罪人として辺境へ送られた僕は騎士団長の腕の中でしかうまく眠れない

cyan

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再会と止められない想い

46.想像と違う再会

  
「宿の硬いベッドと連日の移動、尻が平らになりそうだ」
 馬車の中で誰かが呟いた。みんなが教授に付き合って森で薬草を探すことに飽きていた。というか疲れていた。
 僕も同じ気持ちです。みんなうんうんと頷いているけど、返事を返す気力さえない。
 楽しんでいるのは教授だけだ。

「君たち、見てくれ!」
 仕方なくみんなで教授の元へ向かうと、教授は蛇を持っていた。
 ギャー
 紫と黒の縞に、ところどころ白っぽい斑点模様がある。明らかに毒があるやつだ。

「大袈裟だね。騎士に倒してもらったからもう死んでるし大丈夫だよ」
 教授の言葉に、逃げようと必死だったみんながようやく落ち着いた。

「魔法薬の原料は薬草だけではない」
 教授の講義が始まった。
 講義だけはみんな真剣に聞いている。馬車での移動はしんどいし、森を歩き回って薬草を探すのも大変だ。
 だけどみんなが教授に付き合うのは、教授は自分の持っている知識をみんなに惜しみなく与えてくれるからだ。

 だけど、それももう疲れてきた。
 ここが研究室で、毎日ゆっくり眠れるならいいんだけど、毎日違う宿のベッドで寝るのは落ち着かない。救護班で毎日わずかな睡眠で駆け回っていた頃より辛いのは、長時間の移動は駆け回るより体力を奪うのかもしれない。

「辺境は近いから、もう少しの辛抱だよ」
 教授に励まされても、馬車の中ではみんな大人しい。
 そしてやっと辺境の街が見えた。
 僕は街のことはよく知らない。ずっと基地にいたから、街なんて通過しただけで行く機会がなかった。

 思ったより立派な施設が見えると、みんな疲れを忘れて歓声を上げた。
 王都の研究棟に不満があったわけじゃないけど、新しくて綺麗な建物は嬉しい。
 ギシギシと軋む廊下はいつ抜けるかと不安だったし、長年使われてきた机は傾いているものもあった。
 そして僕は新しく建てられた研究施設を眺める一人の男を見つけた。真っ黒な騎士服を着て、髪は後頭部を刈り上げている。

 あの後ろ姿は間違いない。団長だ。
 僕は一瞬迷ったけど、馬車を降りて団長に声をかけた。
「団長!」
 それなのに、団長は振り向かなかった。団長じゃないのかな?
 僕は男の前に回ると、やっぱり団長だった。

「会いたかったです」
 色々話したいことはあるけど、まずはこれを伝えたかった。
 会えて嬉しくて、それ以上言葉が出なかった。
 団長は何も言わずに僕を見下ろしていたんだけど、急に抱きしめられた。
 団長の腕の中。団長の匂い。僕はやっとここに戻ってこられた。

 背中に手を回して、僕も団長を抱きしめる。
「エリー、好きだ」
「うん、僕も好き」
 それなのに団長は少し困った顔をして僕を引き剥がした。

 なんで?
「みんな会いたがっている。暇があれば基地にも顔を出してくれ」
「はい」

 団長は馬に乗って帰っていった。
 僕はその後ろ姿をしばらく眺めた。思っていた再会とは違って、話したいことは色々あったけど何も伝えられなかった。
 団長は忙しいんだから仕方ない。
 大きな背中が見えなくなるまで、僕はずっと動けなかった。

「エリアスくんも寮で休む?」
「そうします」
 教授に声をかけられるまで、ただ立ち尽くしていた。教授が声をかけてくれなければ僕はいつまでもその場に立ち尽くしていたかもしれない。

 辺境の研究施設には寮も完備されている。研究ができても住むところがないと困る。僕は住むところのことを忘れていた。
 基地では調合室や団長の部屋で寝ていたし、下働きとして行った僕には個人の部屋なんてなかった。だから住むところのことなんて全然考えていなかった。

 荷物を持って僕に割り当てられた寮の部屋に入った。備え付けのベッドと机、小さいけどクローゼットもある。
 部屋の中をひと通り見て回ると、さっきのことを思い返す。団長は僕のことを好きと言ったけど、僕が好きだと言ったら困った顔をした。あれはなんだったんだろう。
 僕の好きと団長の好きは違うのかな?
 せっかく再会したのになんだか煮え切らない気持ちが胸の辺りにずっとある。

 夕方になると救護班の班長が寮を訪ねてきた。
「本当にエリーがいる! とうとう団長がおかしくなったのかと思ったら、本当だったんだね」
 団長に僕が辺境に来たことを聞いたんだろう。

「班長、お久しぶりです」
「また基地にも顔を出してよ。みんな待ってるから。それとも今から行く?」

 僕は迷って、班長と一緒に行くことにした。
 僕だって分かんないんだ。誰かを好きになったのなんて初めてで、どうしたらいいのか分からない。
 団長の反応が何なのかも分からない。
 基地へ続く道で班長に話したら、団長の部屋に押し掛ければいいと言われた。
 そんなことしていいの? 迷惑じゃない?

 コンコン、と控えめにノックしたら入っていいと返事があった。
「失礼します」
 僕が部屋に入ると、団長は書類が山積みになった机の奥にいて、顔は見えなかった。

「なんだ? 報告か?」
 たぶん僕のことを報告に来た騎士だと思っているんだろう。

「団長、来てしまいました。お邪魔なら帰ります」
 僕が告げると、ガタンッと音を立てて団長が立ち上がった。

「そうか。それで、どうした?」
「会いたかったから」
「そうか」
 団長は僕のところには歩いてきてくれなかった。その場で、立ち尽くしている。

「団長がくれた手紙、大事に持ってます。すごく嬉しかった。それと、色々とありがとうございました」
「そうか、役に立ったならよかった」

 なんでそんなに素っ気ないんだ。会えるのを楽しみにしていたのは僕だけなの?
 抱きしめてくれたのはなぜ?

 
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