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一章
7.金で買われる覚悟
しおりを挟む「ごめん。揶揄ったんじゃなくて、遥希には世話になってるから、応援はもちろんするけど、何かしてあげたかっただけ」
店を買うなんて言って驚かされたけど、しょんぼりと肩を落とす政宗さんが、嘘や冗談を言っているようには見えなかった。それに応援すると言ってくれただけで、俺は心が温かくなって嬉しかったんだ。
政宗さんは俺がαであることを知っているのに、「αだ」「玉の輿だ」というフィルターで俺を見ない。それが俺にとってどれだけホッとできるか、彼は知らない。
「謝らないでください。気にしてないんで。応援してくれる気持ちだけで嬉しいです」
「そうか」
「さっき渡されたお金も多すぎるので返します」
「それはダメー。返却禁止。遥希が気にするかと思って高級娼婦を一週間呼ぶよりは安めにしたから安心して」
「……」
全然安心できない。
それに高級娼婦って、政宗さんはいつもそんな人たちにお世話になってるんだろうか?
俺で大丈夫なのか?
俺はプロじゃないし、テクニックとか自信があるわけじゃない。俺も男だから興味がないわけじゃないけど、そっちの勉強はしたことがない。
「欲しい時に抱いてくれて、甘えさせてくれて、飯まで出てくるんだから安いくらいでしょ?」
あざと可愛いという言葉がピッタリと当て嵌まりそうな仕草。首を傾げて上目遣いに見てくるその可愛さとは裏腹に、俺を金で買うという事実が突きつけられた。
なるほど。恋や愛ではなく割り切った関係なのだという意思表示なんだと思った。
それなら貰っておくか。
金で買われているのだと思えば、俺も変に期待せずに済む。俺は金、政宗さんは家族にバレずに発情期をやり過ごしたい。
それがお互いにとってベストな選択なんだと理解した。
「分かりました」
「遥希、キスして? もう一回したい」
「いいですよ」
割り切った関係ということに、俺は少しだけ憤りを感じて、何度も激しく攻め立てて政宗さんをまた気絶させてしまった。
やってしまった……
夢を応援してくれると言われて、嬉しくて舞い上がっていた気持ちが沈んで、金で買われているということが少し苦しかった。
俺をαというフィルターで見ないから嬉しい……それは違う。政宗さんの中で俺は、そういった対象ですらないということなんだ。
分かっていたはずなのに、こんな風に感情をぶつけるように政宗さんを抱くなんてどうかしている。
政宗さんにとっても、俺にとっても、これはベストな選択なのに。なぜこうも苦しいのか、俺はその感情に決して名前をつけてはいけないとと思った。
それ以降は優しく抱いた。乱れる政宗さんも可愛いけど、優しくすれば本当に可愛い反応を見せてくれる。
抱いている時だけは夢を見させてほしい。その瞳に映るのは俺だけなんだと。俺の名前を呼ぶ政宗さんは俺のものなんだと。
可愛い人を抱いて、幸せな時間をもらって、金まで貰うのに俺は贅沢だな。
「はるき……あぁ、はるき……キスして……いっぱいしてほしい」
「いいですよ。政宗さんはキスが好きですね」
「すき……はるきとのキス……すき……」
またそんなことを言って。
発情期のフェロモンが最高潮の時に言った言葉は、発情期が終わっても覚えているんだろうか?
やっぱり発情期のΩは、αを離さないためにそんなセリフを意図せず言ってしまうんだろうか?
政宗さんが俺を求める度に、可愛くおねだりしてくる度に分からなくなる。
αを求めるΩの習性なのか、ほんの少しでも政宗さんの感情がそこにはあるのか。
「遥希、ありがとう。また次の発情期に来てもいい?」
「いいですよ」
「ありがとう。じゃあまたね」
「はい。また」
次の発情期。その頃には俺は三年生だ。
曖昧な約束。もしかしたら無いかもしれない。政宗さんは魅力的な人だしその間にパートナーができてしまう可能性もある。
こんなに可愛い人を周りが放っておくわけないだろ。
期待はしないでおこう。期待なんて、してはいけない。俺は金で買われているだけの存在なのだから。簡単に替えのきく存在だ。俺もそこは弁えている。どこまでがあなたの本心ですか?
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