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二章
576.みんなの興味
今日森へ行くメンバーは、僕たち家族三人とパン、タルクたち家族三人。そしてピグロとサロモン、ネストさんとラニエロさんだ。
ピグロとサロモンという混ぜるな危険の二人がいるのは不安だけど、ネストさんがいるから何とかなると思いたい。こんな日に限ってリーノが仕事なのが残念だ。殿下は外せないお茶会があるらしい。
「やだぁ、ぼくもあるきたい」
王都の北門から出る時まではルーベンに抱っこされていたトラくんだったけど、自分の足で歩きたいと言い出した。
薄っすらと雪が積もっているだけに見える街道だけど、雪の下は氷だから注意して歩かないと滑る。タルクもルーベンもトラくんに危ないことはさせたくないと、必死に説得を試みているけど、トラくんの意思は固いみたいだ。
シルがパンを連れて歩いているせいかもしれない。
僕はラルフ様に抱っこされているけど、全く自分の足で歩きたいとは思わない。雪や氷の上を歩くのは神経を使うし、チェーンメイルを着ているから僕が自力で歩いたらすぐに疲れてしまうと思う。
「ほら、マー様も抱っこされているでしょ?」
「いやだ、ぼくもあるきたい」
タルク、僕が抱っこされているからってトラくんも「じゃあぼくも」なんてことにはならないと思うよ。
トラくんが駄々を捏ねて困っているタルクとルーベンだけど、二人で嬉しそうに顔を見合わせている。
僕にも気持ちが分かる。わがままを言ってくれるって嬉しいよね。慣れてきた証拠だ。口を閉ざして我慢してしまうのが一番辛い。
「降ろしてあげればいいのではありませんか?」
森に行くというと、ぜひにとついてきたラニエロさん。トラくんがいるからか、今日も赤い帽子を被っている。
初めはとんでもない帽子を作ったと思っていたけど、だんだん慣れてきた。遠くからでもよく分かるいい目印としても機能している。逸れたらあの赤い帽子を目指せばいい。
「ぼくがて、つないであげる」
「ヒンッ!」
シルお兄さんが手を差し出すと、ようやく降ろしてもらえたトラくんは嬉しそうにシルの手を取った。雪の上に小さな足跡をつけて歩いていく二人が可愛い。
「シルくんの手をしっかり握ってるんだよ」
「うん!」
シルは僕より雪道に慣れているから、きっと大丈夫だろう。
何かあっても、ここには精鋭と呼ばれるような人たちがたくさんいるから、すぐに救出してもらえる。だけど僕は歩かないからね。
トラくんを降ろして空いたルーベンの手はタルクの手を掴んだ。エスコート?
ルーベンは親になってもタルクのことを大切にしている。相変わらず食事の時はルーベンが取り分けてあげているし、お肉はルーベンがタルクの分とトラくんの分を切り分けている。
結婚しても家族が増えても変わらないみたいだ。
トラくんがいるから、歩くペースはゆっくりだ。
これくらいゆっくりなら、僕でも歩けたかな?
「ママ、ラルフ、これ見てみろよ」
「何それ……」
サロモンとピグロが枯れた枝が絡まったものを見せにきた。何かの巣の残骸だろうか?
進行が遅くて退屈だったのかもしれない。僕は枝が絡まったものを見せられて、どう反応すればいいか分かりません。それは何なの?
「おもろいだろ?」
「面白いかもしれないけど、それをどうするつもり?」
「投げて遊ぶ」
「人に当たったら危ないからやめて」
きっとサロモンとピグロのことだから遠くに投げるか、高く投げて剣でズバッと切るって遊びをするんだろう。どちらも危ないからやめてください。
ラルフ様はというと完全無視だ。気持ちは分かる。
「ぼくにもみせて」
お? 少し表情が固いけど、トラくんがサロモンに声をかけた。あの枝が絡まったものに興味を持ったらしい。
サロモンの考えることも分からないけど、子どもの考えることも分からない。
サロモンは嬉しそうにしゃがんでトラくんとシルに見せている。得意げに説明をしているみたいだけど、枝の説明って何なんだろう?
パンは枝には興味がないのか、不思議そうに眺めているだけだ。そんなパンの首筋をピグロが撫でている。
「すごーい!」
「うん、すごい!」
枝が絡まってるものは、シルとトラくんにとって、とても興味を惹かれるものだったようだ。
「タルとルーもみて!」
トラくんに呼ばれると、タルクとルーベンは手を繋いだままビュンッと空を飛んでトラくんのそばに着地した。何その移動方法……
僕はその移動方法の方がよほど気になるんだけど、トラくんはそこには反応を示さなかった。
木の枝より、空から登場の方がすごいと思うのは僕だけ?
もう見慣れてしまったんだろうか?
「彼らは身軽ですね」
空から登場に興味を示したのはラニエロさんだった。フェリーチェ様ができるんだから、ラニエロさんもできそうだけどどうだろう。ラニエロさんは訓練の時以外、素早い動きというよりはゆったりと優雅な動きをしている。
「タルクとルーベンはすごいですよね。あんな動きができるなんて」
僕がラニエロさんの発言に応じたら、ラルフ様の腕にグッと力が込められた。僕がラニエロさんと話すのが気に入らないんだろうか?
ラルフ様はラニエロさんを警戒していたし、僕にも警戒しろって言いたいのかもしれない。
「マティアス、俺もあれくらいできる」
「え?」
そう言うとラルフ様は飛んだ。
片手で僕を抱えながら、飛び上がって木の枝を渡ってシルたちの隣に降り立った。
僕もとうとう空から登場を体験してしまった。この前、階段で足を踏み外した時は一瞬だったけど、今回はしっかりと空中を移動して地上に下りた。
「どうだ?」
「うん。すごかったです」
「そうだろう?」
ラルフ様が得意げだ。
もしかして腕に力を込めたのは、ラニエロさんと話すのが気に入らないんじゃなくて、タルクとルーベンを褒めたからだったりする?
「ラルフ様は世界一ですよ」
「世界一はマティアスだ」
僕に世界一のことなんてあるかな?
ラルフ様を世界一大好きってことくらいだ。
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