僕の過保護な旦那様

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二章

170.女帝の居ぬ間に

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 クロッシー夫婦が王都を離れているからうちの警戒が解かれて、前にうちで刺繍を習っていたケリー、ハキム、マイクもうちに来て刺繍をするようになった。

「冬は暖かい部屋で刺繍がいいですね~」
「今となっては雪山訓練とか行けと言われても行けないな」
 なんて言いながら刺繍教室再開だ。雪山訓練、大変そうですね……

「みて、イーヴォがくれたの! パンとおそろい」
「可愛い!」
「癒される~」
 寒い日はシルもポポクッション持参で刺繍教室に参加する。といってもシルは刺繍はしない。本を読んでいることが多い。たまに紙に文字を書いて文字の練習をしている。

「ママみちゃだめ」
 書いている内容は僕には見せてくれない。何を書いてるんだろう?

 ルカくんはフェリーチェ様と一緒にうちに来るようになった。たまにリヴェラーニ邸で集まることもある。その時はルカくんが、今はちょうど季節だからってことでアップルパイを焼いてくれるんだ。

「ルカさんはプロみたいですね」
「あれ? みんな知らないんだっけ? ルカくんはプロだよ」
 そんな話をしたら、お金を払うからお茶会の時にお菓子を作ってほしいという話になった。
 だよね。お金を出して買いたいと思うくらい美味しいもんね。ルカくんはもうお菓子屋さんをやらないんだろうか?

「ルカさんはもうお菓子屋さんやらないんですか?」
 僕だけでなく、みんなも同じように疑問を持っていた。
「ハリオが戻ってきたら相談してみる。ずっとキッチンの手伝いってわけにはいかないし、お菓子屋さんは僕の夢だったから、いつかまたやりたい」
 よかった。ルカくんが描く未来にはちゃんとハリオがいるんだ。

 たまに刺繍教室に違う人が来ることもある。フェリーチェ様の知り合いだったり、ケリー、ハキム、マイクが友だちを連れてくることもある。

「イーヴォ隊長、今日はお休みなんですか?」
「そうだ」
 相変わらずイーヴォ隊長もたまにうちを訪れてシルとパンと遊んでいくんだけど、残念ながら今日はいないんだ。クリスが誘ってくれたから、シルは僕の実家に遊びに行っている。アマデオとニコラが一緒に行ってくれているから安心だ。また屋敷の中でかくれんぼをしているんだろうか? それともパンと遊んでいるんだろうか?
 たぶんクリスにあげるためだと思うんだけど、シルは出かける時にポポ一族をいくつか鞄に入れていた。受け取ってくれるといいんだけど。

「シルとパンは今日、親戚のところに行っているのでいないんです」
「そうか」
 シルたちがいないと分かると帰るかと思ったのに、イーヴォ隊長まで刺繍教室に参加することになった。
 これが結構上手いんだ。クッションを作るくらいだから縫うのは上手いんだけど、刺繍も上手だった。

 そしてイーヴォ隊長は休みの度に刺繍教室に参加するようになった。結婚していないのに誰にそんなにあげるのかと思ったら、孤児院の子どもたちにまた騎士団から小物を送るのだそうだ。
「今からでは遅いですが、冬に向けてマフラーやブランケットを編めばよかったですね」
 ミーナがそう言うと、来年のためということで編み物教室も始まった。

 毎年恒例となったヴィートと二人きりのお茶会の時に話したら、毛糸を安く提供してくれることになった。ヴィートの領地では毛糸の材料になる羊やうさぎをたくさん飼っていて、質のいい毛糸がとれる。

「ありがとう、助かるよ」
「ふんっ、騎士団が買うとなればうちの名が売れるからな」
 そんなこと言ってるけど、ヴィートが孤児のために提案してくれたって分かってるよ。ふふふ。
「マティアス、気持ち悪い顔だな」
「失礼な……」
 ヴィートは子どもには優しいけど、僕には優しくない。

「マティアス、新年の祝賀会で着けていたタイはお前の夫が刺繍したというのは本当か?」
「そうですよ。僕よりラルフ様の方が刺繍が上手いので」
「やはり噂は本当なんだな。買ったわけではないのか……」
「あのタイが何か?」
 まさか欲しいとか? もしくはヴィートも刺繍をしてみたいとかだろうか?

「知り合いの貴族に、売っているのならどこで売っているのか聞いてきてほしいと言われたんだが、自作なら無理だな」
 まさか、ポポは貴族の間にまで広まってしまうのか?

 家に帰るとイーヴォ隊長が来ていた。今日は僕がヴィートのところに行くから刺繍教室はないんだけど、どうしたんだろう?
「イーヴォ隊長、どうしたんですか?」
「ミーナさんに騎士団で編み物教室を開いていただけないかと聞きに来たんだ」
「そうなんですね」
 ミーナは刺繍を教えるために一時期騎士団に通っていたけど、今はうちで刺繍と編み物の先生をしてくれている。
 ん? それってミーナに直接交渉に来たってこと? ミーナはうちの使用人なんだから雇い主のラルフ様にお願いすればいいのでは?
 それに明日だって刺繍教室は開かれるんだから、何も僕やラルフ様がいない時に来なくてもいいのに。
 僕は小さな違和感を抱えたまま、イーヴォ隊長を見送った。

 何か隠してる?
 また僕だけ仲間外れなんだろうか?
「ラルフ様、知ってたら教えてほしいんですけど、イーヴォ隊長ってミーナのこと好きだったりしますか? 恋愛という意味で」
「いや、そんな話は聞いていない」
 そっか。僕が考えすぎなんだろうか? それともラルフ様にもまだ話していないだけとか?

「マティアス、第二騎士団のみんなでガーデンパーティーを開くらしい。大規模なお茶会みたいなものだ。騎士とその家族も参加できるそうだが行くか?」
「え? もしかしてエドワード王子が主催するんですか?」
「エドワードの奥方が主催するそうだ。子どものお披露目や友人候補の選定も兼ねている」
 なるほど。そっちがメインなんだろう。クロッシー夫婦がいない間に開催するってところも計算されているような気がする。あの人は気に入っている部下の子どもを推したり、お節介なことをしそうだから。
 ガーデンパーティーか。シルの友だちもできるかもしれない。ラルフ様が一緒なら安心だ。
 こうして僕の頭の中はガーデンパーティーのことでいっぱいになって、イーヴォ隊長の違和感はそのまま吹き飛んでしまった。

 
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