【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

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22.却下された提案

 
 ヒューゴ様は毎日一緒に寝てくれる。
 後宮に行かなくても仕事が捗るようになると、後宮には五日に一度くらいの頻度で行くようになった。
 騎士団には怖くて行けないが、そこは宰相が代わりに行ってくれている。

「ミール、宰相が好きなお菓子を作ってくれないか?」
「宰相様に渡すんですか?」
「うん。私の代わりに仕事をしてくれているから、お礼がしたい」
「畏まりました」

 他の用事を終えてキッチンを訪ねるとミールは用意して待っていてくれた。

「これでいかがでしょうか?」
「すごく綺麗。宰相は飴が好きなのか?」

 料理人のミールは綺麗な飴細工を作ってくれていた。鳥とか小動物を模った素敵なものだ。

「宰相様はお孫さんを溺愛していますから、本人よりお孫さんが喜ぶものがいいかと」
「確かに。ミールありがとう。また今度、後宮に届ける飴細工もお願いする」
「畏まりました」

 私は箱に入れられた飴細工を持って事務室にいる宰相を尋ねた。
「私の代わりに騎士団に行っていただきありがとうございます。これはほんのお礼の気持ちです」
「ジョシュア様から贈り物など光栄ですね。ありがたくいただきます」

 宰相に飴細工を受け取ってもらうと、私は庭園に出た。

「ポール、一緒にこれを食べよう」

 さっきミールに「飴が余ったので」ともらった、木の棒の先に飴細工がついているものをポールに差し出した。
 花の形だったから、きっとポールが喜んでくれると思ったんだ。

「いいのですか?」
「これは棒の先に飴が付いているから、汚れた手でも食べられる」
「確かに。便利ですね」

 花壇の端に並んで座ると、私たちは飴を食べながら、目の前で満開になっている白い花の話をした。
 初めポールは、隣に座るなど畏れ多いと言って遠慮していたが、私は人質でこの国では身分なんて無いみたいなものだと、何度か説明してからは、隣に座ってくれるようになった。友だちってこんな感じなのかな? 友だちというものがいた経験がないから分からないが、人と仲良くなれるのは嬉しい。

「この花、何本か切ってもらえないか? 部屋に飾りたい」
「いいですよ」

 飴を食べ終わると、ポールは花を切って紐で茎を縛って渡してくれた。
 ヒューゴ様の部屋に飾ろう。香りが苦手ならメイドの休憩室にでも飾ってもらおうかな。
 この花は可愛いし、きっと彼女たちは気に入ってくれると思う。

 ヒューゴ様の部屋に持ち帰ったら、ヒューゴ様が喜んでくれたから、そのままお部屋に飾ることになった。

「そういえば庭師と仲良くしていたな」
「はい。ポールとはたまに話をしたりします」
「そうか」

 ヒューゴ様はなぜかまた少しムッとした。
 何か失敗しただろうか? 実は花が気に入らなかったとか? 分からない……

「ジョシュア、キスしよう」
「はい」

 今日のキスは、ムッとしていたからか、初めは少し荒っぽかった。でもだんだん優しくなっていって、ふわふわした気持ちで終わった。
 そしてギュッと抱きしめられた。ふわふわした気持ちのまま抱きしめられるのはとても幸せだ。出来立てのパンケーキに蜂蜜をかけて、更にフルーツのジャムも追加してくれたような、甘くて温かい幸せ。

「ジョシュア、俺の側にいろ」
「はい。ずっと側にいますよ」

 宰相は一日に何度か確認のために訪れたり、仕事を持ってきたりする。たまに来ない日もあるんだが、きっとどこかに出かけているんだろう。

「ジョシュア様、先日は飴細工をいただきありがとうございました。孫が大変喜んでいました」
「それはよかったです」

 よかった、喜んでくれたんだ。さすがミールだ。
 可愛かったもんな。あの飴細工。
 朗らかな笑顔の宰相と話をしていると、急に後ろからヒューゴ様に抱きしめられて引き離された。

「宰相、ジョシュアからプレゼントをもらったのか?」
「は? ええ、まあそうですね」
「そうか。もう用事が済んだら出て行け」
「はいはい。私はジョシュア様を取ったりしませんからご安心ください」

 謎の言葉を残して宰相は部屋を出ていった。
 確かに私はヒューゴ様のものだ。取るとか取られるとか、そんなことヒューゴ様が気にするわけないのに。


 私は気づいたことがある。匂いだ。
 本当に不思議なんだが、ヒューゴ様に抱きしめられて眠ると、怖い夢を見ないんだ。
 記憶と匂いとは密接に関係しているのだという文献を読んだことがある。
 そのせいだろうか? ヒューゴ様の匂いがあれば、私は怖い夢を見ずに安心して眠れるのかもしれない。

 それなら、ヒューゴ様の着衣を貸してもらえばいいのではないか? わざわざヒューゴ様の睡眠を妨げるようなことをしなくても、その匂いさえあれば大丈夫なのかもしれない。

 私は夜にヒューゴ様のお部屋を訪れると、その話をすることにした。

「ヒューゴ様、私はこれからは一人で寝ようと思います。ヒューゴ様のお召し物を貸していただけませんか? きっとヒューゴ様の匂いが感じられれば、一人でも悪夢を見ずに眠れると思うのです」

 我ながらいいことを思いついたと自信を持って告げたのだが、ヒューゴ様はムッとしたまま黙り込んでいる。

「私に着衣を貸すなど嫌ですか?」
「嫌だな」
「そうですか……」

 断られてしまった。
 私はヒューゴ様に嫌なことを提案してしまったのだと思って自分の浅慮を恥じた。

「ジョシュア、俺と寝るのが嫌なのか?」
「そんなわけありません」
「じゃあ一緒に寝ろ」
「はい」

 
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