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王都での日々
34.久しぶりの研究室
家族のみんなは家でゆっくり休めばいいと言ってくれたんだけど、やりたいことをしようと思って、翌日になると僕は研究室に向かった。
「エリアスくん! おかえり、本当にすまなかった」
「ただいま戻りました。皆さんが謝ることなんてありませんよ。あの時間に研究室にいなかったのは皆さんの責任ではありません」
みんなに謝られたけど、別に僕はみんなを恨む気持ちはない。手紙を見た時、僕は嬉しかった。みんなが僕の無実を信じてくれていると分かったから。
「うん、そうなんだけど、エアリスくんが教授に目をかけられていることが羨ましいなんて見当違いだった。あんな教授の無茶に付き合うのはエリアスくんじゃなきゃ無理だ。改めて君の凄さを実感した。帰ってきてくれてありがとう」
みんな教授にどんな無理難題を押し付けられたんだろう?
彼らが言う通り、僕は教授に目をかけられているというより無理難題を押し付けられていただけだ。
みんなに分かってもらえて嬉しい。
ちゃんと帰る場所があったことが本当に嬉しい。
帰ってきてから僕の婚約話の裏側を知って、人間不信になりそうだった。
変わらない場所もちゃんとあった。
団長、僕が居たい場所はここです。
薬剤の香り、薬草の菜園、温室を見て回る。懐かしい香りだ。酷い悪臭を放つ薬草もあるけど、そんなものも懐かしいと感じる。
あー、誰か手入れを怠ってる。薬草の一部が枯れているのを見つけた。教授は怒るだろうな。
「エリアスくん、研究室に来るのはもっと後だと思ってたよ。せっかく王都に戻ってきたんだし、辺境の基地では休みなく働いてたんでしょ? もっとゆっくりしてもいいのに」
「教授、おはようございます。僕は休みなんてあっても何をすればいいのか分かりません」
居たい場所で、やりたいことをする。
僕はここに居たいからいいんだ。
「そうだ、エリアスくんに渡すものがあったんだ」
「あ、僕も教授に聞きたいことがあります」
「そう? じゃあ部屋に来て」
僕は薬師協会から贈られたメダルのことを聞きたい。教授の渡したいものってなんだろう?
「これこれ、これエアリスくん宛ての問い合わせね」
「え? 問い合わせ?」
「そうだよ。マギ草の半減期を延ばす論文について反響があったって言ったでしょ?」
そういえばそんな話しをしていたような……
僕は一通ずつ開封していった。
ほとんどは、この論文に対しての褒め言葉と、会ってマギ草についての話をしてみたいという内容だった。
他には、ムーン草や他の薬草についても半減期の研究を進めているなら経過を教えてほしいという内容。僕の論文の応用を考えたから意見を聞きたいという内容もあった。
「これって教授のいたずらじゃありませんよね?」
「私にそんなことをする暇はないね。逃げたくなった?」
「教授が逃げたくなる気持ちが少し分かりました」
嬉しい気持ちはある。だけど、僕はまだそんなに色々聞かれても答えられるほどの知識も経験もないんだ。
「それと、なんでか分からないけど、エリアスくんが戻ったら知らせてほしいというクライスラー侯爵家からの手紙も私宛てに届いてた。これ捨てていい?」
「いいですよ」
クリストフ様の必死さが怖い。僕が王都に戻ったことが彼の耳に入るのも時間の問題だろう。
「それでエリアスくんが聞きたいことってのは何?」
「これが薬師の免状とお詫びの手紙と一緒に届いていたんですが、何か分かりますか?」
僕は保管方法も分からなくて、箱に入れたまま持ってきたメダルを教授に見せた。
「よかったね。このメダルは私も持っているよ。確かこの辺りにあったはず……」
教授が机の引き出しをガタンと開けると、積み上げられていた書類が崩れてバサーっと床に落ちていった。
研究の前に片付けからだな。
「あったあった。これ。名前は何だったかな? 薬師の階級を示すもので、これを見せると店で薬剤や薬草が安く買えるんだよ」
「そうなんですか?」
それはありがたい。そんなメダルがあるなんて知らなかった。
「薬師協会に貢献した、素晴らしい研究成果を出した、多くの人を救ったとか、そんな人に渡される。勲章みたいなものだったかな」
「そんなもの、僕がもらっていいんですか?」
「いいんじゃない? 協会が君に渡すと判断したんだから問題ない。実際に研究の成果は素晴らしいし、辺境の基地では多くの命を救ったんでしょ?」
せっかくもらったんだから、突き返したりはしないけど、過大評価だと思う。気軽に見せびらかしたら大変なことになりそうだからみんなには黙っておこう。
メダルの箱を鞄にしまうと、パサッと音を立ててまた書類の山が崩れて床に散らばっていった。
研究室に戻って僕が最初にする仕事は、教授の部屋の片付けと掃除になりそうだ。
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