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隼人編

2.高校生の頃の回想

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僕と大和有輝(ヤマトユキ)は高校に入ってから仲良くなった。背の高い有輝はいつも目立って、美形というよりはワイルドという言葉が合うような見た目の奴だった。
明るくて誰とでも話すし、すぐに仲良くなるような奴だ。
僕は真逆。人とそんなに話せないし、自分から話しかけることはまず無い。高校を卒業するまでは特に人と関わることを避けていたように思う。
僕は入学式の日、同じクラスの隣の席になって「よろしくな」と言われた瞬間、有輝に恋に落ちた。そんなこと絶対に言えなくて、それなのに有輝はいつも僕に構ってくるから、肩を組まれる度にドキドキしていたし、顔を近づけられるだけでビクビクしてた。

これは完全な片思いだから2人の間には友情以外には何もない。
2年になって有輝の視線がある人を追うようになった。音楽の先生、指が長くて長い髪を一つにまとめている綺麗な女の人。分かってた。有輝の恋愛対象は女の子だってこと。いつかそんな日が来るかもって思ってたけどそんなのずっと先だと思ってたし、僕がいないところでやってほしかった。他校の子とかならまだ見なくていいからよかったのに。
僕のことを素通りして向こうにいる先生を見つめる熱い視線、ため息、憂いの横顔。音楽の授業は少し嬉しそうで、本当に、・・・本当に苦しい。

有輝は僕が気付いてないと思ってるみたい。だから僕への態度は変わらなかった。
たぶんクラスの奴らも誰も気付いてないと思う。僕みたいに有輝の目線一つまで見ていなければ分からない。
僕も、そんなの分からない方がよかった。
高校生と先生なんてありえないって分かってる。きっと有輝も分かってて、だから有輝は先生に想いを伝えたりはしなかったし、わざと先生の目に止まるようなこともしなかった。きっと、このまま卒業して終わるんだろうなって思ってた。
そう考えてホッとしている自分も嫌だったし、秘めた想いを苦しそうに抱える有輝を見ているのも嫌だった。でも僕には何もできないから、元気がない時には話を聞いてあげたりした。

「有輝、元気ないね。帰りにマックでも寄る?」
「そうだな。隼人はいつも俺が凹んでるとすぐ気付くな。凄いと思う。」
それは有輝だけだ。他の奴なんかは見てないから怒ってようが泣いてようが知らないし興味もない。
他愛無い話をして、そういう時の有輝は絶対に学校の話題を出さない。テレビやゲーム、SNSで面白い動画を見つけたとかそんな話が多い。
僕はいつも気づかない振りをする。そこに他の友達が入ってくると余計なことを言う奴がいたりするから、僕は必死に話題を変えたりするんだけど、全部有輝のため。
有輝が誰かのものになるなんて嫌だけど、だからって有輝が苦しむのも見ていたくはない。

僕たちは3年間同じクラスで、いつも一緒にいた。


右ならえの学校での卒業式、きっとこの先も僕は有輝と友達でいるんだと思った。大学になって、社会人になって、いつか有輝に彼女ができて、そして結婚して幸せな家庭を築いて、それを僕は「おめでとう」と言いながら見守る未来が来るんだと思ってた。

卒業式が終わってクラス会があると聞いたけど、僕は行きたくはなかった。なぜなら有輝はそのクラス会に行かないと言ったから。
誰も僕に興味なんかないから、「気が向いたらね。」それだけ幹事に伝えて、さっきから見当たらない有輝を探した。

有輝は背が高くて目立つのに、この僕が見つけられないなんてどういうことだろう?どこに行った?
校舎を回って探していると、僕には一つだけ思い当たる場所があった。旧校舎の社会学の倉庫にされている鍵が壊れた部屋。
なぜか有輝は悲しいことや辛いことがあると、その部屋に行く。これだけ探していないのならあの部屋しかない。
僕は旧校舎を目指した。

