しい晩餐会の方がよほどマシだった。ゲールのことまで一緒に片づけようと横着したのが間違いだった。
だって、レセプションルームの長いソファーに座るバーナードさんは、あくまで礼儀正しくにこやかな紳士なのだ。それなのに、逃がすものかとでもいうふうに、両サイドをマリーとミラでがっちりと固めている今の現実は、獲物を追い詰める狩場と化している。
いったい、どういうつもりなのだろう。
この肉食獣たちは、長い金髪を揃って高く結い上げて、競い合うようにきらきらしいドレスを着ている。もちろん仮装パーティーのときのような、お姫様な恰好ではない。マリーはつるんとした銀色の地に総レース。今まで僕が見たことがないドレスだ。ミラにいたっては、細い肩紐にぺらぺらの下着みたいなローズピンクのドレスだ。二人と股が出るほど短い丈で、露出度高すぎ。
気楽な服装で、って伝えた僕の言うことなんて、相変わらず聞いてない。
マリーに問い質したくて堪らない。もちろん、この場でそんなこと、僕にできるわけがないけれど――。
「迷っちゃってまだ準備できてないのよ、ハロウィンの仮装。去年が悲惨だったから。うんとセクシーなものにしたいの。黒づくめの魔女なんてサイテー。ねぇ、私にはどんな仮装が似合うと思う?」
「あら、去年の魔女、評判良かったじゃないの!」
「あれが! あんた、どんなセンスしてんのよ! 嫌よ。去年はあんたと組んで大失敗だったわ。あんな陰気臭い恰好しちゃってたなんて、一生の黒歴史よ!」
「あら、黒ってセクシーな色だと思うわよ。そう思わない、コウ?」
僕に同意を求めるなよ! なんて話をバーナードさんを挟んでしてるんだ。
「そうね、心理学的にはどうなのかしら?」
「それ、知りたい! グイグイアピールして、セクシーに、魅力的に見せてくれる色ってないの?」
僕だったら堪らない。心理学って――、彼の専門は臨床心理だ。こんなの、彼にはまるで関係ないじゃないか。
上目遣いで懸命に喋る二人から話を振られたバーナードさんは、こんなどうでもいい会話に「そうだね――」、と誠実にどう答えようかと考えている。
だけど、話の途中でさりげなく肩に置かれたミラの手を「失礼」、と料理を取り分けることで自然に外していたあたり、両手に花の今の状態を鼻の下を伸ばして喜んでいるようにはとても見えない。
間違いなく迷惑をかけている。だけど、僕にはこんな輪の中に入って、彼を救い出すほどの才覚なんてなくて。目の前にある食べもので黙々と口を塞いでいるだけだ。今からこんなに食べていると、メインが入らなくなるんじゃないだろうか。その兼ね合いが難しい。
ローテーブルに置かれているのはチーズと生ハムの盛り合わせ、オリーブ、ナッツ、野菜スティックに薄切りしたフランスパンと3種のディップ。それにミックスベリーのフルーツサラダ。それらが白磁に金彩の蔦模様の皿に綺麗に盛りつけられ、小さな白薔薇と葡萄やマスカットで飾られている。
これまでブラウン兄弟の出してくれていた料理とはちょっと違う。華やかでセッティングにまでこだわっているのは、ホームパーティーだからだろうか。
食前酒も、バーナードさんやショーンには辛口のシャンパンを、酒に弱い僕や女性陣には透き通った赤い焔色のカクテルを用意してくれている。フルートグラスの縁にヘタ付きの苺がちょこんと飾られていて可愛らしい。マリーたちも、最初は大喜びできゃっきゃ言っていたけれど。
今や食べることよりもお喋りに夢中だ。
肝心のゲールが、何かトラブルがあったらしく遅れるとのことで、ここでしばらく時間を潰しておくことになったから。だけどそれも、建物の裏手にある地下鉄の駅までショーンが迎えに出てくれたから、もう少しの我慢。我慢だ。
本当は、僕が迎えに行きたかったんだけど――。
「赤かな」
ふっと耳に入ってきたバーナードさんの声に、思わず何の話だったっけ、と首を傾げてしまった。目が合うと、彼の口許がふわりと緩んだ。
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