僕の過保護な旦那様

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二章

582.僕の行動

  
 アリオスティ侯爵が帰るとロランドは「疲れたから部屋で休む」と言って部屋に戻った。お疲れ様でした。
 息子のことが心配で大好きなのは分かるけど、侯爵は相変わらずロランドを疲れさせるらしい。
 熱が出ないといいですね。

「ラルフ様、今日アリオスティ侯爵がうちに来ました」
 ラルフ様が夕方に帰宅すると、僕は真っ先に報告した。黙っていてあらぬ疑いをかけられても嫌だし。いくらラルフ様でも幼い頃から知っている侯爵にそんな疑いをかけることはないか……

「そうか。俺のところにも押しかけてきた」
 えー? さすがお金と権力を持っている人は違う。部外者は立ち入り禁止のはずの騎士団にも堂々と乗り込んだのか。ロランドが大隊長をしている頃であれば家族ということで通してもらえたんだろうけど、今は部外者でしかない。しかも緊急でもなんでもない、ただ自慢するだけのために……
 きっと侯爵はラルフ様の前で親バカを発揮したんだろう。

 アリオスティ侯爵は派閥を抜ける噂が広がっているし、夜会やお茶会の誘いがロランドよりも多くきていると思う。忙しいんじゃないの?

「マティアスを狙うことがないようしっかりと釘を刺しておいたから大丈夫だ」
 ラルフ様は僕を安心させるかのように、背中を大きな手で撫でてくれている。だがそんな心配を僕はこれっぽっちもしていない。お金も権力も持っている侯爵が、何ができるわけでもない僕を狙うことなんてあり得ませんよ。
 きっとロランドを褒め称える中で、僕の名前がチラッと出たんだろう。それだけで釘を刺された侯爵の呆れた顔が目に浮かぶ。「ふんっ、そんなわけなかろう」なんてふんぞり返ってそうだ。

「ロランド様の悩みが一つ解消されました。これでゆっくり眠れそうですね」
「マティアスはあいつの眠りの心配までするのか。俺の眠りの心配はいつする?」

 いつするって言われても……
 僕はラルフ様と何年も一緒に寝ているんだから、今更だと思う。
 僕だってちゃんと心配しているよ。ラルフ様が戦場から戻ったばかりの頃は特に気を遣っていた。

「ラルフ様がぐっすり眠れるように、リラックスできる香りのキャンドルを炊いたりしています」
「そうか」

 ラルフ様は「そうか」なんて納得したように答えたくせに、不機嫌な表情のままだ。今日もラベンダーのキャンドルを炊いてあげよう。何か心配ごとがあるみたいだ。
 僕は知っている。ラルフ様は僕と愛し合った日はよく眠れるってことを。それは僕も同じだけど、早朝訓練の時に肌の艶がいい気がするんだ。だからぐっすり眠れているんだと思う。

「ロランド様はずっと悩みを抱えていたので心配しただけです。ラルフ様のことが心配な時は、ただ心配するだけじゃなく解消できるよう行動していますよ」
「ふむ。行動か」
 ようやくラルフ様の機嫌は治ったみたいだ。
 僕は他の人を心配する時も、過剰にならないように気をつける必要があるみたいだ。

「キスする?」
「する」
 断るわけないって思っていたけど、食い気味に「する」と答えたラルフ様の目に熱が満ちた。
 そんな目で見ないでよ。ラルフ様の熱で焦がされたくなるじゃないか。
 柔らかい唇が重なって、チュッチュッと啄むようなキス。納得したように見えたけど、まだちょっと拗ねているんだろう。
 こんなキスをしていたら止まらなくなってしまうと思っていたら、ラルフ様の唇は離れていった。

「心配は解消された。行動か、マティアスはさすがだな」
「うん?」

 僕とのキスでラルフ様の心配は解消されたらしい。それならよかった。よかったけど……もっとキスしたかった。その続きも。僕に火をつけたのはラルフ様だ。あんなキスするから、もっとラルフ様を感じたくなってしまったんだ。どうしてくれるの?

 僕は昂った気持ちを必死に我慢しながら夕食をいただくことになった。
 こういう時はラルフ様の口元や指先に目がいってしまうから困る。食事の時は食事に集中したいのに……

「ラルフ様、早く部屋に戻ろ?」
「そうだな。俺のことが心配か?」
「うん」

 全然心配なんてしていないけど、何に対して心配するのかも分からないけど、ラルフ様が期待するような目で僕を見るから……僕はラルフ様の腕の中で肯定した。
 ──その瞬間、僅かに風を感じた。
 そうなるとは思っていたけど、次の瞬間に僕はベッドの上で裸だった。僕も期待していたからいいんだ。

「ラルフ様、心配しなくても僕はラルフ様だけ愛してます」
「俺もマティアスだけ愛している」

 今夜も長い夜になりそうだ。


 翌朝まだ夜が明けきらないうちに起きると、ラルフ様の頬に触れてみる。
 肌にはハリがあり、スベスベしていた。やっぱりぐっすり眠れたんですね。
 僕はラルフ様の頬にそっと触れるだけのキスをした。

「マティアス、朝から情熱的だな。足りなかったか?」
「おはようございます。足りなかったことなんて一度もありませんよ。いつも満足しています」
「そうか。俺は足りない」
「え? そうなの?」

 隣で寝ていたはずのラルフ様がいつの間にか上にいた。僕を見下ろす視線は熱を帯びている。
 体重はかけられていないから重くはないけど、朝からですか?

「心配が解消できるよう行動してくれるんだろ?」
「……はい」

 僕は答え方を間違えたのかもしれない。

 その日の早朝訓練、ラルフ様は輝くような笑顔で参加しに行ったけど、僕はずっとベッドの中で疲れを癒していた。
 起き上がれないことはなかったけど、無理をしてもよくない。
 ラルフ様の匂いと体温が残るベッドの中で、僕は二度寝するんだ。朝から愛し合った後に寝る場合も二度寝っていうのかな?
 みんなが訓練している声が聞こえるけど、僕はもうしばらく寝よう。
 おやすみなさい。

 
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