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二章
580.届いた手紙とロランド
さっそく届いたか。
夜会の翌日、ヴィートからいつものお茶会の招待状が届いた。予告はされていたけど、まさか翌日に届くとは。仕事が早いですね。
もう日程などは決めていて、昨日の話は最終確認だったんだろう。
「ロランド様はどうしますか?」
「参加の返事をしようと思っている」
ロランドは相変わらず、手紙の返事に追われている。昨日は早く帰ってしまったから、話を聞こうと思っていた人たちから招待されているんだろう。
一度でまとめてみんなに説明できたらいいんだけど、それも難しそうだ。
「そんなに孤児院に興味がある方々が多いんですね」
「そうではない。孤児院の話が聞きたいなどと言っているのはただの建前だ」
「そうなんですか? では皆さん何を聞きたいんでしょう?」
僕は純粋に彼らの意図が気になったんだけど、ロランドは困った顔をした。それはロランドにも分からないということだろうか。それとも、理由はわからないけど僕には言いたくないとか?
「こんな私だが、侯爵家に名を連ねている。そういうことだ」
「ん? 再び注目を浴び始めたロランド様の機嫌を取りたいとか、ロランド様と仲良くしようということ?」
「まあ……そういうことだと思ってくれていい」
ロランドは僕から目を逸らした。なんでそんなぼんやりと誤魔化すみたいな感じで言うんだろう。核心に触れられると困るの?
僕がジッとロランドの顔を眺めていると、ロランドは気まずそうに小さく息を吐き出して口を開いた。
「彼らはルキオとの婚約は仮だと知っているんだ。騎士団を辞め、何もしていない頃の私であればそれで問題なかったが、注目を集め始めたせいで寄ってくるようになった」
「なるほど……だから昨日は話の途中でもさっさと帰ったんですね」
それならもうルキオと結婚すると決まったんだから、堂々としていればいいとも思うけど、二人が仲睦まじい姿を見せても彼らは演技だと決めつけるだけなのか……
結婚式の日程を決めて、早く結婚してしまった方がいいのかもしれない。
それでも偽装結婚だと言われたりするんだろうか?
ロランドの悩みは尽きそうにない。
「それと、父上の噂のこともある」
「アリオスティ侯爵の噂ですか? 派閥から抜けるとかいう……」
ラルフ様が貴族界が大きく変わるかもしれない、なんて警戒していたあれだ。
詳しくは知らないし、アリオスティ侯爵が派閥を抜けることでどんな影響があるのかもよく分からないけど……
「そうだ。真意を知りたい者もいるが、我が家が派閥を抜けるなら私を取り込んでおこうと思う家があるんだ」
「なるほど。それで数が一気に増えたと……」
侯爵自身は食えない男だし、ロランドの兄は陛下にベッタリだから取り入るのが難しい。そこでロランドというわけだ。
高位遺族というのは本当に大変そうだ。僕なんかは底辺だったしラルフ様と結婚するまでは社交界に顔を出さなくても気づかれないような存在だった。だからロランドの苦労は分からない。
ロランドは前と同じように「父上が決断したのは私のせいだ……」と肩を落としている。
派閥を抜ける決断がロランドのせいってのは、よく分からない。
ロランドは貴族主義の派閥にはそう関わっていなかったと思うけど、それが問題だったとか?
「ロランド様がきっかけであったとしても、決めたのはお父上でしょう? 気にすることないと思いますよ」
事情も知らない僕に慰められても意味はないと思うけど……
ルキオとのことでも悩みは継続しているのに、それに加えて父親絡みでも悩みを抱えることになった。ロランドはいつ悩みから解放されるのか。
「きっかけどころではないんだ。私は考えなしに行動していた」
「どういうことですか?」
ロランドは肩を落としながら話してくれた。
貴族主義とは貴族の権利を大切にするから、その派閥の筆頭であるアリオスティ侯爵の子息であるロランドが孤児を優遇するような行動を取ったのはまずかったらしい。
なるほど、実に貴族らしい呆れるような事情だった。
それでロランドは自分のせいだと思っているのか……
本当にそれが問題になると考えていたら、侯爵はロランドが孤児院に携わることを反対したんじゃないかと思う。
侯爵の本音は分からないけど、ロランドが孤児院を立て直したと噂を流したのは侯爵だ。息子がやったことだとしても、そんな噂を流しては派閥の中で立場が悪くなるのは分かっていたはず。
侯爵はルキオとのことといい、ロランドにちゃんと話をしないことは問題だと思う。
自分で全部やるからロランドは気にせずのんびり過ごしていてくれ、とでも思っているのかもしれないけど、話はするべきだ。
「これから結婚の話も出てくるでしょうし、派閥の話もお父上の考えを聞いた方がいいと思います」
「そうだな。私がこれからどう動くべきか聞いておいた方がいいな」
ロランドのせいではないと思うし、何も間違ったことはしていない。
もっと自信を持っていいと思う。
そんな話をしていると、リーブが部屋を訪ねてきた。
「マティアス様、不審者が屋敷の前を彷徨いておりましたので連れて参りました」
「え!? なんで不審者をうちに入れたの?」
リーブに連れてこられたのは、今噂をしていたアリオスティ侯爵だった。
不審者が彷徨いていたんじゃなくて、不審者に見える侯爵がいたんですね。びっくりするから誤解するような言い方はしないでほしい。
またこの人は一人で来たのか。昨日ロランドが大勢に囲まれた上に早々に帰ってしまったから心配だったのかもしれない。
僕は退室するから、じっくり話し合えばいいと思う。昨日は早く撤退したから、ロランドは寝込んでいないし、この親子は話し合わなければならない。
「じゃああとはお二人でどうぞ。僕は失礼します」
「マティアス様、待ってくれ」
立ち上がって退室しようと一歩足を踏み出したところで、ロランドに袖口を掴まれた。
「何か?」
「一人では不安だ。一緒にいてほしい」
夜会の時にラルフ様に向けていた縋るような目で見られると、断りづらい気分になる。
僕は部外者ですけど、聞いていいんですか? 侯爵に視線を向けると、どうぞ座ってくださいと手をソファに向けられた。僕は意見なんてできないから見守るだけですよ。
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