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50.森へ
しおりを挟むランディーが自分とディエゴの関係について悩み始めて5日、ランディーの様子がおかしいことに気付いたディエゴは、以前約束していた森の散策と野営をしようと日程調整を始めた。
そこから10日ほどで日程調整をし、翌月にはランディーと近衛騎士を10名ほど連れて野営に行くことにした。
「ランディー、今度森へ行くぞ。」
「え?森ですか?」
「ランディーが前に森を歩きながら野営したと話していただろ?その時は連れて行くと約束したからな。」
「久しぶりの森、楽しみ。」
王城の敷地の外に出られる日がくるとは思っていなかった。ここには全てが揃っていて、何も不足しているものはない。
服も本もお菓子もお茶も、何だってディエゴが用意してくれる。この城から出なくても一生を過ごすことは可能だった。それでもディエゴは私との約束をちゃんと覚えていて、叶えてくれるらしい。
「ランディーは馬には乗れるか?」
「乗れるが、近年はあまり乗っていなかったな。」
「そうか。では性格の大人しい馬にするか。いや、俺と相乗りでいいか。」
「大人の男性を2人も乗せて馬が可哀想じゃないですか?私はディエゴ様の馬に付いて横を走りますから馬などなくても大丈夫です。」
「それはダメだ。馬を用意する。」
馬か。最後に乗ったのは父上や兄上と領地の視察に行ったときだったな。1年ほど前か。馬車と騎馬、半々くらいの割合だったから毎回乗っていたわけではないが。
学園にいた時にも練習していたし、暴れ馬でなければ乗れるだろう。
当日私に用意されたのは、真っ白で綺麗な馬だった。
馬との親睦を図るため、私は馬に丁寧にブラッシングをしながら話しかける。
「私を森まで乗せてくれるか?君は毛並みがとても美しい。その鬣は少し私の髪色に似ているな。」
確かに大人しく温厚な馬らしい。初見の私がブラシをかけていても大人しくしていて、嫌がる素振りはない。この子なら乗れそうだ。
「ランディー、そいつはお前の馬だ。一目見てランディーのために存在する馬だと思って買った。」
「え?わざわざ買ったのですか?今日のために?」
「またどこかに一緒に行くかもしれないだろう?」
そうなのか。いつの間に?と思ったが、最近私が本に熱中している時や、騎士団で稽古をしている時、ディエゴはたまにいなかったから、その時に買ったんだろう。
ディエゴ以外の友達というか、相棒か。嬉しいな。
「名前はあるのか?」
「まだ無い。ランディーが付けていい。」
「んー、では真っ白で綺麗だからビアンカにしよう。
君の名前はビアンカだ。私はランディー。私たちは相棒になった。これからよろしくな。」
ビアンカに話しかけると、ビアンカは私の顔に擦り寄ってきた。可愛い。仲良くしてくれそうでよかった。
「相性も悪くなさそうだな。」
「はい。ディエゴ、ありがとう。」
「いいんだ。午後には城を出るぞ。」
「分かりました。」
こうして私にビアンカという相棒ができた。
鞍などもディエゴが用意しくれていて、午後になると周りを10名の騎士に取り囲まれて城を出た。商会がある道は通らなかったので、商会がどうなっているのかは分からなかった。
途中でなぜかセイルの姿をチラッと見たが、別にそんなことはどうでもいい。他にも学園で同じクラスだった者を2名ほど見たが、どちらも名前が出てこなかった。
帝都の防壁を抜け、森へと入っていく。
キジを狩った時以来だから半年ぶり、いや、もっと経っている。あれは春の初めだったが、もう今年も終わりに近づいている。
もうすぐ年末か。そういえばもう私は19になるんだな。卒業してから色々なことがあったが、今は比較的安定している。
「ランディー、この辺りでどうだ?」
「いいですよ。」
「では手早くテントを設営し、狩りに行こう。」
「はい。」
