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2.初対面
しおりを挟む馬車に揺られること十日、やっとベルガー辺境伯の領地に入った。まだ領地に入っただけで、辺境伯が暮らすお屋敷がある領都までは、あと一日はかかる。
こんなに長い時間、馬車に乗るのは初めてだった。
「テオドール様、明日には着きますから、もう少しの辛抱ですよ」
「うん。ありがとう」
御者さんも、護衛騎士のみんなも優しい。僕が小さい頃からずっと仕えている人だから、目が合っても睨んでいるなんて言われない。知ってる人と離れてしまうのは寂しいな。
領都は隣国プロスペ帝国との国境から一番近い街だった。僕は国外に出たことがないし、この道を更に進んだら国を出るということが信じられなかった。
「すごい」
もう僕の口からは、そんな簡単な言葉しか出てこなかった。
石を積み上げて作った防壁も立派だったし、そのお屋敷は、お屋敷というより要塞と呼ぶような風貌で、鮮やかな屋根や旗はない。一番高い塔の上に、辺境伯家の家紋が描かれた旗が一枚だけ風に揺れていた。
僕の家よりかなり大きい。僕の家は男爵だから、辺境伯家に比べたら小さいのは仕方ないんだけど。
ここは王城にも匹敵するほどの大きさに見えた。ただ、真っ白で綺麗な王城とは違って冷たく黒い石で、頑丈に作ってあるお屋敷だった。
お屋敷の周りは深い堀があって、はね橋が渡してある。
これからここが僕の家になるのか。
御者さんが門番に手紙を見せると、少し緊張しながら僕は、そのはね橋を通り抜けて敷地に進んでいった。
迎えが無くて、僕は馬車から降りたものの、どうしたらいいのか分からずにいると、遠くの方から男が数人走ってきた。騎士と執事だろうか?
「テオドール様ですか?」
騎士に囲まれたと思ったら、彼らはみんな剣に手を添えている。うちの護衛騎士も剣に手を添えて、なぜかこんなところで一触即発という状況になった。
「テオドールは僕です。みんな、僕は大丈夫だから、剣から手を離して」
僕はここに嫁いできたのであって、喧嘩をしにきたわけじゃない。
辺境伯の騎士たちが剣に手を添えたのは、僕の顔のせいかもしれないと思うと、なんともいたたまれない気持ちになる。
笑ってみるか? いや、それはダメだ。余計に怪しまれる。先日の鏡に映った自分の酷い笑顔を思い出して、愛想を振り撒くことは諦めた。
「僕は争いに来たわけではありません。嫁いできたのです。これからよろしくお願いします」
嫁いできた時の挨拶ってこんなんでいいのか? 嫁いだことがないから分からなかった。顔合わせもしていないから、こんなことになったのかもしれない。
できれば、穏やかに過ごしたいな。
案内する気になった騎士たちに付いていくと、玄関を通り抜けて広間に通された。
「テオドール様はこちらでお待ちください」
そう言われて僕は立ったまましばらく待っていた。その間に僕が持ってきた荷物は、騎士たちが部屋に運んでくれるらしい。
「お前がテオドールか」
そう声がして振り向くと、冷たい目をした男が僕を見下ろすように立っていた。僕もそこそこ背が高いんだけど、この男は更に背が高い。この人が辺境伯? 僕の夫なんだろうか? 父が武勇に優れていると言っていただけあって、背は高いし腕も太く、胸も胸筋で盛り上がっている。
「はい。僕がテオドールです」
「俺はフィリップだ。何を企んでいるのかは知らんが、俺の領地で勝手なことをすれば容赦はしない」
「心得ています。僕はベルガー家に嫁いだので、この家の不利益になるようなことはしません」
「ふーん、まあいい。監視はさせてもらう」
監視……
これも顔合わせなどをしていないからか? そこまで信用が無いのは、やはり僕のこの顔のせいだろうか? フィリップ様の言葉で一気に不安になった。
「ついてこい」
僕はフィリップ様に続いて広間を出た。
「おい、後ろを歩くな。隣を歩け」
「はい」
「残念だったな。俺の背後を取れなくて。忍ばせていた暗器で刺す計画だったんだろう?」
フィリップ様はニヤリと、僕に不敵に笑って見せたけど、僕は暗器なんて持ってないし、刺そうと考えたこともない。
「そんなことしません。暗器など持っていません」
睨まれているみたいで怖いとはよく言われるけど、人を刺しそうだと思われていたなんて……
フィリップ様は僕を見ても怖がる様子は無かったけど、警戒はしているみたいだ。
たまにピリピリとした殺気を飛ばしてくるのは、僕に敵意を持っているから? それとも挑発してる?
僕は殺気に関しては結構平気だ。なぜなら、ちょっと不満があるだけで殺気をだだ漏れさせるような父が家にいたから。
小さい頃はいつも怯えていた気がする。そんな時はいつも母や兄が守ってくれた。母や兄がもう側にいないと思うと少し心細い。
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