僕の過保護な旦那様

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二章

38.ロッドとバルド

 
 
 今日はロッドが僕を花屋に送ってくれるらしい。
 しかし迎えにきた彼は何か様子が変だ。僕は理由が分かってしまったから、ロッドを僕の部屋に連れてきた。

「腰、痛めてるよね?」
「この体たらく、すまない」
 ソファーにうつ伏せになってもらうと、緑の酷い匂いの湿布を腰に貼ってあげた。
「これ、よく効くんですよ」
「マティアスさんはすごいな。寮で朝食をとった時は誰にもバレなかったのに」
 僕は何度も経験してますからね。

「今日はリーブに送ってもらうので、しばらくここで休んでから騎士団に戻ってください。バルドにも声をかけておきます」
 そう言うと、リーブとバルドに声をかけて仕事に向かった。

 僕にとってはちょっと衝撃的だった。
 ロッドが腰を痛めるほど激しいとか、バルドって何者? ロッドが僕みたいにひ弱なら分かるけど、ラルフ様の部下なんだから、かなり鍛えているはずだ。
 庭師の仕事は結構力が要る。土や肥料を運んだりするし、木に登って剪定したりもする。植え替えの時期なんかはかなり大変で、そこそこ大きな庭を一人で手入れしているのは結構すごいことだと思う。
 そういえばよく中腰で作業している。腰が強いんだろうか?
 なんだか集中できないまま仕事を流れ作業のようにこなして終業を迎えた。迎えにきてくれたのはグラートだった。

「ロッドは大丈夫だった?」
 湿布は貼ってあげたけど、騎士団なんて結構激しい動きをするだろうからロッドが心配だった。
「何のこと?」
「ちょっと腰を痛めていたから、心配だっただけ。大丈夫ならいいんです」
 よく分からないと言うように、きょとんとした表情で首を傾げられた。朝食の時には誰にもバレなかったと言っていたし、あの後、騎士団に戻っても何事もないように振る舞ったのかもしれない。

「ああ、ベッドから落ちたとか聞いた気がする。でも訓練には参加していたし、大丈夫」
 思い出したようにグラートがそう言ったから、僕は笑いそうになってしまった。僕も初めての時、ベッドから落ちたとリーブに伝えたんだった。僕は本気でそうだと思ってたんだけど。

 人懐っこい感じのグラートは、そういえば王都に彼女がいるんだっけ?
「グラートは彼女がいるんでしょ?」
「あ~別れました」
「そうなんだ。変なこと聞いてごめん」
「気にしないでいいですよ。いつも長く続かないんで」
 そうなんだ……本当に全然気にした様子もなく。あっけらかんと言い放った。そんなもんなの? 僕がラルフ様と別れたらと考えたら、平気なふりして過ごすなんてとても無理だけど……
 なんかその後は気まずくて、家まで会話がなかった。
 気まずいと思っているのは僕だけかもしれない。グラートは鼻歌なんて歌いながら歩いてるし。それはいつものことか。

 家に帰るとすぐにバルドが部屋にやってきた。
「マティアス様、すみませんでした」
「え? 何のこと?」
 バルドに謝られるようなことは何もないと思うんだけど。
「その……ロッドのことです」
「気にしなくていいよ。僕も人のこと言えないし」
 ロッドが僕を送っていけなかったことか。リーブに送ってもらったし、王都は安全なんだから僕としては送り迎えも必要ないと思ってるんだけど、ラルフ様が心配するから一応ね。

「あいつが分からず屋だから、それに腹を立てて思わず……」
「そっか。喧嘩はよくないよ。早く仲直りしてね」
 分からず屋か……何があったのか聞いてもいいんだろうか? さっきグラートにいらんことを聞いてしまったから少し迷った。
「不満があるなら僕でよければ聞くし、ラルフ様に一言言ってもらうってこともできるんじゃない?」

 バルドにソファーを勧めてあげると、申し訳なさそうな顔をして浅く腰掛けた。
 そして話してくれた内容を聞いて、僕の方がかえって申し訳なくなってしまった。喧嘩の原因は、庭のことだった。僕が庭に罠を仕掛けたという内容だ。元々罠など仕掛けていないと主張するバルドに、全然分かってないとそれを断固として受け入れないロッド、お互い平行線を辿ったそうだ。
 それで白熱したから気持ちが昂ってお互い求め合って、そしてめちゃくちゃに攻め立てたらしい。
 そんな話をされて、僕は何て答えればいい?

