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4.師匠
キールはほとんど口を開かない。弟子にしろと詰め寄ってきた日以来、僕の前では言葉を発しない。
僕がぬいぐるみを作る様子を、毎日真剣に見ている。眉間にシワを寄せて恐ろしい形相で見るのはやめてほしい。こっちまで緊張する。
初めは何か気に入らないのかと思ってビクビクしていたが、どうやらそうではないらしい。ただ睨みをきかせて真剣に見ているだけだ。
キールは一日の仕事が終わると、必ずぬいぐるみのイブに報告をする。僕は毎日それをこっそり聞いて、キールの考えを知っていくしかない。何を聞いても答えてくれないんだから仕方ないんだ。
「師匠の手は魔法みたいだ。見ているだけで胸に込み上げるものがある。いつか泣いてしまいそうだ」
マジか……
まさかいつも怖い顔で見ているのは、泣くのを堪えているのか?
いや、まさかな……
キールは毎日懲りもせず、僕のここがすごかったとか、感動したとか、そんな話をぬいぐるみに聞かせている。
一緒に食事をすることにも慣れ、睨むような鋭い視線で作業を見つめられることにも慣れた。ちょっと痛いやつではあるが、恐怖で僕を支配するする気はないようだ。
初対面で感じた『死』の文字が頭をよぎることは無くなった。
「し、ししし……師匠」
キールが弟子になって一ヶ月、とうとう僕に向かって師匠と口にした。──と思ったらみるみるうちに顔が紅潮し一瞬で消えた。
バタンと扉を開けたと思ったら、閉めることも忘れて飛び出してしまったんだ。
あいつ何やってんだ……
キールは夕方にこそこそと帰ってくると、僕と目も合わせず、何の説明もせず部屋に直行してしまった。
目を合わせないのはいつものことだが、突然消えたんだから説明くらいほしいところだが、キールは人と話すのが苦手だ。
一体どこに行っていたのか気になる。僕はいつものようにこっそり聞き耳を立てた。
「師匠と呼べた。一歩進んだ気がする。だが恥ずかしくなって逃げてしまった。師匠は怒っているだろうか? 情けない……夢中で走ったら隣街まで行っていて、慌てて戻ってきた」
隣街までは馬車が出ているが早朝に出て夕方に着く。走って日帰りで往復できる距離ではない。
ぬいぐるみに見栄を張るわけもないから、本当なんだろうか?
師匠か……呼ぶ方も恥ずかしかったようだが、僕もなんだかちょっとむず痒くなってきた。
「見てるだけでいいのか? キールもやってみる?」
翌日、僕が話しかけるとキールはぶんぶんと左右に首を振った。弟子になりたいと言ったんだから、ぬいぐるみを作りたいんじゃないのか?
無理強いするのはよくないと、嫌がるところを無理にやれとは言えなかった。
一度は師匠と呼ばれたが、師匠とは作業を見学させているだけでいいんだろうか?
「食事は今日も僕が作るけどいい?」
キールは今日も言葉を発することなく頷いた。
食事は僕が作ったり、たまにキールが作ることもある。だがキールが作る料理は……とても料理とは言えないものだ。
パンは買うからいいとして、スープは干し肉が僅かに浮かんだ塩水だし、メインディッシュは焼いて塩をかけただけの肉の塊だ。皮さえ剥かれていない生の玉ねぎがそのままテーブルに置かれていた時は、なんの冗談かと思った。
ちなみにそれをキールはそのまま食べた。まるでりんごでも齧るように、辛く苦い玉ねぎを皮のまま食べたんだ。
やっぱりキールは元野盗なんだろうか?
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