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二章
24.呼び出し
「やぁ、マティ」
「殿下、お子様が産まれたと聞いています。こんなところでフラフラしていると、また奥方様に怒られますよ」
子どもが産まれてから、前ほどではないが、エドワード王子がたまに店に顔を出すようになった。
「今日はマティに言伝があってね。近いうちに陛下が話をしたいらしい」
は? なぜ? ラルフ様が何かしたんだろうか?
僕は陛下に呼び出されるようなことはしていないはず。
僕は断れるはずもなく、いつ出向けばいいのかを聞いた。近いうちと言われたけど、まさか明朝なんて言われると思っていないから、マチルダさんに日程の調整をお願いすることになった。
なんでそんな急なんだ。下々の者は暇だと思われているんだろうか?
「ラルフが暴れるといけないから、ラルフには内緒ってことで頼むね」
「……分かりました」
今日はクリスマスローズの花束を買って帰っていった。奥方様にあげるんだろう。
翌朝、ラルフ様を見送ると、急いで正装に着替え、リーブに馬車で王城へ送ってもらった。
なぜ呼び出されたのか分からず、しかもラルフ様に内緒だと言われてますます怪しいし、不安な気持ちで王城の廊下を歩いていく。
コンコン
「マティアス・シュテルター様をお連れしました」
「入れ」
いつかラルフ様と一緒に訪れた、陛下の執務室だ。緊張しながら部屋に入ると、陛下が難しい顔をして執務机の向こうに座っていた。隣には宰相もいる。エドワード様はいないようだ。
「呼び出してすまない。座ってくれ」
陛下と宰相もソファに移動してきて、向かいに座ると、僕も浅くソファに腰を下ろした。すぐに使用人が呼ばれて紅茶が用意されたけど、お茶を飲みながら話すってことは長くなるんだろうか?
「単刀直入に聞くが、今の国の在り方に不満があるんだろうか?」
「はい?」
陛下が何を言っているのか分からなかった。どこが単刀直入なんだろうか? 全然分からない。
「プレートアーマーを注文しようとしたと聞いた。その後、チェーンメイルを複数注文したと。フックス家、シュテルター本家からも同時期にチェーンメイルの注文があったとか。野営道具も購入したと聞いた。出奔か、それとも戦を仕掛けるか、どうか思い留まってはもらえないだろうか?」
全然、全然違いますから。そんな企ては全くありません。
戦争で勲章を戴くようなラルフ様が防具を私的に購入すると、こんなことが起きるのか。
野営道具というのも、庭で野営の真似事をしただけだ。シルがとても喜んでいた。
しかし、説明するのは恥ずかしい……
「プレートアーマーは購入しません。
チェーンメイルは、騎士たちのものではなく、私と息子のものでして……」
親族に息子を紹介する時にラルフ様が用意したのだと伝えた。実際にそれを着たんだ。フックス家やシュテルター家にも確認をとってもらえば分かる。ラルフ様の部下の人たちも見ている。
それとフックス家とシュテルター家がチェーンメイルを買ったのは、シルの従兄弟に当たるクリスとフィルが欲しがったからだと思う。オーダー表のサイズを確認してもらえれば、誤解は解けるだろう。
野営道具も、遊びの一環で、庭でテントを張って肉を焼いて食べたりしただけだと伝えた。
野営はいいとして、チェーンメイルを着て親族に会ったなんて、他の誰にも知られたくなかった。なぜ僕はこんな恥ずかしいことを陛下に明かさなければならないのか……
「……そのような理由ですので、出奔する気も戦を仕掛ける気もございません。うちの夫のせいでご心労をおかけし、申し訳ございませんでした」
「そうだったのか。誤解ならいいんだ」
明らかにホッとしている陛下はまだいい。宰相、そんな哀れみの目で見ないで……
説明を終えて、なんとも言えない空気感の中、冷めてしまった紅茶を一口だけ喉に流し込んだ。
この紅茶は僕の気分を落ち着かせて、思い留まるよう説得するために用意されたものなんだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
もう説明は済んだし、帰ろうかと思った時、部屋の外が騒がしくなって嫌な予感がした。
僕が陛下に呼び出されたことがラルフ様にバレたんだろう。バレるの早かったな。
駐車場でうちの馬車を見つけたのか、花屋に行ったら僕がいなかったから探したのか、何れにせよラルフ様に心配をかけてしまった。
バッターンッ
扉が開いた……わけではなく、扉が外れて部屋の内側へ倒れてきた。
ええー!? 壊したの?
キラキラと舞い散る埃と共に駆け込んだ近衛騎士たちが、驚く陛下をサッと囲んだ。
僕もラルフ様に一瞬で攫われて後ろに隠された。
これが一触即発ってやつか。双方から殺気が飛んで息が苦しい。
「ラルフ様、僕は陛下と少しお話をしていただけですよ。もうそろそろ帰ろうと思っていたところです。何もされていませんから、落ち着いてください」
「そうだ、マティアスの言う通りだ。お前たちも警戒を解け」
陛下もそう言って下さったので、やっと張り詰めた空気が少しマシになった。
「ラルフ様、家まで送っていただけますか?」
僕は冷静なふりをして、なんとかこの場から退散する方法を考えた。「仕事に戻ってください」では、ラルフ様は素直に戻らないだろうと考えて、一緒に連れていくことにした。
「分かった」
少し不満そうな様子ではあるものの、ラルフ様は了承してくれた。僕を安全に家に届けることを優先してくれたらしい。
「陛下、扉の修繕費はご請求いただいて構いません」
いくらかかるのか想像しただけで恐ろしいが、うちの夫がやったことだ。仕方ない。しばらくは質素な食事になりますが我慢してくださいね。
「いや、構わない。マティアスをシュテルター隊長に黙って呼び出したこちらにも非はある」
陛下の寛大なお心に感謝いたします。うちの質素な食事は回避された。
「では、私たちは失礼いたします」
「ああ、急な呼び出しに応じてくれたこと感謝する」
退室すると、僕は極度の緊張から解放されて、崩れそうになった。
死ぬかと思った……
その場を収めて退室できたことが奇跡のようだ。
崩れそうになった僕は、ラルフ様にサッと抱き抱えられて運ばれた。
もう呼び出されないといいな……
僕は背中が冷や汗でビショビショになったけど、大変なことにならなくてよかった。
一歩間違えば謀叛や不敬罪になった可能性もある。
馬車に乗っても、ラルフ様は僕を膝の上に抱えたまま離してくれなかった。
王子に黙ってろと言われたら僕は従うしかない。心配かけたのは悪かったけど、ラルフ様がプレートアーマーなんか買おうとするからこんなことになるんだ。
普通の人はプレートアーマーなんて買おうと思わないんですよ。
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