「有輝!」
「ああ、隼人か。さすがだな。誰も来ないと思ったのに。」

やっぱりここにいた。そして、有輝の目は充血して少し腫れて見えた。泣いたのか?
その眼差しは壁にかかった、埃が被った額縁に収められた向日葵畑の油絵に注がれていた。

「有輝、もうみんな帰ったと思う。一緒に帰ろう。」
「隼人、少しだけ話聞いてくれるか?」
「もちろんだよ。」
「ありがとう。うちでいいか?」
「うん。」

僕たちは並んで歩いて、有輝の家に向かった。
有輝の家は学校から歩いて20分くらいのところにある。だから勉強する時やゲームする時にはいつも有輝の家だった。
両親は共働きでいつも帰りが遅いんだとか。僕が家に行く時には誰もいなくて、一度も有輝の親に会ったことはない。
僕の家は電車で2駅進んで、そこから更にバスに30分乗らなきゃいけないから、誰も家に呼んだことはない。
家に呼ぶような友だちがいないということもあるんだけど。

「隼人、もしかして隼人は気付いていたか?」
「え?何に?」
「俺、音楽の田村先生が好きだったんだ。」
「うん。」

「それで、学生と先生なんかあり得ないだろ?だから、卒業したらって思って、今日告白したんだ。」
「そっか。」
「ダメだった。田村先生、結婚するんだって。学生の頃からずっと付き合ってる人がいたみたいなんだ。幸せそうだった。」
「うん。」

「俺、卒業まで待ってた。それなのに・・・」
有輝の肩が震えて、必死に涙を我慢しているのだと分かった。

「有輝、僕が受け止めてあげる。苦しさも、悲しさも、苛立ちも、切なさも全部。」
「隼人・・・」

僕は一筋の涙を流した有輝を抱きしめて、背中を撫で続けた。有輝は僕の胸でずっと震えていた。僕に見えないように隠れて泣いてるのが可愛くて、僕は有輝の顔をそっと上げてキスをした。
「はや、と・・・?」
「有輝、いいよ。」

そのまま僕はベッドに押し倒されて、制服を雑に脱がされ、体も雑に弄られた。
それでも、僕は有輝が僕に触れてくれるだけで嬉しかった。

「隼人、俺やったことないんだけど。」
「いいよ。好きにして。全部受け止めるって言ったでしょ?」
僕だって初めてだからリードなんてできない。有輝のが勃たなかったらどうしようかと思ったけど、ちゃんと反応してるのが見えて安心した。まあ、それは僕に欲情したんじゃなくて先生を想像してるんだろうけど。
ぐぐっと無理にねじ込むみたいに入ってきて、それは痛くて苦しくて、泣きたくなった。僕はこの痛みを忘れない。有輝を受け止めたことを決して忘れない。

「は、やと・・・」
「ゆ、き・・・」
有輝の目の前には僕がいて、体を重ねているのに、有輝の目は僕を通り過ぎていく。向き合うことを知らない向日葵の集団みたい。
有輝は最後まで僕と向き合うことはなかった。
奥にドクドクと有輝を感じる。
幸せで、幸せで、そして苦しくてたまらなかった。

「隼人、ごめん。」
「気にしないで。」
僕たちの会話はそれが最後になった。
有輝は僕を見ないまま俯いていたし、僕が最後に見た有輝の顔は、僕を抱きながら他の人を想う苦しそうな顔。
きっと、もう友だちには戻れないんだろうと思った。


僕はそのまま制服を着て鞄を持って、有輝を部屋に残したまま家に帰った。
別に制服が汚れたって構わない。だって今日が終われば用無しの制服なんだから。

帰り道、後ろからドロっと流れ出す感覚があって、慌ててお尻に力を込めた。
変な歩き方をしながら家に帰ると、制服はゴミ袋に入れて、急いで風呂に入った。

痛っ、、、
やっぱり切れてる。しばらく痛いんだろうな。
中に出されたものも、ちゃんと出しておかないとお腹が痛くなるって聞いた。
でも切れてるのに指を入れるなんて絶対痛いし。
痛みに耐えながら必死に掻き出すと、有輝のものと僕の血が混ざったものがトロトロと流れ出てきた。

あ、待って、有輝行かないで・・・

そう思って慌ててシャワーを止めたけど、残念ながら排水溝へそれは全て流れて消えていった。


有輝・・・好きだったよ。
僕の高校生活は、有輝から始まって、そして有輝で終わった。

僕は弱っている有輝の心につけ込んだ。有輝を受け止めたいとか、有輝を癒したいとか、そんなの言い訳で、きっと僕は有輝に触れてほしかった。有輝に抱かれたかった。

有輝、ごめん。
有輝はそんな僕のことを、許してはくれないだろう。だから僕から連絡することはできない。
 
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