「罠は仕掛けてないけど、そんなに頑張って訂正しなくてもいいよ。なんか僕のせいでごめんね」
 そして僕はあの後、ラルフ様が帰宅してから、状況は更に悪化したのだと教えてあげた。

 今のところ僕は、武装せずとも高い防御力と攻撃力を備えよと言って、庭に巧妙な罠を仕掛けて、罠は打って出るための時間稼ぎだとラルフ様に助言したことになっている。

 しかしこのことで、バルドは確実に僕の味方なのだということがわかった。リーブはちょっと分からないんだ。
「バルド、これからも僕の心の味方でいて下さい」
「もちろんです」

「バルドっていつからロッドと恋仲になったの?」
 これは是非とも聞きたかった。僕は全然気付かなかったし、恋バナってのを聞いてみたかったんだ

「襲われそうになったのを返り討ちにしたと言いますか……」
 何それ、めっちゃ気になる。
 彼らが王都に戻ってきた頃から、ロッドはバルドにちょっかいをかけていたらしい。
 庭を手入れする道具を入れてある納屋を度々訪れて、「付き合わないか」と言われていたのをバルドはずっと断っていた。
 全然靡かないバルドに痺れを切らしたロッドが、バルドが夜にトイレに起きた時に襲いかかったそうだ。
 簡単に夜中に家に侵入されたのかと思ったら、例の塀を建て替えている時だった。
 そういえば使用人も一つの部屋に集められて、夜には寝ずの番という監視役がついているとか言っていたっけ?
 ねえ、まさかと思うけどさ、それってロッドとバルドをくっ付けるための作戦じゃないよね?

 そこで襲い掛かられたバルドは、ロッドを返り討ちにし、逆に襲ってやったのだとか。
 バルドってもしかして、とんでもなく強い?
「泣きながらよがるロッドが可愛かったんですよね」
「そ、そうなんだ……」
 そこまでは聞いてない。そんなの聞かされたら想像しちゃうじゃん。ロッドをそんな風にしか見れなくなったらどうするの?
 バルドが思い出してふふふと笑みを溢した。なるほど、そこでロッドに落ちちゃったってわけですか。

「最近は中イキも覚えて可愛いんですよ。昨日も腹立たしいの半分、燃え上がったの半分ってところですね」
「そう、なんだ……」
 もういいよ……僕にそんなこと聞かせてどうするの? 結局は盛り上がって止められなくなったんかい! って思ったら、僕のせいで喧嘩させて悪かったなって申し訳なく思った気持ちを返してほしくなった。

 コンコン
「旦那様が帰宅されました。ロッド殿も一緒で謝罪したいそうです」
 リーブが僕の部屋に呼びにきて、僕はバルドと顔を見合わせた。
 僕はこれから、最近中イキを覚えて泣きながら可愛くよがるというロッドを前に、普通にしていられるんだろうか?

「ラルフ様、おかえりなさい。ロッド、謝罪なんてしなくていいんですよ」
「謝罪というか、お礼を言いたかった。休ませてくれたことも、この湿布でかなり助かったことも、感謝しています」
「うん。どういたしまして」
「で、なんでバルドがいるんだ?」
 ロッドは僕には丁寧にお礼を言ってくれたのに、急に不機嫌になってバルドを睨みつけた。対するバルドはニコニコしている。この対照的な二人は、まぁすぐに仲直りするだろう。
「バルド、ロッドのことお願いね」
「畏まりました」

 バルドはロッドの腕を掴むと引き摺るように連れて行った。しかも連れて行く時に、ロッドの耳元で「明日休みだろ? 今日は寝かさないからな」と囁いているのを僕は聞いてしまった。
 ねえ、それ僕に聞こえるように言ってない? わざと周りに聞こえるように言ってロッドの羞恥心を煽ってるのかもしれないけど、僕もドキドキが止まらないよ。

「ラルフ様、バルドって強いの?」
 気分を変えるために、僕はどうでもいい質問をした。
「ロッドよりは強いな」
 うん、それは知ってた。ラルフ様が答えた強いってのは、何に対しての強いかは分からないけど、たぶん色々とバルドの方が上なんだろうとは思った。

「マティアス、俺は寝かさないなんてことはしない」
「あ、うん……」
 ラルフ様にも聞こえてたみたいだ。


 
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