【短編】ぬいぐるみ職人の僕の弟子は一騎当千と言われた英雄なんだけど信じられる?

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3.僕の弟子

  
 あまり眠れないまま朝を迎えると、よく回らない頭のまま着替える。ドンドンカンカン外がうるさいと思いながら裏の井戸まで行って顔を洗い、朝食にハムとチーズのサンドイッチを作った。僕の朝食はいつもこんな感じだ。
 紅茶には蜂蜜を少々。甘い香りに癒される。それにしても外がうるさい。

 そうだ……うちも工事をしなければならない。壊された扉を直すために大工を呼んで、見積もりをして……痛い出費だ。
 あんな状態ではゆっくり仕事もできない。重い荷物でも背負っているかのように肩も気分も重い。ため息をつきながら工房の入口へ向かうと、昨日の男が扉を直していた。

 は?
 外がうるさいと思ったのは、昨日の男の仕業だった。
 しかも何かぶつぶつ呟いている。

「やってしまった。嫌われた。どうしよう。直せば許してくれるかな? どう思う?」

 誰かと話をしているのかと思ったら、男の前には僕が直したフクロウのぬいぐるみが置かれていた。

 ぬいぐるみと話してんの?
 ヤバイ人だ……
 まあ、僕もたまにするけど。

「僕の工房で何してるんですか?」
 一歩踏み出した足は少し震えている。だがここは僕の工房だ。僕の工房なんだから勝手なことをしてもらっては困る。

「す、すすす、すま…………」
 昨日の印象と違う。慌てた様子で立ち上がった男は見上げるほどにでかいけど、オイルランプの薄暗い灯りしかない中で見るのと、日の光の下で見るのとでは、男の印象が違った。

 強盗にしては、随分と整った顔をしている。不機嫌そうに眉間に皺を寄せているが、眉はキリッとして、切れ長の目は青みがかっている。鼻筋も通って、唇はぷっくり潤っている。顎のラインはシャープで、長い黒髪は艶がある。なぜこんなちょっと高貴な身分の人にも見えるような男が強盗などやっているのか。

 そもそもこの男は強盗なのか?
 胸ぐらを掴まれたが、殴られたり斬りつけられたりはしていないし、金も取られていない。ぬいぐるみを直せと詰め寄られただけだ。
 今も明るいところで工房の扉を直している。なんなんだ?

 そして着ている服は軍の制服だ。強盗や野盗であれば、軍人を襲って奪うこともできそうだ。軍服を着ていれば大抵の人は警戒しない。
 粗野な軍人という線は……夜中に一般人の家を壊して侵入する時点でないと断定できる。

 痛い思いはしていないが、体格のいい男から見下ろされるのは、明るいところでも十分怖い。

「で、弟子……」
「昨日、お断りしました」
「弟子」

 距離を詰めて威圧されると血の気が引いていく。この男の傍らには剣が落ちているし、逆らったらあの剣が鞘から抜かれるかもしれない。
 もうこれは頼み事ではなく脅迫だ。
 僕だって命は惜しい。

「……分かった」

 こうして僕は強盗と思われる、顔は整っているけど恐ろしい男を弟子にすることになった。
 僕の平穏な生活は終わった……
 これからは恐怖に怯えながら生活しなければならない。
 絶望という言葉が似合いすぎる朝なのに、壊れた扉の向こうには雲一つない青空が広がっていた。

 男はキールと名乗った。終戦の英雄と同じ名だが、キールなんて名前は特別珍しい名前でもない。名前が同じというだけで英雄と比べられることになる男に、少しだけ同情する。
 近所の肉屋の子どもが同じくキールという名前なだけで、揶揄われているのを先日見たばかりだ。

 近くに家はあるのかと聞いたら首を左右に振るから、空いている部屋を彼に貸した。本当はこんなに怖い男と一緒に住みたくはないが、命の方が大事だ。
 何が気に入らないのか、男はずっと眉間に皺を寄せている。ほとんど目が合わないのは、僕が意識的に目を合わせないようにしているだけではない気がする。

 部屋に案内すると、キールは机の上にフクロウのぬいぐるみをそっと丁寧に置いた。
 今日は暑いから風を通すために、窓も部屋の扉も開け放っている。
 ぶつぶつと声が聞こえたから、キールが僕に話しかけているのかと思って振り向いたら、キールはぬいぐるみに向かって話しかけていた。

「イブ、弟子にしてもらえた。嬉しい。師匠は本当にいい人だ。俺が喋れなくても怒らない。本当はもっと喋りたい。でもうまく喋れない」

 ぬいぐるみに話しかける体格のいい男。見てはいけないものを見てしまったと思い、慌てて隠れた。隠れる必要なんてなかったかもしれないが、咄嗟に取ってしまった行動だ。

 あいつ、喋るのが苦手なのか……
 実は悪いやつじゃないのか? だが夜中に扉を壊して侵入して、胸ぐらを掴んだのはどう説明する?
 あんなことをするのに悪いやつじゃないなんて無理がある。

 
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