テントは連れてきた騎士が建ててくれた。マルクが使っていた2人で寝るのがやっとという感じの大きさではなく、とても立派なものだ。なんかちょっとイメージと違うが、まぁこれはこれで楽しいだろう。
「焚き火のための枝を集めてくる。」
「あぁ、魔物が出るかもしれないから気をつけろよ。ランディーの腕なら万が一にも危険は無いか。」
「魔物が出たら夕飯にしましょう。」
「そうだな。」
1人で歩くの自体が久し振りだな。森に連れてきたディエゴには感謝しなければ。人数が多いし、焚き火も1つでは足りないだろう。私は枯れ枝を集めて、もう持てなくなると一度戻り、また枯れ枝を求めて森の中を歩いていく。
と、その時、後ろから急に羽交締めのように押さえ込まれ、口も手で塞がれた。
こんなことをするのは、マルクか?マルクならまだいいが、他の者だったらと思うと怖い。
そのままの体勢で森の奥へ引き摺られていくと、ようやく手が離れ、後ろを向かさせると同時に唇が重なる。やはりマルクだった。マルクかとホッとするわけはない。
マルクは私を騙してていたんだ。
「いやっ、、やめろ!」
今まで一度もマルクを拒否などしたことがなかった私が抵抗し顔を逸らすと、マルクは傷付いた顔をした。何でお前がそんな顔をするんだ。
「私はすべて知った。マルクが何も知らない私の身体を弄んだこと。なぜそんなことをした?言い訳はあるのか?」
「ランディー様・・・俺はあなたを愛しているのです。ただそれだけです。俺の愛に応えてくれたじゃないですか。」
「違う。私は知らなかっただけだ。私はもうお前に好き勝手されるのは嫌だ。マルク、私はお前のことを恨んではいない。騙していたことは許せないが、何度も救ってもらったのも事実だから。お前を嫌いになりたくはない。もう私の前に現れるな。」
「そんな・・・」
マルクならきっと分かってくれる。だからもう会うことはない。悲しそうな顔のマルクに少し胸が痛んだが、やはり許してはいけないことだ。さよならマルク。
「・・・嫌だ。」
「は?」
「最後に抱かせろ。」
「何を言っている?無理だ。」
「無理じゃない。ランディー様、俺はあなたを愛してるんだ。」
マルクの力は強く、私は振り解けなかった。上衣を引き裂かれると恐ろしくなって、本当はそんなことしたくなかったが、風の魔法を当ててマルクを吹き飛ばした。マルクは吹っ飛ばされた先の木に激突したが、私は構わずディエゴの元に駆けた。
「ディエゴ、ディエゴ、助けて、ディエゴ!」
「ランディー!!」
ディエゴも帰りが遅い私を心配して探していたようで、こちらに向かってくる姿を見て遠目に捉えた。助かったのだと分かると、ホッとする。
「ランディー!何があった?」
ギュッと抱きしめて、ディエゴのローブの中に包まれた。
「私の元従者に襲われかけた。風の魔法で吹き飛ばしたから、もう大丈夫。でも・・・ディエゴが選んでくれた服がこんなことになって、ごめんなさい。」
「そんなことはいい。何をされた?」
「抱きつかれて、キスされた。ごめん。服は切り裂かれたけど、それ以上は何も。」
「怖かったな。もう大丈夫だ。俺がいる。」
「うん。」
こんなことになったのだから当然野営は中止。すぐに城へ引き返すことになった。馬車が迎えにきて、私はディエゴにずっと抱きしめられてローブですっぽり全身を隠されたまま馬車で城へ戻る。
そのままディエゴに抱えられて移動し、また私は鳥籠の中の鳥になった。
抱いてもいいと言ったけど、ディエゴは私に一切手を出さなかった。マルクとキスをしてしまったからかもしれない。
「ディエゴ、抱いて。」
「ダメだ。」
「分かった。」
私はこのまま捨てられるんだろう。捨てるのなら、側になど置かずさっさと捨ててくれれいいのに。側にいても、ディエゴの心は遠い。何を考えているのかも分からない。
こんな風に遠ざけられるのなら、もうマルクに攫われてしまった方がよかったのかもしれないとさえ思えてくる。
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