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7.弟子の告白
「お前、キールか?」
「好きになったら夜這いをすると聞いた」
「いや、誰がそんなデマを吹き込んだんだ? 間違いだ」
「そんな……」
キールはたまに、わずかだが会話ができることがある。この状況で僕はその理由が分かってしまった。
顔が見えないことが鍵となっている。今のように暗がりで相手の顔がよく見えない状況なら少しは話せるんだ。
だが、そんなことよりもキールの言葉が気になった。好きと言ったか?
それは僕のこと?
そして好きになったら夜這いするなんて、さすが野盗という感じだ。扉に鍵をつける必要が出てきた。
「キス」
ベッドに押さえつけられて、再び重なる柔らかい感触。押さえつける腕の力は強い。強引なのに触れる唇は柔らかくて優しい。
「んー! んっ……やっ、やめろ! キスもダメだ」
「ダメか……」
ヤバイ……ふわっといい匂いがして、柔らかい唇に僕の方が流されそうになった。
「キスもそれ以上も段階を踏んでするものだ」
「段階」
段階を踏むんだよな?
僕だって恋人がいたことなんてないから恋愛のことは分からない。だが、好きだと言う前に、相手の了承もなく夜這いなどおかしいということは分かる。
「キス、したい」
キールは力が強い。僕は押さえつけられると、全力で抗っても敵わない。
押さえつけられて、重なった唇は僕が拒絶の言葉を発することを許してくれない。
「んんっ……」
気持ちよくて、次第に抵抗する力も無くなっていく。キスがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。キールのことが嫌いなわけじゃない。ずっと見ていれば根が悪いやつじゃないことも分かる。
「師匠、可愛い」
「可愛くなくていいから、無理やりはやめろよ」
「嫌?」
嫌かどうかは……もう正直分からなくなってきた。キールのことは嫌いじゃない。好きかどうかと聞かれると、まだ恋には満たない気がする……
僕はキールの問いには答えられなかった。
このままでは流されてしまうと思い話を変える。
「一つ、聞かせて。あの日、初めて会った日、なぜ夜中に扉を壊して侵入して僕の胸ぐらを掴んだ? キールは元野盗か?」
「違っ……野盗などではない。夜中にここに着いた。扉を叩いたら壊れて、焦って……」
ハサミを何度も机に突き刺しているのを見ているし、ドアノブを壊して直したこともある。力が強すぎるキールが扉を叩いたら壊れたというのは本当かもしれない。
「ここに来る前は何をしていた? 仕事はないのか?」
「仕事……剣」
キールは剣を持っている。なかなか綺麗な剣で、イブに話しかけながら手入れしているところを見たことがある。
剣を使う仕事って、野盗でないならやはり軍人だろうか?
「軍人か?」
キールは僕の手を自分の頬に当てて頷いた。大きくて、ちょっと硬い、でも温かい手だ。
軍人か……なるほど、それは可哀想だ。英雄と同じ名前など、比べられて嫌になって辞めてしまったのかもしれない。
きっと話すのが苦手なキールは、英雄と勘違いされても、上手く説明できないだろう。揶揄われて傷ついたのかもしれない。
「英雄と同じ名など、苦労も多かっただろう。大変だったな」
「好きだ」
キールは全然僕の話なんて聞いてない。いつでもキスできるように、吐息がかかるほどの近くに顔を寄せているんだ。
「その話はまた後日する。キスはダメだ、それ以上も。とにかく一旦落ち着け。今日はもう部屋に戻って寝ろ」
キールは僕のことを抱き起こしてぎゅっと抱きしめると、部屋を出ていった。ゆっくりと足を引き摺るような音が響き、少し罪悪感が湧いた。
鼓動はまだ速いままだ。キールには後日と言ったが、答えを出せる気がしない。
明日の朝、顔を合わせるのが気まずい……
さっきのは何かの間違いかもしれない。僕ももう余計なことは考えずに寝よう……
キールがキスなんかするから……
昂って眠れなくなってしまった。キールに落ち着けと言ったが、僕も落ち着け。
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