53 / 75
七章:帝都 ロディ視点
53.イケメン帝都を観光する
「アダム、帝都にも冒険者ギルドはある?」
「あると思うぞ。行きたいのか?」
「依頼は受けないが少し見てみたい」
「じゃあ行こう」
アダムと手を繋ぎ、カミーユとフライツを連れて街を歩く。
「アダムヘルム様、監視がいますね」
フライツがボソッと周りには聞こえないような小さな声で言った。
「構わない。何もおかしなことはしないし、僕たちは観光するだけだ。堂々としていればいい」
アダムは強くて格好いい。
監視というのは、俺たちの行動を見ている人がいるということだ。他国から来て何か企んでいると思われているのかもしれない。
美味しいものを食べて、きれいな景色を見る。冒険者ギルドには行くけど、変なことはしないから、アダムの言うように堂々としていればいいんだ。
食事の時にジッと見られると、俺は失敗して豆が転がったりスープを溢したりしてしまうけど、まさか食事の時もじっくりと見られるんじゃないよな?
「お! イケメンだな、今夜どうだ?」
冒険者風の男が俺の前に立ちはだかってそんなことを言った。
「おい、僕の夫に近づくな」
「なんだ男連れかよ」
「あら、イケメンね。あたしと遊ばな~い?」
今度は酔っ払って唇を真っ赤に塗った女が声をかけてきた。
「僕の夫だ。手を出したら命はないと思え」
アダムの怖い声に女は無言で立ち去った。
やたらと人が声を掛けてくるんだが、俺が戸惑っている間にアダムが全部対処してくれる。俺は知らない人に話しかけられてもどうしたらいいのか分からない。アダムはきっと慣れてるんだ。
アダムは魔術だけでなく、人との関わり方も上手い。俺はアダムに学ぶところが多すぎる。
よし、俺もアダムに頼ってばかりじゃダメだ。ちゃんと対処できるようにならなければ。
「あら、お兄さんイケメンね。この後あたしと二人でどう?」
今度は布面積の少ない服を着た女が腕を絡めてきた。香水の匂いが臭くてたまらない。
「近寄らないでくれるか? 臭くて息ができない」
「何よ! ちょっと顔がいいからって!」
なぜか女は怒ってどこかへ行った。
間違えたんだろうか? アダムのように上手くはできない。俺は相手を怒らせてしまった。
「ぶはっ、あはははは」
カミーユが吹き出して大きな声で笑い始めた。一体なんなんだ?
「ロディの断り方は面白いですね」
フライツが言った。俺の断り方が面白いからカミーユは笑ったのか。そのまま思ったことを言ったんだが、ダメだったのかもしれない。
「ロディ、想定以上だ。ローブでも買って街では顔を隠して歩いた方がいいかもしれない」
「顔を隠す? この国ではアダムのことを変な風に呼ぶ人はいないように感じるが、何か嫌なことでも言われたか?」
俺が気付かないうちにアダムが傷ついていたのかもしれない。守ると決めたのに……
「僕じゃなくてロディだよ。ロディがイケメンすぎるんだ」
「俺? 俺は悪口を言われても平気だ」
ずっと言われてきたから俺は慣れている。
「悪口ではない。ロディ、もしかして分かってない?」
アダムに言われて、俺は本当に分かっていないのかもしれないと思った。
「何がだ? 分かっていないかもしれない。教えてほしい」
アダム曰く、俺は顔が格好いいのだとか。だから色んな人に狙われるのだと言われた。『イケメン』というのは格好いい男のことを指す言葉なのだと説明された。
「俺の顔は普通だと思う。アダムみたいに可愛くはない。アダムの勘違いではないか?」
「やっぱり無自覚か。僕の手、放さないでね」
「分かった。絶対に放さない」
言われなくても放したりしないが、放さないでと言われると、アダムが俺のことを望んでくれているようで嬉しい。
「カミーユ、イケメンって知っているか?」
「ロディみたいな男のことっすね」
そうなのか。
「フライツ、俺の顔は格好いいのか?」
「はい? 自慢ですか? それとも嫌味ですか?」
「どちらも違う。質問です」
何だか怒られそうな雰囲気で、思わず丁寧な言葉が出てしまった。
「ロディは格好いい。美しいですよ。誰が見てもイケメンです。突然どうしたんですか? 見目麗しい貴方は攫われたりしないよう、私たちから離れないよう気をつけてくださいね」
