【完結】甘えたな子犬系Ωが実は狂犬なんて聞いてない

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一章

1.出会い

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 この世界には男女の性の他にα、β、Ω、という第二の性が存在する。
 αとΩの人口に対する割合は大凡二割。αは優秀な者が多くΩが発情期に出すフェロモンに引き寄せられる。Ωは男女共に妊娠が可能で三ヶ月に一度発情期がきて、αを誘引するフェロモンを出し欲情した状態に陥る。ほとんどの人はβと呼ばれる、αでもΩでもない普通の人だ。
 発情期のΩの首筋をαが噛むことで番になるとか、番になったら番であるα以外にΩの発情期のフェロモンが感知できなくなるとか色々あるんだが、俺はαで、そのせいで周りの態度が変わってしまったのが嫌だった。

 ***


「お疲れ様でした」
「お疲れ様、田村くん気をつけて帰りなよ~」

 女将さんに手を振られて軽く頭を下げた。店の裏口を開けると、びゅうっと強い風が吹いて、赤く色付いた紅葉の葉がひらひらと足元に落ちてきた。今日は風が強くて寒いな。
 紅葉の木なんてこの辺にあっただろうか? そう思って見上げると、空には月が出ていた。
 お、今日は三日月か。

 大学二年の田村遥希は料理屋のバイトを始めてもう三年になる。
 俺がαであることが発覚したことで豹変した両親や周りに嫌気がさして家を飛び出して、この料理屋の大将と女将さんに拾ってもらったのがちょうど三年前。

 高校は途中でやめたけど、大検を受けて大学には進学した。αということで授業料も免除になっているし、教科書や生活費は必要だけど、バイトで何とかなっている。

 大学とバイトの両立に調理師の試験もあって最近は忙しかった。試験が終わったから少しは落ち着くだろうか、なんて思いながらバイト帰りの深夜、一人暮らしの部屋に帰るために歩いていた。

 いい香り……?
 αの俺は抗えないようないい香りに引き寄せられるように、店が立ち並ぶ建物の裏手に回った。

「やっ、やだ」
「可愛いからお前、俺のものにしてやるよ」

 そこにいたのは発情期を迎えたΩ。
 女の子みたいに可愛い。クリクリのパッチリ二重の目に透き通るような白い肌、だけど頬はピンク色に染まっているし、オーバーサイズの服はわざと萌え袖にしているのか、それとも肌を隠すためか。
 しかし発情期を迎えたΩだ。その辺のたちの悪いαが寄ってきたのか、押し倒されて必死に抵抗して涙を溢している。

 俺だってこのフェロモンの香りに抗えなくなる可能性はあるけど、この可愛い子が目の前で泣きながら犯されるのを黙って見ていることはできなかった。
 それが正義感なのか、それとも可愛いΩを自分のものにしたいというαの本能がそうさせたのかは分からない。
 俺は襲いかかっている男を引き剥がして殴り飛ばすと、その子の腕を掴んで走った。

「危ないから家から出るなよ」

 行く宛は俺の部屋しかなくて、フラフラで立っていることもままならない彼を無理に部屋に押し込むと、俺は玄関を出ようとした。
 それなのに、その子は俺の腕を掴んだ。

「行かないで」

「離せ、俺はαだ。お前のフェロモンに抗えなくなる可能性がある。俺は外に出るから、発情期が終わるまで部屋にいろ」
「お願い、助けて。耐えられない」
 震える手で必死に俺の腕を掴んで、潤んだ眼でそんなに可愛くお願いされたら、その気にもなるし、もうこのフェロモンに抗うのも限界に近づいていた。

「いいんだな? 噛みつき防止のチョーカーはしてないのか? 無いならタオルを首に巻いておけ。俺が理性を保てないかもしれない」
「分かった。だからお願い。でも上は脱がさないで」
 よく分からない要求だが俺は了承した。

 ヤバイ。この子は可愛すぎる。
 キスをするだけで潤んだ目が揺れて、ギュッと俺の腕にしがみついてくる。
 勘違いしそうになるほど俺を熱い目で見て、もっともっとと煽ってくる。

「あぁ……もっときて……もっと……おねがい……」

 ゴムはちゃんとつけた。子どもができてもまだ俺には責任なんか取れないからな。
 俺はまだ学生だし、バイトで生計を立てる毎日だ。家庭を持つにはまだ早い。それに俺はこの子の名前も素性も知らない。

 三回ほどイかせてやると、少しは落ち着いたようで、彼はありがとうと言って眠りについた。
 でもしっかりと俺の腕を抱き抱えていて、時々頬擦りなんかするから、なんとも可愛い。
 甘えたな子犬みたいな子だった。

 本当に可愛い。俺が大学を卒業してちゃんと生活基盤が安定したら番になってほしいくらいだ。

 可愛くてギュッと擦り寄ってくるから、俺は彼のふわふわな髪を撫で続けた。
 Ωってこんなに可愛い奴ばかりなのか? いや、大学にも何人かΩがいるが、こんなに可愛くはなかった。発情期にはαを引き寄せるために特別可愛くなるんだろうか?

 
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