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しおりを挟む俺は順風満帆だ。冒険者としても少し名が売れてきた。依頼も難なくこなせるようになったし、食うに困ることもない。戦いも楽しいと思えるし、各地を旅するのも楽しい。
母国のことは知らない。家族もあいつのことも。
知らないし、知りたくない。
二十三でやっとAランクになった。転生チートなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。ちゃんと強くなるための努力はしたし、簡単にランクを上げたり、戦いだって楽にこなせたわけじゃない。剣も魔法も鍛錬をずっと続けているし、戦いの中で死を覚悟したことも一度や二度じゃない。
「ユーリ様! 私と付き合ってください!」
「ごめん、俺女の子無理なんだよね」
こんなことも堂々と言える世界はいいな。
ランクが上がると女も男も寄ってくる。相手が女の子なら、こんな感じで断れるから楽だ。男の場合は、「俺より強い奴が好きなんだ」なんて言えば引いてくれる。
各地を旅しながら鍛えて、恋もしようとした。見た目が好みだと思う男がいたら、デートくらいはしたこともある。だけどあいつと比べてしまうんだ。
あいつだったらこういう時、こんなことを言うのにとか、こんな風に対応してくれるのにとか、くだらないことで冷めてしまう。
もうあいつは呪いみたいなものだ。
──俺、一生あいつしか好きになれないのかな?
せめて童貞は捨てておこうと男娼を呼んでみたが、勃たなかった。受け入れてみるかと聞かれたけど、怖くてやめた。
プロだろうが知らん奴に貫かれるなんて怖い。抱いてはいないが男娼の彼とは一緒のベッドで寝て、代金はちゃんと支払った。
俺が初恋拗らせてるって話を寝ながら吐露したら、ちゃんと聞いてくれた。いい香りがする華奢な胸の中に閉じ込めて、髪を撫でてくれたんだ。それだけで十分だった。その後も彼のことは二回ほど呼んで、話を聞いてもらいながら、何もせず隣で寝た。
「抱かれても抱いてもいないのにこんなに貰えません」
なんて彼は言ったけど、口止め料だと言って受け取ってもらった。誰にも話せなかったから、聞いてくれるだけで嬉しかったんだ。
しばらくしてその街を出てしまったから、彼とはそれっきりだけど、元気にしているといいな。
恋愛は上手くいかないけど、冒険者としての活動も、旅をするのも楽しい。
「ユーリ、お前確かオスティ王国出身だよな? ヒュドラが出たとかで大変なことになっているんだが、討伐に参加してくれたりはしないよな?」
ギルドに行くと、ギルマスに呼ばれてそんな話をされた。ギルマスに呼ばれることは珍しくはない。高ランクの場合は長期残っている案件や、それ以外にも面倒な依頼の相談をされることがあるからだ。
しかし今まではオスティ王国の依頼は全て断っていた。俺でなくても他の高ランクが対応すればいいし、オスティ王国の近くで活動することはほとんどなかったから、声もかからなかった。ここだってそう近い場所ではない。
それなのになぜ? ヒュドラだからか? きっともう何人も冒険者を送り込んで失敗しているんだろう。
「ヒュドラか……どの辺りですか?」
「クレスターニ領とロヴェーレ領の間にある森だそうだ」
クレスターニ領だと? 俺はもうオスティ王国の地は一生踏まないと決めていたがクレスターニ領は俺の家族がいる。勝手なことをして飛び出したが、家族に恨みはないし、日本の記憶を持っている俺なんかを大切に育ててくれた。
「クレスターニ領は出身地なんだ。行く。今回だけだ」
「そうか。実はな、ただのヒュドラじゃないって話が出ている。国の騎士団でも対応できなかったそうだ。今のところ人里まで出てきてはいないから、森に入った奴以外に被害はない。だがいつ出てきてもおかしくない」
「分かった。すぐに発つ」
普通のヒュドラではないから俺まで話が回ってきたのか。まあいい。ヒュドラなら一度戦ったことがある。
ヒュドラを倒したら、ついでに実家に寄って謝罪だけはしよう。まさかモンターレ侯爵家に圧力をかけられて潰されかけていることはないよな?
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