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1.プロローグ
しおりを挟む「ひぃっ、お、お前みたいな野蛮な顔の奴と結婚とか無理だ」
まただ。これでテオドールが見合いを断られた数は、両手じゃ足りなくなって何度目だろう?
虚しくなるだけだから、数えるのはやめたんだった。
釣り書きはたくさん届く。僕が数少ない孕み腹だからだ。女の子より孕み腹の男の方が人気で、しかも男爵家とはいえ貴族の子息という肩書きがあるからだ。
僕自身がモテているわけではない。その体質と生まれがもてはやされていた。
そして、こうして会ってみると、「怖い」「無理」「ありえない」などと言われて断られる。
相手に悪気は無いのかもしれない。ただ本心を言っただけ。そう自分に言い聞かせても、傷つかないわけじゃない。
今日も僕は、立ち去る見合い相手の背中を静かに見送ることしかできなかった。
僕の父は若い頃に戦争で活躍して、騎士団では特攻隊長と呼ばれている。実績があるから、僕と同じような怖い顔面でもモテたんだとか。
顔は怖いけど、カラッと明るい人だからという理由もあるのかもしれない。
僕は人の中心で騒いでいるより、花を静かに愛でている方が好きで大人しい性格だった。兄リシャールは母に似てサラサラの金髪が風に靡いて黄金の麦畑みたいに綺麗だ。しかし僕は強面の父に似た。
「お前がリシャール様の弟? 嘘だろ? ああ、腹違いか」
なんてよく言われた。僕と兄は同じ母から生まれたし、もちろん父も同じだ。
どうしてこんなにも違うんだろう?
兄は聡明な母の能力も受け継いだ。だから綺麗で頭もいい。
僕は父の容姿を受け継いだ。この怖いと言われる顔。硬い髪は真っ黒で目は血のように赤い。学園での成績は中の中で、悪くも良くもないという微妙な感じ。
容姿は父から受け継いだけど、剣の才能は受け継がなかった。父が直々に稽古をつけてくれても、受け流すだけで攻撃ができない。人に攻撃するのが怖いんだ。
兄だけが輝いて見えた。兄が光なら僕は闇。そんな風に言われることもあったし、自分でもその通りだと思っていた。
もてはやされる兄に対して僕は卑屈になっていたのかもしれない。
それでも性格が捻じ曲がったりしなかったのは、父も母も僕を兄と同じように大切にしてくれたからだ。贔屓なんてしなかった。見た目だけ似て、剣の才能を受け繋がなかった僕のことを、父は責めたりしなかったし、無理に騎士の道を進めとも言わなかった。兄も僕のことを可愛がってくれたから、家の中では幸せだった。
「すまない。テオドール、お前の嫁ぎ先が決まった」
「え? 見合いではなく嫁ぎ先ですか?」
父の言葉に僕は耳を疑った。見合いを通り越して結婚?
毎回失敗して、ろくな会話もないままに断られていたから、不安だった。知らない土地に行くことよりも、怖いとか無理とか言われて追い返されるんじゃないかって。それに「すまない」と言った父の言葉も気になった。
僕の夫になる人は、ベルガー辺境伯家の当主で、僕より5歳上の23歳。最近当主になった人だ。
辺境伯家の当主なんて、そんな人がなぜ僕と結婚を? 王命ってやつで仕方なくなのかもしれないと思った。
「テオドール、先方は悪い方ではない。武勇に優れ、少し厳しい方なだけだ」
「そうですか」
豪快な父が丁寧に言葉を選ぶように話してくれた。武勇に優れ、厳しい。よく言えばそうなんだろう。実際は……
僕はこんな顔だけど、気が小さい方だ。お相手の方は強く逞しい方なんだろうか? 暴君だったらと思うと少し不安はある。
相手を不快にしないようにしなきゃ。でもこの顔……
僕は鏡に映った自分の顔を眺めた。
この目か? 分厚い瞼に細く釣り上がった目、それを隠すために伸ばした前髪。前髪からチラッと覗く赤い目は、自分で見ても時々怖い。
睨んでないのに睨んでいるように見えるのがいけないのか?
僕は口角を上げて少し笑ってみる。
これ、逆効果だな。何度笑おうとしても、ニコリではなく、ニヤリとした感じが、余計人相の悪さを強調して、もう救いようがないと思った。
愛想のいい表情なんてのは僕には無理らしい。それなら無表情の方がまだマシだ。
顔が怖いと言われるのはもう仕方ない。どうか嫌われませんように。
僕は祈る気持ちで、辺境伯領へ旅立った。
母と兄は、最後まで反対だと言った。
「テオちゃんにそんな危ないところに行ってほしくないわ」
「父上、どうにかならないのですか? テオは優しい子なんだ。ベルガーなどに嫁がせなくても、もっとテオに合った穏やかな家が向いていると思う」
しかし、陛下の命とあれば従わないわけにいかない。それに、これを逃したら僕は一生結婚なんてできないかもしれない。ずっと兄のお世話になるなんて、僕は望んでない。
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