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七章:帝都 ロディ視点
54.帝国とアダムの母
>>帝国にて
「悪夢様は帰ったか?」
「えぇ、スラムで事件の犯人を見つけたと言って拘束して帰りました」
「我らを利用したフェイル・クライバーという男を調べよ。六年前に何が起きたかもな」
「畏まりました」
「それで悪夢様の夫が見目麗しいというのは本当だったのか?」
「えぇ、それはもう。
皇帝、間違っても手を出そうなどと考えないでくださいね。下手したら帝都が更地になります」
「分かっておる。だが一目見てみたかったな」
こうしてロディが見目麗しいという噂は国境を超えた。
アダムの帝国での二つ名は『破壊神』ではなく『悪夢様』のようだ。
*
家に帰ると、アダムの両親から手紙が届いていた。
アダムの部屋でソファーに横並びになって一緒に読む。今はアダムの母上という人しかロイター領にはいないけど、それでもいいならおいでと書いてあった。
父上という人は王都にいて、すぐには帰ってこられないそうだ。夫婦が離れて過ごすのは寂しくないんだろうか?
俺はアダムと何日も離れて過ごすなんて考えられないから、不安になってアダムの手をギュッと握った。
「ロディ、どうした?」
「俺は大好きなアダムと離れて過ごしたくない」
「うん? そんな予定はないから安心して」
「そうか」
よかった。俺はずっとアダムと一緒にいたい。ただ一緒にいるだけじゃなく抱きしめたくなって、アダムを引き寄せてギュッと抱きしめた。アダムは細くて小さい。俺の腕の中にスッポリとちょうどいいサイズで、俺専用に神様が作ってくれたみたいだ。
アダムが網で吊るして連れてきた人は、地下の柵がついた部屋に入れているそうだ。
この家にもそんな部屋があるなんて知らなかった。あの部屋に入ると硬いパンを投げつけたりするんだろうか?
あれは痛いからやめてあげてほしい。
「ロディ、今日は移動で疲れたろ、明日の夕方までにはカミーユとフライツも戻ってくるだろうから、明日と明後日は休みにして、それから僕の両親の家に行こう」
「分かった。母上という人がいるんだよな?」
兵舎裏の『モジャ』がたくさん生えているところに向かった。今ではあまり兵たちは『モジャ』を摘まない。アダムが香水を作ってくれたから、それを使う人が増えたんだ。
でも俺はこのふわふわした感触が好きだ。モジャモジャして可愛い。
少し多めに摘んで、途中で窓を拭いていたメイドの女の人に『モジャ』を部屋に飾りたいと言ったら、花瓶というのを貸してくれた。
アダムの母上に会いに行く日、動きにくい服を着て、髪を整えてもらった。王城に行く時と同じ格好だ。胸ポケットには『モジャ』を入れている。
緊張しながら馬車に乗り、アダムの母上がいる家に向かう。
「は?」
到着して馬車を降りたアダムはいきなり大きな声を出した。
「アダム、どうした?」
アダムは固まったまま一歩も動かない。
アダムの視線の先を見ると、俺たちが住んでいる家の隣にあるのと同じ兵舎があった。ここにも兵舎があるんだな。
訓練場は無いように見えるが、裏にあるか、少し離れた場所にあるのかもしれない。
兵舎から一人の女の人が出てきた。スカートを穿いているからたぶん女の人だ。白い長いシャツを羽織って、紙の束を小脇に抱えている。
こっちに歩いてくるから、きっと俺たちを迎えにきたんだろうと見ていたら、近付くにつれてその人がアダムにそっくりなことに気づいた。
髪型は違うが髪の色は同じ水色で、目の色も同じ紫色、細くて小さいところまでそっくりだ。
少し微笑んでいるように見える。
「アダム、あの人はアダムに似ている」
「あぁ、うん、あれは僕の母だ。俺を産んだ人」
アダムを産んだ人。俺も誰かから産まれたんだろうか?
「アダム、久しぶりね。ローデリックさん、初めましてクロエよ」
アダムの母が目の前まで来ると、俺にも挨拶をしてくれた。怒ってはいない気がする。
「お初にお目にかかります。ローデリックです。アダムを産んでくれてありがとう」
怒られても、これだけは言いたかった。
「まぁ、いい子」
俺はいきなり距離を詰められてアダムの母に抱きしめられた。
女の人に抱きしめられたのは初めてで、どうしたらいいのか分からなかった。アダムにそっくりなのにアダムとは少し違う。
「母上、ロディを離してください」
「アダムはケチねぇ。噂には聞いていたけど、本当に綺麗な子ね」
アダムに注意されるとやっと離れてくれた。
そして家に入って三人で話をした。
「ロディを巻き込みたくないから、ロディは待っててくれる?」
「嫌だ。俺はいつでもアダムと一緒だ」
「いいじゃない。あなた達は夫夫なんだから」
アダムの母が許してくれたから、俺も一緒に話を聞くことになった。
防音の結界というのを張って、外に話が漏れないようにして、内緒の話をしたんだ。
アダムが学校の建物を破壊してしまった事件は、アダムのせいじゃなかった。他の人が『薬』を隠すためにアダムに罪を着せた。そこには色々な人が関わっていると聞いた。
アダムのせいじゃないのに、アダムは人に恐れられて一人になって寂しい思いをした。許せないと思った。
アダムが帝国から網で連れてきた人はそのうちの一人だ。
地下の柵がある部屋に閉じ込められていると聞いて、可哀想だと思ったが、全然可哀想じゃなかった。
「エリスレーベンは私が預かるわ」
「しかし……」
「アダム、あなたが苦しい時に私たちはそばにいることができなかった。後始末はあなたの親としてやらせてちょうだい。
それと、あなた達にとっては意外な協力者もいるのよ。それはいずれね。ふふふ。
言い訳はしない。だけど、全てが終わったら説明させてちょうだい」
アダムの母は、アダムのように真っ直ぐ強い目をしていた。きっとアダムのように強い人なんだ。
「あなた達は日々を幸せに過ごしなさい」
アダムの母に言われると、アダムに言われているような気分になる。声は全然違うのに不思議だ。
「分かりました。それと、関係ないですが一つ質問をしていいですか?」
「えぇ、何かしら?」
「あの外の建物は兵舎ではありませんか?」
「ふふふ、そうであってそうでないわ」
そうであってそうではない? 俺にはよく分からなかった。
あの兵舎は元々ロイター領都にあったらしい。外観は兵舎だけど、中はアダムの母の研究室で、アダムが学校を退学して領地に戻ってくる時にここに移動させたのだとか。
建物を移動させることができるなんてすごい。アダムの母は、やはりアダムの母だ。アダムを産んだというのも納得だ。
アダムは目を見開いて固まって、そして上を向いた。
「やっぱり兵舎が八棟あったのは、僕の記憶違いじゃなかった」
そういえば、王都から帰った時にそんな話をしていた。俺も一、ニ、三……と数えたんだ。
そして俺たちは、帝国で捕まえた人をアダムの母に引き渡す手筈を整えて、馬車に乗って帰った。
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