僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

589.密かな計画

  
 イルコとミルコとは特に話をすることもなく、僕とロランドはいつもどおり軽い運動をした。
 軽い運動だけど、チェーンメイルを着ているから結構大変なんだ。僕たちにとっては……
 僕はチェーンメイルを着て過ごすことがこんなに大変なことだなんて知らなかった。今思えば僕がチェーンメイルを着せられていた時は、ラルフ様に運んでもらうことが多かった。
 疲れるとなんだかんだと理由をつけてすぐに脱いでいたし……

 ロランドはうちに来た頃はよくチェーンメイルを着て過ごしていた。やっぱりロランドって僕が思っているより強いのかもしれない。
 厩舎の掃除をして倒れていたから、普通の人よりは弱そうだけど……

「お腹が空きましたね」
「私は朝はあまり空腹を感じないんだ……」
 ロランドは綺麗なハンカチで首筋の汗を拭いている。
 朝は空腹を感じないのか。僕も起きてすぐに食べられるわけではない。しかし早朝訓練で体を動かしているとお腹が空いてくる。

 それより……ロランドの顔色が少し悪い気がする。熱が上がった時のような赤い顔ではなく白い。白すぎる気がする。もう一度しっかり見てみても、やっぱり白すぎる。まるで血の気が引いてるような……
 僕が観察していると、フラリと体が揺れた。これはいけない。

「ルキオー!」
 僕がルキオを呼ぶと、ルキオはすぐに来てくれた。そして僕が呼んだ意図もすぐに理解してくれたみたいだ。
 ルキオはロランドをサッと横抱きにしてベンチに運ぶと、横たわるロランドの手をそっと握った。

「ルキオ、すまない。私のことはいいから訓練に戻ってくれ」
「そういうわけにはいきません」
 ロランドも甘えるのが苦手みたいだ。年上だから遠慮しているんだろうか? それとも立場の問題?

 イルコとミルコがロランドとルキオを凝視しているけど、そこは訓練とは関係ないから観察しなくていいんですよ。
 確かに前回の訓練の時とは違うし、騎士団の訓練でも見ない光景かもしれない。まさか報告書にも書く気ですか?
 やめてあげて……

 ロランドは少し横になっていたら血色が戻ってきた。きっと訓練をして体温が上がっているルキオが手を握っていたからだろう。
 もう支えられなくても一人で歩けそうだ。でも無理はよくないから、そのまま休んでいてください。
 ルキオはロランドの耳元で何かを告げると、手をそっと放して訓練に戻っていった。

 相変わらずイルコとミルコは横になったままのロランドをじっと見つめている。
 もしかして、これはある好機なのでは?
 二人は公爵家の子息だから、彼らがロランドとルキオの関係は仮ではなく本当に愛し合っていると認識し、それを周りに伝えたら……
 これはいい。

 是非とも彼らの前でロランドとルキオにはイチャイチャしてもらわなければ!
 そうすればロランドの悩みも解決に向かう。そして二人はみんなに祝福されて結婚するんだ。幸せな未来しかない。

 僕は騎士のみんなが出勤するとロランドに秘密の相談があると言って呼び出した。そんなことを言わなくても、今日はうちに使用人のみんなしかいないから、僕とロランドが同じ部屋に集まるのは必然だ。
 日当たりがよく暖かい部屋。いつも二人で刺繍をしている部屋だ。僕はもう刺繍は諦めたけど……

 シルも今日は騎士団に行くと言ってサロモンの背負子に乗っていってしまったから、本当に僕たち以外は使用人しかいない。

「ロランド様、イルコ様とミルコ様が来ている今は好機ですよ!」
「何の話か分からないんだが、説明してもらえるか?」

 僕は今朝立てた計画をロランドに話した。計画といっても、イルコとミルコに見せつけるようにイチャイチャしてもらうだけなんだけど……

「……私には無理だと思う」
「なぜですか?」
「人前でルキオと……その……」
 みるみるうちにロランドの顔が赤く染まっていった。そして顔を両手で覆ってしまった。
 なにそれ、ルキオに見せてあげたかった。僕だけ見てすみません。

 それでロランドは何を想像したんだろう?
 まさか淫らな行為を想像した?
 いくら僕でもそこまでのことは求めていませんよ。仲睦まじく見つめ合ったり、手を繋いだり、顔を寄せて話をしたりって程度でいいと思う。

 でもできるなら、グラートとリーブを見習ってほしい。
 グラートはリーブにいつもベッタリとくっついている。グラートは本当に甘えるのが上手だ。
 過去には女の人を引っ掛けて遊んでいたから、コツを知っているのかもしれない。
 そうか、グラートがいるじゃないか。僕はまた閃いた。今日の僕は冴えている。

「ロランド様、グラートに甘え方を教えてもらいましょう。家の中で一番甘えるのが上手いと思います」
「それはそうだと思うが……大丈夫だろうか……」

 ロランドはまだ顔の熱が引かないようで、僕から目を逸らしながら答えた。少し不安な気持ちがあるのは僕も同じです。だって相手はグラートだからね……
 しかし嫌だと拒絶しなかったってことは、ロランドも甘え方を知りたいと思っているんだろう。でも少しの恥じらいが邪魔をしている。

 きっとここを乗り越えたら、ロランドとルキオの関係は更に親密になる。そして誰も疑わないお似合いの二人になるんだ。僕はそう信じている。
 そして僕も甘え方を教えてほしい。

 僕はロランドと二人で密かに計画を立てた。リーブが仕事で離れた隙を狙うしかない。
 まずロランドにはリーブにしかできないちょっと時間がかかる仕事を依頼してもらう。そしてグラートが一人になった隙を狙って僕がグラートを連れ出し、教えを乞うという計画だ。
 二人を上手く引き剥がせるかどうかが鍵になる。ベッタリと二人が寄り添っている時に邪魔をしては馬に蹴られる恐れがあるからね。

「なぜ馬に蹴られるんだ?」
「よく言うでしょう? 人の恋路を邪魔すると馬に蹴られると」
「そうか、それなら先日の夜会で私とルキオを引き裂こうとした者たちは、今ごろ大怪我をしているかもしれないな」
「そうですね。可哀想に……」

 己の利益だけを追い求めロランドの気持ちを考えない人は、痛い目をみればいいと思う。
 こうして僕たちは密かに計画を開始した。

 
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