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19.新たな一面
しおりを挟むユリアンがハンスを許せない気持ちは分かる。だが「分かるよ」と言ったところで何の解決にもならないし、次の言葉を紡げず、三人の間に沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのはアレンだった。
「俺は、少しだけあそこに置き去りにされている彼の気持ちが分かる」
「はあ?」
気持ちが分かるなんて言われて、僕はアレンを疑いの目で見た。
「ごめん、フィルに勝手にそんなことをしたのは反省してる。もう二度と許可なく魔力を出したりしない」
「当たり前だ」
「俺にとってフィルは唯一だから、あの時は気持ちが抑えられなくなった。初めて触れ合えることが嬉しくて仕方なかったんだ。同時に初めてだから自信が無かった。いけないと理解はしていたんだ」
そうだったのか。いけないと思ってはいたんだな。
「事後は幸せもあったけど、罪悪感でいっぱいで……フィルが問い詰めてくれなかったら、俺も言えなかったかもしれない。言えたから、嫌われはしたけど騙しているという罪悪感からは解放された」
「……」
ユリアンはアレンの言葉を黙って聞いていた。
「俺も、一歩間違えば、彼のようになっていたと思う。いけないことだが、たぶん彼もずっと悩み反省はしていたのではないかと、思う。……たぶん、おそらく……」
最後の方は自信がなくなってごにょごにょと濁していたけど、立場が変われば見える景色も違うということが分かった。
「ユリアン、ハンスにチャンスをやるか? それでも許可なくそんなことを続けるようなら、ペアは続けても恋人関係は切ればいい」
「僕はまだあいつを許せないから、今はチャンスをやれそうにない。しばらくは触れたくもない」
「そうか。例えば今日僕がしたみたいに、後ろ向きで手を差し出して熱を冷ますくらいなら受け入れられるか? それも嫌か?」
「分からない。ただ、今は怒りが抑えられない」
握り締めた拳は細かく震えている。ユリアンもきっと悩んでいるんだ。許せない気持ちと好きな気持ちが両方あるんだろう。
「しばらく彼から離れて休めばいい。今すぐに決めることはない。俺の屋敷を貸してやろう。あそこなら制御できないほどの魔力を垂れ流しても大丈夫な部屋がある。俺たちは周りに与える影響が大きすぎて憤りを発散できない。それは苦しいだろ? 思う存分、考えてみればいい」
アレンは冷静にユリアンを見ていた。
アレン、僕はなんか感動した。アレンがめちゃくちゃ頼りになる格好いい男に見える。
「でも……」
「ユリアン、そうしなよ。アレンの屋敷はフェデラーの王城の敷地内だし、ハンスが勝手に入ることも無いからゆっくり考えられるよ」
「あの彼には、俺たちが話をつけるから、心配しなくていい。俺たちはフィルの部屋で過ごすから、そこも心配無用だ」
僕の部屋? たぶん凍ったままだ……。
アレンみたいなちゃんとした屋敷じゃないし、ギルドの部屋だ。他の属性特化の部屋と比べたら大きいけど……。
「僕の部屋はギルドの部屋だから狭いぞ」
「それなら宿を借りてもいい。それは今は重要ではない。あとで考えよう」
アレンが、あのアレンがとても常識人だ。
「そうだな。ユリアンそうしよう。とにかくユリアンをアレンの屋敷まで送って行くぞ。ハンスは反省の意味も込めて待たせておこう」
「うん。ありがとうフィル、アレンさん」
「俺もアレンと呼び捨てでいい」
こうしてユリアンを連れてアレンの屋敷に向かうことになった。
「ハンス、話は後で聞くからそこで待っていてくれ」
僕たちはそう言い残すと、アレンのワイバーンに三人で乗って屋敷に向かった。ユリアンは最後までハンスの方を見ることはなかった。
アレンがユリアンに部屋の説明をして、王様や護衛や使用人にも話をつけてくれた。そんな手際よく色々こなしていくアレンを見るのは初めてで新鮮だった。
「今はゆっくり休むといい。ここの護衛は炎属性特化の扱いに慣れているし、分からないことがあれば聞くといい」
「アレン、ありがとう。フィルも、ありがとう」
さて、やっちまったハンスの元に向かうか。
「アレン、格好よかった」
「そうか。そんな風に言われると恥ずかしい」
アレンが照れている。全裸を見られるより褒められる方が恥ずかしいのか。謎だ。そんなアレンを見るのも初めてだった。
これからもこうして新たなアレンを発見していくことになるのか。第一印象が最悪だったし、色々嫌なこともあったから、こんな風に仲良くワイバーンに乗っていることが信じられない気分だ。
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