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隼人編

3.見つけてしまった

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向日葵畑を眺めながら梓とツーショットを撮った。親も見ているようで、定期的にこうして僕と仲良しでいるということをインスタに上げておかないと疑われるのだとか。
まあ、そのおかげで僕も女子から絡まれることなく過ごせているのでいいんだが。

「梓、僕、向日葵はちょっと・・・」
「え?向日葵嫌い?」
「花自体は別に嫌いじゃないけど、思い出してしまうから。」
「そっか、ごめん。写真撮れたし、もう移動して美味しいものでも食べよ。」
「そうだね。」

こういうところが、梓と付き合いやすいポイントだと思う。ここで我儘を言ったり、興味本位で詳細を聞いてきて傷を抉るような奴なら、もうとっくに友だちをやめているだろう。


そこから都心まで移動して、イタリアンの店に入った。

「この後、隼人くんの家行っていい?」
「また?」
「この前読みかけてた漫画読みたいし。」
「しょうがない。」

これでも彼女は僕を気遣っているつもりなんだ。僕を1人にしたらいけないと思ったんだろう。これで男だったら僕は梓に惚れてると思う。しかし残念ながらこいつは女なんだよな。

「この辺りはあんまり来ないけど、色んな店があるからまた来たいな。」
「そうだね。さっきのイタリアンも美味しかったね。」

そんなことを言いながら2人で来た電車に乗って、ドアが閉まった。
ゆっくりと動き出す電車からホームをボーッと眺めていたら、僕の心臓がドクンっと鳴った。
熱い血液が無理やり押し出されて全身を駆け巡る。


有輝・・・

見間違うわけない。何年経っても、忘れるわけない。目が離せなかった。そして有輝は僕を見て目が合ったと思ったら目が見開かれ、立ち止まった。
でも電車は止まってくれるわけもなく、どんどん速度を増していった。


「梓、ごめん。今日は無理。」
「そっか。分かった。じゃあまた今度にするね。」

何も聞かずに受け入れてくれる梓はやっぱりいい奴だな。
ドキドキと高鳴ったままの鼓動と、今日見た向日葵の花畑、大人になった有輝の姿が重なって、腹がジクリと痛んだ。

卒業式の日、実家の風呂で痛いのを我慢して全部出したはずだったのに、夜中から腹が痛みだして苦しんだ。それを体が覚えていたんだと思う。
そんなわけないのに、何だか尻まで痛い気がしてきた。
体を重ねたことは覚えていようと思ったけど、その痛みも覚えていようと思ったけど、事後に1人で苦しんだ時のことなど思い出したくはなかった。

梓と分かれて1人家に帰る。
疼く下半身を抑えられず、僕は風呂に駆け込んで、指で前と後ろを慰めた。

有輝・・・

もう2度と、見ることも、会うことも無いと思っていた。
忘れていた有輝への想いまで湧き上がってきて、何度も何度も僕は有輝から与えられた痛みを再現しようと指を中で掻き回した。

ダメだ・・・

あれは有輝でないと再現できないらしい。
撒き散らされた種と満たされない気持ちをシャワーで流すと、僕はため息と共に眠りについた。
 
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