俺が攫われた時にも赤い髪の男は俺のことをイケメンと言っていた気がする。イケメンとはアダムがつけた俺の呼び名の一つで、それを他の人も知っているのかと思っていた。
その後アダムが白いローブを買ってくれた。この国の服は色とりどりの刺繍が入っている。俺のローブも裾に青と紫の糸で植物の刺繍が入ったものだ。
「これ、逆効果じゃないっすか~? ロディのイケメンはローブのフードくらいじゃ隠し切れないっす」
カミーユが頭の後ろで手を組んで歩きながら言った。
フードを目深に被って顔が半分隠れるようにしていたんだが、また人が寄ってきたんだ。カミーユが言った通りになった。
そして、その次に寄ってきたのは、俺たちを監視してる帝国の兵たちだった。
「護衛させていただきます。貴殿らに無作法に近づく輩が多すぎる。万が一があってはいけません」
こうして俺たちはこの国の兵に囲まれて歩くことになった。帝都は不便だ。
結局、冒険者ギルドには行けなかった。
しかし、小さい店で売っている甘辛いのがかかった肉が美味しかった。ピリッと辛かったんだが、そんな刺激的なものを食べたのは初めてで、感動していると、帝国の兵の一人がもう一本買ってくれた。
「ありがとう。これはとても美味しい」
感謝を伝えたんだが、なぜか彼は顔を真っ赤にして俯いてしまった。体調が悪いなら無理をしなくてもいいのに。
その後、大きな時計台に登って帝都を見たり、闘技場も見せてもらった。年に二十回、闘技大会が開催されるそうだ。
「アダム、あっちの建物はとても小さいな。あの人たちはなぜ家のベッドでなく道で寝ているんだ? 酔っ払いにしては多くないか?」
「あぁ、あっちはスラムだろうな。シュトラールの王都の端にもスラムはあるぞ」
その後アダムにスラムというものを教えてもらった。仕事も金もなく、家もない人たちや、貧困の人が住んでいるそうだ。
「俺も金も仕事もない」
「ロディは僕の夫という仕事がある」
「冒険者もやってるじゃないっすか」
アダムとカミーユに言われて、俺にも仕事があることを知った。そうか。俺は仕事があるんだ。
道で寝ている人たちを横目に見ながら進んでいると、アダムが急に足を止めた。
「どうした?」
「見つけた……」
何を見つけたのかと不思議に思っていると、周りに何かおかしな揺らめきがあった。次の瞬間、アダムが寝ている人のうちの一人を魔術で拘束していた。
「ロディ、観光は終わりだ。帰るぞ。
帝国兵、あの女は僕の事件の重要参考人というか犯人の一人だ。僕が引き取って構わないよな?」
「え、えぇ、もし尋問の際に帝国でも犯罪を犯していることが判明した場合には、連絡いただければと」
兵たちもいきなりのことで戸惑っている。
観光は終わりか。事件の犯人を見つけたのなら帰るのも仕方ない。
「カミーユ、フライツ、僕たちは先に帰る。もう日も暮れるからお前らは帝都で一泊して明日帰ってこい」
アダムは二人に少しお金を渡して、すぐに飛び立った。
犯人と言われた人は魔術でできた網のようなものに入れられて吊るされている。眠っているのかとても大人しく、暴れたり声をあげたりもしなかった。
「ロディ、帝都には改めて観光に来よう。その時は冒険者ギルドにも行こう」
「分かった」
アダムはそれっきり難しい顔をして考え込んでいる。
空を飛んでいると、山に日が沈んでいくのが見えた。燃えるように真っ赤なお日様が、ゆっくりと空を染めながら下りていく。その景色がとても綺麗だと思った。
「綺麗だ。アダムとこんなに綺麗な景色が見られるなんて幸せだ」
「ロディ、僕はいつもロディに救われる。ありがとう」
アダムは真っ赤に染められた空を見ながらそう言った。
アダムがなぜ俺にありがとうと言ったのか分からない。ありがとうを言うのは俺の方だ。こんなに綺麗な景色を見られるのは、アダムが俺を連れて空を飛んでくれたからだ。
「アダム、ありがとう。この景色を見られたのはアダムのおかげだ」
そっと抱きしめて、どうしてもキスしたくなって、アダムの額と頬にキスをした。
下に網の中に入った人がいるから、口にするのはやめておいた。家に帰ったらたくさんキスしよう。
あなたにおすすめの小説
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★